31.ちゃんと認識しよう
二回目のキャラ紹介のようになってしまい、なかなかお話が進みませんが、楽しんで書いております。
今話では、書き加えた最後の部分が、個人的には気に入っております。
読んで頂けた方に、面白いと思ってもらえたなら、嬉しい限りです。
31.ちゃんと認識しよう
「あちちちちっ!死ぬ!死んでまうって!
ぎゃーっ、肌から煙出とるっ!」
一瞬で追いついた地点では、脚でも絡まって転んだのか、転げまわって痛がるという、見事なまでに言い訳の出来ない完全な醜態を、ゼフィリーが晒していた。
周りには人影がなく、皆警戒した面持ちで遠巻きに見守るばかりで、誰も近寄って来ようとはしない。
相手も不明なら、自分が何を出来るのかも、正確には不明な現状、のこのこ無警戒に近づくほうがどうかしている。
その上、何が起きるかわからない以上、絶対に命の危険を感じる事態には近寄るな、という厳命がエイトよりくだされていたのだ。
なにしろ、ホームポイントは全員にギルドハウス設定してあるが、転生した今や敵地にほかならない。
そんな所に戻ってしまえば、一体どうなるのか想像もできないのだから、当然の予防線。
ぎゃーぎゃー大騒ぎしたまま転がり回ったゼフィリーが、巨大な『転生の繭』の影に転がり込み。
全身を文字通り燃え上がらせていた炎が消え、焼け焦げていた肌が白煙をあげて瞬く間に再生していく。
「こ、これは伝承舐めとった・・・いや待てよ?
おかしんとちゃうか?こんな痛いんゲームで有りか?
転生したせいかしらんが、痛みのリミッター壊れとんのか?
腕ぶった切られた時より、熱ちかったで今」
痛みから開放されて、思考が切り替わったのか。
先ほどまでの取り乱しようがまるで嘘であるかのように、冷静に事態を分析していく。
そんなゼフィリーの姿を、ベルティータとアルリールを背中に載せたライトは、すぐ上から眺め
なんか言ってやれよ、このままじゃ頭がパンクすんのわかってんだろ?
無言でうったえかけてくる、真っ黒で大きな目に
アルリールがめんどくさそうな顔を向け
めんどくさそうなため息を付いてから
めんどくさそうにゼフィリーを見下ろした。
「そんな事もわからないのですか。あぁ、貴女は死んでも治らない病気ですから、転生ごときでそれが治るわけがありませんでしたね、失礼しました。
服も着ずに直射日光を浴びた馬鹿なヴァンパイアなど、当然そうなります。
いえ、唯のヴァンパイアであれば滅んでいたでしょうが、幸い貴女は元が上位種であったので、ヴァンパイアの上位種なのでしょう、その上レベルも99でしたから、奇跡的に滅びなかった訳です」
なるほどと納得したように、アルリールの腕の中で頷くベルティータ
その銀髪を撫でながら、訴えかけてくる身振り手振りを相変わらず理解できず、申し訳なさそうに謝る。
思考力という点では、アルリールは群を抜いているのかもしれないが
視覚情報に拠る直感力というものが、決定的に欠落しているのか
ベルティータにベッタリであるにもかかわらず、他の誰よりもベルティータのジェスチャーを、読み取ることが出来ない。
「やったら、痛みの異常事態はどう説明するつもりや?
