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52.商品価値を調べてみよう

 面白い話を書こうと思って書いておりますが、一般的に面白いと思われるかどうか、投稿前はちょっと不安になります。


 読んでいただいた方に、何かを残せたなら嬉しい限りです。

 52.商品価値を調べてみよう


 ベルティータを間に、手を繋いで歩いていた三人だったが、次第に二人でベルティータを吊り上げて、ぶらんぶらんと前後にゆっくり揺らしながら歩き出し、それはベックマンの工房前にたどり着くまで続いた。


「お供を四匹も連れて、今度は何企んでるのかなうちのお姫様は。俺もそこに加わるんだろ?どうせ巻き込まれるなら、出来るだけ楽しい事に巻き込んでくれよ」


「なんかすっかり調教済み。ワイルドさの欠片も無いミノタウルスとか、ないわー」


「生まれた時から、上品さと華やかさの欠落した人形娘にだけは言われたくない。先入観と固定観念に縛られて、創造性豊かな作品が出来るのかグリム?」


 わちゃわちゃしようとしたベルティータだが、両手を封じられた状態では、脚を振るか羽根を動かすしか出来ず、シャトラを見上げて繋いだ手をくいくい引いた。


 別にベルティータは、ケンカを止めようとしているのではない……と言うより、ケンカを見つけるとてててっと近寄って行って、しゃがんで見物し始めるくらいに、誰かのケンカを見るのが好き(?)なのか、言い争いも殴り合いも未だ嘗て止めた事などない。

 しかし、じーっと見られている方は、えも言われぬ気不味さと気恥ずかしさのあまり冷静になってしまい、ベルティータ本人には止める気など全くないのだが、ケンカを止める名人だったりするのだ。

 第一、今目の前でグリムリープとベックマンがしているのは、ケンカでもなんでもなく少々荒っぽいながらも、彼らなりの普通の会話である。


「そうそう、要件を言わなきゃね。ザルが欲しいんだけど、あなたはつくれる?」


「ザル?ザルってあのザルか……素麺のせたり天ぷら載せたりする。そんなもん少なくとも作ったことはない、生産リストで見た覚えも無いな」


 メインメニューを開いて、生産スキルから生産可能リストを、スワイプで捲りながら確認していくも、やはりそんなものは無い。


「ウチのギルドに調理でもやってる奴が居れば、そっち方面の物も多少は作って覚えてるんだろうが、家具や窓枠、木製の武器、あとは少し変わったところで額縁なんかの生産ツリーばかりが進んでるんだ」


 言われてみれば確かに、工房の扉も、ギルドハウスの窓枠も、外とつなぐ跳ね橋も、すべてベックマン謹製である。

 木こりを自称するだけあってか、大きく頑丈な物をベックマンは作るのが得意で、頼む方も彼にお願いするのはその手の物の制作ばかりだ。

 今までそれだけ木工というものに対し、言い方が悪いが偏見と先入観があり、生産メンバーは自分の作る為に必要な素材加工という、割と細かな部分をベックマンに依頼し手伝ってもらっているが、その他のメンバー達は杖や弓でも使わぬ限り、何が出来るのかを『考えも』しなかったという事実が、たった今露呈したのである。




 そして、コレこそがライトが言っていた、『生産メンバーが作れなければ、どんなに欲しくても絶対に手に入らない』と言う状況なのだと、三人は思い知らされた。




 だが、彼らは『パラベラム』改め『ダーク・クラウン』のメンバーであり、最優先目標――いや、最早使命と言っていいそれは、『可能な限り、ベルティータ姫の希望を叶える』である。

 そうでなければ、攻勢をかけている敵の本拠地内にある最重要拠点に、ぶっつけ本番での夜間パラシュート降下作戦などやれはしない。

 そうでなければ、今まで築いてきたもの全てを投げ捨てて、行き先の見えぬ転生などという行為に、身投げするように飛び込んでなどいなかった。


「『緊急招集』っ!手すきの生産メンバーは、第三会議室に集合っ!」


 ギルドチャットでベックマンが、見かけに違わぬ野太い声で呼び掛けると同時にベルティータを小脇に抱え、大股でドスンドスンと重い足音を響かせながら、一階にある第三会議室へと走りだす。

