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33.感情を優先しよう

 取り敢えず一ヶ月間好き勝手やってきましたが、そろそろ『約束の一ヶ月過ぎたぞ、いい加減にしろよ』というプレッシャがかかってきましたので。ストックも切れたこともあり、此方が人気出ちゃえばゴリ押し出来るかも、という野望は諦めこちらの作品は不定期連載にしようと思っております。

 久々に投稿サイトで日刊更新をして、楽しくいい気分転換が出来ました。

 そういった意味では、余り人気が出なくてよかったのかもしれないです。


 読んで頂けた方に、面白いと思ってもらえたなら、嬉しい限りです。

 33.感情を優先しよう


 いつまで経っても、一向に訪れる気配のない最後の瞬間に、ダークエルフの一団が訝しんで、遠慮がちな視線で伺った先の光景に、絶句する。


 そろりそろりと、後ろ向きに退がって行くベルティータが手を離したが、手の平から細剣は離れず。

 ぶんぶんと手を振っても、当然離れる事はない。

 諦めずに、如何にも高価そうな細剣を、砂浜に擦り付けてぱっと手を勢い良くあげてみるも、『呪われ』装備であるのだから、当然そんな事では離れたりする訳もない。


 まるで、見えない蜘蛛の糸に絡まれた子供が、必死に取ろうと暴れている姿。

 しかし、次の瞬間にとったベルティータの行動に、周りのほとんどの者達も理解できず、訝しみ出す。

 砂浜に正座し、膝で細剣を押さえて何とか手を柄から引っ剥がすと、独りわちゃわちゃと手振りしだした。


 見えない糸はまだしも、見えない相手に身振りしだすのは、流石に不気味に見えたらしく、周りがざわめき出す。

 だが、アルリールは慌てず騒がず、現状打てるもっとも着実で、信頼性の高い手段を選択した。


「ミリア、ベルティータは一体誰と話しているのですか?」


「?あ、そっか!えっとですね、交渉しているのは細剣です」


 さも当たり前の様に、意味のわからない事を言い出すミリアに、冗談なのか本気なのか、別の疑惑でざわめき出すが。

 つづく内容の説明で、少なくとも『ミリアは』冗談を言っている訳では無いと気づく。


「長過ぎて引っかかるから、もっと短くなって欲しいって姫様は言ってます」




 ・・・えっ、そっち?




