表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/56

32.事実を目の当たりにしよう

 このお話から完全新規となります、ベースがあるものを、見せ方を考えて修正するのではなく

 荒く書き殴っていく勢い勝負となるため、描写不足にならないよう気をつけて行きたい所です。


 読んで頂けた方に、面白いと思ってもらえたなら、嬉しい限りです。

 32.事実を目の当たりにしよう


 穏やかに心を洗う波の音。

 吹き抜ける、潮の香りのする風に、弄われ惑う銀糸の髪。

 小麦色に焼けた――と言うには少々焼けすぎた――肌

 楽し気な笑い声と共に、砂浜に置いて行かれる小さな足跡。


 常夏の国と銘打って、観光用のパンフレットでも作れそうな、ベルティータの姿を目を細めて眺めていたアルリールが、耳を掠めたほんの僅かな音を拾い上げる。


 澄んだ音に気が付いたのはアルリールだけ。


「周囲警戒、転移魔法の音です」


 ギルド会話に合わせたまま、鋭くはないが強い口調で言葉は流れ、アルリール本人は一瞬にして、醸し出していた緩い空気を引っ込める。

 ギルドメンバーも一斉に戦闘態勢に切り替わり、誰が何を言うまでもなく、パーティ単位で自然に集まって、次の瞬間にも斬り合いが出来る程に、研ぎ澄まされていた。


 だが、幾人かは音以外の何かで察知し


 既に行動を、終えていていた。


 ベルティータは、アルリールの警告の前に、ライトによって後ろ襟を咥えられて宙に放り上げられたかと思うや、くるくると回転しながら背にピタリと収まり。

 数人の口から、けん玉?、などと甚だ不本意な賞賛?を受け。


 どう見ても悪役・・・と言うか、中央の幼女より遥かにラスボス臭漂う出で立ちの、完全武装をした七人が、剣を胸前で真っ直ぐに立て、盾を持つ手も長い柄にそえ、妖霧を伴いその周囲に湧いて出る。


「あ、それじゃわたしも、ちょっと失礼しますね〜」


 などと気の抜けた声をかけながら、半透明な少女がベルティータを背後から抱きしめ、その揺らめく内側へと包み込んでしまう。

 最後の仕上げは、巨大な黒竜が身をゆすり、翼を一度広げながら、頭をライトのすぐ脇に寄せ、巨大な金色の瞳を持つ左右三つの眼が、何物をも見逃さんと三百六十度全てを視界に収めた。


「ベルティータ姫は思う存分油断されるがいい、全ての災厄はそれがしが跳ね除けよう」


 深く穏やかな声の主が誰なのかなど、今更問うまでもなく。

 ベルティータが油断、と言うよりは全く緊張感なく、ライトの背で転げまわっているのも、言うまでもない。


 魔力光が――重装の戦士や騎士が護る最外殻近くに漏れだすが、警戒は全周に向けられたのは、『闇の女王』クエストで高い授業料を支払った成果だ。

 あの時敵は、一隊を囮にし不意打ちを仕掛けてきて、その際も今と同じように目立つ魔力光を隠そうとも、抑えようともせず――どころか態と見せ付けるように――真正面に姿を現し。

 直後、意識が前に向いた所を、後方から奇襲を受け、全滅寸前にまで陥った。


 はたして、転移してきたのは前回と同一人物ではなかったが

 その姿は、前回を思い出して警戒心を呼び起こすには、充分な相手――ダークエルフのパーティ――だったが、今回はすべてが違った。


「王女様、よくぞ……よくぞ御無事で」


 ベルティータの姿を見るや、手に構えていた武器を慌てて収め、体格と言い外見と言い、他とは頭一つ分抜きん出た、パーティのリーダーらしき総髪の男が、震える声でそう声をかけて来る。

