35.何が出来るかためしてみよう
かなり時間があきましたが、飽きているわけでも、放り出すわけでもありません。
相変わらずのマイペースに、続けられたらいいなと思っております、その上で読んで頂けた方に何かを残せたら嬉しい限りです。
35.何が出来るかためしてみよう
「ちょっとそこまで殺戮に行ってくる」
「おう、晩飯までに帰って来なあかんで」
ゼフィリーの絶妙な返しに、あっさりヤル気を圧し折られ、冗談とも本気ともつかないアジーンが、睨み殺しそうな視線をゼフィリーに向けながらも、足を止め不満の溜息を吐いた。
「手前ぇはお袋か関西弁。見憶えのねえスキル試すのに、こいつら相手にやるんじゃねえって決めたのは、手前ぇだろうが」
「やから止めとらんやろ、ただホームポイントはコッチ設定してからやないと、囲まれんで」
「だからお袋かよ、んなこたぁ五十も百も承知の上で元から対策済みだ。始まりの街の雑魚に、何人で囲まれようが殺られやしねぇよ」
3メートルはあろう巨体を、大きく腰を折ってゼフィリーを鼻息で吹き飛ばすが、足首辺りをぺたぺた触るベルティータには触られるに任せている。
「なぁチビっ子、今の俺様がちょっと加減間違えばお前は死んじまうと思うんだが――なんでへっちゃらで近付いて、ペットでも撫でるみたいに触ってやがんだ?」
「そんなのコッチ側にキャラが転生する前からでしょ?
最初に言っておくけど、姫様は基本的に好奇心には全敗する上に運が悪いの……そのせいで呪縛アイテムに引っ掛って永遠にレベルは1のまま。なのに、最近警戒心はどんどん下がって、好奇心が行動力を伴って来てる」
ジゼが巨大な翼と角を手に入れたアジーンを見上げながら、その足元からベルティータを慣れた手つきで抱き上げ、小さくため息を付いてみせる。
「それに、怒られても叱られても一切へこたれないから、行動する前に止めるか黙って見守るしかないのよ」
「なぁ、何でお前らそんな傍迷惑なのに付いて行ってんだ?マゾなのか?」
「その質問に対する答えは、多分みんなバラバラだと思う。私はほっとけないからだし」
悩むでも小難しい理由を並べるでもなく、極々当たり前にジゼはそう答えた事に、アジーンが黙りこむ。
もし彼が以前の姿のままであったなら、或いはもっと人類に近しい種族に成っていたのなら、ジゼにもその表情が得体のしれない物でも見ているような、困惑に彩られているのがわかっただろう。
あまりに自分と価値観の離れた思考は、存在は理解出来はしても、本当の意味での理解は出来ないからだ。
ゲームという娯楽で、好奇心に負けて運悪くだろうが永遠にレベル1の相手など、『運が悪かったな』でほっとけばいいだろ?
「お前は何でだ関西弁」
「そんなん面白いからにきまっとるやろ。嬢といると予想もせんことがぎょうさん起こって退屈せんわ」
幾分、理解も納得もできる答えが帰ってきた事で、アジーンもわずかに心の平穏を取り戻す。
「お前そういや不死能力持ちだったな、ちょっと俺様のサンドバッグになれ」
「お断りじゃアホ。がまぁ相手になったる、ウチもまだ試しとらんスキルあるから、精々死なんように気ぃ付けてかかって来ぃ」
脳筋二人が口悪く罵り合いながらも、連れ立って人の少ない方へと離れていく背を見やってため息を付いたジゼが、視線を感じその主へと目を向ける。
まばたきもしない大きな目の中で、金色の瞳の奥、ネコのように縦長の瞳孔が、真っ直ぐに向けられていた。
そのまま見つめ合っていると、視線はそのままに、こてんと相手の頸が右に倒れ、ようやく何を相手が意図しているのかが理解できる。
「私はJOB変えていないから、それにいきなり身体が大きくなったり、羽が生えたり脚が増えたり減ったりしてないもの。やることもできることも大きな変化は無かったのよ」
言いながら、『大きな変化があった組』から悪態と悲鳴が聞こえてくるのを、微笑み一つで聞こえなかったことにする。
すると、今度は逆側へこてんと頸が倒される。
なんで変えなかったの?
