表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/25

第十九話 別離

何で私が魔王なのよ。何にもしていないわよ」

私は不満をぶちまけた。

「賢者達は昔、大天使様と一緒に、この国を統一した大賢者様の子孫です。力が落ちたとはいえ、それなりに尊敬されていましたから……。燃やしてしまったのはまずかったかもしれません。賢者の方々は行方不明ですし……」

リンツウが深刻な顔で言った。

「燃やしたのは、私じゃないわよ。イフリートがやったんじゃない!」

とは言ったものの、それを証明する術はない。

「でも、乃菜様は魔獣様から魔王様に昇格ですね。明日から魔王乃菜様ってお呼びしましょうか?」

キノフジは相変わらず脳天気だ。

「やめてよ。今まで通り、乃菜様でいいわよ」

私はキノフジを叱ったが、お陰で気は少し楽になった。元々、私は魔獣なのだ。それが、魔王になっただけで大した差はない。

 気は楽になったが、事態は悪い方向に向かった。それは、リショウが出したドラゴン国への密使を捕まえる事で露見した。リショウが私達の討伐令を出したのだ。

 賢者国を焼き滅ぼしたというのが建前だが、おそらく、ドラゴンがケンタウロス国に攻め込んだのが理由だったのかもしれない。私達と行動を共にすると、一緒にドラゴンに攻め滅されせると思ったのだろう。

 大天使になってからのリショウの行いは全て私に脅されてした事だと記されていた。そして、それに加えて、私を討ち取った時の恩賞まで……。

「おのれ、リショウめ―」

カツエが密書を握りしめて、怒りに燃えているが、私自身はあまり怒りを感じなかった。元々、手を切るつもりだった相手だ。想定の範囲内だった。

 しかし、事態は、かなり厄介だ。東からドラゴンに攻撃され、西からはドライアドとアンデッド、それにリショウとギリュウの連合軍と敵対する事となった。

 秀光とヘイゲンを救援に行きたいが、無闇に兵を動かせない。彼らの無事を祈る以外なかった。

 そうする内に、派遣していたドワーフ隊が戻ってきた。ケンタウロス隊はドラゴンに破壊された街を再建するため、国に留まっている。

「あれ、おじさんはどうしたの? ケンタウロス国に残ったの?」

私はイッパに聞いた。帰国した部隊の中に秀光の姿なかったのだ。

「師匠は行方不明です」

イッパは、うなだれて答えた。

「行方不明!どういうこと―!」

私はイッパに掴みかかった。イッパは半分泣き出しそうな顔で話し出した。

 

秀光達は全員、ゴブリンソープで甲冑と盾で、炎に対して万全の対策してケンタウロス国に急行した。

 ケンタウロス国に着くと、街の三分の一が焼け野原になってしまっている。ケンタウロス兵の激しい抵抗に会い、デンシンは一度兵を引いて軍隊をまとめ直していた。

「ヘイゲン様。申し訳ございません。我らの力が足りませんでした」

「皆、無事か?」

「はっ。回復薬のお陰で兵士も住民も 皆、無事でございます」

「そうか! それは幸いだ。街は、また建て直せばいい。元気を出せ!」

「はっ! ありがたきお言葉!」

「それより作戦会議を開くぞ。主だった者を集めろ!」

「はっ!」

ヘイゲンの部下は皆を集めに走った。


 しばらくして、デンシンの軍が再び動き出す。十メートルはありそうな断層崖を左手に見ながら行軍しているデンシンを 献上の品を入れた大きな箱を持ちショウリクと部下が出迎えた。ショウリクたちは住民に偽装している。

