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36.ダメ出ししてみよう

 時間がとれたので、集中してキーボードで打ち込みできました。

 今回はベルティータより周りにカメラが向いている感じですが、主人公なのだからもう少しベルティータを書いてあげたかったなと思ったりしています。

 読んでいただいた方に、何がしかを残せたとしたら嬉しい限りです。

 36.ダメ出ししてみよう


 『ダーク・クラウン』の面々がふやけた表情で見守る中、聞こえてきたたった一つの失笑が、折角緩んだ空気を完全に凍結させる。


 そこには嘲笑があった。

 そこには悪意があった。

 底には嫌悪があった。


 しかし、触れなば死する程の禍き気が、それ以上悪化するのを抑えたのもまた、『ダーク・クラウン』外の者の姿。

 剣の柄に手をかけて殺気立ち、噛みあわせた剥き出しの歯の間から、軋みこ削げ取るような音を出しつつ、失笑を漏らした相手を狂気を孕んだ目で睨みつける、ビューローを頭とした探索隊の面々は、控えめに評しても主の命が下るのを必死に耐えて唸り待つ猟犬そのもの。

 一声、主より許しが出たならば、勇んで獲物の喉笛を喰い破って主の前に取って帰り、目の前の床に並べるだろう。


 彼らは文字通り命がけで先代女王の遺児を探し出し、敵対する勢力領内より救出して来たのだ。

 言うまでもないが、世界の半分を統べる女王の遺児の探索を、彼らたった六人で行ったわけでなく。

 決死の覚悟で探索に出た者達が、王女発見の報が入りながら集まらぬ事など無い。


 ――つまりは、そういう事なのだ。


 全てを掛けた献身、絶望を打ち払う献心、そんな多くの犠牲の上に成功した救出。

 いざ連れ帰って見れば、重臣たちによる王女に対する無礼極まりない態度の連続。

 挙句の果てに、嘲笑われたのだ。


 勿論言うまでも無い事ながら、『ダーク・クラウン』のメンツが空気の悪化に貢献しなかったわけではない、中でも最大限に貢献しているのがアルリールである。

 彼女は睨み殺さんばかりの目を三老に向けていたが、視線を向ける対象はビューローとは異なった。


 ああも素直に敵対的な態度を取る二人など――別段警戒する必要を感じず、早々に無能者として――アルリールの中ではその他大勢に分類されてしまった。

 例え何かを仕出かすにしても、直接的な手段を取ってくるであろうし、そんな物に訴えられても正直な所、怖くもなんともない。

 何しろ、上手に隠して秘密裏に工作をする程の知性がない、と態々相手が自己紹介してくれたのだから、なにか行動を相手が起こした時点で対処は充分なんとでも成る。


 つまり、アルリールが睨んでいるのは、今も言葉を発さずにいる最後の一人が、何をしてくるのかを警戒して。

 或いは、バカ二人を黙らせず放置している相手に、はやく何とかしろと不快感を示しているのだ。


「何やら期待されているようだ。王女殿下が女王の座を継がずとも、我等三人で現状程度の維持は可能だと言うことは示せたと思う。なので、王女殿下は無理に神輿として担ぎ上げられず、自由になさっても良い」


 いきなりの直球で相手はベルティータに、人形として闇の軍勢の神輿役などしなくて良いと提案してきた。

 神輿など無くとも――ここまで三国との対立構造が出来上がれば――自分たちだけで現状維持は可能である。

 即ち『貴女の演るべき仕事は此処にはもう無い』と、言葉を投げかけてきたのだ。


 その上で、闇の女王の忘れ形見を、世界の半分を支配する側が探した意味を考えると、答えは見えてくる……嫌になるほど、ありありと。


 視界の端でビューローが気の毒になるほど剣の柄を握りしめ、全身を大きく震わせているのを認めながら、アルリールは態度を崩さず淡々と言葉を相手に向けて言い放つ。


「つまりベルティータには、この王宮に居場所はないと言うことですね。ではさようなら、二度と会うことはないでしょう」


 きっぱりと言い切ったアルリールに向けて、ベルティータが左右の人差し指を、口の前でクロスさせる。


「どうやら王女の意見も、交渉決裂ということのようで、では今後も引き続き我々が……」

「あまり我らが姫を過小評価しないでいただきたいものですね」

「あのなぁ、自分に都合の良い解釈ばっかしてんじゃねぇ、踏み潰すぞクソジジィ」


 エイトとライトが同時に、正反対な口調で相手の言葉を遮り、お互いが相手を見やるのも数瞬、ライトが馬面の顎をしゃくって『言ってやれ』と、エイトの代表としての立場を尊重し発言権を譲り促す。


