残業と沙都美と亜紗美と
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会社への帰り道
おじさんはあまり自分から話す事もなく沙都美の話す言葉に相槌を打っていた
沙都美は明るく若々しい笑顔でおじさんの顔を覗き込みながら話していた
いつもと大きく違う所は沙都美のボディータッチが多い
女性から見ればあからさまにアピールしている事がわかるのだが
男性から見ればなかなかその事には気付けないモノのだ
普通ならその対象の男性はその女性を強く意識してしまう行動だが、今の勇輝は何となく違う事を考えている様だった
『亜紗美の事を考えているのかな?絶対に私の方を向かせてやる』
沙都美はそんなおじさんを見ながら努めて明るく可愛く接していた
言わせて貰えればどちらかと言うと綺麗系な沙都美が可愛らしさを時折アピールするのはかなりパワーが有る
亜紗美の可愛い全開よりも数段上だ
今までの恋愛経験のなせる技だろうか?
会社の入るビルの前に着いた時、ふと朝の木陰のベンチに目をやった
将来有望そうなおじさん好みの顔をした女子高生の姿はもうそこには無かった
「仕事後、どこか行きませんか?」
エレベーターを待っていると沙都美が声を掛けて来た
「いや、申し訳無いけど本当に金欠なんだ」
「じゃあ、お散歩しましょう。隣の駅まで2人で歩きましょう」
「反対方向じゃ無かった?」
「私が勇輝さんの方向に歩きます」
そうこうしているうちにフロアに着いた
上司から呼ばれ仕事の内容の確認をする
予想外に早く大きく進展しそうな事に上司が驚いている
「先方の担当が優秀で凄く良くしてくれている事と、沙都美君を派遣して頂いたお陰です」
上司を上げる事も忘れずに付け足しておくと
別に本当は上司がやった事では無いのだが上司は
「だろー、沙都美が早くフォローに入った方が良いと思ったんだ」
機嫌良く勇輝の肩を叩いている
もうすぐ終業時間だが、持ち帰った仕事を早くまとめないと先方の柳沢さんの仕事のペースに追いつかない様な気がしてパソコンを開く
さっき沙都美とまとめた内容を質問も絡めて柳沢にメールをしておく
『あとは他の部署にお願いする為にそれぞれ根回ししておかなきゃな』
資料作りと比較的仲の良い他部者の同僚にメール
おじさんはまだまだやる事が有りそうだ
沙都美はというと外出が響いているのか、鬼の様なスピードで仕事をしている
就業時間が終わろうとしているが、急ぎの仕事を後輩に振り分けている
「これ、明日で良いからお願い」
『明日、、、朝から全力でやらないと終わらない』
渡された方はその仕事を見て明日を絶望しているのだ
普段、後輩数人分の仕事を沙都美は1人でこなしているのだ
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時間は少し戻る
沙都美が勇輝のサポートに入ると上司を説得している時
亜紗美は渋々と貴則に付いてフロアを出る
「外出しまーす」
貴則が自分は頑張って働いているよアピールでよく通る声て告げる
この時も沙都美は一切コッチを見なかった
基本、入口付近に席のある沙都美は来客以外に一々振り向いているとキリがないのだ
しかし沙都美がこのタイミングでこちらを見ない位必死な事に亜紗美は苛立っていた
《沙都美さんが凄いアピールしています》
貴則に見つからない様に一瞬で勇輝にメッセージを送った
勿論、おじさんのスマホはまだデスクの引き出しの中だ
ビルの外に出ると例の女子高生がビルの入り口で有るコチラを見ている
『学校に行かなくて良いのかな』
そんな事を考えながら女子高生を見て歩いていると
その視線に気付いた貴則は
「可愛い女子高生だな。でも、俺は大人しか相手にしないからな。将来、もっと綺麗になってたら付き合ってあげても良いかな」
『どこから目線だ』
と、ドン引き気味に貴則を見るが
