30.新たな能力を自慢しよう
ほのぼのというよりは、はっちゃけという感じの今話、楽しんで好き勝手やっております。
曲者変わり者が多い『パラベラム』のメンバーが、何を選んだか予想をいい方へ裏切れたらいいのですが。
読んで頂けた方に、面白いと思ってもらえたなら、嬉しい限りです。
30.新たな能力を自慢しよう
一瞬あっけにとられたナインとは違い、ベルティータの金色の大きな瞳はキラキラと輝き、そっと掬い上げるように、火の玉の下へと手を差し伸べる。
青白い火の玉は、促されるままにベルティータの手の上に、ちょこんとのった。
周りで見ていたものは焦ったが、そこには見かけから予想された程の熱量はなく、重なった部分がほんのりと温もる以上のなにも、ベルティータに伝えては来なかった。
顔を寄せ、大きなツリ目の中から、金色の瞳が興味津々に向けられ、ミリアも流石に恥ずかしかったのか、青い火の玉が僅かに身をくねらせる。
「ず、随分大胆に変身したなミリア」
「いえ、実はそうでもないんですよ。
多分、アルさんと同じかそれ以上に、元の見た目を残してるんです」
ふよふよとベルティータから少し離れると、火の玉は掻き消え。
代わりにメイド服姿の、半透明のミリアが姿を現す。
「これで、壁でもどこでも突き抜けて、すぐに姫様の下へ参れますっ
更に、一人でご本を読まれるとき等には、視界に入らない人魂モードに!
これからは何時でも何処にでも、姫様に憑いていきます!」
自信満々に胸を張って答えるミリアに、壁を抜けるのなら、どうやってお茶の用意やらをするつもりだ?と聞けるほどには、さすがのナインも残酷にはなれず。
回復魔法を使う、世にも奇妙なゴーストですね、とのアルリールの冷静な指摘に、実は装備も変えられるんですよ、などと楽しげに返すミリアの声に頭痛を覚える。
「貴方、結構苦労人?」
ユーレリアが、ベルティータに頬ずりするように顔を寄せ――もちろん頬ずりはして――ナインにそっと耳打ちする言葉に、小さなため息と苦笑いを返す。
その言葉を否定はしないが・・・まだ、そういうには早すぎる。
思いをありありと乗せた表情を読み取ったユーレリアが、肩を軽く叩きながら小さく頷く。
人間、自分に同情的な相手には、冷たく対応する事には抵抗があるもので。
ベルティータの命を狙ってきた相手として、アルリール程ではないとはいえ、ユーレリアに余り好意的ではなかったナインだったが、一定の友情めいた感情が湧き上がってくる。
「この先を見ていれば解るよ、今日から君も同じ立場だ。
一般常識ってものを、自分が持っているという自信があるのならね」
もっとも、ラミアにいきなりなった相手に、一般常識云々と余り言って欲しくはないな。
そっと心のなかで付け足しながら、顔には毛ほどもそれを出さず。
ユーレリアに肩を竦めて返した直後、横合いから非難とも笑いとも取れるような声が掛けられる。
「なんだよそのしけた面は、お前せっかく生まれ変わったんだからパーっといけよ。
聖騎士だの何だの言ってた癖に、選んだ種族は結局ダークエルフとか。こう、もっとあるだろっ、デュラハンとかそれっぽいのが」
振り向いた三人の目に飛び込んできたのは、上から見下ろす馬面。
黒曜石のように美しい黒の毛並み、僅かな風に流れる長い鬣。
筋肉質の巨大な体躯、それを支える太く逞しい脚。
比喩でもなんでもなく、馬の顔がそこにはあった。
「俺様なんて見ろ、流石にちょっと悩みはしたが
最速を目指すからには、やっぱり人型捨てなきゃなんねぇだろってんで
超イケ面ボディを捨てて、超馬面ボディを手に入れてやったぜ!」
馬のドヤ顔という貴重な代物を前に、度肝を抜かれ過ぎて、反応することすら出来ないナインとユーレリア。
声と口調から相手がライトだということは、少なくともユーレリア以外の者達にはすぐに解った。
だが、あのド派手な暗殺者の姿と、目の前の馬が同一の存在だと、どうしても頭が納得してくれず、思考がフリーズする。
