47.使用上の注意には気をつけよう
連休中は昔の様に、毎日更新などという無茶が出来ましたが、書き溜め下書きともに無いので、流石に平日は無理でした。
キーボードに向かえる時間が取れればいいのですが、焦らずマイペースに進めていこうと思います。なので、休憩時間中に携帯から……
読んで頂けた方に、何かを残せたなら嬉しい限りです。
47.使用上の注意には気をつけよう
「どこから叱っていいか、正直解らないわ」
米噛みをおさえたジゼが、小さく首を振る。
当然といえば当然ながら、生産メンバー全員を含む今回の企みに関わった全員が、ジゼの前に正座させられていた。
月曜の夜、皆が仕事を終えて、大抵が食事や入浴まで終えて、昨日の興奮も冷めやらぬままに、話題さらってやったぜ!と、ドヤドヤしながらログインしてきた生産メンバ―達は、仁王立ちしたジゼに迎えられ。
あっ正座ですね、と言い訳をすることなく、既に正座している者達の列に並んで正座する。
心当たりしか無い上に、証拠写真がBABEL中の話題をさらっているのだ、言い訳も誤魔化しもしようがない。
開き直りでもしようものなら、お説教は三倍ぐらい長くなるのはわかりきっており、態々身を以て確認しようとするような勇者はいなかった。
何処の世界でも勇者は品薄で、処によっては外注や輸入に頼っているようだが、少なくともBABELには、勇者召喚魔法の存在は現在確認されておらず、海外サーバーからの移籍も現状許可されておらず。
……なにより今のジゼには、どんな勇者も勝てるとは思えなかった。
「まず発案者は誰?」
たった一言で、正座させられていた全員が左右を伺う、その挙動だけでジゼには直ぐに判った。
曲がりなりにも『パラベラム』の元サブマスターである、メンバーが周りを伺う理由が、誰かに罪を押し付けよう、などとしているのではない事くらいわかる。
私が行くから援護して、いやオレが犯人の方が説得力あるから任せろ、と無言で交わされる視線のやりとりから、誰かを庇おうとしていることをあっさり見抜き。
罪をかぶってまで、彼らが庇おうとする相手が誰なのか、と考えれば……まぁ一人しか居ない。
「もうわかったから、嘘の自白なんかしなくていいわ。それじゃスカイダイビングもどきで潜入しよう、って言い出したのは?」
「それがしだ、城壁を登るよりはその方がいいと……」「嘘ね、貴方が姫様にそんな事許す筈ないもの」
すかさず返答したグライフの自白を、即座に否定して跳ね除けるジゼ。
ある程度予想はしていたが、『大賢者』と呼ばれるグライフでさえ、ベルティータを説得し止めることが出来ないという事実に、目眩がする。
同時に、グライフがあえて自ら罪を被りに行った、ということが別の事実も教えてくれた。
……つまり、これも姫様の発案か。
ああ、だから最初にスクリーンショットを取られた後に、姫様が空に散歩へ行かなかったんだ。
おかしいと思ってたけど、そういう事……空を見上げて探されないように、か。
「空の散歩を我慢できるなら、こういう無茶の方を我慢してくれればいいのに」
ついつい恨めしげな口調で、愚痴が口を突いて出る。
ジゼとて、本当はお説教などしたくはないのだ、ゲームくらい好きに楽しくやりたいし、やらせてあげたい。
ゲームは現実ではないのだから、例えキャラクターが死んだとて、プレイヤーはなんともない。そんな大前提は、今更言われるまでもなくわかっている。
しかし、だからといって、いくら死んでも全然構わない、あははと笑って流せるわけではない。
如何にゲーム内でキャラクターに起きた事だといえど、目の前で危ないことをしていれば心配し慌てて止めるし、誰かに殺されたなら、こぞって仇討ちに行くだろう。それがVRの弊害だというなら、確かに弊害なのだとジゼも思う。
感情移入と臨場感が、文字通り仮想の現実として心に認識させ、ゲームだというのに『お遊び』にしたくないと心が反発してしまう。
ベルティータが拾われた『パラベラム』と言うギルドは、そういうスタンスの相手だけを、エイトが選別して集めた代物で、ギルドが『ダーク・クラウン』になったとてそれは変わらない。
