44.再び話題をさらってみよう
なんにも考えていないようでいて、結構冷静な計算の上に導かれている……様に勘違いされているけど、やっぱり実はなんにも考えていない。
竜に変身したと言っても、角と羽根が生えただけの中途半端で、はやくも飛べないし、すぐバテて長くも飛べない。
相変わらずレベルは1のままで多分一生レベル1、言葉も喋れないし道具も持とうとすると爆発する、そんな何も出来ない幼女がベルティータです。
読んでいただいた方に、何かを残せたら嬉しい限りです。
44.再び話題をさらってみよう
親衛隊七人が身につける装備は、武器鎧装飾品に至るまで、現時点で手に入る最高性能の代物。
それがまるで親衛隊の制服ででもあるかのように、当たり前に全員が揃えているのは、彼らが朝の歌占いが流行る切っ掛けになった例の七人組で、付き合いも長く仲も良い為、全員分が取れるまで精力的に皆付き合い続けるからだ。
元々『パラベラム』の中でも珍しく、ロールプレイどころか、生産や謎解きすら排除した、純戦闘集団であった。
そんな彼らが『近衛騎士団設立』などという、頭の何処から捻り出して来たのかというほど、酔狂の塊のようなことを言い出してきた時は、エイトもジゼも言葉を失った物である。
今では転生し種族も揃え、それが不気味な外見の種族であるため、完全に邪神の巫女……いや、邪竜の巫女姫配下の怪物集団となっている。もっとも、中身は完全に孫を見守る老人であることは、転生前より何ら変わっていないのだが。
彼らより近衛騎士団の団長と目されているグライフは、未だ人化の術を覚えていない為に、今日も小山のような体を少々持て余しつつ、身を伏せてベルティータの滑り台役を仰せつかっている。
額から鼻先へのルートが角度的に丁度いいらしく、よじよじと不器用にボルダリングし、何度も飽きもせずに滑り降りるのを、少しくすぐったいのを我慢しつつ見守っている。
転がり落ちそうになっても、自前の羽根で飛ぶことが出来る……と頭では解っていながら、それでもミリアは相変わらずハラハラと、ベルティータの一挙手一投足を見守っていた。
はっきりと言えば、それは過剰な心配ではなく、ベルティータをよく知っている者の、当然な反応である。
ちょっと眼を離すと、なにかとんでもないことを平気でやろうとし、しかも本人は全く危機意識もないと来て、一度止められても思い出す度何度も繰り返すのだから、目を光らせてその度事前に阻止するより他はない。
ゼフィリーは、久しぶりに『アーヴンヘイムの大迷宮』から地上に出て来たせいもあり、泥だらけに煤だらけで放置していたのを、一応アンタも女なんだからっ、と何故かユーレリアに怒られ。
荒っぽくざぶざぶと頭から水を何杯も掛けられたうえに、火炎系の魔法をぶち込まれそうになったところで、それはそれで女がやる対処として間違ってますが?と、アルリールの冷たいツッコミに救われる。
「どうせ助けるんやったら、水かけられる前に助けてくれんかアル」
要望という体を借りた非難を投げかけるゼフィリーに、アルリールはいつも通りの全くもって冷静で、平坦な表情のまま。
「それでは見ている我々としては、面白くないので」
やはりいつも通りに、至極冷静な顔のまま、あっさりそう返してのけた。
黒ローブことバルダークは、そんな喧騒からは少し離れた場所で、仮の拠点である闘技場に帰ってくるなり、スライムのチャプとベックマン、シャトラ、グリムリープと言った生産メンバー達と、額を突き合わせるようにして話をしている。
「『アーヴンヘイム』には……魔法阻害エリアが、あったり……斜傾ベルトコンベアが、あったよ」
齎したのは見聞してきた新しい知識、それは現代知識とは違う側面で、生産メンバーに取っては非常に重要な情報である。