「デンシン様。数名のドワーフがデンシン様に献上品を捧げたいと参っております」

「ドワーフか」

デンシンの顔がほころんだ。ケンタウロス国を滅ぼした後はドワーフ国に攻め込むつもりだ。住民を味方につければドワーフ軍の情報が素早く入ってくる。

 今、攻めているケンタウロス国では住民は全てヘイゲンにつき、デンシンに味方しようとするものは全くなかった。ドワーフ国は脆い! ヘイゲンは上機嫌になった。

「ここに通せ」

デンシンは行軍を一時止め、ショウリク等に会うことにした。

「デンシン様。我らが畑で取れました野菜をたくさんお持ちしました。どうぞ、召し上がって下さいませ」

ショウリクは回復薬で育てた野菜を大量に差し出した。

「むう」

デンシンは渋い顔で野菜を見る。あまり好みではなさそうだ。

「デンシン様。どうか一口、お召し上がりください。英気が漲りますぞ」

ショウリクは必死に勧める。背中には汗をかいていた。

「そうか……」

ドワーフ国の住民は味方に付けておきたい。デンシンは渋々、野菜を口に入れた。

「うん?」

口に入れた途端、デンシンの顔つきが変わる。

「これは美味い!」

回復薬で育てた野菜は、ドラゴンの口にも合ったようだ。デンシンは、あっという間に全ての野菜を平らげた。

「もう無いのか?」

デンシンはショウリクを見る。

「はっ! 最後にデザートがございます」

ショウリクは直径三十センチ程の大きさの陶器でできた球体を差し出した。球体には導火線が付いている。爆玉だ。

「これを、噛まずに口に含んで下さい」

「こうか」

「はい。そうでございます。そして、ここに火を付けます」

そう言って、ショウリクは導火線に火をつけた。

「この火がデンシン様の口元まで届きました時に、その球体から それは美味しい果汁が出てまいります」

「ほう!」

うれしそうに待つデンシンの口元に導火線を伝って火花が近づく。そして、デンシンの口の中で爆玉が爆発した。

「うおー!」

爆玉の中にはゴブリンソープで作ったまきびしが大量に仕込まれていた。それが、デンシンの口や喉に突き刺さる。

 爆発と同時に、ショウリクは野菜を入れていた箱をひっくり返して、中に隠れた。箱はゴブリンソープを固めて作ってある。丈夫で耐火性もあり、安全だ。

 そして、断崖の上からは、秀光とヘイゲンが火縄銃で一斉に攻撃を始めた。崖の上まで飛び上がって来た小龍は、斧を持ったケンタウロスが対応した。

 ケンタウロスとドラゴンの戦闘が始まったが、デンシンは それどころでない。口の中のまきびしを溶かそうとして火を吹くが、ゴブリンソープで作ったまきびしは、頑丈で取れない。

 デンシンや小龍が吐く炎で、辺り一面は火の海になっている。

「イッパ! デンシンの眼を狙え!」

乱戦の中、秀光が叫ぶ。デンシンの身体は堅く、火縄銃では傷つける事さえできない。

「はい!」

イッパは秀光の命に従い、眼を狙うが、動き回るデンシンの眼に なかなか命中しない。

 そして、何回かの失敗の後の一発が とうとうデンシンの右目に命中した。

「ギャー!」

デンシンは 痛みで狂ったように炎を吐き出す。

 益々 炎は燃え盛り、防火性のあるゴブリンソープ製の甲冑を付けているとはいえ、耐えきれぬ熱さになってきた。

「秀光殿! 一旦 引きましょう!」

ヘイゲンが叫ぶ。

「分かった。そうしよう」

秀光はそう答えながらも、まだ デンシンに狙いを付けている。

「秀光様! ヘイゲン様が兵を引かれています。我々も!」

イッパが叫んだ。

「イッパ! 先に行け! すぐに後を追う!」

「でも……」

「行け!」

秀光の強い言葉にイッパも撤退を始めた。

 そして、しばらく後、銃声がし、火縄銃の弾丸がデンシンの残された左目を貫いた。

「ぎゃー!」

デンシンの悲鳴が再び響き渡る。

 その声にイッパが振り返ると、炎をかき分けて秀光が走ってくるのが見えた。イッパはすぐに秀光と合流できると思っていた。

「でも、そのまま、居なくなってしまったんです」

イッパはとうとう泣き始めた。

「秀光は焼け死んだってこと!」

私はイッパに詰め寄る。

「いいえ。火が消えた後、焼け跡を一所懸命に探したんです。でも、何処にも居なかった……。死体さえなかったんです」

「おじさんは、何処かに蒸発してしまった……」

でも、秀光が私達を置いて勝手に何処かに行くとは考えられない。何か事情があったんだろうか?

「いなくなる前、おじさん、何か言ってなかった?」

「いえ。特に何も……」

そう言った後、イッパは少し考えこんだ。

「あっ!そう言えば、戦闘が始まる前に 何かが降っているって言ってました」

「降っている?」

「珍しいなあって……」

「何か降っていたの?」

「いいえ。何も降ってなかったんですけど……」

降っている……。珍しい……。私は、ハッとした。ある考えが頭に浮かんだのだ。

「もしかして、雪が降っていると言ってなかった?」

「あっ!多分そう言ってました。でも、ユキって何ですか?」

イッパは雪を知らない。この世界に来てから雪を見た事がなかった。

「そう。雪が降っていたの」

イッパの質問には答えず、私は考え込んだ。

 私がこの世界に召喚される直前に雪が降っていた。秀光も雪の中で車を走らせていて、召喚されたと言っていた。

 もしかすると、召喚の前には雪が降るのかもしれない。そうだとすれば、秀光は、また、何処かに召喚された? 或いは、契約の首輪は外れていたのだから、秀光の望み通り、元の世界に戻ったのかも……。いずれにしても、秀光はこの世界から居なくなった事に間違いはなさそうだ。

 明智光秀が織田信長より先に居なくなってどうするのよ。おじさん、私を殺せないじゃない。私は例えようのない寂しさに襲われた。

 隣に座っているチャーの首をグッと抱きしめる。チャーは私の心が分かったか、すっと擦り寄ってくれた。

 しかし、秀光の蒸発を悲しんでいる時間はあまりなかった。リショウの討伐令に従いドライアドがゴーレムを操って攻めて来んできたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