ただ一人ベルティータだけが、妙に興奮したように目を輝かせ、長い耳をしきりにピコピコ上下させて、ナインの肩越しにちまい手を伸ばす。
「お、流石だな姫さん、この格好良さが解るか。
どんな戦闘スキルが有んのかしらねぇし、剣が持てるとも思えねぇが、レベルはキャップのまま持ち越しだ!・・・ってことはよ、俺より速い奴ァBABELにいねぇってことよ。
それに安心しな、どうやってやるのかわかんねぇけど、宝飾スキルはまだ使えるのは確認したぜ」
戦闘スキルより、サブスキルの宝飾を先に確認したと堂々と言い放たれ、ライトが求めていた『はやさ』が、戦闘行動的な『速さ』ではなく、もっと単純な『捷さ』であったことを、そこで初めて気付かされる。
ヒョイッとベルティータの前に首を下げ伸ばし、小さな手がしがみつくのを確認して、ライトが首を持ち上げると
ベルティータの小さな体が上下逆さで、その太い首を滑り台のようにずり下がって、金糸銀糸で刺繍され、処々に宝石まで飾られている、深紅の飾り布が敷かれた、ライトの広い背中で一回転しちょこんと収まる。
「乗馬技術とか姫さんは覚えなくていいからなっ
ぜってぇ揺らさずに走ってやるし、そこから落とすような真似ぁしねぇから、信用して安心してな。
ユニコーンだのペガサスだのとは違う、レベル99のスレイプニルの実力ってやつをよ」
ニヤリとベルティータを振り返って笑うライトは、馬になってもその伊達男ぶりは些かも衰えず。
片目をつぶってみせながら、僅かに顎を跳ね上げ、豊かな黒いたてがみを瀟洒に揺らす様は、元が誰だったのか声を聞かずとも間違いようがない。
もはや、馬の発声器官でどうやって人語を発しているのかに、世界観的にはどんな説明がつくのか、などという疑問すら湧いてこない程だ。
「どうしてそこで、回復使えるユニコーンとか、空飛べるペガサスじゃなくて、何の取り柄もないスレイプニルに行くかなぁ。
蹄鉄の数も倍じゃん、まったくもって意味がわかんないよねぇ
ケンタウロスとか半端に人型に未練を残さないところは、まぁ認めてもいいけど・・・」
後から掛けられた声に、あぁ?、とドスの利いた声で睨み返す馬面。
「風捕まえて空飛んで最速でーすなんて、スピード特化したモヤシ野郎かっての。
そんな美学のねぇカッコワリィ真似できっかよ、第一まるっきりやられキャラじゃねぇかそれ。
自分の足で地面蹴りつけて、どんだけ速いか、そこが重要なんだろうがグリム」
声と喋り方で、相手をグリムリープと判断したライトだが
向けた視線の先の人物に・・・無い眉をしかめる。
「なんだ?そのカッコ・・・もしかしてお前、あんだけ変人の本性晒しといて
この期に及んで、女の子扱いされたーい、とか思っちゃってんのか?
騙されるバカいるわけねぇだろ、今更」
ケッ、と人の悪い馬面で笑い飛ばし、肩をすくめようとして・・・
尻尾を振ってペシペシと、グリムリープらしき相手の頬を叩いてみせる。
鬱陶しそうに、その尻尾を片手で払いのけたのは、ウェーブのかかった長い赤毛の美少女。
妙に強調された眼の奥から、サファイアの様に澄んだ青い瞳を、ライトに向ける少女の姿は可憐の一言。
胸は上着を押し上げて存在を示し、腰は折れてしまうのでは無いかと心配に成る程くびれている、腕も脚も細く長く、どこもかしこも整いすぎていて作り物めいた印象を受ける。
どこからどう見ても美少女であるのに、野暮ったい革紐で乱雑に二つ縛りという大変残念な髪型をし、着ているのはこれまた野暮ったい作業着、頑丈なことだけが取り柄のようなブーツ。
更には首にぶら下げたゴーグルに、白い手にも細い腰にも全く不釣り合いな腰袋、ベルトに挟んでいるのはゴワついた皮の手袋だ。
素材の良さを完全に殺しにかかっている残念美少女は、腰に手を当て、なんか文句ある?といった顔だ。
だがよく見れば、服から覗く真っ白い肌は、硬質な輝きを放っている。
「外見はどうでも良かったし、これでも大人しいのを選んだんだけど・・・まぁそう言われると思った。
この種族選べたのは、元ドワーフだけなのかな?