故に今回の対三国攻勢に於いて、イルフィシア率いる『シャドー・ティアラ』に、戦果の面で大きく差を付けられたのだと、ジゼのみならず『ダーク・クラウン』の誰もがわかっている。
二つのギルドの差は明白、姫を戦場に出すか出さないか、たったそれだけのこと。
システマチックにみても、レベル1であるなら死んでも経験値的なペナルティはなく、ロストして困るような装備もない。
イルフィシアの性格からして自分からそう主張し、囮ないし『真実を暴く鍵』で敵陣形を崩すなどして、積極的に危険を自分へ集めただろうことは、容易に想像できる。
彼女は、皆の役に立つことで、自分の居場所を確認し安心する、そういう傾向の強い人物であるから。
『シャドー・ティアラ』はイルフィシアの提案を受け、数度の死をもってやり遂げたイルフィシアの活躍を、最大限活かしきる形で皆で奮起し、都市一つを陥落という大戦果を上げた。
しかし、仮に彼女が属するのが『ダーク・クラウン』で有ったなら、それは許されなかっただろう。
どちらが上だとか、正しいという話ではなく、二つのギルドは違うということであり。
ベルティータの所属しているギルドは、『ダーク・クラウン』なのだという話である。
「嬢の負けや、ごめんなさいしとき。
無茶してごめんなさいやないで?心配かけてごめんなさいや、そこ間違ったらアカンよ」
ゼフィリーに促され、素直に正座したまま、深々とベルティータが頭を下げる。
地面につくほど頭を下げたため、見えるのが広がったスカートの上に、波打つ銀髪とそこからちょびっと覗く角と、背中でぴよぴよ動くちまい羽根だけ。
本人が全く狙っていない為に、余計に質の悪いシリアス・デストロイヤーと化し、怒る気力をジゼの中から一掃するかに見えたが、その愛らしさが逆に、相手のためにも叱るべき事にはちゃんと叱る、とジゼの中の何かを刺激し奮い立たせてしまった。
「無茶をするなとは言わないけど、せめてする前に相談して。そうすれば対策も協力も出来て、危険も心配も減るんだから」
はいっ、と言えぬ代わりに元気に手を上げて、理解したことをジゼに示すと、もう立ってもいい?と視線で問い掛ける。
「最後に……誰がシルローエル姫の、下着を撮影しようなんて言ったの?
確かに姫様の命を狙わせた張本人だけど、年頃の女性の下着をそっくりな人形に着せて、全世界に向けて発信するなんて、悪趣味すぎてちょっと殺意が湧くんだけど」
これは庇われへんから、どうか嬢じゃありませんように、と言うゼフィリーの祈りが神に通じたのか、ジゼに視線を向けられたベルティータが、ぶんぶんと素直に首を振る。
正直、止めなかった時点で実行犯は全員同罪のような気もするが、少なくともジゼの中ではそうでは無かった為に、ベルティータは最悪の事態を回避しえた。
若く可愛いエルフのお姫様として、全NPC中トップの人気を誇っているシルローエル。
NPCでは無いが、偶然にもつい先日まで、ベルティータも同じカテゴリーに属していた。
今は晴れて竜っぽいなにか?となり――少なくとも『アーヴンヘイムの大迷宮』の主からは竜だと認められ――他プレイヤー達の認識も竜の幼女である為、ライバル視される事は今後ともないだろう。
確認しようもないが……竜への種族チェンジが転生扱いされるなら、もしかしたら『闇の女王の娘』という括りから、システム的には外れているかも知れない。
閑話休題、そんなシルローエルを対象とした話題で、一番大騒ぎさせるならと考えると、プレイヤーの大半が男性と言う、非公式ながらも信頼の置けるデータもある以上、確かに女性下着と言う着眼点は、戦略的には正しい選択と言えなくもない。
……言えなくもないのだが、一部を除いた女性キャラクターを、敵に回したのは間違いない。
それの何がまずいかと言えば、この手のネタに拒絶反応を起こす女性キャラクターは、周りに対する影響力が大きい可能性が高い事。
間違ってはいけないのが、女性プレイヤーでは無く『女性キャラクター』である点だ。