 多分、聞いた者達の心はその瞬間一つだった。

 『呪われ』武器に対し交渉すると言われれば、呪いの根本は何かを聞いて、それを解く手伝いをするから離れて欲しい、以外の交渉など無い。

 なにより武器に向かって、『長いから短くなれ』などと言う交渉が、そもそもあり得ない。

 いや、無機物相手にコミュニケーションを取ろう、と言う考えが普通は大前提として無いのだから、もう何でもありなのかも知れないが。


「そう来たかぁ、それで短くなられると、鍛冶屋としては困るなぁ。

 それやられちゃうと、立場とか色々大切なもの失う気がする」


 人形娘のぼやきに、馬が人の悪い笑みを浮かべ、尻尾で頭を叩く。


「いや見ろ、どうやら姫さんが粘り勝ったっぽいぞ」


 ライトの言葉が、終わるか終わらないかのタイミングで、細剣が赤黒い妖気をあげて一瞬視界から消えると、次の瞬間には小さなナイフへと姿を変えていた。

 ちまい手がその美しいナイフを、両手で丁重に砂浜からすくい上げ、ドレスの裾をたくし上げてガーターに鞘ごと差し込む。

 ぴょんぴょんと飛び跳ね、ごろごろと転がり、最終的に左の内腿に位置をずらして調整を終えるまで、誰も口を挟めずただ無言で見守るのみ。


 まさかサイズの変更ではなく、武器種すらも変わるなどとは、ベルティータとの付き合いもそれなりに長くなってきていた、ギルドの面々も流石に予想できず。

 会ったばかりのダークエルフの一団からしてみれば、一から十まで全てが理解不能、意味が解らなすぎて頭痛がしてくる。

 最終的には、アレはもともと姿を変える武器だったのだ、と無理に自分に言い聞かせ、なんとか正気を保つ。


「ベルティータの無茶苦茶も、大概慣れたと思っていたのですが。

 まだまだ入り口を覗いた程度の様ですね」


「確かに驚いたけど、オレは寧ろ『ベルティータ姫だからな~』で割と納得出来る、自分にビックりだ」




「そいつがビックリするくらいバカなのは、今に始まったわけじゃねぇだろ。

 とは言え流石に、この光景は俺様も度肝を抜かれたがな」




 声とともに飛来する影は、ベルティータに届く前に空中で、七本の剣によって刺し止められ、綺麗に七つに等分された破片が砂を打つ。


「誰も動かないでっ!」


 鋭い声が、殺気立って相手を取り囲んだギルドメンバー達の動きを止めた。

 当然そんなことにはお構いなしで、ベルティータは七等分された挙句、砂にまみれた林檎を拾い集めると、てててと海に走って行き海水で砂を洗い落として、波を被ってずぶ濡れになりながらショリショリと林檎を噛じり、アジーンに笑顔でお辞儀をする。


「あなた、なんだってこのタイミングで来ちゃったの?

 今回は姫様が、無言でパーティに誘った訳じゃないんでしょ?」


 囲みの中からジゼが進み出て、アジーンの顔を見るなり額を抑えて深い溜息を付く。


「おまえ・・・もしかして、この前の凄腕白魔道師のねぇちゃんか?」


「そうよ、姫様と愚痴聞いてあげた時に、一緒にいた片割れ。

 いい、よく聞いて。私はこのギルドでもかなり穏健派で、姫様が笑って聞き流すなら事を荒立てない方を選ぶわ。でも今日は此処に全メンバーが居るの、その中には『姫様のためになら世界の半分を敵に回す』って公言してる子もいる」


 研ぎ澄まされたナイフのような眼光に、冷気を漂わせながら、【フォトン・ブラスト】を既に発動させ、いつでも消し去る準備完了状態のアルリールに顎をしゃくってみせる。

 他の大半のメンバーも既に戦闘準備は完了しており、あと少しジゼが割り込むのが遅ければ、今頃アジーンは比喩ではなく原型をとどめていなかっただろう。


「姫様のフレンドみたいだから、問答無用で殺さなかっただけ。

 次は私も皆を抑えられないわ、だから――これは脅しでも警告でもなくて、親切な忠告――発言には気をつけて頂戴。

 それで?何を目的にして今日は此処に来たの」


「ギルドエリアから一歩も出ない箱入りが、観光エリアとは言え外に出た、それも同じ場所に二度目だ。俺様じゃなくてもこりゃぁ何かあるなと気付く。

 で、クエストを物色したら妙なもんを見つけたんで、話を聞きがてら様子を見に来た、というのが一つ」


 一旦言葉を切ったアジーンが、ぐるりと取り囲んでいる面々を見回し、口角を吊り上げる。


「もう一つ、此方が本命だがどっかのバカが金持って、そこのチビっ子を殺してくれ、と頼んできやがった。俺様は強いやつしか相手にしねぇと断ったら、チビっ子守ってる奴らが強ぇから満足する、とぬかしやがる。

