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53.話し合いをしよう

 滅茶苦茶なことを迷いなく行う人は、確かに発想や実行力は凄いですが、それを調整して実行レベルで実現できるようにする人も、やはり凄いと思うのです。

 何方が上で何方が下と比べられるものでなく、何方も凄いとしか言い様がないのでは、と個人的には思っております。


 読んでいただいた方に、何かを残せたなら嬉しい限りです。

 53.話し合いをしよう


 陽射しに曝された肌は、まだ微かな痛みを覚えるが、そよぐ風は随分と涼しくなってきた。

 以前とは違って、日焼けを気にする必要があまり無くなったメンバーが増えた為か、『白薔薇の社』のテーブルを素直に囲んで居るのは、エイトとジゼの他はゼフィリーとユーレリアくらいなもの。

 指定された『白薔薇の社』に、全員が座れる広さがないないとは言え、適当に少人数の集団で立ち話をしているようにしか見えないそれは、緊急招集された割に緊張感がなさ過ぎる光景といえた。


 そこに拍車をかけているのがベルティータ、自身が話題の焦点で有ることなど、全くこれっぽっちも気にした風も無く、青白い人魂と空飛ぶウサギモドキを引き連れて。

 空中散歩をジゼに禁止された後、見ていると行きたくなるだろうからと、グライフは自主的にベルティータに姿を見せないようにしていた。そんなグライフに久しぶりに会った為、先程からよじ登っては滑り落ちを、ベルティータは実に楽しそうに、何度も何度も繰り返している。


 どうにも信じ難いが、ベルティータのその行為は、自身の楽しみの為であるのは確かだが、親愛表現でも有るようだ。


 彼らは、彼らの姫の少しも変わらない姿を見て――ついでに、会うなり抱き上げて離れなくなった『氷の魔女』の姿も見て――エイトの珍しく切迫した声による幹部招集が、『安寧を根底から崩す』程の問題だったとしても、まぁなんとかなるだろうと、すっかり楽観視させられてしまった。

 むしろ、今目の前で竜幼女を抱きしめたまま銀の髪に顔をうずめ、自称ベルティータ姫分の禁断症状?故に、一向に顔も体も離そうとしないダークエルフこそ、姫とギルドにとって大問題ではないのか?と、ジトッとした目でその光景を生暖かく見守っている。


「諦めましょう、私達が共に戦った理知的で合理主義だった、エルフの黒魔術師はもう居ないのよ……」


 悲壮感の漂うジゼの言葉に、『パラベラム』の古参連中はそっと視線を外し、外したそれをエイトへと向け無言で、進めてくれと促す。

 無言の請願を受け、エイトが自身の代わりに現状を説明する役を譲ったのは、意外にもサブマスターのジゼではなくユーレリアだった。


「特殊な嗜好を持つ方々以外からも、ベルティータ姫が付け狙われる可能性が非常に高まった、という件に関してですが。

 討伐に伴うアイテム・ドロップにより、角牙眼などの身体部位に永久損失の可能性が有るため、そちらの方が危険度はより高いと思われます」


 きらりと眼鏡を光らせながら話を切り出すユーレリア、彼女もアルリールと並ぶベルティータ教徒であるのだが、こういった問題が起こった時の反応は真逆である。

 ベルティータの為なら国の一つ二つ潰しますが?と、平然と真顔でいうところは同じでも、アルリールは直接的脅威が出るまで、基本的に放置するのに対し、ユーレリアはその芽を摘みに行く。


「幾人かの方からアドバイスを頂き、私自身の感情も勘案しての結論ですが……姫様のコーディネート大会をしましょう」


 どうやらユーレリアにも、すっかり毒がまわりきっていたか、と周りの目が諦めの色を浮かべるのを見て尚、眼鏡のつるをそっと添えた細い指先で押し上げるユーレリアの表情は余裕を失わず。

