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46.大真面目にバカをしてみよう

 読後に題名の通りの内容だと、思ってもらえたら満足です。


 読んでいただいた方に、何かを残せたら嬉しい限りです。

 46.大真面目にバカをしてみよう


 『アーヴンヘイムの大迷宮』の主との会合を終え、例の石扉をくぐり仮のギルドハウスになっている闘技場へと戻ってきて、扉が閉まると同時にため息の合唱が流れでた。


「一番意外だったのが、ユーレリアが交渉を終えるまで、テーブルから離れなかったことかな」


 ナインの呟きに、エイトが横から軽く頭を小突く。


「彼女が居なかったらこんなに簡単に、交渉なんか終わらなかったんだぞ。流石、自分のギルドを纏めていたギルマス経験者だね、ユーレリアさんは」


「いえ、それ程でもありません。私はあくまでサポートしか出来ませんでしたから、矢面に立って交渉をなさった、エイトさんとグライフさんのお二人が居てこそです」


 眼鏡をわずかに押し上げ、柔らかな笑みを向けるユーレリア。


「すごい失礼なこと言うけど……いまこの場の半数は、お前誰だって思ったはずだ」


 残り半分は、この人笑えるんだって驚いてた、と言う言葉は流石にナインでも口に出さずに呑み込んだ。

 眉間にしわを寄せ鋭い視線で周りを見回すユーレリアと、視線を合わせようとする者は居らず、エイトが再び今度は少し強めにナインを小突く。


「いや、だってオレの記憶の中にあるユーレリアって、アルと怒鳴り合ってベルティータ取り合ってる姿以外ないし」

「アルファにしてやられたで、ってなんでこんなに此処におるんや?」


 まだ言いつのろうとする、ナインの言葉に被さり気味に、ゼフィリーがログインするなり、悔しそうな顔で吐き捨てる。

 取り敢えず、疑問の部分は置いておくことに決めたのか、一度深呼吸して気を取り直し、はっきりとした口調で言い放った。


「あいつら、直近の都市一個落としおった。心配の種やった資材も金もがっぽりよ」


 恐るべき戦果にざわめきがそこかしこで湧き上がり、空気が重く沈む中で、生産メンバー達の居る一角だけが毛色の違う反応を示す。

 都市占領したら資材が手に入るの?なにそれ良いなぁ、などと暢気に言い合っているのだ。

 確かに今回の三国攻勢競争において、生産メンバーはあまり楽しめない内容であった、とは言えギルド対抗の勝負で、相手に王手をかけられた様なこの状況を、どうにかしようと焦る戦闘系のメンバー達からすれば、その態度は不真面目或いは他人事と映るのも確か。


 不穏な空気と不和の種が蒔かれたのを、鋭く感じ取ったエイトがなにか言う前に、アルリールが大きくため息を付いた。


「また、私に同じことを言わせるバカなんですか?」


 底冷えのする声に、不穏な空気は一瞬で凍え、不和の種は芽吹く間もなく凍結する。


 最終結果が出ても居ない今、ギルド内で言い争ったりして、自滅の道を走る暇があるなら、誰かを非難する時間で、少しでもプラスになる方法を考えろ。

 結局負けだと諦めて、原因を押し付ける誰かを探し、負けを決定づけているのが、自分自身だと理解できないのか?

 何をすべきかわからないなら、すべき事を考え、それが見つかったなら動け、と言ったばかりなのに、また同じことを言われなければ動けないのか?


「バカなんでしょ、何で資材が必要なのか、少し考えればわかるでしょうに。なに?競争で負けたら終わりなの?今の状況が理想的だって本当にわからないバカなの?」


 アルリールとは、また違った視点で見ているユーレリアにも、やはり罵倒される。

 彼女は競争の勝敗ではなく、いまの状況と自身の置かれている盤面を見ていないのか?と、言い放ち。

 不快そうに鼻を鳴らして、相手の感情を価値の無いものとして、養豚場の豚を見る目で見回す。


「おー、オレの知ってるユーレリアっぽい」


 おだまりっ、と一喝してナインを黙らせ、クイッと眼鏡を押し上げ冷たく睥睨し。


「役に立たないなら、強制的に役立たせてあげてもいいんだけど?石材として」


 視線より更に冷たい言葉で、制圧する。

 資材を持ってくるのか、資材になるのか、選ぶ自由くらいはあげるわよ?と。

 『せいせきひょう』の『シャドー・ティアラ』の欄に、ぴよぴよ飛びながらナイフで縦棒を刻んでいたベルティータが、振り向いてこてんと首を傾げる。


 え?競争にも勝ちますけど?