何故なら、BABELに有った以上、それはBABELで作り出すことが出来る、ということだから。
例としてあげるのなら、以前ギルドハウスに作った対侵入者用のサイレンも、こうして齎された情報から作られた、生産メンバーの開発品の一つである。
どういう物を作り、どんなスキルの組み合わせで、それを作り出すことが出来るのかを、わいわい意見を交わし合うこの瞬間が、一番楽しいと感じる生産メンバーも少なくない。
「それから……ギルドハウスの、候補地を……教えて、もらった」
この言葉がバルダークの口から出た瞬間、僅かに空気が引き締まり、周りの温度が少しだけ上がった。
ギルドハウスは、いわば生産メンバーの実力を発表するメインの場である。
実力の限界で生産可能な物を、工夫して組み合わせて……だけではなく、想像や希望を元に今までにないものを生み出し、皆で持ち寄ってひとつの形にする発表会なのだ。
見た目の綺麗さだけでは、長く使うギルドメンバーは誤魔化されてはくれない、機能性、実用性全てをクリアして尚一段上を、見せ付ける。
わざわざ見回すまでもなく、生産仲間達全員がやる気に漲った眼をしていることはわかった、そして自分自身が同じ表情を浮かべていることも。
「でも今は、例のアレを上手くやり遂げることに、集中するわよ」
シャトラの言葉に全員が、黙って頷きかえす、目には闘志を燃やしたままに。
昼食から帰って来たメンバー達が次々に姿を現し、さて午後もいっちょうやるかっ、と気合を入れなおした所に、エイトとジゼがナインを伴い姿を現した。
三人共野戦陣地に朝から出ずっぱりで、そこで昼食のログアウトを行ったのだから、闘技場に現れるわけがない。
アルリールやユーレリアのように、午後の戦闘再開までの短い時間を転移して、ベルティータを愛でに来る程には、常識を失っても居ない。
もしや野戦本陣を急襲されての死に戻りか!?と、その場全員がざわめくも、誰も汚れ一つ無い為に、どうやらそれも違うと直ぐに警戒も解かれた。
「どうも我々は冒険者の執念を、甘く見積もっていたようだよ」
切り出したのはエイト、なんとも言えないような微妙な表情を浮かべ、そこに無理に笑いを浮かべようとして失敗する。
口にした言葉と浮かべた表情に、見ていた者達皆の胸に不安の感情が芽吹いていくのをみて、エイトは軽く手を振りそれを否定した。
「ああ、そんな深刻な問題じゃない。だがまぁ、ある意味では非常に深刻ではあるのだが」
言いながら、ちらりと視線を送られたジゼが、此方もなんとも微妙な半笑いを浮かべる。
「姫様、また写されちゃったのよ、ブレスが当たる直前に。まぁ事故みたいなものだと思う、主の正体を探る為にスクリーンショットとるの、構えて入って来たのだろうけどね」
「竜の幼生体アーヴンヘイムにいた!ちょっと成長して羽生えてた!!って大騒ぎになってる。間違いなく次のイベントは『アーヴンヘイムの大迷宮』だって、完全に思い込んでるな、あれは」
ベルティータがわちゃわちゃと三人に向けて、身振り手振り羽根振りと、少しだけ表現豊かになった新ベルティータ語に、ミリアがついて行けずに上手く伝わらず。
もう一度ゆっくりと、わかりやすいように羽根は動かさず、わちゃわちゃとし始める。
「ギルドハウスが出来るまで、あっちにお引っ越しするのはダメなの?って姫様言ってますけど」
「ぜったいそう言うと思った、だからあんまり話したくなかったのよ。でも散歩中にでも見つかってつけられた挙句、此処に攻め込まれるより、あっちのほうが安全なのは確かなのよね実際」
久しぶりにゆっくりと会えたベルティータを、ジゼは思う存分撫でくりまわしながら、バルダークの方に顔を向ける。
何かを態々言葉にする必要がない程、ジゼが向けた視線の意味は明白。
新しいギルドハウスは、いつ頃できそう?