現実にキャラクターを操っている、プレイヤーの性別では無く、BABEL内で発言するキャラクターの性別は、プレイヤーの男女比の様に偏っていない。
彼女達は往々にして、人気のある女性NPCに否定的な意見は口に出さないが、人気NPCがなんらかの被害に遭うと、時に自分が攻撃されたかのように同情する事がある。
その上で、決まって攻撃者を『女性の敵』認定し、自身の影響下にある面々に、繰り返し自分なら耐えられないと伝え、仇を打とうと言い出すのだ。
今回の件で言えば、非難の向く先は間違いなく、ベルティータになる。
最近話題の中心になったため知名度は申し分なく、実行犯の中で唯一顔が知れ渡っており
更にはイベント導入にかかわるNPCだと思われているからだ。
標的とするのに、これほど都合のいい相手は早々居ない……
「グライフ、『大賢者』である貴方が、こんな愚かな事を計画したりはしないわよね?」
低く感情の起伏のない声は、平坦な雪原を走る地吹雪のように、冷たすぎて温かいと勘違いする類の代物。
「ベルティータ姫の名にかけて、誓っていうが、それがしではない」
最初にジゼがグライフに嫌疑をかけたのは、最も疑わしいと判断してではなく、可能性が低いとの信頼からである。
と同時に、グライフが自身の潔白を主張した事で、ベルティータの主張が嘘ではないと保証された。
疑っていた訳ではないが、簡単なところから潰して行きたかった、との思いが見える。
「姫様はもう立っていいわよ、でもなるべく心配させないでね」
立ち上がり、もう一度深々と頭を下げるベルティータに、ジゼは困ったような笑みを浮かべる。
わかっているのだ、ベルティータはいい子で、ちゃんと反省もできるし、謝れるのだが。
絶対次も無茶で無鉄砲なことをしでかし、本人にそれが無鉄砲だと自覚が無いため、事前に相談されることは、この先もないのだということも。
「グライフと親衛隊も、諦めずにこれからも努力はしてね」
「それは約束するが……」
なんとも言いにくそうな難しい顔をしたグライフに、親衛隊の一人が手を軽く上げ、言葉を引き継ぐ。
「俺達も努力はするが、正直止めるのが怖いんだよ。今回の件も危なっかしいのは確かだが、バルがへばりついてたし、最悪姫様だけなら逃がせると踏んでゴー掛けたんだ。
だが、ダメって言ったら、一人でのこのこ乗り込んで行くかも知れんだろ、ウチのお姫様は。
出る目がわかってる時に、勝負したいんだってのはわかってくれよな」
暗褐色の肌だというのに、一瞬にしてジゼの顔色が真っ青になるのが判った。
親衛隊の七人は口々に、ジゼの言ってることはよく分かるんだ、と慰めながらその場を離れていき。
グライフはジゼの顔を無言で伺っていたが、何も言うことなく小山のように大きな身体を伸ばしつつ、軽く身を揺すってベルティータの方へと歩み寄る。
「師匠、私も止めては居ませんが、言い出しても居ませんよ」
ベルティータの後ろ姿が、遠くに離れていくのを見て、そわそわしながらミリアが自己申告してくる。
それを見た正座組が、申し訳無さそうな顔をしながらも、今回の悪ノリを秘密にしていたのは悪かったが、姫様が生産メンバーで一番になろうと言ってくれたのが嬉しくて……と、次々に反省の言葉とともに、ジゼの前に出て謝罪の言葉を述べ、自分が発案者ではないと自己申告していく。
見る間に減っていく正座の列、最後まで残っていたのは以外な人物。
「あのねジゼ違うのよ?まずは落ち着いて聞いて。
私はシルローエル姫の下着を、全部くまさんパンツに入れ替えちゃうのはどう?と言っただけ」
「わたしはね、そっくりの人形とツーショットのスクリーンショットとって、実は裏でつながってるんじゃないの?っておもわせよーよ、としかいってないー」
「オレが言ったのは、王宮に乗り込んで『参上!』とか書いたら、平和的でいいんじゃないか?って言っただけなんだ、本当に」
シャトラ、チャプ、ベックマンの三人が、ジゼを取り囲んで、身の潔白を必死に説明する。
「三人共正座っ」