 残りのダークエルフ五人は片膝と片拳を地につけ、顔を伏せている為に判らないが、時折肩や背が小さく震え、声を噛み殺し微かな水音だけを生み出している。

 リーダーはベルティータを庇うように取り囲む、元『パラベラム』、現『ダーククラウン』のメンバーを見回し、大きく頷いた表情は警戒でも疑惑でもなく感動。


「そのお歳で既にこれ程の軍勢、数もさる事ながら、いずれ劣らぬ面構えの勇者ばかりとお見受けする。

 その上……竜の加護をも得ているとは、まさしくあの御方の御息女、面差しも良く似ておられる……」


 言い終わると、他の五人と同様片膝と片拳を地につけ、晴れやかな笑顔を向けた。

 よく見れば、装備の所々は欠け、摩耗し、ほつれ、靴は擦り切れ。

 傷跡で真新しく肌を飾らぬ飾らぬ者は、ひとりとしていない。


「御身の御無事を確認できた今、もはや我らに思い残すことはありません。

 女王陛下を御守り出来なかった罪、王女殿下を御救い出来なかった罪にて、今こそ我らに処断を下してください、貴女様の御手にて」


 そこには言い逃れも、誰かへの恨みもなく、ただ安心した安らかな笑みと、闇の女王と呼ばれる者への忠心が、今も曇ること無く輝いていた。


 これで再びあの御方の下へと馳せ参じ、御心の安らぎを得るであろう、姫様の無事を報告できる。


 言葉にすることを必要とせず、その思いは容易に表情から窺い知ることが出来た。

 その姿を見守る『ダーククラウン』のメンバー達もまた、一言も口を利くことが出来ず、沈痛な面持ちを浮かべるのみ。

 なぜなら、目の前に居るダークエルフ達の主であり、ベルティータの母親として語られる人物を、クエストの達成のために倒した――殺したのは、彼ら自身であるのだから。


 敵として、障害として認識していた時、彼らにとってダークエルフ達は、邪魔なものとして・・・ただクエストの難易度を上げる『めんどくささ』を示す記号や

 鬱陶しい罠として、無意識に処理される、『ただの情報』でしか無く。


 今身を置く側を変えた彼らには、BABELは全く違って見えた。


 アルリールが口を開くも、声が漏れ出る前に再び閉ざすが、すぐ横でナインは言葉を発することを止めなかった。


「待ってくれ!女王の……女王のことを、俺達にせめて教えてくれ」


 聞いてしまえばもう引き返せない・・・いや、最早そうなのだ、とまでナインが考えて口にした訳ではない。

 クエストをクリアしなければ、こんなことを知りもせず、ベルティータもこんな姿ではなかっただろう。

 そう、識ってしまった以上、それを見なかった事にしては進めない。

 相手がNPCで、その台詞が誰かにプログラムされた物だと、わかっていても。


 知れば傷付き

 知らぬふりをしても誰も責めない

 瘡蓋を引き剥がし、開いた傷口に塩を塗りこむ行為だと解って尚、躱さない。


 故にアルリールからは、バカ9と呼ばれ。

 『聖騎士』を自称しても、誂われはするが、否定はされない。

 ナインとは、そういう人物であった。


「おかしなことを言う、今さら教えることなど何もないだろう。

 あの御方は、侵略者から我々を護るために立ち上がった聖女にして、安住の地を彼奴らより取り戻して下さった勇者。

 今日我らに生も誇りも有るのは、あの御方のお陰であることなど、子供でも知っている」


 戦争とはそういう物だ、片側に言い分が有るのであれば、もう一方にも言い分は有る。

 英雄の討伐戦とは、相手にすれば虐殺者の殲滅戦となり。

 最奥地で勇者の率いる軍に大打撃を与えた女魔王とは


 逆側から見れば、滅亡から皆を救った、聖女にして勇者に他ならない。


「突然我等を悪と言い出し、村を、森を、泉を、洞窟を、破壊され踏みにじられ、女子供までもが皆殺しにされたその上で。

 滅亡か奴隷かと、何の罪の意識もなく、良心の呵責すら無く、突きつけてきた畜生共から、種族を超えて我等皆を護るために立ち上がった、偉大で優しい御方だ」