声なき問い掛けが、ジゼの耳にははっきりと聞こえた気がした。
『冒険が嫌いなら、どうしてコッチ側についてきたの?』
ジゼはそれにゆったりと首を振って見せながら、柔らかな笑みを浮かべる。
「違うわ姫様、そうじゃない。冒険の仕方なんて、人それぞれなのよ。
たとえばそうね、学校の帰り道に仲の良い友達と寄り道する、コレってそれが当たり前の人からすれば、なんでもない事よね?
でも、それが見つかると大問題に成るとか、禁止されているからって頑なに守って来た人からすれば、それをするのは大冒険なの」
「それではベルティータは頷きませんよジゼ」
背後から掛けられた声に、肩をすくめながら眇めた目を向け、半歩身を引いてベルティータの正面を相手に譲る。
「視点が違うのです、彼らは『個』で、私やバカ9は『私達』、ジゼはきっと『姫の陣営』。だからこそ『個』の変化は最小限に抑えたかった、そんなものに煩わされる時間が、もったいなかった」
アルリールの説明にぽんっと手を打ち、わちゃわちゃ身振り手振りを繰り返し、再びこてんと頸を倒す。
「……ベルティータはなんと?」
「ようは将棋指しの位置についたのは理解したって、でもそれは楽しいのかって聞いてる」
ジゼの言葉にコクコク頷くベルティータは、再びわちゃわちゃしてジゼをまっすぐに見上げる。
「……今度は?」
「ゲームって、事象を単純化して欲求を満たすものじゃないのか、って言っている気がする」
たとえ見た目だけとはいえ、自分の腰にも満たないような子供に、何やら複雑なことを言われているようで、なんとも落ち着かない気分が二人の間に漂い始め、揃って眉を寄せるジゼとアルリール。
「お、いたいた。姫も『聖騎士』の代わりのかっこいい称号一緒に考えてくんない?」
握りこぶしで自分の胸を叩き、じゃがみこんでちまい指で地面に字を書こうとし、そこが石畳であるためにナインを見上げて首を振る。
ナインはナインで、顎に手を当て少し考えてからパンと手を叩き、ベルティータを指さしてから左の内腿をポンポンと叩いて見せる。ベルティータが感心した表情で頷き、ドレスのスカートをたくしあげ、そこからオドロオドロしいオーラに包まれたナイフを、伝説の剣でも引き抜いたかのように取り出して高々と掲げ、再びしゃがんでナイフの先で石畳にスイスイと文字を刻んでいく。
石をも切り裂く切れ味を持った、呪われ装備とは言え伝承級の武器の明らかに間違った使われ方に、ジゼは居た堪れなくなってそっと視線を外した。
「『Caballero del diablo』?うーん、なんか響きはかっこいい感じもするけど、もっとわかりやすいのがいいかな」
ナインの返事で、耳の先まで垂れ下がってしょんぼりするベルティータを抱きあげながら、そういうことですよ、とアルリールが微笑む。
「誰かの最良は、別の誰かの最良ではないかもしれない。ジゼが望まずに『そういった役割』を押し付けられたのではないか、という貴女の気遣いは尊いですが……ジゼも元パラベラムの一員です。何の事はない、彼女も変わり者ということです」
言われて大きく頷くベルティータに、がっくりと肩を落とすジゼ。
「その納得のされ方は納得行かない、今までの私の説明は何だったのよぉ」
そんなこと言われましても、言葉にすればそうなったかもしれない金色の瞳に、ジゼがもう一度大きくため息をつく。
ベルティータは何も言葉を発しない、故にそれを言葉として受け取り悩むのは受け取り側で、言ってしまえば壮大な一人相撲の可能性を内包している。
それが嫌なら、ベルティータ語をマスターしたミリアを間に挟むべきで、そうでないのなら時間はかかってもナインのように筆談をすべきなのだ。
手間を省いて、会話以上に不完全なコミュニケーションで意思の交換を求めたのだから、自業自得というより他はない。
「お二人とも、難しい言葉に置き換えて態々難しくしてるので、もっと感覚的にやりとりすればいいんじゃないですか?姫様がやっているのは身振り手振りなんですから」
