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45.分析してみよう

 台風が来ているみたいですが、私のところは雨風もやんでしまって、逆に不安になるほどです。

 今回分量的には変わらないのですが、話の中の動き的にはあまりないので、次は少し動きのあるお話にできたらと思っております。


 読んでいただいた方に、何かを残せたら嬉しい限りです。

 45.分析してみよう


 巨大な石造りの扉を越えると、深淵の奥底に蹲る様な暗闇の空間だった。

 一瞬で目が慣れたのはベルティータとグライフだけ、流石は上位種、他の暗視能力より優れていると感心すべきか、実は暗視能力だと思っているそれは、別の能力なのではと疑うべきか。

 声を持たず、普段間接的ボディランゲージにより、他者とのコミュニケーションを取っているベルティータは、こうなると一気にポンコツ度合いを増す。


 どんなにわちゃわちゃしようが、見て読み取ってくれる相手がいなければ、一人暴れているだけでしかなく。唯一見えているグライフには、新ベルティータ語は未だ解読されていないため、唯でさえ稚拙で迂遠な意思疎通が、輪をかけて劣悪に成る。

 ナインとのことわざ関係のやりとりの際に、現状は誰にも極々簡単なジェスチャーしか通じないと悟ったベルティータは、ちまい指で自分の唇を押さえ、ぐるりと回りを指さしてから、両手の平を下に向け抑えるよう動かしてみせ、自分グライフの順に指さし二本建てた指を前方へと向けた。

 普段の大きな身振り手振りで、わちゃわちゃと雰囲気ごと伝えるような仕草ではなく、できるだけ簡単にゆっくりと示してみせたのである。


 この現状把握と状況への即応、何より最重要ポイントを見抜き、何処かから拾ってきたように、あっさり最適解を得て即断する様は、見かけ通りの幼児ではありえない。


 いやそれどころか、『大賢者』などと言われている自分などより、遥かにそう呼ばれるに相応しいように思える。


 だがそれがベルティータのほんの一面でしか無い上に、それ以外の面が非常にその……残念な感じで、幼く未熟にすぎる。


「それがしと姫で、まず主へ会いに行ってくる。状況が変わり次第逐一連絡をする故、皆その場に待機で頼む」


 ギルドメンバーが誰一人として、パニックを起こさなかったのは流石だが、闇の中に説明もなく放置されれば、そうなる危険性は跳ね上がるだろう。

 現状を把握しているものが居ると声をかけ、現在の問題を解決してくると告げることで――改善されるというヴィジョンを与え――安心を植え付け、信じることに思考を向けさせる。

 ぴっと伸ばした腕の先でちまい指が指し示す方へと、グライフはベルティータを乗せたまま、地響きとともに踏み出した、途端に重苦しいまでの闇が晴れ、全員が豪華な装飾に飾られた巨大な室内に、今いる事を理解した。


 乾いた拍手が背後から響き渡り、振り向いた先には、当然その場に居るに相応しい相手――『アーヴンヘイムの大迷宮』の主が人姿を、壁に寄り掛からせて立ち、口角を吊り上げベルティータを、静かに見上げている。


「やはりお前だけはわからん……が、素直にそういう存在なのだと理解することにする、思ったより早い再訪であったな竜の巫女姫」


 グライフの額の上で、ふんすっと腰に手を当て胸を張っるベルティータの姿に、声を殺し可笑しそうに笑う主の姿が、試されたと悟って感情を動かす皆の心から、毒気をさらっていく。

 同時に悟らされてしまったのだ、試されたのはベルティータただ一人で、上位種であるはずのグライフですら、まだ存在を認めるに足ると示せておらず。

 主の視界に入ってはいるが、写ってはいないのだと。


 わちゃわちゃと動くベルティータの横に、ミリアが人魂から姿を変えて現れ、何物をも見逃さぬ真剣な表情でじっとベルティータを見詰め、主に向き直ってわずかに言いよどむ。


「どうした?口にだすのを憚るほどの事を、巫女姫は言い出したのか?」


 主の言葉が心配しての物であるなどと、ミリアは誤解しなかった。

 表現力が増え伝わり難くなったそれを、翻訳できぬ状態でノコノコ来たのではないだろうな?と、威圧しているのだと正確に掴んでいたのだが、それでも数瞬唇は動くことを拒んだ。