ざっと音を立て一瞬にして三人がその場で正座――内二人は正座なのか余人には解らないが――カチコチに緊張して、視線だけを動かしてジゼの顔を伺う。
「と言うことは、誰も計画はしていないけど、予定と違うことをしてしまったってこと?」
そうそう、と三人が首を激しく縦にふる。
アルリールもかくやという、冷たい目をジゼに向けられた瞬間、凍りついたように三人の首の動きが止まり、鳥肌立ち身を震わせながら、今度は目線を上げることなく俯く。
アラクネ、スライム、ミノタウロスに、恐れられ傅かれるダークエルフの姿は、どう見ても白魔術師には見えない。
「それなら、なんでそんな事になったのよ」
「空から凄い速度で落ちた恐怖と、そこから生還出来た興奮?」
「変なテンションになってたからかなー、やってやるぜーみたいな」
「なんかみんな変になってたからな、今思い返してみれば」
思い思いに口に出した言葉を統合するに、緊張状態からの解放で、逆方向に針が振りきれた暴走状態だった、ということらしい。
納得はしがたいが、実際掲示板に貼られたスクリーンショットも、普段の彼らよりは少々異常なハイテンションに見えたし、たしかに彼らは変わり者ではあるが、下品でも悪趣味でもない。
これはちょっと微妙に叱りづらく、落とし所が難しくなってきた。
三人の内、誰か一人が明確に悪いわけでもなく、代表格の人物がいるわけでもない。
どころか、話しを聞いていけば、悪意や計算では無くただの行き過ぎたイタズラ。
それもイタズラ慣れして居ないが故のやり過ぎで、予想外の行動を取った本人達自身も、何故あそこまでやったのかと問われて、明確な理由を説明出来ないでいる。
ん?これって……
「取り敢えず、異常な高揚感と、気持ちが大きくなってしまったが故の行動で、意思を持って最初からやろうと思っていた訳ではない、ということで合ってる?」
三人が揃って頷くのにジゼも頷き返し、一つ区切りのように大きく息を吐きだす。
ゆっくりと三人を見回し、米噛みを抑えて首を振る。
「これから一週間、歌占い、祝福を含む姫様との接触を禁止」
驚きと不満を持った表情の三人に、やっぱり、と言う表情を向け、肩を落とし更に深い溜息をつく。
「貴方達のそれは、急性ベルティータ姫分中毒よ。急速に仲良くなったせいで、姫様の無鉄砲な行動が当たり前と誤認識される様になってる、だけじゃなく自分の変な行動も制御できてない。
昔、『パラベラム』と言うギルドに……『氷の魔女』と恐れられた一人のキャラが居たのだけど、彼女が最初の犠牲者ね」
痛ましげな表情を浮かべ、在りし日のアルリールの姿を思い浮かべてでもいるかのように、何処か遠くへ視線を向ける。
「アルのは急性じゃ無くて、慢性じゃないか?」
ナインのツッコミに軽く肩を竦めながら、そうなんだけど空気読んでそこはスルーして、とさらりと切り返す。
まるで当然に存在する事象であるかの様な言葉の応酬をし、特にその部分に触れようとしない二人に、シャトラ達三人がようやく事態に追いつく。
少なくともジゼとナインの二人は、確かに何らかの影響が現実的に存在すると、信じているのがわかる。
それ故に、ジゼが下した異様ともいえる、一週間ベルティータとの接触禁止の判断が、決して冗談を言っている訳では無いのだと理解した。
論より証拠、彼らはアルリールが確かに以前とは変わり、とても『氷の魔女』などと呼ばれた女性と、同一人物とは思えない奇行を行うのを、嫌になる程見て来たのだ。
そして今、自分が周りからそう見える状態だと、指摘されている事実に震える。
「姫様は可愛いし、本当にいい子なんだけど……用法容量を間違えると、大変な事になるのよ」
ジゼの言葉に、顔を見合わせていた生産メンバー三人は、恐怖に少し引き攣った表情で一も二もなく頷き、言いつけ通りその後一週間ベルティータとの接触を絶ち。
八日目にシャトラが、可愛いんだからしょうがない!と猫っ可愛がりし始めた事で、慢性に罹患している事が発覚し。ジゼが天を仰が事になるのだが、それはまた別のお話し。
2017.09.20