安全のために一定以上の痛みをプレイヤーに与えない、ちゅうのはVRで常識やろ?」
ゲームん中で殺人事件が起こんで、こんなんやったら。
口を尖らせながら反論するゼフィリーを冷たい目で見下ろしながら、鼻を鳴らしその反論を振り捨てる。
「いいですか、ヴァンパイアはアンデットなので、精神系のバッドステータスはつきません。
つまり、貴女はどれ程痛くとも、死ぬことも、気絶することも『出来ない』のです」
不死の怪物にして夜の主たるヴァンパイアだ、夜の再生力であれば心臓を刺されても、チクリと感じる間もなく再生するだろう。
だが最も能力の低下する真昼間、再生能力も当然低下し、そんな状態で炎天下に裸で出たのだ。
毒・・・と言うより、溶解液に飛び込んだようなもの。
もちろん痛みはそのままではなく、軽減されてプレイヤーに伝えられるが
全身余すところなく一度に痛みを伝えてくるのを、瞬時に再生され、再び痛みを伝え・・・
死ぬことも出来ずに、それは延々と繰り返されることになる。
機械的なデータとしては、規定範囲以内の痛みをごく短時間伝えていても、受け取る側のプレイヤーはそれを断続ではなく連続で受け取ることになる。
さらに、アルリールが言った通り、気絶状態となって遮断することも出来ないのだ。
「あれ?・・・それって私も同じですか?」
ようやく追いついてきた一団の中から、ミリアが恐る恐る声を掛けてくるのに、アルリールが頷き返す。
頭を抱え込んで震え出すミリアの、肩に置こうとしたナインの右手が肩を通り抜け、ミリアの体に重なる。
「ただし、通常の武器であれば、その通りダメージを与えるどころか、触れることすら出来ませんので、それ程怖がっていなくともよいかと思います。
見たところ日光にあたっても弱っているようにはみえませんし、イメージで選んでしまったどこかの誰かより、余程賢い選択です。
幸い・・・といっていいのかわかりませんが、ミリアはレベルが低いので、最悪の場合でもゼフィリーほど長く、苦痛を感じ続けることは無いでしょう」
至極冷静に告げるアルリールが、面倒だと思っているわけでも、冷たく突き放しているわけでもなく。
最も解りやすいように、感情を排した要点だけを端的に説明しているのだ・・・と理解できるくらいには、ミリアとアルリールも付き合いが深い。
その鎹となったのが、言うまでもなくベルティータ。
何しろ、アルリールはベルティータのジェスチャーがほとんど理解できないのに対して
ミリアはアルリールが言うところの、理性で物事を把握しないゼフィリータイプの人間だが
不断の努力で『ベルティータ語』をマスターした?結果、ベルティータの身振り手振りから、信じられないほどの情報を読み取るのだ。
ある意味において、正反対な二人だけにお互いが相手を認めており、一種尊敬しあっているといってもいい。
それ故に、喧嘩や言い合いになど成らず・・・そんな二人が共通している点が、ベルティータに対する異常な好意で
ベルティータに対する、お互いの立ち位置が微妙にずれているのが幸いし、友好的な協力関係になっている。
昔のアルリールを・・・『氷の魔女』と呼ばれた――一応、今も呼ばれてはいる――彼女を知る者にとっては、二人の関係は信じられない物を見るような目を向けるだろう。
事実信じられないのだ、コミュニケーションという事にすら能率を求めていた・・・というふうに見えていた彼女が
ジェスチャーを読解する、ただその一点でのみ自分を凌駕する相手に、敬意を払うなどということが。
二人のやり取りを横目にそんな事を思いながら、ナインがバックパックの中から、ポンチョを引っ張りだしゼフィリーに差し出す。
「姐御を見下ろすのもなんだか変な感じだな・・・
