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第二十五話 終話

ゴブリンソープで固めたブショウの上に小竜が山の様に群がっている。代替わりが始まったのだ。

 小竜達は強力な顎と牙でゴブリンソープとブショウの固い鱗を噛み砕いて行く。

「行け! イフリート!」

私は急いでイフリートを解き放つ。

 イフリートはブショウの身体に群がる小竜達の側で大きな炎を上げた。小竜達は炎に焼かれ黒焦げになっているが、逃げ出す個体は一体もなかった。

 炎に自ら飛び込んでくる小竜が何体もいる。代替わりが始まり、小竜は正気を失い、完全に狂奔していた。

 山にになっている上の方の小竜は焼き尽くしたが、中の方の小竜までは炎が届いていそうにない。

「キノフジ! 魔導士型ゴブリンをみんな集めて! もっと沢山のゴブリンソープがいるの!」

 私は、小竜の上からゴブリンソープをもっと掛けて、もっと分厚い石にして固めるしかないと思った。

「えっ。ここでゴブリンソープを出すんでですか?」

キノフジは驚いて私の顔を見る・

「そうよ!」

「ゴブリンソープの作り方は秘密なんじゃあ……」

「そんな事を言っている時間はないの! 早くして!」

私に急かされて、キノフジは仲間を集めゴブリンソープを作り始めた。

「カツエ! 土器をどんどん持ってきて!」

カツエが持ってきた土器の中にキノフジたちは次々とゴブリンソープを吐き出す。その姿は相変わらず嘔吐しているようだ。

 その場の者達は初めてその姿を見てショックを受けた。自分たちはゴブリンのゲロで身体を洗い、甲冑を作っていたのだ。

 アンシュウなどは、その場で甲冑を脱ごうとしている。

「アンシュウ! 気持ちは分かるけど、今はダメよ」

私の声にアンシュウは甲冑を脱ぐ手を止めた。

「アンシュウ。これを運んで!」

キノフジが吐き出したゴブリンソープが入った土器をアンシュウに渡す。

 アンシュウは嫌そうな顔をしたが、私に睨まれ、土器を持って駆け出した。ゴブリンソープが入った土器は次々と運ばれ、ブショウに取りついている小竜に投げつけられた。

 それに電気を流す。ゴブリンソープは石に変わり、小竜達を固める。それを何度も繰り返し、少しずつ分厚くなっていった。

「キノフジ。がんばって! もう少しよ!」

「はい」

そう言いながら、キノフジは気分が悪そうにゴブリンソープを吐き出した。

 それを、私が受け取ろうとすると、

「あっ。すみません。それ私のゲロが混じっています」

「えっ」

そう言えば少し酸っぱい臭いがする。

「いいわ。構わない!」

そんな事を言いている時間はない。

 しかし、このような私達の努力は結局無駄になった。小竜達を覆ったゴブリンソープの一角が小さく崩れ、一匹の小竜が顔を出したのだ。

「イフリート! 行け!」

イフリート飛び、小竜の横で大きな炎を上げる。

 しかし、心臓を喰らって代替わりをした小竜は身体こそ小さいが、身体を覆う鱗はより強靭な物に変わっていた。イフリートの炎が効かない。

 小竜はイフリートの炎を物ともせず飛び立とうとしている。

「キノフジ! ゴーレムで小竜を捕まえて!」

ゴーレムは上半身を起こした状態で固まり、残った右手は自由だった。ゴブリンソープが薄くかかり、動かし難いがどうにか動く

 その手で小竜を必死で掴む。小竜もゴーレムの手から必死で逃れようとし、ゴーレムが掴めたのは小竜の足の先だった。

 このままでは逃げられる。とにかく、動けなくしなければならない。何か方法はないか? 気持ちは焦った。

動けない―。そうだ!

「リンツウ!」

私はリンツウを呼んだ。

「はい。ここに居りまする」

そう答えたリンツウの鎧から水が滴っている。

「リンツウ! 貴方、漏らしたの?!」

私は驚いて、あらぬ事を言った。

「違います! 噴水魔法です! 乃菜様が命じられたのです!」

そうだった。私がリンツウに命じたのだった。落ち着け! 私! 今はそれどころでない!