 眼鏡の奥で輝く光は、悪戯っぽいと言うには、少々鈍く凶悪であった。


「私は反対、悠長過ぎるわ。私達がこうして気付く前に、既に手を打っている相手が居るかもしれないのに」


 こういう場合に反対するのはジゼで、常識的な意見で場を正そうとする。

 何よりコーディネート大会という事は、彼女はコーディネートに使われた装備を、延々解呪させられる事に成るのだから、当然と言えば当然な反応だろう。

 そもそもジゼは、現在ベルティータが装備している組合せが、皆の試行錯誤の上に研ぎ澄まされ、磨き抜かれていく場に全て立ち会って居るのだ。

 その上、ステータスのマイナス面では絶望的で、とても褒められた代物ではない装備群だが、防御面ではかなり優秀で有ることも、冷静に理解していた。


 それを一時的にとは言え、問題が露呈したこの状況で、防御を限りなくゼロに近づける、などというユーレリアの発案には、とても賛同出来ない。

 いくら相手が、あのベルティータ教徒のユーレリアであっても、余りのタイミングの悪さに、疑いたくもない疑念が湧いて来る。


「残念です、では代案でフォトコンテストならどうでしょう?掲示板にスクリーンショットを貼り付けて、一番可愛いとされたものを競う形で」


「せっかく下火になったのに、態々プレイヤーに姫様の存在を、思い出させるつもりなの!?」


 やや感情的になったジゼの非難に、一瞬静まり返った場はざわめき始め。

 次いで視線が向けられたベルティータの姿に、『ダーク・クラウン』幹部の間に激震が疾る。

 アルリールの手によって、銀髪ロング・ツインテールにされたベルティータは、アルリールに抱えられたまま、身を屈めたアジーンの手から果物をしょりしょりと、まるでリスかハムスターのように食べていたのだ。


 その場の誰もが――実際には音などしないにも関わらず――鳴り響くスクリーンショットのシャッター音を確かに聞いた。


「良い案だね、但しギルドハウスの外観や、構造がわかるようなモノは禁止だ」

「それなら、神話系メンバー以外が写って居るものも、禁止した方が良いですね」


 エイトの返事に乗っかる形で、アルリールがベルティータの銀髪のシッポを握ってフリフリしながら、そんな事を付け加えると。

 生産系のメンバーが集まっている一角で、シャトラが両手を挙げて笑顔で万歳し、ベックマンが、よーしセーフ、と小さくガッツポーズをして居る横で、グリムリープとオージェにチャプの三人は一斉にブーイングを飛ばしはじめる。

 もともと一緒に映ることに興味はないのか、それとも自分は無機物になれるので、特例的に問題無いと判断したのか、バルダークのローブに隠れた表情は見えない……そもそも、ローブの奥に顔があるのかもわからないのだが。


 一喜一憂する生産系メンバーの中で、ライト一人が明らかに何かを疑うようなジト目で、アルリールを睨みつける。


「おいアル、手前ぇ何企んでやがんだ?自分はアウトでユーレリアがセーフなんて条件、自分から言い出すとか」

「おっ、そういうことか。なんやユーレリア実はデキル女やったんやなぁ、すまんな誤解しとったわ今まで」


 被せられたゼフィリーの大声に、どういう事だよ不死身女っと、このタイミングで何故かユーレリアを褒め出す意味を理解できず、『白薔薇の社』でユーレリアの肩を気さくに叩きながら片手拝みしているゼフィリーに、ライトが明らかに不機嫌そうな顔と声で言葉を投げつけた。

 長い付き合いで有る為、尋ねればゼフィリーがが答えてくれないとは思わないが、絶対素直に教えてはくれる筈がなく、確実に馬鹿にした表情で煽って来るのは、嫌になる程解っているのだ。


「えっ解らんの?あっ……すまんすまん、鹿にはちっと難しすぎやったな、ウチの配慮が足らんかったわ〜。あ、馬やったっけ?うわーすまんなー」


 完全に予想通り、ライトの神経を逆撫でしに掛かるゼフィリーに、ライトは苛立たしげに足を踏み鳴らして威嚇するが、それは余計にゼフィリーをニヤニヤさせるだけの効果しか発揮しなかった。

 アルリールに突っかかったライトを煽るということは、間接的にアルリールが意見を支持したユーレリアに突っかかった、ジゼをも煽っているのと同義である。

 内心穏やかではないが、それを表に出してヒステリックに喚き散らすジゼではない、そんなことをするような人物であったのなら、こんな曲者ぞろいのギルドで、サブマスターだの『お母さん』だのと言われ、認められることはなかっただろう。


 視線だけでグライフを伺うと、無言のまま鷹揚に頷き返すのを見て、ジゼは小さくため息をついて顔を上げた時には、今までの感情をすっぱり断ち切り、思考を完全にフラットへと切り替える。