「姫が何を言ったのか解らないと言っているのなら、貴方はこの場にそぐわない無能者で、早々に職を辞して立ち去るべきで。理解っていながら敢えてわからないふりをしたというなら、今すぐに姫に跪いて許しを請うべき愚か者だということだ」


 エイトの言葉にライトは頷くも、視線を向けられている当の三老の内、一人はそらっとぼけて見せ、残る二人は呆けた顔をし、答えを求め探すようにベルティータを見上げる。

 馬上のベルティータは、二人が見ている事を気にもせず、小さくあくびをして、ライトの背中にへちょりとうつ伏せに寝転がった。

 



「本当にわかんねぇのか?ダメ出しされたんだよ、アンタらの『現状程度』が。

 『こんなザマ』にしちまった奴らには、もう何も任せられませんってなっ」




 聞いた瞬間、カッと恥辱に顔に血が上った一人はまだましだった、別の一人は怒りにどす黒く染まって歯を噛み締め、残る一人は零れ落ちんばかりに剥き出した目を血走らせ、ベルティータを睨み据える。

 その反応はわからなくもない、と彼らの心情に共感を抱くものも少なくはない、ただしそこには同情の余地はない。


 馬の背ででんぐり返しをしていたドレス姿の幼児に向かい、別にお前など必要ない、今更何をしに現れたのだ?と鼻で笑って追いだそうとしたら……

 『えっ?こんなひどい有様で!?』と素で返されたのだ。

 その上で、あくびを一つしてうとうとし始めたのだから、見上げた二人にはそれはそれははっきりと、ベルティータの言葉が聞こえたに違いない。


 『まだ続けるの?解らないなら、素直に解らないまま引き下がればいいのに』


 ベルティータは言葉を発しない。

 見る者に聞こえてくるのは、その者の内より湧き上がる言葉。

 だがそれ故に突き刺さるのだ、心の最も痛い部分へ、容赦なく。


 ☆ ☆ ☆


「……今、お前らがチビっ子に付いて行く訳が、ちょっと解りそうになっちまった。コレ、絶対解っちゃヤベェやつだろ」


「あぁ……そこは多分、入り口です。それ以上……一歩でも踏み込むと……引き返せなく成ります。姫は……底なし沼みたいな……人だから」


 アジーンが漏らした誰にとはない言葉は、すぐ横に立つ黒ローブで全身すっぽりと覆われ、見た目も声も男か女かさっぱりわからない相手に返事をされ、その内容にぞくりと背を震わせる。

 何より話し掛けられるまで、相手の存在に全く気付いていなかった為、細く途切れるような口調と声量に、幽霊にでも出会ったかのような不気味さを感じたのだ。

 ご丁寧に、分厚い図鑑のような立派な装丁の本を掴んているのも、ローブの上からの左手と、徹底的にローブの下の存在を知る情報を消している。


 ベルティータは別にしても、ジゼやゼフィリー、アルリールにライトと、アジーンが今まで相手にしてきた『ダーク・クラウン』のメンバーは、割と口さがなく物を言い、真正面から言い返してくるタイプばかりであった。

 その為に『ダーク・クラウン』のメンバーは皆そうだと、無意識に思い込んでいたので今回完全に虚を突かれたのだろうと、自己分析と供の反省したアジーンが、改めて相手の方へ向き直り正面から容赦なく睨みつけるように観察する。

 理性では解って反省もしたが、気配も気づけず間合いの内に入られたことは、『人喰いアジーン』に取っては大きなショックで、かなりな屈辱だったのだ。


「仲良しごっこに参加するために、入り口にようやく辿り着いた俺様もさっさと一歩踏み込め、とでも言いてぇのか?」


 鼻にシワを寄せた、嫌悪と嘲笑を煮固めた様な声を吐き出すアジーンに、黒ローブは少しホッとした様に、強張り怒り気味に成っていた肩をゆるめる。

 