もっと人気出てるかと思ったけど、他には居なさそうだねぇ」
ぐるりと360度頭を回して周りを見回しながら、腕を組んで首を傾げてみせるグリムリープに、ライトのみ成らず、その場のベルティータとアルリール以外の全員が目を剥き、或いは悲鳴を上げた。
してやったりという表情のグリムリープに、ベルティータはちまい両手を叩いて大喜びしている姿は、まるっきり隠し芸を見て喜ぶ子供。
「ドール・・・正確にはリビング・ドールですか。
貴女にしては随分と・・・なるほど、そういう視点から見れば実に貴女らしい選択です」
いつの間にかライトの背に横座りに腰を下ろし、腕の中にベルティータを抱き上げたアルリールが、目ざとくグリムリープの手首のあたりを見つめながら、納得した表情で数度頷く。
それに気づいた他の面々も、服から覗くグリムリープの手首へと目を向け
しなやかに稼働する球体関節に、無言で納得し頷いてみせる。
「でしょ?この機能美溢れた球体関節、でも皆が思っているような理由だけじゃないんだよねぇ
まず、第一に暑さ寒さを余り感じないし、汗をかかない。
その上、色んな所を外せるし、付け替えることも出来る上に・・・
外した所も自在に動かせる、スーパーパーフェクト鍛冶種族!」
なに言ってんだこいつ?という顔を、馬の顔で器用に浮かべてみせるライトに、グリムリープは自分の左腕を投げつけ、投げつけた腕で鬣を引っ張りながら、近寄っていって脛を蹴りつけた。
宣言通り遠隔操作も普通に出来るらしく、左手が掴んでいた鬣を離して、落ちてくる左腕を右手で掴み取ると、左腕を苦もなく元の位置に取り付けてみせる。
「自分の腕でこうやって固定しながら、ハンマーとかを別の位置から使えるんだよねぇ
鍛冶屋としちゃドワーフにも文句はなかったんだけど、これは別レベルの凄さだよ」
なにしろ、人体構造の限界を無視できるんだからねぇ、と言うグリムリープの発言に、ナインに言われた通り、唖然を通り越して頭痛を覚えるユーレリア。
自分が、ダークエルフではなくラミアを選択した時の、決死の覚悟がまるっきり無駄なことであったかのように、自分の趣味だけのために、人型であることをあっさり止めてみたり。
或いは、見た目に関しては全く気にも掛けずに、種族特有の機能や耐性だけで選んだ、と豪語する二人。
その選択をしたことに、欠片も迷いは無く。
根底には、周りの者の意見や視線などどうでも良く、自分が楽しむ或いは満足する為以外に、選択の理由があるのか?と言う考え。
『だけ』ではないことを、二人の・・・いや、周りの人間の表情や目からユーレリアは見て取った。
たとえどんな姿になろうと、なにをもって選択しようと、此処には居場所があるという、安心感から来る精神的な余裕。
エイトの言葉は事実であり、エイト本人にだけではなく、ギルドメンバー全体に既にユーレリアは受け入れられており、何も出来ないベルティータが、姫様として受け入れられる。
ある意味、他のどの廃ギルドよりも受け入れがキツイと言われていた『パラベラム』。
その理由が、中に入ってみてユーレリアにも、ようやく理解できた。
緩い空気でありながら荒れない為に、人間をみて弾いていたのだ、エイトが、ジゼが、『氷の魔女』が。
そこに、自分も受け入れられたと言う事実に気づき
やっぱり悪ぶっているだけで、本当は良い人なんだと言われたような気がして
ユーレリアは一人頬を赤くさせながら、わざと不機嫌そうな表情を顔に浮かべ。
長い身体をうねらせて、ライトの上に腰掛けるアルリールに詰め寄って文句を口にした。
「当然のように、姫様を独り占めして。
服を着たからといって、そんな事が見過ごされると信じてるのですか?」
ユーレリアの文句に被るように、大声での悲鳴と砂煙が目の前を通り過ぎ。
一瞬での出来事だったため、誰も正確には事態を把握できなかったものの、手掛かりとして砂塵にまみれた空気には、何かが焼け焦げたような、鼻につく匂いが漂っている。
通り過ぎた何かに、正面から激突されたミリアだったが、半透明の身体を少し揺らめかせただけであっさりと身体を透過され、全く普段通りの声と態度で、首を傾げてみせた。
「・・・カチカチ山?でも、水ならすぐそこにいっぱいあるのに、変ですね」
いくら物理攻撃では傷を負わない、と頭で理解できていても、現実での習慣というものは早々抜けないのだが・・・
別段避けようとも、手を伸ばして相手を突き放そうとも、自分をかばおうともせずに、棒立ちで突進してきた相手が通りすぎるのを眺めていたのだ。
相当に変わり者の多い『パラベラム』ではあるが、こういうパッシブな変わり者というのは、その中でもかなり珍しいといえる。
だが、ミリアのその反応が、ただ単に頭での理解に拠るものか。
順応力の異常な高さなのか、或いはゲームだからという割り切りに拠るものかを、見ていた者達は、考え込んでいる暇はなかった。
ドップラー効果に引きずられる悲鳴が、妙に聞き覚えのある声で、この場に居ない者の顔を、皆が思い浮かべてしまったからだ。
ライトの首が小さな手で叩かれ、悲鳴の聞こえる方をつつくように、ちまちました指が指し示す。
ベルティータが、悲鳴の主を追いかけろと言っているのだと、即座に理解したライトが八本の足で地を力強く踏みしめ。
「任せろっ!肩・・・脚慣らしに砂浜ならちょーどいい」
踏み切った瞬間、爆発のような音とともに足下の砂を大量に巻き上げ、ナインとユーレリア、ついでにグリムリープを砂まみれにし。
三人が口の中に入った砂を、唾とともに吐き出しながら、涙目で文句を口にした頃には、ベルティータとアルリールを背中に載せたライトは、視界の中には既に居なかった。
幸いミリアは砂雨の被害は受けなかったものの、ベルティータに置いて行かれるという、自らの大失態にショックを受け、茫然と立ち尽くし呟きをもらす。
「あれ?この体って、もしかして走ったり出来ないのかな?」
2012.10.19
2016.10.02改