そのセリフがカッコイイと思って言っている貴則はドヤ顔だ
この日は残念ながら一日中外回りだ
大手代理店にプレゼンに行き、おそらく敗北して
午後はもう一件本命の企業と打ち合わせに行く
「ダメでもこれで大手とのパイプを作って行くんだ」
ポジティブな貴則はこうやって事実何件が仕事を作っている
それで調子に乗ってしまいイマイチその後の成長が無く
本当の意味での出来る人になれないでいるのだが
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午前中の仕事が終わり
移動を始める
意外と感触が良いプレゼンだった
「なんか、上手く行きそうじゃないですか?」
珍しく自分から貴則に話しかけてみた
「だよなぁ、食い付きが良かったよな」
「これで取れたら貴則さんちょーカッコいいですね」
いつも通り調子に乗せて行こうと思ったが、貴則はここでトーンダウン
「そういう風には行かないんだよ。この仕事を取るには半年前から担当者や担当者の上司に根回ししておかないと無理なんだよ」
「そうなんですか?」
「あの担当者には実は何の権限も無いんだ、それが日本の会社だ」
「なんか、らしく無いテンションですね」
「流石に何回もこういう事を経験してるとな。今回は担当の彼の上司と何とか繋がるまで行ければいい仕事をした事になるよ」
「繋がれるんですか?」
「彼が俺たちの提案を少しでも良かったと上司に伝えてくれれば一歩前進。話を聞いてくれる為に呼んでくれたら、今回の仕事は完遂した様なものだよ」
「なんか、珍しく大人ですね貴則さん」
「珍しくは余計だ」
そう笑いながら次の打ち合わせ場所に移動していた
「取り敢えず時間も時間だしメシでも食うか」
「はい、お腹が空きました」
「お前は良く食うからな」
「それって褒めてませんよね」
「俺は胸が大きい女が好みだから、よく食う女も好きだぞ」
「そう言いながら沙都美さんを攻めてた事聞いた事有りますよ」
「沙都美?アイツは行けそうだったんだけどな。なんか、やめておいた」
『はっ?どこに行けそうだったのだろう⁇』
さっきまで少し貴則を認めそうになっていた自分を恥ずかしく思いながら
「沙都美さん綺麗で良いじゃ無いですか」
沙都美を激推しして勇輝から引き剥がしたい
「なんだ?お前妬いてるのか?」
『ダメだこりゃ』
鬼メンタルの貴則に敗北を認める亜紗美であった
2件目は無事、形になりそうで安心して帰路に着く2人
「亜紗美、今夜飲みに行かないか?」
いちいちカッコ付けながら誘ってくる
「あの、明らかに今日の2件分の仕事を戻ったらまとめないとですよね?」
「そんなの明日で良いじゃん」
『いや無理でしょ』
全力で突っ込みたい気持ちを抑えて
「私、貴則さん程仕事が出来ないので今日中にある程度目処を付けて置かないと」
もう少し押し込みたそうだが、自分少し上げてくれた事に気持ちよくなっている貴則は
『だろ、俺仕事出来るから』
と、目で語っている
「まあ、勇輝さんみたいに小さい仕事ばっかりやってる人とは違って俺はやり手だからな」
思いっ切りスネを蹴ってやりたい衝動を押さえながら
「勇輝さんもお仕事忙しそうですね」
「まあ、小物は小物らしく頑張ってくれればいいよ」
一瞬、拳を握りしめた亜紗美だか
笑顔で何とか受け流した
会社のビルに着きそうな時、そっとベンチの方を見たがもちろん女子高生の姿は無かった
エレベーターでフロアに上がり部屋に入ると勇輝が戻っている事を確認する
部屋に入るとか何か違和感を感じた
なんだ?なんだ?
「おかえりなさい」
と、聞こえた
いつもは声だけのはずだ
今、自分は無表情かやや機嫌の良さげな忙しそうに仕事をする沙都美と目が一瞬合った気がした
背後を通り過ぎた後、慌てて振り向くが沙都美はいつも通りに仕事をしている
その時、何故か沙都美が自分の唇を人差し指の裏でなぞっている事が気になった