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第二十話 巨人

岩で出来た巨人百体を引き連れて、ドライアドが攻めてくる。秀光は居ない。

 これをどうして迎え撃つのか、良い考えが浮かばなかった。秀光が居なくなった事は大きな痛手だ。軍議を開いても、誰からもいい考えは出てこない。

「この前、秀光様の車を運んできたあの巨人がゴーレムでしょう。あんな固そうな身体、弓矢や鉄砲では歯が立たないでしょうね―」

キノフジが口火を切った。

「我々の槍でも無理だろうなー」

カツエも自信なさそうだ。

「私達の剣も駄目でしょうな―」

カゼンの顔も冴えない。皆がお通夜のように黙り込んでしまった。

「ところでリンツウ殿はどうされました?」

重苦しい雰囲気に耐えかねて、アンシュウが口を開く。当然、この場にいるべきリンツウの姿が、初めから見えないのだ。

「調べ物があるって、朝からずっと部屋に籠っているのよ」

私は答えた。丁度その時、リンツウが木で出来た人形を持って部屋に入ってきた。

「乃菜様。ゴーレムの秘密が分かりました」

興奮した面持ちでリンツウが言った。

「秘密?」

私はリンツウの顔を見た。

「これを見て下さい」

そう言いながら、リンツウは手に持っている十センチ程の人形をテーブルの上に置いた。

 そして、指の先を針で突き、人形の頭頂に何か呪文のようなものを書き始めた。その人形をテーブルの上に置きブツブツと呪文を唱える。

 暫くすると、頭頂の呪文とリンツウが唱える呪文が呼応し、人形がムクッと起き上がった。

「おお―!」

その場に居た全員が同時に驚きの声を上げた。人形は数歩だけ歩き、パタンと倒れた。

「凄いじゃない! リンツウ!」

私は叫んだ。

「私の力では、ここまでです」

リンツウは額にべっとり汗をかき、呼吸も荒い。

「こんな魔法をどこで習得したの?」

「ゴブリンの魔導書にゴーレムと似た魔法があったような気がしてたのです。それで今朝から部屋に籠り、魔法を習得しておりました」

あまり役に立たない本だと言っていたが、ゴーレムと似た魔法もあるんだ。

「凄いじゃない」

私は心の底からそう思った。

「いいえ。ゴブリンの魔法では、今のが精一杯で何の役にも立ちません」

 確かに、このままでは何の役にも立たないが、もっと工夫を重ねる事でゴーレムのような巨人を動かす事も出来たのではないかと私は思った。でも、それを議論している時間ない。

「もし、ドライアドのゴーレムがこれと同じ方法で動いてるとすれば、どうすれば倒せますか?」

カゼンが尋ねた。

「もし同じだとすれば、頭頂の呪文に傷を付ければ倒せます」

リンツウが答える。

「なるほど、ドライアドがガーゴイルと戦わなかった理由が分かったような気がする。ゴーレムは空からの攻撃に弱いのよ」

「でも、乃菜様。私達は空を飛べませんよ。ゴーレムの頭のテッペンを攻撃なんて、どういたらいいんでしょ」

キノフジが情けない声を出す。

「リンツウ殿。その魔導書に空を飛ぶ魔法は載っていないのですか?」

アンシュウが尋ねる。

「浮遊魔法というのがあるのですが……」

その言葉に、皆が期待を込めた眼で一斉にリンツウを見た。

「でも、十センチ程しか飛べません」

それではジャンプした方が高く飛べる。本当にゴブリンの魔導書は役に立たない魔法ばかりの様だ。皆、がっかりして下を向いてしまった。

「すみません」

リンツウは小さな声で謝った。

「あのう」

ヨウテツが遠慮気味に手を挙げた。

「弓矢を雨のように降らせればどうにかなるんじゃないでしょうか」

ヨウテツは言う。

「長い綱を作って、ゴーレムの足に引掛けて倒し、頭頂が見えた所を攻撃するはどうでしょう」

そう言ったのはカツエだ。

「谷を侵攻して来る時、山の上から鉄砲で狙い撃ちする手もあるかと思います」

アンシュウの提案だ。

 どれにしても、確実に上手くいく保証はないが、結局、それ以上の案は出ず、この三案でゴーレムに立ち向かう事になった。


 ゴーレムが進軍して来る。

 その通り道となるであろう谷の両側の山の木々にゴブリンとドワーフの鉄砲隊を待機させていると、思惑どおりゴーレムがやって来た。木の上からゴーレムの頭の上を眺めると、確かに何か書いてあるのが見えたが、それは思いのほか小さかった。