「冒険ごっこを、して、いるのに……仲良しごっこは……ダメ、なのかい?」


 黒ローブを見ていたアジーンの瞳が鈍く輝く。その目を眇め、相手の足元へと視線を向けて、ようやく何かを納得したように、かがめていた背筋を伸ばす。

 3メートルを越すまでに長身になった弊害で、会話をするのに相手の目を見てというのが、酷く面倒なことになっているのだ。

 ましてや今回の相手の声は、聞き取りにくくはないものの小さい上に、今以って気配も希薄と来ている。


「俺様の獲物になる資格はあるが、お前とは戦わねぇ。関西弁でギャーギャー喚かれんのも嫌だしな」


「それに……きっと、つまらない、から?」


 黒ローブの問いかけに、ニヤリと笑ってアジーンが頷くと、黒ローブも頷き返した。

 そのまま流れるように左手の本を差し伸ばし、アジーンの視線を前方へと誘う。


「姫が……何か、思いついた……みたいだ」


 先ほどまでライトの背中でうつらうつらしていたベルティータだったが、アジーンが視線を向けた時には、ちゃんと座り直しわちゃわちゃと身振り手振りを繰り返し、その目の前に浮いている半透明の少女に何かを訴えかける姿が有った。


 ☆ ☆ ☆


 ベルティータは長い自分の両耳の先を摘んで、横、斜め、上と動かしてから、自分を二度指さし、次いで三老を指さして身振りを止めた。

 今度は流石に誰も怒鳴ることはなく、鼻で笑うこともなかった。いや、それどころか今迄にない程に、三老の眼は真剣そのもので、一体何を言い出すのかと僅かに身を強ばらせ構えてすらいる。

 その姿に口の端を緩めながら、エイトがミリアに問いかける。


「我らが姫は、一体どんな難題を言い出したのかな?」


 ミリアに向けているエイトの表情は、口の端こそ僅かに綻んではいるが、それ以外の表情全てが、ミリア程ではないものの、ベルティータ語をエイトも少しは理解できると言う事実を示していた。

 『パラベラム』から『ダーク・クラウン』へと、ギルドを解散・再集結を行い、ギルド・マスターの肩書をベルティータに移しながらも、実質的にギルド・マスターとして変わらず取りまとめるという離れ業の実行にも少しも迷わず。

 敵性種族への転生をも飄々と受け入れ実行してきた、そんな彼が困った表情を浮かべたのだから、ベルティータが言っている内容を知るミリアへと、自然に皆の視線が集まり、情報の開示を無言のプレッシャーで促してくる。


「えーっとですね、その……言いたくないんですけど」


 ミリアが初めて、ベルティータの言葉を伝えることに難色を示すも、無言のプレッシャーは募るばかり。

 それも『ダーク・クラウン』のメンバー以外からも集まって、時間とともに増大していくのだから、完全に四面楚歌状態である。

 虚しい抵抗を諦めたミリアは、エイトに向かい少し恨めしげな目を向けはしたが、すぐにもそれを頭を振って振り払い、一度深呼吸をしてからはっきりと言葉にした。


「三国に向けて、攻勢に出るって言ってるんです、姫様は」


「……っ、なんだとおっ!!?」


 叫んだのは……いや言い直そう、叫べたのは三老の一人だけ。


 ゼフィリーは大爆笑し、笑い過ぎて腹を抱えながら床で悶えているし、ライトは馬の口で器用に口笛を吹いて、ニヤニヤとしながらエイトの方を眺めだす。

 親衛隊の七騎士達は驚きもせずに、やるならやらねば、とアイテムリストを各々確認し始め、ナインはナインで『名乗りをどうすべきか……』と、追い詰められた表情で悩みだす。

 アルリールはといえば、当然のことながら反対のハの字すら頭に無く、『我々はエルフの国へ攻めましょう』と、迷わずエイトへ提案し始める。


 そんな中でエイトはしばし思案する、三老が何やら叫んでいるが、完全に意識の外へと追いやり、一人思考に沈んでいく。


 基本方針として『ダーク・クラウン』は、ベルティータの意見を可能な限り尊重するべきだ、という事は今回の件でも変わらない。

 主力どころが軒並みやる気になっている為、却下するにしても説得力の有る根拠が必要である。

 がわこそ変わったが、実力者も多く『ギルド潰し』クエをも乗り越えクリアしてきた、日本サーバーでも屈指のギルドである。


 ……とは言え、たかだか1ギルドでしか無い。


 三国を相手に攻勢に出られる人数など有るはずがなく、出来るとすれば……ゲリラ戦だろうか?

 それとて現状の三老との関係性を考えれば、補給を望むのは有り体に言って夢物語である。

 そこで気付く違和感――何故アルリールが反対しないのか?


