第十七話 捕獲
ドワーフ国に帰った私達は、対イフリート戦の準備に取り掛かった。
「で、イフリートとはどの様にして戦うの?」
私は秀光に聞いた。
「ゴブリンソープを使うのさあ。あれを固まらせると防火効果があるからなあ」
秀光はそう言って、ゴブリンソープを柄杓の形に固め始めた。
柄杓の鋳型にゴブリンソープを流し込み、車から取り出したバッテリーで電気を流し固めるのだ。
柄杓を持つ手の握力を弱める事で、自動的に蓋が閉まる仕掛けも作ってある。
「これで、イフリートを捕まえる」
秀光は自慢げに言った。
「イフリートを捕まえるって! 秀光、気でも狂ったの」
私は驚いて秀光を見た。
「イフリートは高速で動いている間は炎を出せないからな。その時を狙う」
「こんなので、イフリートを捕まえられるの? まるで、虫取りね」
私は呆れて秀光を見る。
「炎を出せないイフリートは虫と同じだ」
「でも、イフリートから逃げながら、これで捕まえるの? そんなの無理よ」
「どうにかなると思うがなあ。まあ、仕掛けも作ってあるから、やって見ようや」
「仕掛けってどんなのよ」
私が聞くと、ゴブリンソープを樽の形をした者を出してきた。これを横に置いて、この中にイフリートを追い込むのだという。
「これを草むらに隠してよお。前に落とし穴を掘っておくんだ。たとえば、イフリートがあんたを追ってくるだろ。そうしたら、これに向かって思いっ切り逃げるんだ。そうしたら、この樽の前で、あんたは落とし穴に落ちて急に居なくなる。イフリートはそのままこの樽の中に飛び込んで、そこで蓋を閉めるっていう計画だ」
秀光は嬉しそうに話している。
こんな計画が本当に上手くいくのだろうか? あまり良い作戦とも思えないが、他にいい方法も思いつかない。
私には契約の首輪の運の力がある。そう思う事にした。
秀光はゴブリンソープで甲冑と盾も作った。それは、丈夫で軽く、火にも強かった。魔導士型ゴブリンは 鉄の甲冑が重いため、軽装備だったが、ゴブリンソープの甲冑は軽く装備する事ができた。
さらに断熱性能も高いため、火の攻撃も防げそうだ。甲冑の隙間から入ってくる火は防ぐ事はできないが、イフリートの炎からある程度守ってくれそうだった。
準備を終えて、私達は、フェアリー国に向かって行軍を始める。
「イフリート取りですね」
キノフジはゴブリンソープの柄杓を持って嬉しそうだ。
軍を進めると、フェアリー国との国境に流れる川向こうの森にエルフの一群が見える。
森の木々の間からエルフが弓で狙いを定めている。弓の射程に入れば無数の弓矢が飛んで来るだろう。そして、その前にはフェアリーとイフリートの姿が……。
アンシュウが率いるドワーフ鉄砲隊は、エルフの射程圏外に塹壕を掘り、エルフに対して射撃を始めた。この作戦では、騎狼隊の鉄砲組も銀狼から降りて、アンシュウの指揮下に入っている。
鉄砲の名手たちが、エルフに向かって 一斉に射撃を始めた。しかし、弾丸は木々に弾かれ、なかなかエルフに命中しない。そんな中でも名手イッパは確実にエルフを倒している。
「イフリート! 行け!」
それを見たイチョウがイフリートに命令を下す。イフリートが鉄砲隊の方に移動を始めた。凄い速さで鉄砲隊に近づいて来る。鉄砲隊は、慌ててゴブリンソープの盾で塹壕に隙間なく蓋をする。
巨大化したイフリートが塹壕の上をゆっくりと動く。しかし、ゴブリンソープの盾がイフリートの炎から鉄砲隊を守った。
私はチャーに跨り、武器を柄杓に持ち替えた騎狼隊とケンタウロス隊を率いてイフリートに向かって突進する。
そこにエルフの弓が降ってくる。イフリートのお陰で射撃が止み、その隙にエルフが前進してきたのだ。