ふよふよと、青白い火の玉が流れて来るのに、ベルティータがちまい手のひらを差し出すと、ちょこんとその上に火の玉が乗り、ベルティータもその言葉に頷く。
火の玉を片手に載せたまま、もう一方の手と腕だけをわちゃわちゃさせると、火の玉が何度か揺れる。
「そろそろログアウトする人が出る時間なので、移動するのかそれとも今日は此処で皆ログアウトするのか、決めた方がいいんじゃないですか?」
事も無げに片手身振りを理解してのけたミリアに、その場に居た三人どころか、周りで見守っていた全員が、彼女がレベル上げではなく侍女になる事に熱心で本当に良かったと、心の底から安堵したのだった。
☆ ☆ ☆
ビューローの意見も有り、早急に常闇の宮へと向かうことになった『ダーククラウン』一行は、完全武装状態で儀仗兵の立ち並ぶ間に敷かれた赤絨毯の中央を、玉座へ向かい歩を進めていた。
まだ人型となる術を身につけていないグライフは、その巨体故にその中には居ないが、遠足の先導をする先生よろしくエイトが集団の先頭に立ち、ジゼが最後尾に位置取っているのは態々言うまでもない。
ミリアを除く大半の者は、一度は来たことのある場所であったため、別段圧倒されるでなく。
しばらく歩いている内に、苦戦した記憶とともにこのエリアのマップを思い出し、不意打ちを受けたり相手が隠れていた地点へと、誰が言うでもなくそれぞれが警戒の視線を送りだす。
集団の中央、ド派手な装飾品をぶら下げて地を踏む毎にシャンシャンとすんだ金属音をたてる巨大な八本脚の馬の背で、高位の魔術師らしいダークエルフの少女とラミアが、幼いダークエルフの姫を間ににらみ合い。
それを隣に立って見上げながら、深い溜息を付いている姫の近衛騎士らしき青年の背を、笑いながら叩いている美女。
その横に漂っている人魂に向かい、自らの腕を取り外して熱弁を振るっている人形娘……と、見るからに混沌とした状況に、最も奥まった場所――玉座の前に立つ三人のうちの一人が、不愉快さを隠さずに鼻を鳴らし、別の一人が大声で一喝した。
「いくら王女とはいえ、宮殿内を馬に乗ったままとは、無礼が過ぎよう!」
「おいジイさん、もしかして馬っつうのは、オレ様のこと言ってんのか?
姫さんの前じゃ波風たてたかねぇんだが……神獣様にケンカ売ってるって、ちゃんとわかってんだろうな?」
歯を剥いた渋っ面で凄むライトの後頭部を、アルリールが無言で引っ叩く。
「んだよアル、オレ様が悪いってか?」
「そうではありません。ただ……私のベルティータにケンカを売ってきた相手を、救ってやるような貴方のやり方は承服しかねます。思い上がった相手には、二度と間違えない様にきっちり礼儀というものを教えてやらねば成りませんので」
一向にライトの背から降りようとせず、どころか上から見下ろすアルリールの視線に、玉座の前に陣取っていた老人三人の内、二人が睨み返してくる。
それを受けてもアルリールはせせら笑い、しかし目は二つ名の通り氷の如く冴え冴えと冷たかった。
「一度ならず二度までも敵対勢力に踏み荒らされた宮殿で、平時の礼法を求める愚……貴方達が生きようが死のうがどうでも良いですが、ベルティータを危険に晒すわけには行きませんから」
掛けた言葉はあまりに容赦の無い言葉。
これには睨んでいた老人二人のみならず、ごく僅かな例外をのぞいて、その場の全員が怯んだ。
いくらなんでも、言いすぎだろアル……
流石のナインも少々非難めいた物を瞳に浮かべ、ライトの背に座るアルリールの方へと視線を向けるが、アルリールはナインの視線にまるで気付いていないかのように、まっすぐに前方を見据えている。
その眼差しは逸らされることがなく、まさに異名を体現して冷たく……が、続く言葉はそれに輪をかけて、皆の背筋を凍りつかせる。
「王女を前に立ち上がり発言をすることを、許可した覚えはありませんが?