 グライフが何も言わずに首肯してみせた、この短いメッセージで、ジゼには少なくない事実がわかったのだ。

 まずグライフがこちらへの説明を避け黙っている動機が、そのほうが上手くいくからなのか、そのほうが面白いからなのかは判らないが、少なくともそこには、黙っている方がいいという彼の判断が有り。 

 大きく頷いてみせたということは、その選択の前にあった、ユーレリアを始めとする一連の意見の流れに、彼は消極的ではなく積極的な賛成を示しており、実行すべきだと考えていることは間違いない。


 自分が陰で『お母さん』などと呼ばれていることは、流石にジゼも知っており、それはあまり喜べない事実だが、一面的にしろ自分に対する客観評価として、正しいとも思っている。

 どういうことかといえば、結構な世話焼きで割と保護欲が強い心配性だと、ジゼにも自覚があるのだ。

 それを悪いとは思っていないし、少しは抑えようかと思うことも有るが、それを含めて自分であるとも思っているため、早々治ることもないだろうと知っても居た。


 つまり、現状に対し自分が、保護欲故に少々冷静になりきれていないと自覚し……外部の反応から自身の軌道修正をし、自分が否定した意見を受け入れてのけたのである。


「その件に関しては、エイトの責任でユーレリアが纏めて。私も参加するから、詳細が決まったら教えて欲しい。

 それで、もうひとつの件についてなんだけど……」


 先程までとは違い、正直自分は関わりたくないと、はっきり声色に感情が漏れ出すジゼに、エイトが思わず吹き出して笑う。


「そこ、笑ってないで聞きなさい。姫様が冒険者つかってお手紙出しちゃった件ね、先ずこれを誰がどう処理すべきか……私とエイトで意見が分かれている、みんなはどう思ってる?」


 当事者で有るシルヴィとフェイは、流石にこの場には呼ばれておらず、ベルティータが誰に手紙を出したのかは、あまり知られていない為か、別に大局に影響ないでしょ?と言う空気が流れる。

 むしろ『アーヴンヘイムの大迷宮』に、普通に潜ろうとした事に比べれば、全く可愛らしい行為で、最初の件に比べてもどうでも良い感が拭えない。

 まぁそう言う反応になるわよねぇ、と苦っぽく笑ったジゼが、こーいこい、とベルティータを手招きし。

 なに?と、アルリールのもとからぴよぴよ飛んで来るベルティータを、膝の上に座らせて皆の方へ顔を向けさせる。


「姫様が日時と場所だけ書いたお手紙で、呼びつけた相手がバンブルなの。

 私はバンブルは『来ない』と思うから、指定場所には行かなくて良いと言う意見なんだけど

 エイトはきっとバンブルは、『一人で来る』から此方も大人数では行けない、って言う意見」


「バンブルって、あの頭のおかしい因業爺か?」


 アジーンが返した言葉に、今度はジゼが吹き出して笑う。


「戦闘狂の貴方が、なんで知ってるのかわからないけど、多分そのバンブルであってると思う。

 差出人の名前も無しで、時間と場所だけ書いた手紙を受け取って、あのバンブルがどうするか」


 きっと、時間の無駄だね、とか言って金勘定してるわあのジジィ


 過去に一度も、話して嫌な気分に『ならなかった事の無い』相手だけに、思わず口を突いて出たジゼらしからぬ独り言に、ベルティータが肩越しに振り返り、膝の上に座ったまま見上げた。