「そういえば甘くなかったって、姫様が思い出しちゃって、文句いってます」


「はっ……そうか、ワシは非難されたか」


 破顔して喜ぶ主の姿に、わちゃわちゃと何かを主張し、グライフの額から元気良く飛び降りるや、ぴよぴよ竜らしき威厳も何も無い飛び姿で主の目の前に降り立つなり、手のひらを上にした右手を差し出す。

 当然ながら憑いてきたミリアは、すぐ横に立ち……非常に気まずそうな表情で、主の方を伺う。


「よい、流石にコレは誰でもわかる。そして巫女姫には、それをワシに要求する権利があるのだ。叶えるとワシは言ったが、叶えられなかったのだからな。

 巫女姫の付き人も、試すような真似をしたが、許せ」


 コクコクと頷くベルティータに、見守っていた誰もが驚愕した。

 抑えられて尚、圧倒的な存在感と絶対的な生命体としての格の違いに、初見ではない親衛隊を含むその場の全員が、完全に呑まれ指一本動かすことが出来ない。

 そんな相手を前に、約束したんだからくれ、とへっちゃらで手を出して要求しているのだ。


 『竜らしき何か』になった今でこそ、種族的な差はないのかもしれないが、レベルを含む圧倒的な戦闘力の差は、鼻息で吹き飛ばされた衝撃で死んでも、おかしいとは感じないほどに大きい。

 ましてや、前回交渉したり約束した時点では、ベルティータは『竜らしき何か』ですら無かったのだ。

 それはもう、強心臓だとか、怖いもの知らずとか、無鉄砲とかの言葉で納得していい範疇を、はるかに超えた何か。

 更には、まるでベルティータを見習うように、『アーヴンヘイムの主』を前にして、ミリアが当たり前のようにベルティータの言葉を通訳している事など、目前で起きている現実ながら、とても現実とは思えない。


 天然お騒がせ主従は、全くいつもの通りトラブルのタネをまき散らし、平常に暴走している。


「それがしはグライフ、ベルティータ姫の守護者にして、昼寝と悪戯の友にござる」


 誰もが動けぬ硬直した状況に、極々平然と言葉をはさみ、状況を動かしに行ったのは、やはり竜であるグライフ。

 竜であるから動けたのではなく、動けるからこそ竜たり得た。

 主の向ける三眼に倍する六眼を以って迎え、穏やかな表情を竜顔に浮かべながら、主の言葉を待つ。


「いいぞ、そなたもオモシロイ、まるっきり生まれながらの竜にしか見えぬ。人姿の法は未だ身に付けずと言うことは、魔術の使えぬ種でその巨体となれば前身は巨人か。総身に知恵の回らぬ暴虐敗欲の輩が、それを身に付けておる……巫女姫よ、そなたと同盟を組んだは正解であった」


 実に上機嫌に主に誘われ、長テーブルの席に皆が付いたところで、テーブルの中央に3Dフォログラムで『アーヴンヘイムの大迷宮』の全体像が映し出される。

 身を乗り出して足らず、背の羽根で浮き上がりながら、そーっと伸ばしたベルティータの手は、あっさりフォログラムに触れ、一瞬にしてちまい体は掻き消えた。


「【アポーツ】」


 主を除く全員が驚きから立ち直り騒ぎ出す前に、アルリールの短い一言により広げた右手の上にベルティータが現れ、すかさず隣のナインが掬い上げて身柄を確保し、ベルティータを膝に乗せて何事もなかったかのように、席に座り話を進めるよう手で促した。

 この中でベルティータと一番付き合いが長いのが、アルナイの二人である。

 真新しいものを見せられた時に、ベルティータがどう動くかなど、嫌になるほど見せつけられており、それによって引き起こされる不可解な現象になど、とうに耐性が出来ていた。


 更に付け加えるのであれば、アルリールとナインがコンビを組んで来た時間は、それよりもはるかに長く、相方がどう動き何処を自分にフォローして欲しいのかなど、目を合わせずとも当然伝わる。