 ~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~


 闇の女王は世界の半分を、その力で統べる。

 その勢力に呑み込まれ、世界が闇に染まらぬように

 三国は協力して闇の軍勢を討ち滅ぼす戦いに乗り出した。

 君達の手で、勝利をつかむ冒険が始まる。


 ~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~


 BABELの説明文を思い出したナインは、はっきりと理解した。

 ゲームだから、敵を倒してお金と経験値を稼いで、レベル上げをする。

 自分が世界を救う勇者に成る、そんな妄想を掻き立てるための説明文。


 だから、そういうものだと考えていた――否、考えることをやめていた。


 闇の女王は、侵攻したとは一言も書かれていない。

 闇の軍勢が、どんな悪事を働いたのかも、何の説明もない。

 ただ何の理由の説明もなく『討ち滅ぼせ』と、それが前提として書かれるそこには


 『戦い』と書かれながら、『冒険』と書き重ね。『戦争』と言う単語が、一度として出てこない。

 当然だ、出る筈がない。『戦争』とは、国と国との外交の一形態であり。

 相手の種を滅亡させようと、三国が仕掛けたとなれば、標的は必然的に--国という体勢を必要としない--少数種族。

 戦争ではなく、生き残りをかけた生存競争ですら無く、ただただ相手の種を排除する為の、交渉の介在する余地のない、根絶を目標とした一方的な虐殺。


 そんな時に、闇の女王が侵略者を追い払い、生存競争にまで差し戻した。


 一方的な虐殺だった為に殆どなかった損害が、血みどろの殺し合いへと移行した事で、急速に死者の増えだした三国が軍を退き。

 冒険者という使い捨て出来る者達を利用した、テロへと戦い方を移行した。

 理由は簡単、兵が死ねば金がかかるからだ、冒険者を雇う為に必要な端金よりもっと。


 その上、軍隊が負ければ国の威信に傷がつき、ひいては戦勝後の戦利品の奪い合いで、他の二国に多くを奪われかねない。


 アルリールは瞬間的に至った、その答えにも表情一つかえず。

 遅れてナインが答えに辿り着き、苦悩するさまを静かに見つめていた。

 今の話ですら、一方からの視点の見解にすぎない、と冷厳な知性は理解しているのだろう。


 重苦しい空気が立ち込める中、アルリールが振り向いた先は、当然だが一人の幼女、彼女の天使だ。


 ベルティータは、ライトの背に乗ったまま、跪くダークエルフ達の前へと進み出ると。

 ライトの太い首をちまい手で叩いて下げさせ、滑り台の様に勢い良く滑り降り、そのまま前に転がる。

 幸い下は砂なのと『怨念さん』のがんばりもあり、けがをすること無く綺麗に転がり目の前で止まった。


 砂まみれのまま、わちゃわちゃと短い手脚を使い、身振り手振りで何かを伝えようとする。

 だが、ダークエルフ・リーダーの誠実そうな顔に、ありありと困惑の表情が浮かぶのを見て、右へ左へと首を傾げ、どういう結論が出たのかちまい手の平を上に向け差し出した。

 周りで見守っていた一人が、ベルティータのその仕草で、とある人物に言われた言葉を思い出す。


 『それなら、くれって手伸ばすだろ』


 漸く理解できるベルティータのジェスチャーに、一団のリーダーが背負い袋から、絹らしき布に包まれた物を取り出し。

 布を解き、中より取り出したの一振りの剣を、ベルティータへと捧げ持つ。

 黒を基調にし金と赤で彩られた、精緻な装飾を施され、宝石の散りばめられた短めの細剣は、赤黒い不吉な輝きを纏っている。


 見るからに『呪われ』系の武器、それ故に男が口にしていた言葉が、本気であり真実であることが証明された。

 男は――いや、男達は彼らの聖女である者の娘に、普通の武器が持てぬことを識っており。

 態々持てる武器を用意し、常にこの時に備え、持っていたのだから。