 丁度暇なんでツラ拝みに来たら、MOBの中心でチビっ子が正座させられてっから、眺めてたんだよ今度は何やらかしやがったのかってな」


 そしてジゼは、思い知らされる。

 ベルティータの友人とは、どんな者達なのかを

 アジーンは心底ベルティータの友人で、故に『特別』なのだと。


「で、どいつから殺る?俺様が選んで良いなら、そいつが良いんだが」


 しゃくった顎で示したのは

 アジーン自ら凄腕と褒めたジゼでなく

 自称していた『聖騎士』の名が、何故か爆発的に広まったナインでも無い。


 【フォトン・ブラスト】を脇に控えさせ、先程から容赦なく殺気をぶつけまくって来るアルリールでもなければ。

 空中で飛来する林檎を同時に剣で突き刺した見せた、『親衛隊』の七人でもなく。

 言うまでもないが、ベルティータなどは――本来であれば標的であるはずなのに――選択肢にも入れてもらえない。


 アジーンが指名したのは、『大賢者』グライフ。


 三対の眼と、小山のような巨体を持つ、ブラックドラゴンに向かい。

 一対一で戦うことを欠片も恐怖せず、どころか歓喜し興奮しているのだから、始末におえない戦闘狂。


「お前がMOBだろうが、プレイヤーキャラクターの成れの果てだろうが、そんなこたぁどうでもいい。

 チビっ子の手下みてぇだが、竜種が弱いなんてこたぁねぇよな、そうだろ?」


「それで、今頃貴方を捨て石にしようとしていた連中が、慌てて準備しているのがわかっているのに。

 ベルティータ姫の臣下である私達に、そちらの趣味に付き合う理由など何もないのですけど?」


 メガネを押し上げながら冷たく言い放つラミアに、珍しくアルリールも黙って頷き同意を示す。

 先ほどの情報だけでは、何が起こるかわからない危険に対し、対価としては不足だときっぱりつきつける。


「あっちの蛇女が何か文句つけてるみたいだが、此方の解る言葉に訳してくれなきゃ答えらんねぇぞ、白魔のねぇちゃん」


 一瞬怒りで顔をドス黒く染めながらも、ユーレリアは眉をしかめ何かに気づき、メニュー操作して会話モードを、ギルド会話からエリア会話にチェンジする。


「貴方の行動は、バカ共が押しかけてくる時間稼ぎになってるって言ってるの。今度は『聞き取れ』た?

 で?そんなリスクを犯すだけの、代償に貴方は何を差し出すの」


 かなり驚いた表情でユーレリアを見据えるアジーン、彼の耳には先ほどまでとは違い、ユーレリアの言葉がちゃんと言語として聞こえたのだ。


「ラミアに共通語で、損得勘定の説教されるたぁ思わなかった・・・が確かに言うとおりだ。

 チビっ子は今すげぇ人気者だからな、報酬バカ高いイベントモンスターとして、クエストリストのトップ賞金首になってる」


 差し出すベルティータの手に向かい、林檎を投げ渡しながら。

 プレイヤーが掛けた俺様の賞金、あっさりぶち抜きやがった、と肩を揺すって笑うアジーンに。

 ベルティータは、お辞儀はしたものの会話内容にはさほど興味を向けず、ずぶ濡れのまま砂浜にころんと寝転がる。

 それをすかさず、【フォトン・ブラスト】を海に向かってぶっ放したアルリールが拾い上げ、タオルでゴシゴシと拭き始め。

 遅れてナインが、長い銀髪を担当しタオルで水気を拭いだす。

 さらにはそこにミリアも寄ってきて、『引き出し』た水筒からカップに注いだお茶を差し出すという、まるっきり緩んだいつもの日常の光景。


 しかし、その他のメンバー達はそんな空気にあてられず、今回の行動――大量の転生――がトリガーとなってクエストが発生した事を、なんとなく悟り表情を引き締めた。


「ならばそれがしを残し、皆は先に移動するが良かろう。

 闇深き王宮の最奥、女王の間であらば多くの者はおってはこれまい」


 『大賢者』のもっともな提案は、唇の前で交差させたちまい二本の人差し指で、あっさりと却下され。

 その指は、次いで沈黙を護るエイトに向けられた。

 それに気付いたエイトは、右手を恭しく胸に当て、微笑みながらベルティータに一礼すると、グライフ、アジーンの両名に向かい、その場の全員に向けて姫の胸の内を開示する。


「我が姫の『ダーク・クラウン』は、勇敢なる者には敬意を向け、卑劣なる者には酷たらしい死を与え、仲間は決して見捨てない」


 エイトの台詞の終わりに重なり、まるでタイミングを見計らったように、複数の転移音が折り重なって溢れだす。

 パーティ単位での移動に使われるその術は、当然今回も例外ではなく、転移音に対し五倍から六倍のキャラクターが直後に吐き出されるなり、一斉にベルティータ周辺へ向けて魔法と弾矢は放たれた。