「現地を……調査してみないと……なんとも」
全くもって正論に、それはそうよね、と取り敢えず納得しつつ頷く。現地も見ずに返された答えなど、一体どれ程の意味があるのか。
同時に、ベルティータの見解にも納得してしまう。
確かに、闘技場という大人数がなだれ込んで来れる場所に、急場ごしらえの防護柵とバリケードを組んだ此処より、『アーヴンヘイムの大迷宮』の奥底に間借りしたほうが、安全に違いない。
しかし、全面的に賛同という訳でもない、少なくともジゼの最初の意見では、基本的には賛同できないと言うスタンスであった以上、問題点が有りひっかかっているのだ。
中層以下の攻略はまだされては居ないとは言え、今日も決死隊のようなPTが、満身創痍の状態でではあるが、最下層まで来ることだけは出来た。
ベルティータのスクリーンショットが、掲示板に貼り付けられていたため、それが想像でのフェイクではない事も証明され……
もしまた冒険者がたどり着いて、ベルティータが一人の時に鉢合わせでもしたら……
撫でくり回す手は無意識に力がつよまり、ベルティータの頭がぐるんぐるんと揺らされるも、難しい顔をしたまま考えに没頭するジゼは、気付かずに撫でくり続ける。
「……あ」
「それはいい案だが、個人的には採用したくない。とは言えギルドマスターはベルティータ姫なので、私には決定権はない、かな」
「いい加減心を読むのはやめて、それにそんな意見は無責任だわ。貴方は姫様が指名した実質的なギルドマスターなのよ、反対なら姫様をその立場から説得しなさい」
ジゼにピシャリと告げられるも、肩をすくめるだけで受け流すエイト、どちらも具体的には何も口に出しておらず、周りを置いてきぼりにした二人のやりとりを見て、夫婦漫才はそろそろエエから話し進めぇや、と突っ込むゼフィリーをジゼがきっと睨みつけつつも、少し冷静さを取り戻し思考と会話のギアを落とす。
ようやく撫でくる手が止まり解放されたベルティータは、いつもより数倍おぼつかない足取りで、ふらふらと漂うように歩いている所を、アルリールに抱き上げられ、真面目な表情のまま一度ぎゅーっと抱きしめられ、髪に顔を埋められ深呼吸された。
埋めていた銀の髪から顔を上げたアルリールが、顔を上げるなり周りを見回し、両手を打って乾いた音を響かせながら、自分に向いた目全てに向け、不満と苛立ちに似た感情を投げかける。
「貴方達は一体何をしているんですか?
現地調査をしなければ解らない?今直ぐに調査にどうぞ。
あっちのほうが安全なのは確か?ならば何を悩む必要があるのです。
解決法が有り、結論が出ている問題で、立ち止まって言葉遊びをしているバカは……一体何を言ってもらえば動くのですか?」
そこに居たのは、『パラベラム』を恐怖で規律の箍をはめていた、氷の魔女。
「全員野戦陣地より撤収、ただし陣地はそのままに、撤収を敵に悟らせないように。
ゼフィリーとリーヤは来てくれ、『アーヴンヘイムの主』のことを聞きたい。グライフも一緒に聞いておいてくれないか、交渉役は多分、私と君を姫は想定しているだろうから」
「生産メンバー……護衛に、アジーンを拾うから……三人選抜、ジゼも、来て」
弾かれたように動き出すエイトは、ギルドチャットで野戦陣地にいた全員へ、理由の説明もなしに撤収の指示を出し、直ぐ様引っ越しを決定事項として対策を練り始め。
バルダークの方は当然、ギルドハウス候補地の調査メンバーを絞りはじめる、不測の事態に対応できるようにアジ-ンとジゼを含めた、最小人数で必要最低限の調査が完了するように。
候補地に建てると決定してから、詳細な調査をすれば良いのであって、今は希望にそっているのか、ギルドハウス建設が可能かという前段階調査なので速さを優先。
「アタシは『アーヴンヘイムの大迷宮』の方に現調したいから、ギルドハウスの方は任せた」
「ちょっと提案が有んだけどよ、姫さんの安全向上の為の方法思いついたんだわ」
エイトの方へ向かうグリムリープとライトが、顔を見合わせ、ついてくんじゃねぇ、はぁ?ついてきたの馬のほうだよねぇ?、などと仲良く喧嘩しながら離れていくのを、見ている内に闘技場には次々とPT単位でメンバーが転移してくる。
だが、そんな気ぜわしい空気の中にあって、全く普段通りののんびりした空気が流れているのがその中心、ベルティータを抱き上げたアルリールだというのだから、周りからは多少非難がましい目を向けられるのは当然と言えた。
「冒険者の頃は、なんにも考えずに金稼いで、装備揃えてひたすら戦闘してるだけだったんだなぁ、って今は良く分かるよ」