 敏捷性がグリムリープやシャトラより高いわけではないが、角の分を含まなくとも二人よりはるかに大柄なため、歩幅が違うので移動速度はかなりなもの。

 むしろこのまま誰かとぶつかりでもしたら、相手は――運が良ければ跳ね飛ばし、運が悪ければ角で串刺し、と――大惨事に成ることうけ合いである。

 シャトラはその姿を見て、ラグビーを連想したが、グリムリープはもっと物騒で、牛追い祭りだー、と手を叩いて大受けしていた。


 四人と二匹がなだれ込んだ第三会議室には、流石にまだメンバーも碌におらず、オージェとエイトが居るだけだった。

 実質的なギルドマスターであるエイトが何故?などと考えるものは『ダーク・クラウン』には居ない、『緊急招集』等と言われればそれがどういった事態なのか、自身が動ける状態であるならエイトが必ず自分で確認するため、顔を出すのはわかりきっている。

 と言うより、ベルティータ関連の何かトラブルが起きたと確信して、逸早く駆けつけてくるだろうと皆が思っていて、まさにその通りに最初に駆けつけたということだ。


 少しずつ人数が集まって来るが、遠くに採集に行っていたり、PTプレイ中だったりと流石に全員が揃うことはない。生産メンバーと言っても、何もグリムリープやシャトラのように、『サブスキルがメイン』と豪語する変わり者ばかりではないのだ。

 近くにいるものや、或いは現在の作業を切り上げて向かって居るものを待つために、取り敢えず各自好きなように席に座っていく中、ベックマンに一番上座の席に座らされたベルティータは、近づいてくる一人の人物を見上げた。


「やあ姫様、今度はなにをお望みかな?ボクも手伝えることだといいんだけど。

 それはそうと、その角って宝石みたいに綺麗だけど、頭から生えてるんだよね?ちょっと見せてもらってもいいかな?」


 オージェは相変わらず超美形のくせに、力の抜けきった表情に似合いの声で挨拶しながら、誰も気にしなかった事に興味を示す。

 パラシュート降下作戦を共に行って以来、生産メンバー達も以前よりずっとベルティータに興味を向け、気さくに話しかけてくるように成った。

 ベルティータはといえば、角が上を向いて見やすいよう首を軽く傾げて、はいどーぞ、と元々誰に対しても無警戒である通り、突然変なことを言い出したオージェにもやっぱり無警戒だ。


 ちょっと失礼して、と断りながら首から下げたルーペを手に、オージェがベルティータの角に手で触れルーベですかし、爪で軽く叩いて観察していく。もっと別の言い方で事態を表現するのなら、オージェはベルティータの角を『鑑定』した。


「えっと、これちょっと、マズいかもしれないね……」


 言葉とは裏腹に、相変わらず力の抜けきった声であったが、エイトはその言葉に反応しオージェに鋭く視線を送ってくる。

 折り良くそこに現れたライトに声を掛け、構えたままのルーペを覗かせながら小声で、どう?と尋ねるオージェに、ライトが藪睨みの目を向けた。


「どう?って誰が見てもヤベェだろうがよ。陶芸スキルのオージェで解るレベルだぜ、宝飾スキルなんか持ってる奴が『鑑定』したら……控えめに言って気絶するんじゃねぇか?」


 ベルティータの傾げていた首を、優しい手つきで真っ直ぐに戻しながら、そうだよね、とライトのトンデモ発言を笑いもせずに同意した。

 そのままもちもちのほっぺを両手ではさみ、無意識でむにむにいじりながら、あげる唸り声もやはり力が抜けていて、どうにも緊迫感に欠ける。


「不安を煽る断片情報だけ出して、二人で納得して完結しないで、説明してくれないか」


 聞こえた部分だけでも、かなりな大問題だと不安を掻き立てられ周囲がざわめきだす中、実に何時もの通りどこか余裕のある笑みを浮かべたエイトが、落ち着いた声で二人に促す。

 二人は無言で視線を交わしたが、オージェのどう考えてもキミがするべきでしょ、という視線にライトがしぶしぶ口を開く。




「姫さん宝の山だわ、角とか超弩級のレア素材で――下手すると、神話級の武器だの装備だの作るのに使う素材だ――少なくとも宝飾の、伝承級アイテムの生産素材で見掛けた名前だ」