 彼女はとにかくベルティータにべったりで、何らその行動を制限できない――かのように誤解されがちだが、実際その印象とは真逆。

 ジゼも言っていたように、何人にも抑えられない自由とトラブルの申し子たるベルティータを、説得し言い聞かせることが出来るであろう唯一の人物である。

 そのアルリールが、一見無茶な今回のベルティータの提案に、『我々はエルフの国へ』と即答したのだ。


 以前ユーレリアが『パラベラム』のギルドハウスへ襲撃した際に受けていた、ベルティータの抹殺を目的としたクエストが、エルフの国・エリュアリートの第一王女であるシルローエルにより依頼されたことに、アルリールが怒りや恨みを抱いたのはエイトも覚えている。

 よって彼女がエルフ国を攻めようというのはおかしくも何ともないが……それならば使われるべきは、『我々は』ではなく、『最初に』ではないのか?


 思考がそこまで辿り着き、『我々は』の意味をようやくエイトが理解する。


 つまりアルリールは、どういった道筋を通ったのかは不明だが、今回ベルティータが言っている攻勢は、三国に対し『それぞれ』が仕掛けるつもりだと理解しており、その上で反対しない、それは良い案だと賛同していることである。

 いや思考をもう一歩踏み進めるなら、アルリールがベルティータ語をほぼ完全に理解できないことを考えれば、これは『賛同』ではなく……何時の時点で思い至ったのかは全くの不明ながら、アルリールもベルティータと『全く同じ構想』を抱いていたという事だ。

 閃きを元にエイトが自分の内で思考を纏め、結論を導き出した数瞬の後、続いていたミリアの声が耳に届く。


「今日から10日間で、一番話題になった所が勝ちだって言ってます。あと、エイトさんにイルフィシア姫の所にも参加のお誘いして欲しいって」


 ミリアによって自分の思いつきが伝わった事に満足したベルティータは、ふんすと薄い胸を張り如何にも満足気な表情で頷くと、ちまい手でライトの首筋をぽむぽむと叩いてから、三老へ向けてバイバイと手を振った。

 実にあっさりしたベルティータの対応に、吹出し笑いを苦労して噛み殺したライトは、「オーケーオーケー」と軽く応じながらあっさりと馬首を巡らせ、それを見たエイトは軽く肩を竦めただけで、三老に背を向けて歩き出す。


「撤収ーっ、各パーティーの班長は人数確認してから転移、絶対に置いて行かないように」


「待て、何処へ行くっ!」


 老人が叫んだ瞬間、ライトの睨みつける眼やアルリールの毒舌が届くよりもはやく、老人の全身が一瞬にして石と化した。

 すぐ傍に居た残る二人が身を竦ませて離れたのは、本能的な恐怖からなのだろう。

 加害者が口角を吊り上げただけの、笑いとはいえない表情を向けているのに気付いて、非難の言葉を呑み込んだのは被害拡大阻止という観点から見て、とてもよい判断だと言えた。


「一応、殺さないでいてあげるわ。でもいい加減理性の欠片もない声は煩いし耳障り、何時まで経っても止めない周りの木偶の坊達にもうんざり。

 『ベルティータ姫には、この王宮に居場所はない』ってあの娘が確認した時、貴方達否定しなかったわよね?『自由にしていい』って言ったのは貴方達よね?それから『交渉決裂』って言い出したのも?」


 三老の残る二人を護るように、剣盾を構える王宮騎士らしき者達を、縦長の瞳でゾロリ一巡り睨みつけたユーレリアが、額に青筋を浮かべながら苛立たしげに眼鏡を押し上げ、細い吐息を唇から漏らす。

 それが目眩がするほどの怒りを押し殺してのものだと、一体この場の何人が理解できただろうか。


「姫に、剣を向けたわね……貴方達のその行為は、犬畜生以下の反逆者に成り下がったってことよ。

 アンタ達を家畜に堕ちることから救ってくれた英雄、その娘である正統後継者が王位を継ぐのに、『交渉』が必要だといった『簒奪者』のバカ共の側に付いた恩知らずの恥知らず、私は許さないし絶対に忘れない。滅びるときは言って頂戴、祝電を送るわ。

 そんな奴ら相手にする必要なんて無い、行きましょビューロー」


 闇の軍勢を口汚く罵り嘲笑ったラミアに欠片も疑われること無く、当然のように仲間として扱われたビューロー達探索隊の面々は、一瞬驚いたものの即座に胸に右手を当て、はっきりと頷き返し上げた顔に浮かんだ笑みは、何処か誇らしげであった。

 

 2017.08.27

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