「前に見た『妄執の書』といい、そこのダークエルフといい、随分と腕の良い魔術師を抱えているが、その二人が全員ではあるまい……世界でも征服するのか?」


 ぶんぶんと首を振り、わちゃわちゃと身振りするベルティータに、主とグライフの二人が吹き出し、ミリアが苦っぽく笑う。


「そうよな、そなたならそう言うであろうな、竜に昼寝の友としての役を与えるのだ、当然そう答えるであろうな」

 

「ベルティータ姫の言う通り、羽根を得たというのに、自分から地に縛り付けられる事ない」


 こてんと首を右に倒し、流れる銀の髪が明るい室内の光に輝く。


 今二人は、ミリアの翻訳を必要とせずに自分の意図を汲み取って見せた、YES・NOという単純な意思表示ではなく、その奥底の感情や理由までもだ。

 竜種故に補正がかかったとしてもおかしい、ほんのついさっきまで主もグライフも、新ベルティータ語どころか元のベルティータ語にすら対応できなかった。

 それが、もともとベルティータ語を理解できたミリアですら難解な新ベルティータ語を、この短時間でマスターするなどあり得ない。

 

「その通り、そなたの疑問は正しいぞ巫女姫、だがワシを見くびりすぎておる。ワシのやりようを見て即座に真似るコヤツのように……いや、小賢しくなられてはつまらん、何時迄もそのままでおれよ巫女姫。

 疑問の答えは付き人の表情よ、そなたの言葉が見えぬなら、見えるものの感情を読めば良い」


「巧者を見て技を盗むは後進の特権故、それより主殿は姫との約束を果たすか、目の前の見取り図の説明を、そろそろしてはいかがか?」


 グライフを、なかなかに食えぬ奴だと、認識を新たにした三眼で睨めつけ。今は空になっているベルティータの席の前へ、果物が山積みに成った大きな銀の皿を置き、ナインの膝の上に座るベルティータを手招きする。

 これで満足するか?と問えば、ぶんぶんと首を振られ隣にもう一皿追加すると、ぴよぴよテーブルの上を飛んで自分の席に戻り、追加の皿の分を全員に配って回り。

 一周して席についてから、主に手を合わせてお辞儀した後に、手掴みでもぐもぐしょりしょりし始める。


 無礼と非常識と気遣いと礼儀正しさが混在する作法、まさしく一人でカオスを生み出しながら、ベルティータは全く自覚なしに主を見やり、エイトをちまい指でぴっと差し示す。

 あっちの人と話してください、と実に平然と問題を丸投げし、一人果物の山に果敢に挑みかかる。


 ベルティータにしてみれば、ギルド全体が関わるような難しいことは、最初っから全部エイトに丸投げしているのだから、今回のことも当然エイトが処理する問題、程度の認識である。

 自分が勝手に考え動いて同盟を組んできただとか、同盟を組んだ相手が上位種であるドラゴンで、相手がベルティータ以外の相手の存在を認識しないほど、強大で絶対的な存在などと言うことは、ベルティータにとって見れば些細な問題どころか、問題として意識に上がってすらない。

 もっとも、延々と説明されたベルティータが、運良く理解しようとしたとして、理解したその上で気にするかといえば……誰に聞いても答えはNOなのだが。


「わかっておる、そなたと話し合うていては決まる物も決まらぬわ。

 それで巫女姫よりこの件に関し、全権を託されておるのは誰だ?」


「私です、前置きは無しで入りますが、どの程度我々には自由が許されるのか、その線引をまず指示して頂いて、その後に細かい部分での確認でお互いの理解のズレを修正する方向でいいですか?」


 ☆ ☆ ☆


 打ち合わせが大分進んだ頃、ベルティータが全ての果物を腹に収め終え、椅子の上から転がり落ちるように床に降り立った。

 言うまでもないだろうが、じっとしていることに退屈したのである。

 部屋の隅にある置物や、壁にかかる剣盾、高い天井より吊るされ輝くシャンデリアと、部屋の中はベルティータの冒険心をくすぐるものに溢れ、中でも一番は金銀財宝の山。


 確かに強力で強大なモンスターでなければ、築けぬ程の量と保管の無頓着さで有るため、今までギルドハウスの中のどの生産工房でも、こんな光景は見たことがない。

 輝く瞳に欲の色合いが全くなく、欲しい!ではなく、すごい!と興奮しているのは誰の目にも明らか。

 故に、主も近寄るのを止めず、てててっと走り寄るそのままの勢いでダイブし、崩れてくる金銀財宝にあっさり埋もれる姿に、三眼の巨竜にして『アーヴンヘイムの大迷宮』の主が、飲んでいたお茶を吹き出した。