変な侠気見せて、野ざらしの所で転生なんかするからそんな目に合うんだよ、まったく。
ジゼ達みたいにちゃんと海の家使えばよかったのに、女性優先なんだから」
「あないにSAの女子トイレ見たいな行列待っとられんわっ
別に見られて困るようなもん、付いとらんからなウチは。
いや・・・前より胸はでっかくなったか?」
青白い自らの胸を見下ろし、ほほーっと、どこかおっさんのように喜びの声を上げながら
ナインからポンチョを受け取り、すっぽりと頭からかぶって、巨大なてるてる坊主のような格好になったが、それでも文句ひとつ言わず、巨大な闇の球体の影からはでようとはしなかった。
無茶を、勘と勢いとでゴリ押しするようなゼフィリーが、である。
普通の人間であれば、軽くトラウマものの体験だったのだろうが・・・
姐御じゃ一体何時まで自重してくれるのやら。
ナインがため息を付く頃に、ゆっくりと後から追いかけてきたユーレリアと、ゼフィリーの服や装備を拾ってきたグリムリープが、ようやく追いついて次々と水やら服やらを手渡す。
一緒に冒険に行くことは滅多にないが、高レベル採掘スキル持ちのゼフィリーは、グリムリープやライトとはかなり仲がいい。
取分け、自分の工房にこもっていることが幸せ、というタイプのグリムリープに代わって、武器や防具などの生産品をギルド外のプレイヤーに向け、露天売りなども担当している為。
二人の間での個人会話のやりとりは、下手をするとギルド内で最も多いレベルである。
「こういう時、ゲームて便利やなーて思うわ。
体型変わっても、装備が勝手にサイズやら何やらあわせてくれよるからな」
「デカ女もガリドワーフも結局普通サイズになりやがって、どいつもこいつも冒険心ってもんがねぇ。
オレと姫さんと、コイツくらいか?個性ってやつを大事にしたのは」
顎をしゃくってライトが示してみせた先には、ゼフィリーを救った超巨大サイズの転生の繭。
確かに、如何に会話が出来るとはいえ――選択時にはそんな保証は何処にもなかったが――八本脚の馬になったり、小さな体育館ぐらいの大きさになったりと、かなり冒険をした選択であることは否定できないが。
陽光の元を全裸で疾走して死なないヴァンパイアだの、手脚が分離可能で更には遠隔操作まで出来る人形娘を掴まえて、まとめて『普通』のカテゴリーに突っ込むライトに、誰も賛同する気にはならない。
「デカ女はヤメロ言うたやろ、あんなぁいま殴りおうたら、どっちが勝つかわからんのか馬?」
服を着込んでから、豪快に水を喉に流し込み、漸く一息ついたゼフィリーがそこで初めて、遠巻きながら周りに人が集まり囲んでいる事に気づく。
見回した視界にはダークエルフの集団の中に、ぽつりぽつりといるオーガやラミアといった変わり種を見つけるも、如何な『パラベラム』メンバーといえども、完全に人型を放棄した者はライト以外には早々見当たらず。
確かにちょっと無難すぎる、と感じてしまう辺りが、ライトと口喧嘩が成立する所以なのかもしれない、つまりは結構感性が似ているのだ二人は。
眉を寄せ、もう一巡り周囲を見回してから背後の転生の繭を見上げ
なるほど、と妙に納得した表情を浮かべ口角を吊り上げていく。
つまりは、この命を救ってくれた・・・日除けになった特大の繭の中身が誰なのかを、ゼフィリーは理解し
取り囲んで見守っている、周りの者達も当然皆知っていて
一体どんな姿に変わるのか、興味を隠せないで居るということなのだ。
「随分思い切ったな。
そんなナリやと銭もっとってもしゃーないやろ、ウチが有効に使ったるから財布預けてみライト」
「アホ抜かせ、彫金てのは原材料が糞っ高い、ハイリスクで繊細な趣味なんだぜ。
穴蔵こもってツルハシ振ってるのたぁ訳が違う、お前の方こそ使い道ねぇだろ?
