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腐れ縁とプロポーズ

神戸・水野の坂原探偵事務所で男4人の飲み会が行われていた。


「来宮、おめでとー!」


さわやかな笑顔で麦茶片手にそう言ったのは水野医療センター血液内科医・神坂葵(こうさか あおい)。


「食うのも飲むのもほどほどにしとけよ」


たしなめるようなことを言いつつも、にやにや笑って来宮のグラスに麦茶を注いでいるのは水野医療センター呼吸器内科医・池橋和樹(いけはし かずき)。


「事務所内にいろいろこぼしたりするなよ!!」


自分の城が汚されることを恐れて注意に必死なのは、探偵・坂原涼。


「お前ら・・・言ってることとやってることがわけわからんし、飲み会するほどめでたいことでもないぞ」


今晩の主役のクセに、仏頂面で憎まれ口を叩いているのは、水野医療センター消化器内科医・来宮柊(きのみや しゅう)。


この4人は大学時代の同期で、人呼んで(?)「塩顔4」と言われるほどの塩顔男子の集まりだ。大学時代からの腐れ縁で、37歳の現在まで何かと仲良くしている4人で。ここ1年の間に病院で起こった事件に坂原が関わった時にも、3人は医者にも関わらず解決に尽力した。


そんな中、来宮が幼少期から患っている心臓の持病の悪化で手術が必要だと言われていたにも関わらず、様々な問題で先延ばしになっていた。しかしこの度三谷家先生による手術の予定が決まったことで、全員の予定が空いていた今晩はこのような飲み会が開かれたのだ。いかんせん来宮は心臓の負担を抱えているということで水分少なめ、塩分控えめのセルフ飲み会にしようということになったのだった。


「これは・・・飲み会なのか?いや、絶対違うよな」


来宮の納得いかないような表情での発言に神坂が笑う。


「まぁまぁ来宮。これは前勝祭だよ。オペが終わって状態が安定したら正しい飲み会を開けばいいんだし」


「それ、いつになる話だよ。」


「さあねー。でもあっという間だって。来宮は健康になった途端にバリバリ仕事し始めちゃうだろうし。今はそんなこと言ってるけど、実際オペが終わったら、患者さんと斉藤さんのことで頭がいっぱいになると思うよ」


「斉藤のことは関係ないだろ」


「今でも頭いっぱいなんだから、復帰したら尚更だよ」


斉藤さんとは斉藤綾香という、自分の父親を悪事の隠ぺいのために殺したにもかかわらずのうのうと生きていた男たちに復讐し1人を殺した罪で逮捕された水野医療センターの内科病棟の元看護師だ。斉藤の話が出たことで、床の掃除をしていた坂原が口を挟む。


「懲役5年か。殺人罪としては最短だ。遺族の気持ちを考えつつも、卑劣な犯罪者への復讐だったことで情状酌量された結果だな」


「そうだな。まあ。お前にとっても斉藤にとっても長い5年かもしれないが、それで済んでよかったな。結婚式は5年後か?」


池橋がそう来宮に問う。来宮は裁判の判決が出る前に拘置所にいる綾香に会いに行き、プロポーズをしていた。


「獄中でのプロポーズなんて、ドラマみたい。来宮って案外ロマンチストだねー」


神坂がにやにやと来宮をからかう。


「ばか。ドラマでもなければロマンチストでもない。残酷な現実の話だ。厳密には獄中プロポーズでもない。これのどこが幸せなんだよ」


「斉藤さんにとって幸せだと思う。懲役5年、相当長い強制労働の時間。でも、他の大体の受刑者の人と違って、自分を愛して待っててくれる人が居る。これだけで相当救われると思うし幸せだよ」


これまで多くの犯罪者を見てきた坂原が真面目に言う。来宮は持っていた麦茶をがぶ飲みした。


「・・・言われなくても待ってるよ。5年くらい」


アルコールが入っていなくても、4人で話せば飲み会テンションである。待ってるためには、オペ絶対成功させてもらわないとねーと神坂が言う。そんなの当然だ、失敗なんてありえないと池橋が同調する。すると思い出したように神坂が話題を変える。


「そういえば、消化器内科に新しく入った葉山先生ってどんな人なの?」


「あ、そうだよ。どんなやつが来たんだよ、来宮」


そう聞かれても、来宮には答えることが無い。水野医療センターは万年医師不足で困っているのだが、先日、来宮が所属する消化器内科に新しい医師がやってきた・・・のだが。


「・・・どんなって言われてもな。しゃべんないんだよ」


「しゃべんない??」


「そう。とにかく無口。挨拶もぎりぎり。どうやろかって感じだぞ。まあ、医者としてはちゃんと仕事してくれるし別にいいんだけど」


「じゃあ、安心して患者を引き継げる感じか?」


「ああ。少なくとも事件を引き込んでくるような感じは全くしない。」


平然とそう言う来宮に池橋は苦笑する。


「お前・・・。そういう事をサラッと言うなよ。確かにここ最近の医療センターは事件続きだけどさー。良く分からん世界に巻き込まれて、救えなかった命もあるし・・・。」


産婦人科部長の生き別れの娘が引き起こした事件。2人の若き命を理不尽に失い、生き残った女の子のお腹の中の子どもも失い、自分たちの知らない世界には理不尽に死ぬ人もいるんだと誰もが痛感した事件だった。それからしばらく、今の所の水野医療センターは平和だった。しかし、この消化器内科に新たにやってきた葉山誠二と言う男・・・。この後、来宮は自分の見る目の無さを思い知ることになるのだった。


塩顔4の飲み会がお開きになった後、来宮は久しぶりに実家に戻った。

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