39.常識を突破してみよう
取り急ぎ書ける時に頭のなかのお話を文章にしてしまおうと、勢い任せでやっているので。
拙い部分や打ち間違いなど、見直しつつ修正しつつ楽しんでおります。
読んでいただいた方に、何かを残せたら嬉しい限りです。
39.常識を突破してみよう
自称・近衛騎士達とグライフと言う、物理系ではほぼ最高戦力を残して、戦闘系のメンバーが軒並み出払ってしまった。
勿論アルリールは、最後までベルティータの元に残ることを希望していたが、最終的には『そこは正座姿を払拭するのに、嫁にいいとこ見せないと』と言う、ナインの説得に折れる形で同行することに成り。
ビューロー達元探索隊も、『たそがれの指輪』を貰い正式に『ダーク・クラウン』のメンバーとなって、今回は情報収集という形でではあるが、参加している。
ジゼも留守番組として残るつもりで居たのだが、転生後初の本格的戦闘――それも対プレイヤー戦闘に成る可能性が非常に高い――という何が起きるかわからない状況で、経験豊富な白魔術師が不参加を許される要因が一つもなく、当然連れて行かれることとなった。
戦闘系の主要メンバーで参加していないのは、今日はまだログインしていないゼフィリー位なものである。
そんな中でベルティータが何をしているかといえば、生産系メンバーが組み立てた、簡易工房が並ぶ一角を、目をキラキラさせながら見て回っていた。
簡素で何ら面白味もない外観の簡易工房である筈なのに、まるでお祭りの屋台を前にした子供そのものの姿で、興味深そうにいちいち覗きこんでは、屋台主の顔を伺い入ってもいいかどうかを、無言で問いかけるのだ。
完全に趣味の世界で、周りからの理解を求めていない者が多い生産系メンバーも、これには完全に骨抜きにされ、いちいち実演をしてみせたり作品や素材アイテムを並べて説明したりと、オーバーヒート寸前の歓迎ぶりである。
ベルティータはベルティータで、それら熱の入りすぎた説明を、時にコクコク頷きながら聞き入り、時には質問を――ミリアに通訳してもらいながら――投げかけ楽しんでいた。
「姫も一緒にやれればよかったのにね」
裁縫と革細工という、軽装系の装備を修理生産しているシャトラが、優しくベルティータの髪を撫でつけながら、つと漏らした。
一見ただの人間にしか見えないが、本来脚のあるべき腰から下が蜘蛛という、余り女性が選ばないであろう種族を趣味のために平然と選んでいる辺り、彼女もやはり元『パラベラム』のメンバーである。
おっとりとしていて柔らかい空気を身にまとっている為、信じがたいことながらこれでも元のJOBは暗殺者……と言ってもレベルはミリアと同じ程度の低レベルで、暗殺者を選んだ理由も『針を使うのに良いかなと思って』という筋金入りの裁縫職人ぷりもまた、ミリアと共通していた。
シャトラが言うとおり、ベルティータは戦闘系――武器、格闘、魔術etc――の一切を習得していなかったのみならず、サブスキルも軒並みダメ出しをされたのだ。
鍛冶ではハンマーが粉砕し、採掘ではピッケルが飛び散り、裁縫ではハサミも針も爆発、調理も当然すべての道具が破裂した、羽根ペンすらも以前四散したのだ、絵筆やパレットナイフなどもってのほか、手から放たれる『黒い雷』は容赦なくベルティータに無能力の肩書を押し付ける。
システムの裏や隠された抜け道などという物はなく、道具を手に取れないと言う前段階で、完全に詰みの状態……
撫で付けられた銀の髪を割って、長い耳がぴこっと跳ねる。
『取り出し』でベルティータが手の上に出したのが、以前身に纏っていた、ボロ布と大差ない状態のスモックの成れの果て。
表面にはベッタリと、血と訳の分からない液体を拭った小さな手形が描かれ、知らないものが見ればスプラッタ映画の小道具のようにも見える。
自身の初期装備であるそれを、気味悪がるシャトラに手渡して、わちゃわちゃとしだす。
「えーっと、何かしら。ミリアさんわかる?」
「えっとですね『それは前に着れたよ』だとおもいます」
「え?……あっ、でも加工が」
シャトラの表情が一瞬晴れるも、再び僅かに陰るのを見て、ベルティータがスカートをたくしあげ、伝説の剣を掲げる勇者のように、例のナイフを抜き放つ。
「『これなら切れる、と思う』って姫様言ってます」
呪われ装備を、呪われ装備で切って素材に変え、加工し新たな呪われ装備を作り出す。
実に馬鹿馬鹿しい発想で、他に需要が全くないが、今この場ではこの上なく開明的な発想のブレイクスルー。
シャトラが見る間にやる気になって、ボロ布にチョークで線を引き、その線にしたがってベルティータが、たどたどしく危なっかしい手つきのナイフで、所々書かれた線をはみ出しながらもボロ布を解体していく。
壁を突破した発想というものは、得てして予想外に連鎖する。
続く一歩目は、大きくはないが……確かな前進。
なにも解体できる呪われ装備は、『ベルティータが持っていた初期装備』に限定されないのではないか?
