第十八話 炎上
イフリートは無力化したが、フェアリーとエルフの行方不明のままだ。
その後、調査の結果、フェアリーとエルフは賢者の国に逃げ込んでいるのがわかった。
そこで、賢者国に引き渡しを要求する使者を送った。賢者達はガマガエルに似た風貌を持っている。国主の名はホウズと言う。
「フェアリーとエルフは、リショウ様に謀反を起こしました。引き渡しをお願いしたい」
もうリショウに従う気もないが、嘘は言っていない。
しかし、
「リショウは我々の土地を勝手に奪い、自分の部下に与えた。そんな奴の味方ができるか!」
リショウの名前を出した事は逆効果だった。ホウズが怒るのも もっともだ。リショウの徳の無さは半端なかった。
「引き渡せないなら、賢者国を攻撃する事になりますが、それでもよろしいか?」
「お相手いたそう」
武力で脅してみたが、賢者達は彼らの国の周りに結界を引いてしまった。攻めようにも結界の中に入れない。
「困りましたねえ。半月もするとフェアリーはまたイフリートを召喚できるようになってしまいます」
リンツウが言った。
「えっ、どういうこと?」
私は驚いてリンツウの顔を見た。
「イフリートは炎の精霊で、一体だけじゃなくて、他にも沢山います。その中の一体と再び契約をすれば、また呼び出せるようになります」
「どうして、貴方はそれを知っているの?」
私はリンツウに尋ねた。
「いえ。その……」
リンツウは何か言い難くそうだ。様子がおかしい。
「リンツウ。私の言う事が聞けないの? 説明しなさい」
私は詰め寄った。
「ゴブリンに伝わる魔導書という物が有りまして。それに記されているのでございます」
リンツウは、薄っすらと冷や汗を掻いている。
「そんなのがあるの。私にも見せてちょうだい」
リンツウは嫌そうな顔をしたが、
「早く!」
私の声に、渋々 魔導書を取って帰ってきた。
「あまり、役に立たない魔法ばかり載っているんですが……」
そう言って、ページを開く。
私はそれを見た。
召喚獣を使うには召喚魔法で呼び出し魔獣と契約しなければならない。召喚獣の能力や性格は、呼び出す度に違うので臨機応変に対応すべき。
召喚魔法1 人間 可
力はないが、知恵はある。制御できなくても、簡単に排除可能。
ずる賢いので注意が必要。
と書かれていた。
「何これ。排除可能って殺せるってこと? ずる賢いって! 貴方、私の事をそういう風に思っていたの!」
私はリンツウを睨んだ。
「いえ。それは、私が書いたのではなくて、私達のご先祖様が……」
リンツウの冷や汗が床に滴り落ちた。さらに先を読む。
召喚魔法2 イフリート 禁
強力な炎で敵を焼き尽くす。制御できない場合は非常に危険。
その場合は全員逃げろ!
召喚魔法3 バハムート 厳禁
制御できない場合、この世界の破滅を覚悟せよ。決して召喚することなかれ。
私はこれを読んで、猛烈に腹が立った。
「リンツウ。ペンを持って来なさい」
リンツウにペンを持って来させる。そして、人間の召喚魔法の上に、大きな文字でこう記した。
厳禁 人の迷惑を考えろ!!