 オージェにほっぺをふにふにされたまま、そーなんだー、とまるっきり他人事な表情で見上げる平常運転のベルティータに、ライトが呆れた表情で首を振る。

 が、エイトはいつも通りの柔和な表情だと言うのに、見た事も無いほど張り詰めた目で、ベルティータを見つめていた。


『アーヴンヘイム』の主が……いや、竜の叡智は、悔しいが正しい。アレは忠告であり、警告だったのだ。


 これがベルティータ姫でなく、『ダーク・クラウン』でなければ、私はこんなに安心して眺めている事が出来なかった。


「最初から知ってました、てな顔だな?」


 鼻に思いっきり皺を寄せた、渋面を近寄せながら凄んでくるライトに、エイトは肩を竦めながらも目付きは変えずに、静かに言葉を漏らす。


「違ったら良いな、と思っていたんだ。

 黒竜の眼が、『真実を暴く鍵』に使われると『アーヴンヘイム』の主に言われ、姫を竜に変えたのも竜の眼を元に精製された宝珠で……彼には眼は三つしか残っていなかった」


「まぁ腐っても竜だからな、やれ血だ尻尾だ鱗だとどこを取っても高級素材……おい、おいおい、まて脱皮かなんかで再生しねぇのか?」


 普通に受け答えしていたライトが、突然狼狽えだす。


「そんなに簡単に再生するなら、クエストか何かで気の良い竜が分けてくれるなりしてるさ。そんなことになれば、伝承級だの神話級だのの素材がもっと出回って、みんなも欲しがらない……っ全幹部及び近衛騎士は、白薔薇の社へ集合っ」


 ベルティータをオージェの手から奪い去り、エイトが走ったのは扉ではなく窓。

 引き違いではなく外開きの窓を開け放ち、お姫様抱っこ……と言うよりは、首のまだ座っていない赤ん坊を抱くように、すっぽり腕の中に囲い込みながら、窓枠で踏切り目隠しの生垣を跳び越えた。

 珍しく少々焦りを表に出てているというのに、ベルティータはエイトの見事な跳躍に、無邪気にぱちぱちと手を叩いて、喜びと賞賛を届けている。


 エイトは、態々薔薇園に有る東屋の一つ、『白薔薇の社』を集合場所に指定した意味が、ベルティータに解らないとは思っていない。

 それどころか、先程の会話でライトが何に狼狽え何に気付いたのか、それも全て解っているだろうと信じていた。

 ……信じているからこそ、今腕の中で笑っているベルティータが、信じられない。


 ただ種族が、今まで敵だとされていた側に変わり、戦闘はPvPを強制され今までよりも手応えがある、少し変わった形でゲームに参加するだけ。

 例え『闇の王女』であるベルティータが倒されたとしても、レベル1のまま上がらない以上、経験値を失うわけでもなく、ペナルティーは何も無い。

 だからこそ、そこに自分達の姫を守る事、彼女の希望を叶える事を、ギルドの第一義に掲げ、ベルティータを守る『意味』をつけた。


 昨日までは、否……ほんのさっきまでは、誰もがそう思い込んでいた。


 だが、今齎された情報は、そんな根本を揺るがし崩壊させてしまったのだ。


 素材アイテムとして存在すると言うことは、ベルティータが誰かに倒された場所、確率はわからないが、ドロップする可能性があるという事で。

 切り離されてアイテムと化したなら、その部分は永続的に欠損する事となる可能性が、非常に高い。

 角など飾りだと最悪諦められるが、問題は『真実を暴く鍵』の素材でもある、『眼』だ。


 ベルティータが『アーヴンヘイム』の主から、宝珠を貰った際の主の口ぶりからして、他に幾らでも『眼』を核素材にして生み出せる、強力な装備がある……

 即ち、様々な生産リストの必要素材に『竜の眼』が上がって来るのか、それとも既に名前は上がっているのか、それを求めて冒険者が群がって来る未来は、決して考え過ぎではなく。

 戦闘が終われば切れた髪や髭は元の長さに成り、切り落とされた腕とて体力を回復させれば、元の通りくっついて不自由なく動くように成る。


 ゲームなのだから当然だ、誰もがそこには疑問を挟まず、『そういうもの』として認識していた。

 自分たちが今まで、敵を倒してきた際に牙や爪といった、ドロップアイテムを手に入れておきながら、敵側種族に転生しても、自分達には当然履行される『世界の理』だと、無邪気に信じて疑いもしなかったのだ。