 不思議そうな表情で傾げられる顔には、はっきりとそう書いてあるのが、皆には見て取れた。


 ☆ ☆ ☆


 夕飯落ちから復帰したプレイヤー達が、慣れない建築用素材を収集しに出掛けるのを、忙しそうに作業しながら横目で見送り、誰も居なくなった事を確認し、頷きあって生産メンバーが集合する。

 別にギルドメンバーにまで、秘密にする必要は全く無いのだが、特定の数人――主にギルドの幹部――にバレると、ベルティータの参加は止められる可能性が非常に高いので、やはり秘密にする必要はあるのだ。


 ベルティータ以外は皆、バルダークのような黒のローブをいそいそと着こみ、見るからに妖しい格好になる。

 それも、フードを頭からすっぽりと被り、顔すら深い陰の奥で見えない、徹底した不審者っぷり。

 準備したアイテムを、輪になった中心にそれぞれが無言で並べていく様は、誰がどう見ても、妖しい取引をしている犯罪組織か、良くて訳あり人物が集まった闇市。


 オージェがインベントリから一つづつ取り出すのは、素焼きの半球をくっつけて球にしたもの、それを一人二つ宛で配っていく。

 シャトラはちょっと小ぶりなリュックサック、一人一つ手渡していき、余った分は置いていくようだ。

 ベックマンは嵩張るため、物を目の前には置かずに、それぞれにトレードを申し込んで渡したのは、木製のはしご。

 グリムリープが床に並べたのは、シャトラと共同制作した鈎付ロープ。

 チャプが、自らの胸?をぽんぽん叩いて見せ、自分の分担は完璧だと請け負ってみせる。


 実行犯はどうやらこの五人だけで、周りを囲んで周辺警戒している他の生産メンバー達は、居残りのようだった。


 最後に皆が中央に手を差し伸べて重ね、顔を見合わせて頷きあい、バックアップ要員のライトに親指を立てて見せ、続々とグライフの背中に乗り込んでいく。

 もちろんベルティータはミリアとチャプを伴い、『バルダークの書』を抱えて、額のコクピットに乗り込む。

 ミリアがベルティータの合図を受けて、出発をグライフへと伝えると、巨竜は居残りの生産メンバーたちに見守られる中、力強い羽ばたきとともに大空へ舞い上がった。


「夜の上空は、やっぱりちょっと寒いわね」


 轟々と、耳元を過ぎる風が鳴り響くのにもようやく慣れてきた頃、革製の手袋をしていても指が冷気に侵食され、指先が氷のように冷たくなっていく。

 それが冷気からだけでなく、力を入れすぎて指先が白んでいる為でもあるのだが、それに気付ける冷静さを持つ者でも、それを皆に伝えられるだけの余裕はなかった。

 緊張から無言をひた守る面々を前に、シャトラは少し笑いながらそう言って、ローブを掻き合せるてみせる。


 両腕以外にも彼女には、しがみついておける脚が八本も有るため、他の面々よりは幾らか自由が効く……というだけでは足りないほどに、そこには心の余裕と周りへの気遣いがあった。

 上空より見下ろした地上は、僅かな明かりが点在するだけで、闇を湛えた海のよう。むしろ視線を上げて空を見上げたほうが、星明かりで明るいくらいだ。

 飲み込まれるような闇に、本能的恐怖を感じていたメンバー達は、一体どれ程の時間が経ったのかすら知れず、今がどの辺りなのかも解らない。


 だがグライフは一人心静かに空を翔け、遠くに見える光の密集地帯を見逃す筈がなく、目標からそれることなく迷わず一直線に突き進む。


「そろそろ高度を上げる故、しっかり捕まって落ちぬようにな」


 グライフの警告とともに、ぐんと高度を更に上げ、防寒のために顔に巻いたスカーフ越しに、吐く息も白くたなびき千切れ飛んでいく。

 一度光の密集地帯中央にある目標の、はるか上空を通り過ぎたことを、暗視持ちのオージェが視認しグライフに声を掛けた。


「ここっ、同じ速度で今の地点で交差するように、8の字描いて滑空でとんで」


「心得た」


「皆準備はいい?カウントダウンするよー、3、2、1、はいっ!」


 オージェのやや間の抜けた掛け声と共に、背中に張り付いていた四人に、ベルティータと共にコクビットに居た三人は、揃ってグライフから跳び下り、夜空を真っ逆さまに落ちていく。