にこやかに歩み寄ってくるなり、極自然に鎧を外した手で、ベルティータの髪を優しく撫で付けながら、ナインがベルティータのよく知るナインへと戻っていく。
此処数日、朝の祝福とログアウト前の挨拶以外では、ほとんど顔を合わせることもないほど、前線に出ずっぱりであったナインは、壁面に刻まれた『せいせきひょう』で――アルナイのコンビでではあるものの――アジーンに続く二位につけていた。
だがその対価で支払われたのが、ベルティータとの交流……そこで生み出される心の余裕であった、と柔らかみを見る間に増していく、ナインの表情を見た周りの者達は悟らざるをえない。
「その頃はその頃でたしかに楽しかったのは、否定しないんだけどね。でもいざこういう状況に放り込まれてみると、どうやって手伝えばいいのか悩むっていうか……なんかオレも始めようかな、編み物とか絵とか日曜大工とか」
「バカ9、もっと他に言うべきことがあるんじゃないですか?」
此方も、ベルティータのよく知るアルリールへと、いつの間にか戻っていたさっきまでの『氷の魔女』は、ベルティータのほっぺをぷにぷにつつきだすナインを、迷惑そうに見ながらも睨みはしなかった。
言うまでもない事ながら、ベルティータがそれを笑顔で受け入れていたためで、少しでも嫌がったり迷惑そうな表情を浮かべていれば、蹴り飛ばされていたことだろう。
「角と羽根も似合ってる、とっても可愛いよ姫様」
「いいですか、こういう恥ずかしいセリフを、恥ずかしげも言う男は要注意です。決して気を許してはいけませんよ」
「今オレに言うように仕向けたのアルだよね?え、オレってそういう扱い!?」
よしよしと、ちまい手で頭を撫で返して慰めるベルティータに、ナインが頬を緩ませ、まぁいいか、とあっさり引き下がる。
まるでそこまでが、打ち合わせ済みの一連のコントのように、周りから見られているのだが、それすらも今のナインにはどうでもよい事で、放っておけばそのうち『ウチの姫様が世界で一番かわいいに決まってる!』と叫びだしかねない程に、すっかり禁断症状のリバウンドでおかしな事に成っていた。
「何か今なら、エリュアリート落とせる気がするんだオレ」
「いいから貴方は少し落ち着きなさい、ベルティータ姫が望むなら、私は何時でも出来ますよその程度。それよりいつまで姫を二人で専有しているつもり?私だってガンバったんだから抱っこさせなさいよ」
ユーレリアの抗議の声に、親馬鹿三号も来た、と周りから楽しそうな笑い声が漏れ出るも、ユーレリアは全く気にせずアルリールを睨み。
しぶしぶ差し出されるベルティータを抱きしめて、歓声を上げるとともに頬ずりし始める。
「なんかユーレリアのイメージが変わった、っていうか崩壊した」
「そうですか?前からこんなでしたよ。よく思い出してご覧なさいバカ9、ベルティータに対する態度がなってないってだけで、闇の軍勢を纏める三老の一人を石にしたんですよこの女」
相変わらず誰に対しても口悪いなぁアルは、と呆れながらも、言われてみればとんでもないことをしでかしているのに、その事実に今はじめて気付く自分に驚いた。
敵性種族に転生し、何処にも属さない根無し草同然の立場に居たことが、予想よりはるかに精神的な重圧となってのしかかっていたのだと、改めて気付かされる。
誰も守ってくれない、何処にも逃げ込めない、という事がそれだけ自分から、冷静さを削ぎ落とす怖さを実感し……
「勘違いですよバカ9、ベルティータはそもそも、誰かに守ってもらうだの、逃げるだのという発想がないです。彼女はただ現状を笑って過ごすだけ……さすが私の嫁です」
暴走してベルティータの頬に、唇を押し付けようとするユーレリアの顔を、片手で掴んで押しのけながら、もう一方の手でベルティータをユーレリアの腕から開放する。
ぴよぴよ飛んで来て、自分の折り曲げた腕に座るベルティータに微笑みかけたナインは、転移してきてからチラチラと頻りに視線を送ってくる、ギルドメンバーたちの方へとベルティータをお披露目しに歩き出した。
「こういうのなんて言うんだっけ?毒を持って特を制す?あ、漁夫の利か」
ぱたぱた羽根を動かし、両手をぱくぱく動かすベルティータの仕草に、感心して耳を上下させるナインと、ぴこぴこぴよぴよ耳と羽根を上下させるベルティータを見て。
ベルティータが竜になった、と言う断片情報だけを聞き、様々な想像や妄想をしていたメンバーの心に浮かんだのは、全く同じ一つの言葉だった。
なんだ、角と羽根生えてるけど、いつも通りの姫様か。
2017.09.16