「姫、こっちの呪われ装備も切ってもらえる?」
シャトラが別の呪われ装備らしきドレスを『取り出し』、こことここね、と指で線を引き、ベルティータは言われた通りに切っていく。
一緒にやるというのは、何も二人で同じことをするだけではない。
お互いができる事を持ち寄り、二人でひとつの成果を生み出すこともまた、一緒にやるなのである。
それを集まって見守っていた周りの生産系のメンバーが、同調連鎖していく。
これもこれもと山積みにされていく呪われ装備は、布地だけではなかった。
ベルティータが持っているのは、神話に出てくるような伝承級の魔剣である。
『金属の鎧を、バターのように切り裂く』事も出来る、などと描写されるそれを、ベルティータは戦闘時の武器としてはつかえないが――
動かない呪われアイテムを『バターのように』解体することは、可能なのではないか?
自称・侍女であるメイドのミリア程ではないが、生産系メンバーはメインJOBの冒険者レベルを上げることに、重点を置いていない者が多い。
その為、今回の『エリュアリート王国に対する攻勢』という、ベルティータが企画したお祭り騒ぎには、直接的に参加出来ない者が多数である。
何しろ相手は、ベルティータとグライフがやらかしたために、完全に警戒しているのだ。そこへ何かを仕掛けるには、相手の虚を突く方法か、正面から凌駕する実力が不可欠。
表には出さないが、戦闘系を羨み鬱屈してい無いとは言い切れない。
そんなところへ、ベルティータの気まぐれな思いつきによりる新発見が投げ込まれたのだ。
結果、生産系メンバーが一気に興奮に沸き、戦闘系に負けぬお祭騒ぎを始めるのは、自然な流れと言えた。
何かとんでもなく凄い、世界を一新するほどの技術ではない。
今までより良い物を作れるように成るわけでもない。
ただ、突き当りだと思っていた壁に、小さな隠し部屋を見つけた様な――
喩えるならそう、屋根裏部屋を見つけた時のようなわくわく感を、彼らは感じていた。
「出来た、まずはそのままで付けられる小物にしたの、姫ちょっと後ろを向いてね」
細くやわらかな指で髪をくしけずられ、もういいわよ、と言われ振り向いたベルティータの前には、構えられた少し大きめの手鏡。
「レースをあしらった黒のおリボン、銀の髪にぴったりだったわ。次はボンネット?ヘッドドレス?創作意欲が掻き立てられるわぁ」
早速新作の作成に取り掛かろうとするシャトラの裾を摘み、ベルティータは深々とお辞儀を一つ。
それに微笑み返し、こちらこそ、とシャトラも深々とお辞儀を返し、お互い顔を見合わせて笑う。
と、そこでベルティータが再びわちゃわちゃしだし、今度は何を言い出すのだろうと、生産系メンバー全員が期待のこもった目で見守る。
実際ただの思いつきだったとはいえ、ベルティータは凄いことをやるという、結果が認められた為に誰も軽くは見ていない。
ベルティータが動きを止めると、全員の真剣な眼がそのままミリアの方へとスライドして向けられる。
そこには、今度は一体なんだろうという期待が、ベルティータに対する好意の眼差しと共に集まっていた。
「皆さんに幾つか作ってほしいものが有るって言ってます。
で、今回のお祭り、ここのみんなで一番を取りに行こうって……」
絶句するミリアを他所に、ベルティータは銀の髪とリボンを揺らし、くるりと背後を振り返ると。
背後に並んで此方を見ている、保護者の皆さん八人に、ぴょんぴょん跳ねて、こっちに来て、と精一杯のアピールをし始めた。
「……此処の……みんなで?」
困惑を隠し切れないシャトラの声と言葉は、その場の全員の思いを代表していた。
☆ ☆ ☆
ベルティータが考えていたのとは違い、戦闘系メンバーの大半は一丸となって行動していた。