 が、それらの攻撃はずべて、ナインのスキルによって重苦しい金属音ととも呼び出された、闇濡れた巨大な盾に完全に阻まれる。


 楯の現れたのはナインの前面ではあるが、あくまでそれはイメージビジュアルに過ぎず、全方位の攻撃に対して効果をもつ上に、パーティメンバーに対しての攻撃を全て引き付けると言う高性能なスキルだが、それも当然と言えるほど効果時間は短く、かつリキャストタイムも長い。ある種切り札的なスキルである。

 開幕いきなり躊躇なく使ったのは、間違いなく演出効果を狙ったいつもの悪ノリではあるが、相手の心を動揺と混乱に突き落とすことには成功した。


「【コキュートス】」「【ドラゴンブレス】」


 敵が見せた一瞬の動揺は、前面の敵集団を凍結させ、後面の敵集団を焔で呑み込むに、充分な時間であった。

 一番悲惨なのが左右側面の敵パーティで、冷気と熱気が鬩ぎ合い入れ替わるそこは、凍え氷結し、炙られ炭化しを、延々と繰り返される。


「これはもう、名乗りを変えるしか無いかな。流石に『聖騎士』は無理が有るきがする……」


 以前であれば、そこに現れるのは光り輝く半透明の巨大な楯だった、しかしいま現れたのは、性能的にはなんらかわらないのだが、どう見ても完全に悪役側の使うパチ物。

 如何にナインが変わらずナインであっても、『聖騎士』と名乗れば100%『聖騎士(笑)』と理解される有り様で名乗り続けられるほど図太くもなく、何より彼の美観的に許せなかった。


「バカ9、そんなくだらない悩み事は後にしてください、そろそろ敵の第二陣が湧きますよ。

 それからそっちの林檎農家の方は、林檎置いてさっさと消えてください邪魔なんで」


 怒る事も忘れる程の衝撃を受けたアジーンは、しばし呆然と立ち尽くす。

 開幕、なんの確認もせずに、いきなり仕掛けてきた相手も相手だが、アルリールの取った対応は、それに輪をかけておかしい。

 グライフが、最初からブレスを吐いた事は、見た目がまるっきりモンスターである事もあり、またドラゴンとしてはある種お約束的なもの、としてアジーンにも不満は無いのだが。




 この女、反撃に――暴発しても今なら、ダメージ喰らわないとはいえ――詠唱破棄で古代魔法ぶっ放しやがった。





 確かにベルティータを含む自パーティは、ナインのスキルでダメージを喰らわないが、こんな密集した状況で古代魔法の暴発となれば、周りの味方に甚大なダメージを与える。

 スペルキャスターで有れば、そんな事は言わずともわかりきっており、当然そんなバカな行動はしない。

 いや、出来ない……筈なのだ。


「農家の方は、お野菜や果物相手に無双して下さい」


 だと言うのに、しれっと古代魔法を成功させ。

 アジーンの発言など無かったかのように、危ないし邪魔だから帰れと、言いたい放題いった挙句。


 動かない野菜でも相手にしててね、と鼻で嗤われたのだ。


 事実は違う――かも知れない。

 アルリールがアジーンの事を、知っていたのか、知らずに言ったのかもわから無い。

 だがアジーンにはそう聞こえ、『自由』では無く、『勝手』に生きているアジーンには、それだけで充分だった。

 更にはそこに、自分を端金で利用しようとした男達の顔をみてしまえば、元々抑える気のあまり無い感情は、衝動へと転化して突き抜ける。


 一生懸命伸ばしたちまい手が、ぺむぺむとその硬く広い背を、慰めるように二度叩いた


 ――それが、引き鉄だった。


 普段でさえ、3ベルティータはあろうかと言うご太い腕と脚は、怒りで膨れ上がって、今にも皮膚を引き千切って破裂しそうな程に、ビクビクと脈打ち。

 2メートルあるかと言う、巨大な筋肉の要塞は。

 次の瞬間、小さな爆発の様な音を残し、全てのプレイヤー達の視界から消え去った。


 2016.10.07改

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