一体何を勘違いしているのか知りませんが、あなた方は戦時における臨時のまとめ役に過ぎません。王族を前に対等の口をきいて許されるとでも?今の態度は、不敬罪……いえ反逆罪ですかね。
そんな礼儀知らずの罪人に、馬を降りろと言われれば……」
一旦言葉を切り、眇めた刃のような目で相手の精神を切りつける。
「主に対し、臣下が礼を取ることを忘れる程とは、余程苦労をしたのでしょう。少し、休まれたらいかがですか」
会話ではなく、問答ですら無く、それは明確な敵意を持った攻撃。
アルリールは、はっきりとこういったのだ。
お前ら火事場泥棒が偉そうな口を叩くな。
権力に酔って上下のわからなくなっているいるそのザマが、すでに反逆で処刑に値するのがわからない愚鈍め
小物らしくさっさと消え失せろ、でなければ踏み潰すぞ、と
ナインはアルリールをその点において、非難するつもりはなかった。
そも先程の『宮廷を踏み荒らされた』発言といまのとでは、全く性質が違う。
先の発言では焦点は宮廷の安全性であり、つまるところそれはベルティータの安全確保というただ一点に対する、アルリールの不安である。
更に言うのであれば、それが成されたのは『女王』が健在の時点である以上、今眼の前に居る現在の責任者らしき三人に、最終的な責任は問えない。
だが後者、ベルティータへの恫喝とも取れる上から目線の発言は、王政を布いているであろう環境で明らかにおかしく、アルリールの発言を止める根拠がナインの中にはない。
故に見えてくる、あまりアルリールらしくない発言の裏に潜む、アルリールの思惑――その危機意識が何を根拠にもたらされたのか。
なぜ、このタイミングで口に出されたのか、誰に向けて発言されたのかが。
つまりあれは、ベルティータが宮廷に足を踏み入れた瞬間、『闇の女王』クエストが発生する可能性を、アルリールが見逃していなかったと言うこと。
故に、何時でもベルティータを逃がせる様に、ライトの背から降ろすこと無く宮廷に踏み入ったのであり。
すでにプレイヤー達の敵になって、付け狙われる立場に我々は有るのだぞと言う、『ダーククラウン』の連中に対する警告。
警戒対象は、権力を失うまいとしている簒奪者などではなく
他のプレイヤー達ですらなく
運営の悪意を含めた、世界そのものだと、アルリールは言っているのだ、と。
ナインは自分の中で行き着いたその結論を、とても考え過ぎだとは思えなかった。
何故なら、その場には誰からの反論も、転がり出てはこなかったから。
エイトもジゼもすでにそこへ行き着き、そんな覚悟はとっくに出来ていたのだと、遅まきながら理解した。
我が身の未熟に苛まれたナインがふと思いたち、焦点になっている彼らが盟主へと視線を向ける。
見た目は幼児だが……いや、行動も割りと幼児だが、智者や賢者と賞賛される者達からは以外に高評価を受けているベルティータは、一体どんな思惑を持って現状に挑んだのだろうか?
ナインならずとも興味は湧いているようで、かなりの視線がライトの背に居る幼女へと向けられる。
果たして目的の人物はといえば……
ライトの広い背中で、でんぐり返しをしていた。
目を擦ってもう一度見ても目の前の光景は変わらず。
彼女は、ライトの『絶対落とさない』と言う言葉を心底信じきっているようで、全く恐怖を感じておらず。
普通の馬よりはるかに大きいとはいえ、全くその行為に適さないその場所で、普段の横回転より遥かに不安定な軌道を描く、縦回転にチャレンジしていた。
2017.08.20