 巨大な岩の上にある小さな染みにしか見えない。それでも、撃つ以外の選択肢はない。

 ゴブリンとドワーフの鉄砲隊は、それぞれが目の前の標的を目掛けて発砲しだしたが、やはり標的が小さすぎて当たらない。

 鉄砲隊に気づいたゴーレムは山を登り出し、鉄砲隊に近づいてくる。

 そんな中で、イッパは秀光からもらったお守りを握りしめていた。

「師匠……」

イッパは秀光の事を思い出しながら、冷静に標的を狙った。

 ゴーレムが近づいてくる。イッパは火縄銃を発射した。一発目の弾丸は残念ながら標的を外れた。慌てず、次の弾丸を準備する。ゴーレムはドンドンと近づいて来る。

そして、二発目の弾丸を発射した。それはゴーレムの頭頂にある呪文に見事に命中し、岩を削って呪文を消し去った。

 呪文が消えたゴーレムは動きを止め、その場で崩れ去った。リンツウが言っていた事は正しいことは証明された。

 しかし、他のゴーレムは木々をなぎ倒しながら迫ってくる。周りのを見渡すとイッパが倒した以外、もう一体のゴーレムが倒れているのが見えた。

「くそ―! ここまでか」

悔しい思いを胸にして、イッパは木の上から降りた。他の鉄砲隊もそれぞれが木を降り、撤退を始めていた。

 ゴーレムが谷から抜け出て来る。倒したのは二体。まだ、九十八体残っている。谷の出口には弓隊二千六十が待ち構えていた。

「弓隊、構え! 撃て―!」

カゼンとタキマがそれぞれの弓隊に号令をかける。ドワーフとゴブリン弓隊は空に向かって弓を放つ。そして、それがゴーレムの頭上に雨の様に降り注いだ。しかし、ゴーレムは両手で弓矢を振り払い、弓矢は空しく地面に落ちた。

「構え! 撃て―!」

それでも二人りの号令が繰り返し響く。その声に弓隊は次々と弓矢を放ち、ゴーレムの上に降り注ぐ弓矢の雨は更に激しさをました。その中で数体のゴーレムが崩れ落ちる。

「良し! この調子だ! 撃て―!」

カゼンの声に張りが出てきた。しかし、それとは逆に弓矢の勢いは次第に弱まりだした。

「カゼン様! 弓矢がもうありません」

ドワーフ弓隊は弓矢を討ち尽くし、退くしか仕方なかった。

 タキマが指揮するゴブリン弓隊もそれは同様だった。

「クソ!」

タキマは歯ぎしりしながら退いて行く。ゴーレムはまだ九十体以上残っていた。

 最後の砦としてカツエが戦闘型ゴブリン五百が出撃する。丈夫に編んだ長い綱の両端をそれぞれ十人ずつのゴブリンが持ち、ゴーレムを目指して駆け出した。この綱をゴーレムの足に引っ掛け、引き倒すのだ。

「掛かれ―!」

カツエの声がが響く。その声を合図に、ゴブリンはゴーレムの足に綱を巻く。ゴーレムの動きは遅いため、綱は簡単にかけることができた。しかし、力は強く、後ろに引こうとしたが、全く動かない。

 綱を二本掛け、二十人で引っ張ったが同じだった。ゴーレムの力は予想以上に強い。綱を三重にしても、それは変わらなかった。

 ゴーレムが乃菜の本陣に向け、着実に前進してくる。もう駄目か。誰もがそう思った。

「乃菜様。お逃げください」

リンツウが言う。

「……」

しかし、それには答えず、私は遠くの一点を見つめる。

「乃菜様!」

リンツウは声を張り上げた。

「ちょっと、待って! あそこ!」

私が指さした方角では、遠くの方で砂煙が上がっていた。

「乃菜殿。助太刀に参りました―」

ヘイゲンが三千のケンタウロス隊を率いて駆け付けて来たのだ。

 ヘイゲンの部隊は五百騎ずつ一列になり、ゴーレムの間をすり抜けながら、斧でゴーレムの脛を辺りを叩いて行く。

 ゴーレムはケンタウロスの動きについていけずに翻弄されている。しかし、ゴーレムの脛は非常に硬く、びくともしない。

 少なくとも、最初はそう見えた。しかし、ケンタウロスは同じ場所を繰り返し叩き続ける。ゴーレムの脛は少しずつ削れ、次第に、深い傷となった。

 ゴーレムの脛はどんどんと細くなり、やがて体重を支えられなくなって、ポキッと折れた。ゴーレムの身体が傾く。そこに綱を持ったゴブリンが再び襲い掛かった。残った足に綱を巻き付け力の限り引くと、片足になったゴーレムは耐え切れず倒れた。

 そこに剣を持ったドーワフが襲い掛かり、頭頂の呪文を剣で消し去った。九十体以上残っていたゴーレムは次々倒れ、やがて動かなくなり、ドライアドは降伏した。


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