「どわっ、しばらく見ない間に無鉄砲さが進化してたっ!」


 ナインが慌てて駆け寄り、財宝の山を掻き分けて、見つけた脚を掴んで力任せに引っこ抜く。

 上下逆さになったベルティータと真正面から視線が合い、そこに怖がったり驚いたりといった、負の感情の欠片も見つけられず、呆れるやら安堵するやらと複雑な感情が湧いてくる。

 

「ああいう時は一生懸命泳いで、宝物の山から浮かび上がらなきゃ」


 上下逆さに持ったまま上下に少し揺すって、ベルティータの髪や服に入り込んだ、金貨やら宝石やらを振るい落としたナインが、昔はよく擦りむいていた膝のあたりをしげしげと眺める。

 ぱかーんといい音をたてて後頭部を殴られ、それでもベルティータを離さなかったのは見事だが、杖で殴った相手はそんな賞賛など抱いてくれないだろう。


「いつまでガーターベルトを、視線で舐めまわしてるつもりですか、この変態ロリコン騎士」


 ベルティータ本人は、重力に引かれてスカートが捲れ、大胆に下着を露呈していることも、全く気にした風もない。

 どころか逆さ吊りでぶら下がっている状態に、自分から体を振ってむしろ、ゆらゆら揺れるのを楽しんでいる。


 だが、流石に周りの人間は、パンツ丸見えの逆さ吊り幼女を、何時迄もそのままの状態で放っておくのは、なんとも落ち着かない気分に成るのだ。

 アルリールは、ナインが本気でロリコンだと思っているわけではなく。周りの空気を読めと、たしなめたに過ぎない。

 もし本当にロリコンだと危険視していたのなら、今の一撃は杖などではなく魔法で、抵抗もさせずに消し飛ばしていただろうし、そもそも『ダーク・クラウン』に入る事を、絶対に許しはしなかっただろう。


「いや、昔はよく転んで膝擦りむいてたなと思ったら、なんだか胸に来るものが……あるかと思ったんだけど、ただ単に防御力上がっただけだと気付いてしまって、どんなオチをつけようか困ってた」


 ベルティータをそのまま肩車しようとすると、ぴよぴよと飛び立ち再び宝の山へ。

 今度は頂上付近に降り立つと、両手を伸ばして腹這いの姿勢ですべり降りてきて、ナインとアルリールも膝下くらいまで宝物に埋まる。

 

「なんかすごく楽しそうなんだが、オレがやったら流石にアレかな?」


「別に止めませんよ、本当にやったらスクリーンショット撮って、掲示板に貼り付けてやりますが」


「ていうか、アルは会議参加しなくていいの?俺の中ではギルドで一番の頭脳派だと思ってるんだけど」


 おや?と少し驚いたふりをし、ベルティータを拾い上げて、優しく宝物の山の方へ背を押し出す。


「何言ってるんですかナインさん、アルさんが姫様より会議を優先なんて、するわけ無いじゃないですか」


 青白い人魂に、反論も出来ぬほどの正論で突っ込まれ、まったくです、とアルリール本人にとどめを刺されては、両手を上げて降参するしかなかった。

 背後から聞こえる、ドロップアイテムの取り分だの、場内改造は計画書をだの、といった内容に、アルに采配させればあんなのすぐ終わると思うんだけどなぁ、という思いは今度は口に出さずそっと呑み込んだ。

 それじゃアルリールにやらせるよう、お前が説得しろなどと言われたら、ベルティータに泣きつく以外にナインに出来る事はなく。


「【アポーツ】」


 ベルティータの突然の行動に、冷静に即応できるのは、アルリール以上の者はいない訳だし……


 アルリールの右手の上に現れるベルティータを、やはり当然のように掴み留め、ナインは小さくため息をつく。

 ナイン自身が周りの皆から、アルリールの突発行動に、即応できるのはナインだけだから、と見られているから、席を立っているのを注意されていないのだ、ということには気付けずに。


 2017.09.17

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