オレ様が使ってやるからありがたく献上しろ」
馬面が顎を差し上げ、上から目線でゼフィリーを見下ろしながら、鼻で笑う。
「大体、お前ぇがさっき言ったんだろ、体型変わっても装備が勝手にサイズ合わせるって。
そいつぁ、人型じゃなくなったオレにだって、ちゃーんと当てはまんだよ」
尻尾でゼフィリーの鼻先を軽く叩きながら、馬面で器用に鼻にシワを寄せてみせる。
「やったら、勝負やな」
「たりめぇだ、金貨一枚」
顔を下げ凄んで見せるライトに、オーバーなジェスチャーで肩をすくめて見せながら
わざとらしいため息をついて、小馬鹿にした表情を向ける。
「あんな、ガキが粋がってんのや無いんやぞ?・・・金貨五枚」
「上ー等ーじゃねぇか、いいぜ受けてやらぁ、負けても泣くなよ」
金貨五枚というのは、BABELにおいて大金である。
ギャンブルのレートとすれば、友人関係にヒビが入るレベルの。
というのも、普通の者には全く縁のない金額で・・・一部HQ狙いで頼まれる様な、トップを走っている生産者連中だけが、流通価格が安定する前に、荒稼ぎして掴める様な代物。
そうではない一般的な金策では、BABELは非常に稼ぎにくいのだ。
運良く需要が非常に高く、供給が非常に悪いレアアイテムを手に入れ。
それが偶々市場に一つも出ていない所に売りに出して、値の吊り上げ合いが起こっても、そんな金額にはならない。
何かサブスキルでの金策、という手段があればいいのだが。
それすらなければ・・・何らかのバグを発見した上で、無警告垢BANのリスクを負って勝負に出るか。
プレイヤーから総スカンを食らう危険を犯して、詐欺行為で掠め取るか。
或いはただひたすら愚直に、ログインしてろくに会話もせずにひたすら金策だけをし、日付を超えるまでひたすらに続けるてログアウトと言う、もはやゲームでも娯楽でもなんでもないような生活。
それを一日も欠かさずに十数ヶ月間続けるという苦行をのりこえ、その上でなおBABELを止めなかったとすれば手に入るような・・・そんな額である。
・・・バカだ、バカが二人もいる。
唖然として目の前のやり取りを眺めていたユーレリアの肩を、慰めるようにナインが叩き
何処か慰めるような表情で、無言のまま数度頷く。
「で、一体二人は彼が、どの種族を選ぶ事に賭けるのですか?」
両の手を二人の方に差し出しながら、アルリールが静かに尋ねた瞬間二人が悟る、両者が共に外した際に痛み分けで無かったことせず、何のリスクも負わずに金貨十枚を回収に来たのだと。
啖呵を切ってしまった二人が、今更引けないのを承知のうえで。
『汚い』とは違う、もともとアルリールが罠を張り、そうなるように仕向けたわけではないのだから、この場合は狡猾が正しいだろう。
ベルティータには答えがわかったのか、口の前で両人差し指を交差して、ないしょの構え。
「このメダルが落ちたと同時に発表だ、同じ答えなら早い奴が勝ち、でどうだ?」
不敵に笑うライトの前に、銀とも虹色とも言えない不思議な色合いのメダルが、現れそのままその場に浮き続ける・・・
どう考えても奇妙な光景だが、その事にゼフィリーはもとより、事態を見守っている誰も何も言わない。
幾らBABEL運営だとて、、流石に『馬になったので今後アイテムは一切使えません』などという、投げっぱなしはしないと思ってのことか、それともスレイプニルなのだから、そのくらいのことは出来ても不思議はないとの判断してかは、各々違うが。
「ええやろ、何時も『正々堂々』いうてんの信用するわ」
すっと右足を心持ち引き、肩の力を抜いて手は腰のあたりで開き、わずかに腰を落とすゼフィリー。
相手のクイックドローでもする様な姿を前に、ライトは笑いもせず鼻先でメダルをはじく、周りの緊張も何故か高まり皆の視線が、陽光を反射しながら放物線を描くメダル、ただその一点に集中する。
故に、誰もがミスの原因に気付かなかった。
トラブルと理不尽の神々に溺愛された、彼らの姫の行動に
ベルティータは、ぴょんとライトの背から飛びつき、見事に両手で挟むようにメダルを捕まえると。
衆目が一点に集中している中、完全なるドヤ顔で、今手に入れた戦利品を高々と掲げてみせた。
ざーっと一瞬にして観衆の高揚感は波を引き、代わりに脱力と苦笑いが押し寄せる。
・・・唯一人、アルリールを除いて。
誰の手にも金貨を渡さずに
誰の心にも負の感情を生まず
この場を収めてしまった
自分のように、自ら悪者を買って出ること無く。
アルリールはベルティータを抱き上げ、ギュッと抱きしめる。
真っ赤に染まった褐色の肌を隠すよう、その銀の髪に鼻先を突っ込むようにして。
小さくそっとささやき告げる。
「やはり私は、貴女のことが羨ましいし・・・好きです」
その時、アルリールの心を表すかの様に、背後の巨大な闇の塊が、音もなく解けて消えた。
2016.10.03追話