「ああ。大事な魔導書に落書きを……」
リンツウが涙ぐんでいる。リンツウの泣き顔を見て、少し気が済んだ。
「フェアリー達を 早く何とかしましょう」
私は議題を元に戻した。
「でも、賢者達が結界を設置したため、攻め込めないですよ」
キノフジが言う。
「困りましたなあ」
カツエが頭を抱えた。
その時、ケンタウロスの国元より驚くべき知らせがもたらされた。
「ヘイゲン様。ドラゴン国が我が国に向かって侵攻してきます」
「何!」
ヘイゲンは報告を聞き、驚いて立ち上がった。
「どうして、ドラゴン国が攻めて来るのよ」
私は叫んだ。
「リショウがドラゴン国になっていたリザードマン国の一部を我らに割譲しましたからな。おそらく、それを怒っているのです」
ヘイゲンが言う。
「でもそれは、現状のままで、ケンタウロス国は手を出さないと約束したんでしょ」
「しかし、それが我らに対する不信感になっております。乃菜殿。私は国元に帰ります」
ヘイゲンはすぐに部屋を出ていこうとする。
「待った。俺も一緒に行こう」
秀光がヘイゲンに声を掛けた。
「イッパとショウリクも連れていく。乃菜。いいな」
「ええ。私達も一緒に行くわ」
「いや、あんたは賢者国を攻めろ。イフリートが復活したら厄介だ」
「そっちは大丈夫なの」
「考えはある。大丈夫だ」
秀光は、そう言い残してヘイゲンと出ていった。
私達は賢者国を攻めるため、調査に向かった。賢者国は山の上にあるが、途中まで登ると見えない壁に遮られて先に進めない。
「この壁を辿ると、ずっと続いていて、この山を一周してしまうんです」
キノフジが困った顔でいった。
「上はどれぐらいの高さがあるんだろう」
私は上を見上げた。
「上もずっと続いていますよ」
そう言って、キノフジは小石を上に投げる。小石は周りの木と同じくらい高さまで飛んで、見えない壁に当たって落ちてきた。
「もっと上はどうかなぁ……。カツエ、あなたが投げてみて」
私の言葉に従い、カツエは小石を投げ上げる。小石は周りの木より遥かに上まであがり、そのまま、壁の向こう側に落ちた。
「上の方は空いてるのね」
「でも、あんなに高い所、空を飛ばない限り、中に入れないですよ」
「上が空いているなら、下はどうかしら」
結界が円筒状なら、きっと下も空いているだろう。私は地面を少し掘ってみた。しかし、少し掘ったでけでは、結界に当たってしまう。
「ヨウテツ。麓から山頂まで掘り進められる?」
私はヨウテツを見る。
「はっ、数日頂ければ、やり遂げます」
ヨウテツの言葉は頼りになる。ドワーフ部隊は結界に当たることなく、三日で山の麓から山頂までの幾つもの坑道を掘り上げた。
その坑道を伝って、ヨウテツを先頭にドワーフ達が賢者国に侵入する。
山頂の森の間に出て、間道を辿ると、幾つもの聖堂が立ち並んでいるのが見えた。
その中の一つの聖堂の庭に、賢者とエルフ、それにフェアリーが並んでいるのが見えた。
そこに、カゼンとアンシュウの部隊も追いつてくる。
「どうする? 突入するか?」
「乃菜様の応援を呼んだ方がいいのではないか」
三人で戦術の相談していると、フェアリーがイフリートを呼び出す舞を舞い始めた。
そして、フェアリーの輪の中にイフリートが浮かび上がる。それを見て賢者やエルフ達にどよめきが起こっているのが、遠目にも分かった。
イフリートは炎を上げ、その火はどんどんと大きくなる。近くの聖堂に燃え移りそうだ。
「イフリートの様子がおかしいぞ。制御出来ていないんじゃないか?」
カゼンがそう言った時、賢者やエルフ達はその場を逃げ出した。どうにか制御しようとしていたフェアリーも、それに続いて逃げる。
イフリートは炎を上げ、ゆっくりと追い始めた。聖堂はイフリートの火で燃え始めている。そして、火は森にも燃え移った。
「まずい!全員、一旦撤収するぞ」
ヨウテツの声にドワーフが一斉に坑道に逃げ込んだ。イフリートがより大きな炎を上げ、賢者国は火に包まれた。ドワーフたちは必死で坑道を抜け、山の麓まで逃げ降りてきた。
炎はやがて上昇気流を生む。ドワーフの掘った穴から麓の新鮮な空気が流れ込む。酸素を充分に含んだ空気が突風となって賢者国に吹き荒れる。
賢者国に立ち昇った炎は、賢者国全体に広がり、全てを焼き尽くすという大惨事となった。
賢者国にいた賢者やフェアリー、それにエルフ達の行方は、再び分からなくなり、フェアリー国やエルフ国に残っていた者達は、皆降伏した。
そして、その日から、私は魔王と呼ばれるようになった。