エイトが野戦指揮陣地を構築し、昨日に引き続き現在は情報収集をメインとして、『ダーク・クラウン』としての派手な動きはあまりない。
精々がところ、アジーンが王都の城門に穴を開けてきたくらいなものだ。
引き続き今日も出かける戦闘系メンバーを、祝福し送り出したベルティータは、未だ寂しい『せいせきひょう』を見上げてしきりに首をひねっている。
「ジゼが良く『姫様は無鉄砲なのよ』って愚痴っていたのが、良くわかったわ」
嘆きながらも何処か楽しそうなシャトラに、そう?と無言で問いかけるベルティータ。
本人的には今説明し終えた思いつきも、昨日の思いつきと何ら変わらないレベルなのだが、何故か両者に対する周りの反応が、百八十度違うことを不思議がっていた。
「そこで自覚がないのが、まぁ姫様のいいところだよねぇ。今だから言うけど、『真実を暴く鍵』を拾ってきた時なんか、ギルドハウス倒壊させかけたからね。それに比べれば、今回は可愛いものかなぁ」
グリムリープの暴露に、生産系メンバー全員にぎょっとした顔で見つめられ、ベルティータは何故かしきりに照れまくる。
相変わらずピントがずれているというか、違う常識で生きているというか……予想外の反応と行動を見せるのだが、いかんせんそこには計算も含みもない天然で、誰も無理に矯正しようとか正そうとはせず。
その見た目も一役買って、自然と保護者目線で見守る位置に行ってしまう。
「無鉄砲というのなら、ユーレリアさん襲撃の時です。ナインさんがキャッチ失敗したら、姫様は最悪頭から落ちてたんですよ」
「いやいや、それを言うなら昨日も、それがしの背から大空に向かい飛び立ったばかりだ。さすがにアレには肝が冷えた」
相手を保護者目線にしてしまうという特性は、なにをしても大丈夫な無敵防御――最強の免罪符かと思われたが、やはりそんなに都合のいものは無く。
こうして一旦暴露大会が始まってしまうと、久しぶりに会った親戚状態で、どこまでも過去の出来事を掘り下げられてしまう。
幸いにしてベルティータ本人が、それら過去の出来事も特にやらかした自覚がなく、そんなこともあったねー、程度で笑っている為に深刻な問題にはならないのだが。
これが反抗期を迎えたばかりに勃発でもしようものなら、言った方にも言われた方にも精神的しこりに成る――そんな事故が起こる可能性は、存外低くはない諸刃の剣でも有る。
「さて、姫いじりはこのくらいで切り上げて、私は試作品が出来たから午後にはテストするつもりです。『宇宙兄弟』も読んだわ」
「こっちも試作品は出来た。ただし、ひとつはテストも終了しているけど、もうひとつの方はここでテストしたら大惨事だからね、午後にでも外部に出てテストしてくるつもりだ」
応えたのは、普段各種ポーションなどの消耗品を一手に引き受けている調合師のベックマン、ただしそっちは本人曰くただの趣味で、本業は木こりだと言いはっている。
ちなみにベルティータが以前贈られた、豪華な椅子の木工部分は、彼がつくっっていたりする。
転生後に選んだ種族はミノタウロスで、見るからに歴戦の強者感が漂っており、両手斧のスキルは多分『ダーク・クラウン』随一だろうが、『斧で敵を切る?冗談じゃないっ』と以前答えたこともある通り、振るわれるのは敵にではなく大木だけである。
「あたしはノルマ全部完了、良い出来だよ。それとは別に、姫のお散歩用具の制作に取り掛かってるところだねぇ」
「ボクももう納品終わったし、グリムと協力してお散歩用具に取り掛かってる。陶芸スキルでこんなの作れるとは思わなかったけど、結構面白いよ」
グリムリープは言わずと知れた人形娘、その肩に手をおいた自称・陶芸家のオージェは、美形ぞろいの中でも取分け美形のダークエルフだが、頭には手ぬぐいを巻いたツナギ姿と、グリムと並ぶと非常に残念感が拭えない残念美形コンビで、ベルティータのお散歩用に何かを手がけるほど余裕が有るらしい。