 暴力的な空気の層をかき分けながら、ぐんぐんと速度を上げて地表に迫る四人の背で、濃紺のパラシュートが大きく開く。

 とは言えふわりふわりと浮かび上がるわけではなく、四人の体感では多少速度が落ちたか?程度で、地面へのズームアップ速度は、恐怖に身体を硬直させるに十分。


「うへぇー、こえー」


 ベックマンの口をついて出た軽口も、全員が共感できる程に実感がこもっており、声が少し震えていることを笑える者など一人も居ない。

 むしろ筋骨隆々で、如何にもマッチョなベックマンが言うことで、皆も恐怖を感じているのだと、場違いな安心感を呼び、硬直した身体と精神をほぐしたのだ。


「開いてなかったら、三倍くらい怖かったんじゃない?」


「ちゃんと開くわよ、テストで成功したのと同じように」


「え?失敗したのもあるってこと?」


 恐怖で引きつった表情での軽口が飛び交い、緊張でガチガチだった身体から、少しづつ入りすぎた力が抜けていく。

 オージェが地上を確認し、皆の進路を細かく指示修正しながら、初めてにしては見事な着地を決めた瞬間、パラシュートをインベントリに放り込む。

 他の三人も事前の打ち合わせ通り、同様に一瞬にしてパラシュートを消しさり、代わりに直ぐ様はしごを掛けて、目標地点を目指して登り始めた。


「姫様は無事?」


「もう着いてますよ、室内の安全も確保完了、扉も開かないように処置済みです」


 ミリアの明るい声に、ほっと安堵の吐息を漏らしたシャトラが、のんびりした口調とは裏腹な見事な技量で、いとも簡単に引っ掛けた鉤縄をするすると登り、開け放たれていた窓から部屋の中へ侵入する。


「どうチャプ、お目当ての物は見つかった?」


「まだー、一人じゃ時間掛かるー」


 ベルティータは、下手に触ると色々なものが爆発する可能性があり、ミリアは物を掴めず、バルダークは最悪の場合に備え、何時でも対応できるよう警戒している為、先行組四人の中で探索はチャプ一人で行っていたのだ。

 目当ての物がしまってある場所に、鍵などかかってはいないだろうが、念の為にピッキングツールを『取り出し』ながら、手当たり次第に引き出しを開け中を改め始めるシャトラ。

 シャトラが次の引き出しの列に取り掛かる頃になって、ようやく残りの三人がたどり着いた事を見ても、転生前に暗殺者であったアドバンテージか、蜘蛛の足によるアドバンテージは大きいようだ。

 グリムリープが、シャトラとは逆回りで室内を漁り始め、オージェとベックマンは、周辺警戒に加わる。


「残念って言っていいのか、ボクの用意した道具は使わずじまいか」


 オージェが両手に握った素焼きのボールを見下ろし、言葉の通りに少し残念そうな表情を浮かべる。

 どう見ても、それを使う状況はトラブルのあった場合なのだが、それでも生産者としては、折角だから使って役立てたい、と思ってしまうのは性なのだろう。

 それを聞き流したベックマンが、引き出しを開けまくっている女性陣を急かす。


「どうだ?まだか?」


「見つけた、うわーっ結構凄いなこれー」


 チャプが隙間から滲み出して来た引き出しをシャトラが開き、中に収まったお目当ての物を、引き出しごと引っ張りだしてくる。

 チャプは部屋の真ん中まで、身体を波打たせ水音を立てながら急いで這って進むと、そこへ『取り出し』たのが、人形。

 ただしぬいぐるみや、手に持つような小さな物ではなく、人間大の大きさで……妙に見たことが有る姿をした代物。


「どう?完璧でしょ?『1/1完全稼働シルローエル人形』」


 一糸まとわぬその人形に、たった今見つけた中でもとりわけ派手で、子供には見せられない様な下着をつけ終えると、あえて部屋の明かりをつけて、ポーズを取らせる。

 ベックマンに持ち上げられてみたり、ムチを持ったグリムリープに踏みつけられてみたり、チャプにまとわりつかれてみたり、シャトラに糸で縛られたり……ひと通りツーショットでスクリーンショットを撮り終える。

