第二十三話 追放
アンデッドには回復薬が効く。私達は、回復薬を布に染み込ませて、剣や槍、斧、それに矢尻にも巻き付け、出陣した。三度目の正直だ。今度は勝てる。
アンデッドの砦に攻め掛かると、今まで同様、アンデッドは砦を出て来た。
「射てー!」
アンデットに対して矢を射かける。
回復薬を染み込ませた矢は、皮膚を溶かしながら、アンデッドに突き刺さる。その傷が再生することは決してなかった。矢に射抜かれたアンデッドは次々と倒れて行く。
矢の攻撃の後、ゴブリン槍隊、ドワーフ歩兵隊それにケンタウロス隊が、アンデッドに切り込みをかける。私達の攻撃にアンデッドは全滅した。
最前線の砦を落とし、次の砦を目指して進攻していると、突然に木の上から弓矢の攻撃を受けた。前方の林に こちらの様子を伺っているアンデッドが見えた。
私はこれを撃退するため、弓隊を展開させた。
「射て―!」
木の上の敵に向かって、弓矢を射かける。しかし、どれだけ弓矢を放っても敵の攻撃は衰えない。矢が突き刺さっても傷口が回復しているように見える。
「回復薬を付けた弓矢が効かないなんて! どうなっているの!」
私は混乱した。
「乃菜様。もしかして、木の上の敵はアンデッドでないじゃないんでしょうか?」
アンシュウが言う。
「アンデッドじゃない? なら何なの?」
遠目ではあるが、外見はアンデッドしか見えない。
「エルフではないでしょうか」
「エルフ……」
賢者国が炎上した時に行方がわからなくなったエルフ。
「エルフだというの?」
「服用はアンデッドの物を着ていますが、身のこなしや攻撃の仕方はエルフに似ています」
確かに、洋服以外はエルフそっくりだ。アンシュウの言う通りかもしれない。
「それじゃあ、鉄砲隊で攻撃してみて」
「わかりました」
アンシュウはそう言って駆け出し、木の上の敵に鉄砲隊を展開した。
「撃て!」
アンシュウの掛け声に火縄銃が火を噴く。そうすると、敵の数名が、木から落ちた。絶命して動かない者、足に傷を受け、足を引きずりながら逃げる者など様々だが、アンデッドでないのは確かだ。
正体がばれたエルフは、魔法矢を放ちだした。味方に炎や爆発で命を落とす者が出てくる。
「やっぱりエルフだ。撃て―!」
アンシュウが声を振り絞る。
「弓隊! 撃て―!」
弓隊も弓矢を通常の矢に持ち替えている。カゼンも声を振り絞った。
弾丸と弓矢が、雨の様にエルフに降り注ぐ。多くのエルフが命を落とし、逃げて行く者も現れた。その内に、魔法矢は落ちて来なくなった。
しかし、通常の弓矢は落ちてくる。よく見ると、弾丸や弓矢で傷つかない者もいる。
「今度はアンデッド―!」
いつの間にか、アンデッドも戦闘に参加していたようだ。
「弓隊! 回復薬の矢に持ち替えて!」
弓隊は慌てて、アンデッド用の弓矢に持ち替える。そして、斉射を始めた。弓矢はアンデッドを傷つけていく。やがて、アンデッドも退却していった。
私達は、逃げるアンデッドを追撃した。そして、森から平野に出た時、向こうの方にフェアリーが見えた。イフリートを連れている。
「乃菜。久しぶりね。今度は負けないわよ」
「イチョウさん。もう無駄な戦いは止めましょう」
「無駄? どこが無駄なの? 貴女に勝って天下を取るのよ。無駄な事じゃないわ。行け! イフリート!」
イチョウは聞く耳を持たない。
「仕方ないわね。キノフジお願い」
キノフジはゴーレムを待機させていた。
手にゴブリンソープで出来た大きな樽を持っている。キノフジがゴーレムを動かした時から、行方不明のフェアリー対策に作っておいた樽だ。
イフリートは、そんなゴーレムに大きな炎を出して襲い掛かる。しかし、ゴーレムは炎の攻撃に全くダメージを受けず、手に持った樽をイフリートに被せた。
「はい。おしまい」
キノフジが言った。
ゴーレムは耐熱性のあるゴブリンソープの樽に閉じ込められて、身動きできない。それを見たフェアリーはさっさと逃げていってしまった。