「ごめんね、私はまだお散歩用具の方まで手が回らなくて」
シャトラが申し訳無さそうな表情で微かに笑みを向けると、グリムとオージェは実に二人らしく、だいじょーぶー、と緩い表情で手をシャトラにむけニギニギと合図してみせる。
現状報告を行いあう集団とは少し離れた場所には、車座になって顔を突き合わせている別の集団がいて、此方もその装備を見るに中心にいるのは生産メンバーらしいのだが、その中にはグライフの姿も有る。
「姫のイメージは……白、なので……日当たり、良くないと、ね」
黒ローブをすっぽり被って、独特のぼそぼそと話しながら、何故か不思議と聞き取りにくくはないという妙なスキルの持ち主は、この間アジーンと普通に話していた例の黒ローブ。
相変わらず豪華な装丁の大きな本を、胸に抱えるようにして持っているが、それを持つ手は勿論のこと表情どころか顔も全く見えず、未だに彼の種族を知るものはない。
では何故性別がわかるのかといえば、皆元の姿を知っているからというだけのことである。
「だがそれは即ち、外敵に攻めこまれやすいということに成る」
「それは、ダメだね……なので、彼に……ヘルプをだそうと、おもってる」
「彼とは?」
問い返しながらもグライフの頭には、すでに数人の候補が浮かんでおり。
黒ローブは僅かにそのフードを揺らし頷いた。
「流石に、ジゼは……引っ張れない、から……ライトに協力を、お願いすることに、するよ」
「そこは上手くやってくれ、逆にあちらに引っ張られぬようになバルダーク」
で、ベルティータが居る例の『せいせきひょう』の周りには、当然のことながら親衛隊の七騎がおり、内の一人がベルティータを肩車をしている。
書いたのが『ナインに肩車をされながら』だったために、どんなに背伸びしようが当然届かず。
踏み台になりそうな空き箱を、ズルズル引き摺ってきて大きさ順にならべ、即席の階段を作ったところで止められた。
何も言わず黙って見守った未来に、ベルティータが無事に作業を終えて、そこから降りてくるビジョンが、誰にも全く浮かばなかったのだ。
厳正な勝負の結果、肩車をする栄誉を勝ち取った者は、幸いな事にナインとそれほど背格好が変わらなかったため、屈んだり逆に背伸びしたりすることなく、ベルティータは『せいせきひょう』に書き込んでいく。
「ガドヴェックが百人斬りやらかして、その地に固有の名称が付いたのと……それとコンボでネクロマンサーが斬られた百人を操ってて、その話題が今一番注目されてる。
操られてる百人が、死体を操られてるから死に戻りも出来ず、何も出来ないって運営に抗議したらしいんだが、当然運営からの返事はなし」
「三老のところは逆で、防戦にてんやわんやで攻勢どころじゃないっぽい。
グライフがエリュアリートの建設中だった砦潰したのが効いてるのか、攻めてきてるのは方向的に、他の二国からのクエスト受けた冒険者っぽい」
「それに比べると、うちはアジーンが城門に穴開けただけマシかもしれない……しばらくは情報収集みたいだし、姫様とグライフの初撃が効いてエリュアリートは守り固めてるし」
アジーンのデフォルメキャラの上に、ちーっと真直ぐ線を刻み、取り敢えずそれ以上使用の予定がないことを悟って、ベルティータがナイフをしまう。
そのままぐるりと周りを見回して、首を左右に傾け、何かに納得したのかポンッと手を打ち、再び右へ左へと首を傾げだす。
ピコンッと銀の髪を持ち上げるように、勢い良く跳ね上がった長い耳。
それは、とんでもないことか、ろくでもないこと、どちらかを思いついた時の動きだと、見ている者達もすでに学習しているが……それを止める術もまたないのだと、すでに学んでいた。
2017.09.06