「リンツウ! 小竜に浮遊魔法をかけて!」

「えっ! 小竜にですか……」

「そうよ! 急いで!」

リンツウは慌てて、呪文を唱え始める。ゴーレムに捕まれた小竜の足は少しずつ抜け始めていた。

「えい」

 リンツウが魔法を飛ばしたのと、小竜の足が抜けたのは ほぼ同時だった。小竜は必死で羽ばたくが、身体はそのまま地上十センチの高さまで降り、前に進むことが出来ないでいる。

 代替わりした小竜が戦闘不能になったのを知って、他の小竜が襲い掛かったが、リンツウの結界は小竜の牙を跳ね返した。

 小竜達は入れ替わって、結界の中の竜に襲い掛かったが、全て跳ね返され、やがて諦めた。

 代替わりした小竜も結界の中で必死に暴れているが、結界はびくともせず、小竜は一歩も前に進めない。

 私達が近づいて行くと小竜は炎は吐き出したが、小竜を取り巻く結界が炎を跳ね返し、炎は小竜の周りを這い回るだけだった。

「降伏するなら出してあげるわよ」

それでも小竜は暫くの間、足掻いていたが、やがて諦めて、私の申し出を受け入れた。


 ドラゴン国を併合して、私の支配する地域は本能寺の変前の織田信長の領地とほぼ同じになった。

 あの戦い以来、ゴブリンソープは全く売れなくなり、キノフジは落ち込んでいる。しかし、世の中は平穏で落ち着いた日々が続いていた。

 私は執務室で夜空を眺め、これまでの事を思い出していた。

 私の支配が及ばない地域は、まだまだ残っているが、何故か私の契約の首輪は、いつの間にか無くなっている。

 それは、光秀が言うように歴史が私に織田信長の役割を期待し、それを成就したからかもしれないし、あるいは、ゴブリンが私を必要としないぐらいに強くなったからかもしれない。

 私が召喚された時は、人間を召喚する事とヌルヌルの魔法でゴブリンソープを出す事しか出来なかった。リザードマンに征服されると魔導士型のゴブリンは、殺されるのではないかと怯えていた。

 しかし今はどうだろう。ゴーレムを動かし、召喚したイフリートも制御する事が出来た。

 恋人達の魔法はアンデッドを殺戮する回復の木を作る魔法である事がわかった。

 ゴブリンソープは巨大なブショウを固めて倒した。浮遊魔法は飛ぶことや防御に使うのは中途半端だが、封印魔法としては無敵のように思える。

 思えば、最初からブショウに浮遊魔法をかけていれば、あんな苦労をしなくても良かったのではないかと思う。代替わりした小竜が大きくなって万が一裏切っても、封印魔法で対処できるだろう。

 今のゴブリンに対抗できる勢力は何処にもない。 


ドーン!

 そんな事を考えていると突然に大きな爆発音がした。

「乃菜様。大変です! エンジンが爆発しました!」

 キノフジが慌てて駆け込んできた。明日は秀光のエンジンを元にドーワフが試作したエンジンのお披露目だった。

「明日のためにエンジンを試運転していたんですが、突然、爆発したみたいです。火の手が上がっています。お逃げ下さい!」

「わかったわ」

キノフジに促され、チャーと共に建物の外に出た。

 振り返ると建物の三分の一ぐらいが炎に包まれている。そして、空からは、雪がチラチラと落ちてきていた。カツエ達は建物の消火に追われている。

「キノフジ。どうやらお別れみたい」

雪を見た時、私は悟った。私はこの世界の織田信長として、炎の中で死ぬんだと……。

 エンジンを試作するようドワーフに頼んだのは秀光だった。秀光の契約の首輪は、ドライアドに自動車を運ぶ事を頼んだ時に外れた。秀光の歴史の中での役割が終わったのだ。

 おじさん。やっぱり私を殺すんじゃないの。でも、許してあげる。良いも悪いもないわ。是非なしね。私は思った。 

「お別れ? 何を言っているんすか。乃菜様」

キノフジが驚いて私を見る。

「おじさんみたいに、私も行かなくっちゃ」

「秀光様みたいに……」

キノフジも私の状況を理解したようだ。

「嫌です! 行かないで下さい」

キノフジは今にも泣きそうだ。

「ごめん。私も行きたくはないけど、私には、どうしようもないのよ」

「そうですよね。わかります。わかっています」

キノフジの眼から涙が落ちる。

「乃菜様。ありがとうございました」

キノフジは深々と頭を下げた。

「お礼を言うのは私の方よ。皆にもよろしくね。カツエと仲良くするのよ」

「カツエ様とですか……。私達、仲は良いですよ」

 キノフジは私の言っている意味がよくわからなかったみたいだ。不思議そうな顔をしている。

「じゃあね」

 私は燃えさかる建物の方へ踵を返した。チャーが後についてくる。

「チャー。貴方も一緒に行く?」

私はチャーの首に手を回した。チャーは私に擦り寄る。

 建物の中に入り執務室まで戻ると、そこは火の海になっていたが、熱さは感じない。思えば、元の世界に居た時より、充実した時間を過ごせた。悔いはない。炎はドンドンと薄くなり、私とチャーの身体をすり抜ける。

 私の意識も次第に薄れていった。

素人の拙い小説を最後までお読みいただきありがとうございました。

次回、もっと多くの人に読んでもらえるよう頑張りたいと思います。



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