 最後は皆で一緒に、ものすごくいい笑顔で人形の周りに集まり、思い思いにポーズを決めた。


「はいチーズ……撤収ーっ、グリム他の下着は撒き散らして、ベックマンはすぐ明かり消して」


 床に耳をつけ周囲の様子を探り、まだ侵入が気付かれていないと知ったシャトラは、鉤縄で更に建造物の上へと上り。

 ベルティータにロープの先を持って飛び上がってもらい、グライフに低空でベルティータと、持っているロープの回収を個人チャットで伝える。


「ローブしっかり着込んで、スカーフも忘れないように、ハーネスにロープ縛ったの確認したわね?結構すごい衝撃で引っ張られるから多分」


 シャトラの注意が終わるか終わらないかと言うタイミングで、四人は膝を抱えるように座って構えていた塔の屋根から、ロープに引かれてすごい勢いで空中に引っこ抜かれ、エリュアリート王国の国境を超えるまで、延々グライフから伸びるロープの先で風に弄ばれ続けた。

 幸い如何にBABELと言えど、流石に風邪を引くことはなかったが、国境を越えて降り立った平原でも、かじかんだ手ではロープを解くことが出来ず。

 そんな状態では、当然吹き飛ばされ無いように、しがみついていることなど出来る筈もなく、仮のギルドハウスである闘技場へ到着するまで、4人一塊のままグライフに運ばれることになった……程度の被害以外何も被らず、作戦は大成功の内に終了した。


「あー疲れた、けど面白かった。たまには外にでるのもいいかもねぇ」


 工房から普段碌に出ず、ログイン時間はほぼ完全に鍛冶に費やす、実にグリムリープらしい感想に、彼女を笑えない実行犯メンバー達も思わず賛同した。

 留守番組だった生産メンバー達も、先程から頻りに乾杯を繰り返しての大宴会である。

 今回用意した物は、準備はしたが使わなかった物も含めて、その全てが鉤縄と同様に誰かの単独制作物ではない。


 梯子の脚にもステップ部分に、滑り止め用の素材が当てられていたりと、細かな細工がいたるところに成されていて、まさに生産メンバー全員参加の発表会のようなもの。

 それ故帰って来たばかりで、震えながらマグカップを抱えている実行犯達に、留守番組のほうが興奮している詰め寄り、実際の使用感を聞きながら酒盛りしているのだ。

 

「これで……しばらく、ギルドハウスに……かかりきりに、なれる」


 地面にだらしなく座る、黒ローブ姿のバルダークが、ホッとしたように漏らした言葉を拾い上げ。

 次はギルドハウスだ!と、さらに盛り上がる生産メンバー達に、ぽつりともらすグリムリープの言葉に、ベルティータを背中に乗せたライトが返す。


「ダンジョンの補強改修許可、主からでてるんだよねぇ実は」


「いっそ、トラップコンテストでもやったらいいんじゃねぇか?」


 ベルティータはと言えば、上空から飛び降りたり、上空へロープをもって飛び上がったり、完全に燃料切れでぐったりしているが、周りを見回す表情は満足そうに笑っている。

 何でもかんでもお祭りにしてしまおうという辺り、完全にいつもの悪ノリだが、止める者がない為にそこら中からあーだこーだと意見が飛び交い、どんどん収集がつかなくなっていく。

 どんどんエスカレートしていくそれを、苦笑い気味にしばらく眺めていたグリムリープだったが、ようやく手足の凍えが抜けてきたことで、よっと小さな掛け声と共に立ち上がる。


「アタシはそろそろ落ちるわ、さっきのスクリーンショットは、掲示板に貼り付けとくから。そんじゃ皆お疲れ様―」


 グリムリープに向かい、こちらはまだぐったりしたままにぎにぎして見せるベルティータに、笑ってにぎにぎし返しながらログアウトすると、DIAISから引き出した画像データを、無加工のまま掲示板に適当に貼り付け、それぞれに適当な題名をくっつけて満足し。

 BABELとは違い赤くはない髪をかきあげ、肩にタオルを引っ掛けて、ん~と軽く伸びをしながらバスルームへと入っていった。


「祝杯は、現実のお酒でしたいんだよねぇアタシは」


 シャワーの音に混じって聞こえる声は、とても楽しげに聞こえた。


 2017.09.18

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