 実際、『世界の理』として無事に履行され、ドロップしても欠損などしないかもしれない、だが試してみる気にはなれなかった。


 今までBABELの運営から、通常では考えられないような、デストラップもどきを仕掛けられてきた経験もさることながら。

 試して失うものが、角や牙ならまだしも眼、即ち『視覚』であった場合取り返しがつかない。


 単に自分が買いかぶりすぎて居るだけで、実は何も考えていないのかも知れない。

 髪は切っても短くならなかったのだから、他も大丈夫だと判断したのかもしれない。

 あるいは、そうなったらキャラクターを作りなおそうと、割りきって考えているのかもしれない。


 腕の中で無邪気に笑っているベルティータの顔を見て、そのどれもが違うと悟らされる。


 そこには打算も計算も何も無い、透明な無邪気さだけしか無く。

 ただただ、今この時を純粋に楽しんで笑っていて。

 険しい顔で皆が集まり、対策を練る為の集まりを……それが、自分の行動を制限するだろうと知りながらも。


 実に楽しそうに、上機嫌で声なき歌を歌っていた。


「楽しい……のですか?ベルティータ姫は」


 それを見た瞬間に、入りすぎていた肩の力がストンと抜け落ち、思わず誰が見ても解ることを、エイトは口に出して尋ねてしまう。

 この状況で何故?と、いう思いが口ではなく表情に出たのだろう、エイトの顔を見てコクコク頷いていたベルティータが、わちゃわちゃと身振り手振りしだす。

 どうやらエイトはアルリール側の人間だったらしく、ベルティータ語がほぼ理解できずに、微妙な表情を浮かべ首を傾げる。


 疑念がエイトの走る速度を緩め、おかげで追いついたイーとローが、ベルティータの腕の中へと跳び込むように収まった。

 それを抱えつつ、ちまい指を一本立ててから、人差し指をクロスさせ、ちまい両腕を目一杯横に広げてから、両手の指先を頭上でくっつけるように大きな丸を形作る。

 

「一人じゃつまらないけど、皆でやると面白い、と姫様はおっしゃってます」


 不意に肩口から声を掛けられて驚くエイトに、すみません、と謝罪とともに青白い人魂が、半透明の人の姿へと変化する。


「ギルドチャットを聞いて、飛んで戻ってきました。長々と御一人にさせてしまい、申し訳ありませんでした姫様」


 お辞儀するミリアの頭を、ちまい手をいっぱいに伸ばし、よしよしと撫でている所で、走ってきたライトが土煙とともに目の前で急制動を掛ける。


「空飛ぶウサギモドキに負けたかっ、直線じゃ負けねぇが入り組んだ細い道が今後の課題だなクソッ、窓が俺様が通れる幅さえありゃ負けなかったのによ。

 百合メイドちゃんも帰って来たか……まぁそうだよな、愛する姫様の一大事だから当然か」


 ライトの言葉にきょとんとした表情で――百合メイド呼びはもう否定するのを諦めて――姫様一大事何ですか?とベルティータに尋ねるミリアに、ベルティータはぶんぶんと首を振り、わちゃわちゃし始める。


「ふむふむ、成程。あ、私もそう思います」


 久しぶりにベルティータとゆっくり会えたせいか、ミリアがにこにこしっぱなしのまま、ベルティータ語を見て頷き、時々相槌を打っては楽しそうに笑う。

 完全に二人の世界に入り込みかけるのを、エイトとライトが必死になって引き戻し、此処には少なくとも後二人居るという事実を、苦労しながらなんとかミリアに認識させる。


「すみません、こんなに長く姫様と離れていた経験がなくて……えっとですね、今まで通りで良いんじゃない?って姫様言ってますけど?」


 半ば呆れ半ば怒ったエイト達が向ける、睨むような視線からベルティータを庇いつつ、ちょっと悪戯っぽく笑いながら、後ろでドヤドヤしているベルティータをちらっと伺う。


「だって、姫様ですよ?いろんな事を禁止したり制限しても、絶対予想の斜め上のことをして、想定外の事態を引き起こしてくれます。

 そもそも過保護過ぎる保護者じゃない人が、うちのギルドにまだ居るんですか?そんな集団の中心にいる姫様を、誰が倒せるっていうんです?」

 

 2017.10.05

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