ゴブリンソープの盾で、エルフの矢を受け流す。ゴブリンソープの盾は、エルフの魔法矢も防ぐことが出来た。ゴブリンソープの甲冑もエルフの弓矢を跳ね返したが、ケンタウロスや銀狼の足は甲冑を付けると動きにくく、十分に覆われていない。
降り注ぐ大量の弓矢が、ケンタウロスや銀狼を徐々に傷つける。私達は回復薬で傷を癒しながら、イフリートに近づいた。
ヨウテツは、エルフが前進するのと同時にドワーフ歩兵隊を弓矢の射程圏内まで前進させ、両手に持った大きな盾で前面と上部を保護する。
カゼンは弓隊を、そこにドワーフ弓隊を配置し、盾の隙間から、エルフに対して攻撃を開始する。
エルフはその対応に追われ、私達に落ちてくる矢の数は大きく減少した。その隙に、イフリートにさらに近づく。
イフリートは私達が近づいて来るのを見て、大きな炎をあげる。私達は炎の手前で踵を返し、距離を保ちながら、イフリートの周りを旋回した。
イフリートは炎を小さくして、私達を追いかける。イフリートとの鬼ごっこが始まった。
しばらくすると、大勢の中からイフリートは私を見つけた様だ。執拗に私を追いかけて来る。
「チャー、頑張って!」
私はイフリートから全力で逃げた。イフリートも全力で私を追いかけ、イフリートの炎がさらに小さくなる。
やがて、エルフの射程圏内から外れ、私達は、エルフとイフリートの引き離しに成功した。
イフリートが私を追いかける。そこに、騎狼隊とケンタウロス隊の面々が柄杓を振りかざして、イフリートを捕まえようとするが全て空振りで柄杓の中に入らない。
時折、イフリートは速度を遅くして大きな炎を上げるが、そうすれば、また距離を取る。そんなイフリートとの鬼ごっこを暫くの間、繰り返していた。
そうしている内、秀光が遠くで合図しているのが見えた。イフリートを捕獲するための罠の設置が整ったようだ。
私達は距離を保ちながら秀光がいる方にイフリートをおびき寄せた。イフリートは私を狙って追いかけて来る。
私は速度を上げ罠に向かって逃げる。そして、手筈通り、罠の手前で落とし穴に落ちた。
イフリートは穴に落ちた私を追い越して、罠に飛び込んだはず……。
私は上を見あげた。すると、そこに居るのはイフリート! 罠に飛び込んでいない。イフリートは私と目が合うと、ニヤリっと笑った。
まずい。焼き殺される。そう思った瞬間、
「入ってろ!」
その声と共に柄杓がイフリートを叩いた。イフリートは勢いでゴブリンソープで出来た樽の中に叩き込まれる。その機を逃さず秀光が樽の蓋を閉めた。
「大丈夫ですか?」
穴に落ちた私を覗き込んだのはキノフジだった。キノフジははずっと私とイフリートの後をついて、機を伺っていたのだった。
おそらくイフリートは樽の中で大きな炎を出しているだろうが、ゴブリンソープの樽はびくともしない。
やがて、樽の中の酸素も無くなり炎も出せなくなるだろう。
「このまま、土に埋めてしまいましょう」
秀光はそう言って、私が落ちた落とし穴に樽を放り込んで、土をかけ始めた。
「ゴブリンの魔法がフェアリーの魔法に勝ちましたね」
キノフジは嬉しそうに言った。以前、私がフェアリーを褒めた事を気にしていたらしい。
イフリートが捕まるのを見たフェアリー達は、しばらくの間 唖然として動けなかったが、やがて背中を見せて逃げだした。ドワーフの鉄砲隊と弓隊に圧されていたエルフもフェアリーに続いて逃げようとしている。
「今だ―。逃がすな。追撃だ―」
私は檄を飛ばした。
しかし、エルフは木の上を飛び交い逃げる。フェアリーも小さいため、途中何度も見失い、とうとう逃がしてしまった。