「方々から嫌われて、恨まれてるのくらい流石に自覚してるでしょ。相手の正体がわからない呼び出しに、疑り深いあの男が応じるとは思えないわ」


 おー、と感心した顔をして、ちまい手でぱちぱちと拍手するベルティータに、んんーっ?、と顔を寄せながらジゼがじっと目を覗き込む。

 大きな目の中で、金色の瞳の奥にある縦長の瞳孔……ナインが言うところの、にゃんこの目は、逸らされることなく真っ直ぐジゼを見つめ返し、パチクリと瞬きをした。


「姫様、何でお手紙出した相手がバンブルなの?」


 至近距離で見つめ合いながら、右へ左へ首を傾げ、こてんっと右へ首を倒したベルティータの頬を、ジゼが両手でわしっと挟む。


「さぁ?って、どう言うこと?バンブルに出したのは姫様じゃ無いの?」


 頬を挟まれひよこ口になったまま、わちゃわちゃぱたぱたとするが、顔が近すぎてジゼの視界に入っていない。


「白魔の姉ちゃん、ちび竜放してやんな。

 一番金持ちの商人に渡せって、そいつは言っただけだ。それで冒険者が選んだのが因業爺で、ちび竜が名指しした訳じゃねぇってよ」


 幸いな事に、直前にジゼと言葉を交わした相手が、新ベルティータ語をあっさり解読してのけた為、ベルティータのほっぺは無事解放される。


「つまりあの二人が、何か企んでるって訳ね」


 アジーンは渋い顔で『白薔薇の社』に近寄り、腕を伸ばしてジゼの膝の上からベルティータのちまい体を摘み上げ、周囲を一巡り見回してからポイっとグライフの方へ放り投げると。

 ちょっと散歩して来る、とだけ言い残し、背の翼を羽ばたかせながら地を蹴って、一気にギルドハウスの外周に巡らされた城壁を飛び越え、高速で離れていく。

 くるくると回転しながら、グライフの額に軟着陸したベルティータは、再びわちゃわちゃと何かを主張するが、それがアジーンへの非難でない事だけはわかった。


「一番じゃ無かったの?と姫様は言ってます」


「一番ですよ。あくまで冒険者の中で、ですが。ベルティータが望んでいたのは、ただの商人も含めたものでしたか?」


 当然のように翻訳するミリアの言葉を受け、答えて問いを重ねて返すアルリールに、ベルティータはぶんぶん首を振って見せる。

 なら良い仕事をしましたね彼らは、と手に持っていた杖を『収納』したアルリールはジゼに、だそうですよ、と視線をおくった。

 結局は姫様が原因だったか……と、ジゼは疲れた顔で肩を竦め。


「それで?商人に会ってなにするの?」


 わちゃわちゃぱたぱたが終わるまで、誰もが黙って見守り、終わると同時にミリアへと、全員の視線をスライドする。


「温泉卵売って果物買うの、って姫様言ってるんですけど……」


 グライフの額の上で、胸を張ってドヤドヤするベルティータに、場が静まり返り。




「あの、お姫様?まず温泉卵作るザルを売ってもらう、って発想に行かないのは何故?」




 シャトラのかなりズレたツッコミに、ベルティータは目をキラキラさせながら振り向き、天才だっ!と尊敬の眼差しを惜しみなく送る。

 まさか、そんなキラキラの目で見られる事に成るとは思いもしなかったシャトラは、何だか騙しているような罪悪感を覚えるも、否定しては傷つけてしまいそうで出来ず、座りの悪い気持ちに弱々しく微笑むしかなかった。


「これは、なんとしてもバンブルに来てもらわないといけないな……もう一度冒険者の二人に手紙を届けてもらおうか。大きいザルを売って欲しいから、会う時に持って来るようにって」


 エイトが肩を軽く竦めながら横目でジゼを伺うと、本日最大級のため息を漏らしたジゼが、ベルティータにちょっと困った様な顔を向け、姫様の望みだしね、と唇を綻ばせる。


「安心していいわよ姫様、魔法の言葉をエイトが知っているみたいだから。

 さすがに今回は止めないけど、まさか約束の時間には貴方一人でバンブルに会う、とは言わないでしょうね?」


「まさか、私がそれを望んでも、許してはくれないだろうね」


 エイトの言い回しに引っ掛りを覚え、音が出るほどの速さでジゼが振り向くと、コクコク頷くベルティータが、自分、エイト、ミリアを順に指さす。

 ぶんぶんと首を振ってジゼはそれを否定すると、アルリール、ライト、グライフと順に視線を巡らせ、それぞれ別の理由で却下し、最適な人物を思い出し強い目で真っ直ぐに見つめる。


「何があっても……姫様だけは、絶対……逃がして、見せるよ」


 バルダークとは、何度もPTを組んだことが有り、その黒魔術師としての実力も、プレイヤーとしての腕前も知っている。

 感情をあまり表に出さない為、何を考えているのか解らないと言われる事もあるが、彼の冷静な視点と判断でPT全滅の危機を回避したという経験もある。

 しかし、ジゼはこの時ほど、彼のぼそぼそしたしゃべりを、心強く感じたことはなかった。


 2017.10.06


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