私達は破竹の勢いで進撃を開始した。ほとんど抵抗のないままにアンデッドの砦を次々と落とし、遂にアンデッドの本城まで攻め上った。
アンデッドの本城は日本式の城でかなり巨大な物だ。
「皆、あと一息よ。気を引き締めてね」
私の声に皆が頷いて答えた。
「ドワーフ鉄砲隊! 前に!」
私は鉄砲隊を展開し、アンデッド城に向けて撃ち放った。しかし、銃弾は城の手前で何かに当たり、ポタポタと下に落ちた。
「何? 何が起こっているの?」
「乃菜様。結界です」
私の疑問にアンシュウが答えた。
「結界……。賢者達ね」
エルフやフェアリー達が生き残っている以上、当然、賢者も死んではいない。
そうしているうちに、アンデッド城の天守閣の扉が開き、数人が外に出てきた。
中央にアンデッド国王モトジ。その隣に賢者国のホウズ。フェアリー国イチョウ、エルフ国王クラケイが並んでいる。そして、反対側にはリショウとギリュウも……。
「乃菜。それ以上攻めて来れまい」
リショウが笑っている。
「ここは地盤が固いゆえ、地下は掘れませんぞ」
そう言ったのホウズだ。
「どうして、貴方達が顔を揃えているのよ」
「反逆者である魔王乃菜を倒すために決まっておろう」
「何を言っているの! 元々 貴方達が争いを始めるから、私が戦う羽目になったんじゃないの!」
「馬鹿を言うでない。言い訳をする前に、さっさと降参せよ」
リショウは全く悪びれない。
「分かったわ。じゃあ、力ずくで通らせてもらうわ。確か この結界は上も空いていたわね。キノフジ!」
私はキノフジを呼んだ。
「はい」
キノフジは返事をして、ゴーレムを動かす。
ゴーレムはカゴを持っていた。その中には沢山の回復の木の苗が入っている。ゴーレムは それを結界の中に投げ入れ出した。
「わー! ちょっと……。ちょっと待たれよ」
モトジが慌てて、ゴーレムを制止する。
「分かった。降参だ。私達が悪かった」
回復の木は思った以上に効果があった。アンデッドは回復の木が滅茶苦茶に苦手な様だ。
「モトジ殿。何を申しておる。あんな木の苗に怯えてどうしたのだ?」
ギリュウが慌てて、モトジを引き留める。
「あんな苗?! 私達の命を奪う。殺戮の木だぞ!」
モトジがギリュウを睨み付ける。
「モトジ殿。落ち着て下され。苗なら、我らで捨てまする」
「いくら捨てても また投げ入れて来るであろう。殺戮の木を操る相手にとても戦えない。私はこんな穢れた土地は嫌だ。ここを退去いたす。御免」
モトジはそう言って城の中に入ってしまった。
モトジが去って、リショウ達は慌てた。アンデッドの兵力は数万。それが無くなると、残る兵力は数千でしかない。イフリートも、もういない。
リショウが余裕でいられたのも、アンデッドの兵力を頼んでの事だった。
「乃菜殿。また一緒にやろうではないか。どうだろう。こんな事になる前は、我らは上手くやっていたではないか」
リショウの声遣いが急に変わった。
「何を言っているの。貴方となんか二度と手を組まないわよ」
私は冷たく言い放つ。
「まあ、そう言うな。恩賞は思いのままじゃぞ」
「恩賞? 何を寝ぼけた事を言っているの!」
もうこれ以上、リショウと話しても無駄である。
「イチョウさん、ホウズさん、クラケイさん。私に忠誠を誓うなら、貴方達は自分の国に戻っていいわ。イフリートも返してあげる。さっさと、出て来なさい」
「本当か!」
私の提案にホウズは結界を解いてしまった。
「我らの地に戻りましょう」
三人は城の中に消えた。リショウとギリュウだけが残っている。
「乃菜殿。私は、どうなるのじゃ」
リショウは半泣きになっている。
「貴方とギリュウは追放よ」
「大天使国には戻れぬのか」
「また、国王に戻って、勝手な真似をされたら、困るもの。ここで死ぬか、どこか遠い地で生きるか、好きな方を選びなさい」
「そうか、わかった。人知れずどこか遠い地で生きよう」
リショウは泣きながら城に入った。ギリュウは私を睨みながらリショウのあとに続いた。