 鎧をも容易に貫き、相手の生命を奪えそうな、自身の身長と同じ程の細剣を受け取ったベルティータの姿に、皆が息を呑んで見守った。

 不断冷静すぎるアルリールやユーレリアが、ハラハラしながら胸の前で手を握りしめ。

 どんなピンチでも沈着に対応するジゼが、オロオロと取り乱すのを、師匠落ち着いてください、とミリアが窘める。 


 皆が注目する焦点、亡き女王の遺児にして、闇の王女であるベルティータは、不思議と似合う細剣をスラリと抜き放つ。


 ・・・事が出来なかった。


 10cmほどが、鞘から抜けたところで悩み出す。


 反りでも有れば、反りに逆らわず捻ってみたりと、試す事も出来るだろうが。

 細剣は細剣であるからして、刃は真っ直ぐである、捻ろうが引っ張ろうが、押そうが抜けない。

 取り敢えず身体的な問題で、縦に引き抜く事は不可能だと悟り、左右に引っ張って抜けず。


 頭の上に感嘆符を生み出したベルティータが、細剣を地面に置いて両手で細剣の柄を持ち、ズルズルと引き摺るが砂の上に線を描いただけに終わる。


 眉間から雷的な何かを生み出したベルティータが、『鞘の先端』を両手で握って引き摺ると、漸く抜き身の細剣が砂浜に現れた。


 やり遂げた感溢れる表情に、見守る者達の目が和らぐも、ちまい手が細剣の柄に伸ばされた事により、新たな心配の種が一斉に華を咲かせる。

 幸いにして、ひとつ目の心配事項である、持ち上げられるの?、は普段から身体の半分程もある--本人にとっては--巨大な本を、日常的に引き摺っていた為か、見事にクリアーした。

 そのせいで、ふたつ目の心配事項の、ケガでもしないか?、が余計に強くなっている保護者の方々は、もういいから鞘に納めてくれと祈るばかり。


 冒険などした事もなく、剣など初めて持ったベルティータは、よたよたと覚束ない足取りで、一団のリーダーに近づくなり、その頭に手にした細剣を振り下ろした。




 コツンッと小石でもぶつかった様な、ダメージにもならない威力に、申し訳程度にリーダーの頭髪が揺れる・・・




 そのまま、他の五人をコツンコツンと叩いてまわり、砂浜に細剣を横たえ、そろそろと鞘を持って剣を収める。

 小さな金属音と共に、刃が鞘の内に全て隠れると、見守っていた者達から、一斉に安堵の息が漏れ出た。


 死を覚悟していたのに、出血どころかダメージもなく、何が起きたのか理解できず。

 リーダーが呆けた表情でベルティータを見上げる寸前、これはまだ処断の前段階では無いか、と勘違いして再び黙って頭を垂れ、剣による断罪の一閃をひたすらに待つ。

 武器など今迄持った事もないベルティータが、構えや用法など知るはずが無く。

 細剣を大上段から振り下ろすと言う、用法間違い以前に、頭に当たったのは刃では無く剣の平部分。


 保護者の方は、刃物を持って転んだらどうしよう、と息を詰めて見守っていたのであって、最初からベルティータが彼等に、傷ひとつつけられない事など解っていた。

 最初から、殺す気など欠片も無い事も疑っていなければ、ダメージを与えられ無い事も疑っていない。


 何しろ、どんなに凄い伝説級の武器であろうと、見守られていた幼女は所詮レベル1。

 攻撃された側は、どう見ても高レベル。

 レベル補正が掛かる事を考えれば、相手を殺す事など夢物語、ダメージを与えることすら出来るのか怪しい。


 むしろ、ダメージを与える前に、転んで自分を斬りつけ、自滅してしまう可能性の方が、遥かに高く現実味がある。


「姫様、御立派です!」


 感極まったミリアが、半透明の身体を震わせ、目尻の涙を払う姿には、流石に周りからの賛同は無いが。

 少なくとも、実は自分達の方が悪の側だった、などと言う悲壮感溢れる張り詰めた空気は、完全に授業参観に似た空気に上書きされ、跡形もなく消えていた。


 2016.10.04追話

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