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29.ギルドをのりかえよう

私の中では第二章の始まりですが、お話的には普通に続きですし、内容がトンデモなのも相変わらずです。

更新ペースはやる気と相談しつつ、好き勝手に書いていければと思っております。


読んで頂けた方に、面白いと思ってもらえたなら、嬉しい限りです。

 29.ギルドをのりかえよう


 見上げた白い建物は、心なしかいつもより小さく、冷たく見えた。

 窓もカーテンも絨毯も、話し合いの結果そのままにして残していくことになり、何も変わらない、何時も通りの姿・・・


 言ってしまえば、『ただそういう風に見えるデータ』で有る、にもかかわらず

 見上げる『パラベラム』のメンバーたちの胸には、こみ上げてくるものがあった。


 それが、もう二度と見ることが出来ないと知る、寂寥なのか

 ここまで作り上げた際の苦労を思う、愛着心なのか

 あるいは・・・今まで多くを過ごしてきた建物への、郷愁にも似た想いなのか。

 大荷物を背負ったメンバー全員の目には、寂しそうな色が揺れていた。


「それじゃあ予定通り、各パーティごとに移動を開始しよう。

 あのエリアは、基本的にアクティブな敵は居ないが、万が一ということもある。先行偵察パーティが、場所と安全は確保確認しているが、決して気を抜かない様に」


 態々観光エリアに行かずに、ギルドハウスの中庭ーー所謂薔薇園で転生してから移動すれば良いのではないか?と言う意見も当然出た。

 しかし、いまだギルドエリアに敵性種が入り込んだと言う話は聞かないため、何が起きるか予想もつかない。

 ましてやBABEL運営だ、そこにどんな底意地の悪いトラップを仕掛けているか、わかったものではない。


 これからは、今まで以上に運営に対して警戒する必要がある事は、もうジゼに言われるまでなく、エイトも痛感していた。

 ベルティータの移動は最後、とも考えたのだが、このタイミングでギルドエリアに『襲撃者』が来ないという保証は何も無い。

 むしろ、BABEL運営ならその位仕組んで来て当然、と言うのがもはや『パラベラム』では、共通認識となりつつある。


「4番目に姫様のパーティが移動して、その次の5番目パーティが現れて警護配置についたら、1番パーティから転生開始だ。

 全員転生完了して装備まで整ったら1番パーティがまた警護について、4番パーティから転生開始だから、転生してそのまま休まないように。

 私とジゼは先行偵察パーティに合流して、転生は最後だ」


 常に3パーティ以上が護衛につける様に、多少のもたつきやトラブルを見込んで、余裕をもたせている。

 何しろ皆初めての経験で、リハーサルなしの一発勝負なのだから、何のトラブルもなしで行くはずがない。

 最終確認にエイトがそう告げると、周りを囲んでいたメンバー全員が頷き、それにゆったりと頷き返したエイトが、穏やかな声が力強く告げた。




「では、冒険に旅立とう」




 ベルティータとユーレリアを入れたパーティが、アルリールの転移魔法によって、一瞬にして移動した先は・・・白い砂浜の日差しの眩しい孤島。

 完全武装のメンバーは、転移前から武器を構えており、周囲へ警戒の視線を配ると、完全な円周防御態勢のど真ん中だった。

 流石にこれにはユーレリアも感心し、素直に賞賛する以外の反応はない。


「お見事、と一応言っておくわ」


 燦々と照りつける太陽、耳に届く穏やかな波の音、残念ながら今回は、水着姿の美女は居ないが。

 バケモノ烏賊の姿も無く、気は抜けないまでも、即戦闘という事態にならず安堵する。


 この景観からすれば・・・次々とパーティ単位で転移してくる、フル装備で大荷物を抱えた『パラベラム』メンバー達は、この上なく場違い。

 前回より遥かに緊張した面持ちも、やはり南の楽園然としたこの島の空気には、全くそぐわない。

 パーティが結像する度に、『5』『6』とその中のリーダーらしき者が次々と数字を告げ

 ベルティータの周囲を警護するメンバーに敵性種族が混じり、『2』と大きな声が告げる頃には、ベルティータのすぐ横で、アルリールが包まれていた闇の球体――転生の繭と呼び名を付けられた――から、全裸で姿を表した。


「さあ、コレで文句はないでしょう?ベルティータを返してください。

 ベルティータ姫分が枯渇して・・・誰彼かまわず、古代魔法で消滅させてしまいたい。

 今はそんな気分です」


 両手を伸ばして、ユーレリアの隣りからベルティータを抱き上げようとする、アルリールの褐色の腕は空を切り・・・一瞬にして、空気が固体と化した。

 冴え冴えと凍える様な目をユーレリアに向け、ベルティータもかくやと言う程の、禍々しい何かを立ち上らせる。

 アルリールが抱き上げる寸前、ユーレリアがベルティータを尻尾で抱き上げ、その腕の囲みから奪い取ったのだ。

 その行動が意味するところは、即ち・・・


「どうせそんな所だと思っていました。良いです、何も言う必要はありません、わかっています。

 私のベルティータ姫が、世界一愛らしいのは、わざわざ言われるまでもありません。

 そんな相手を一日独占していたのですから、独占欲が抑えられなくなるのは当然です」


 胸の前で腕を組み、ゆっくりと大きく頷くアルリールが、微妙な違和感に気づき。

 表情の変化を見たユーレリアが、ようやく気がついたかと、呆れつつも安堵の息を漏らす。


「心なしか、胸のサイズがアップしている気がします。

 これが、エルフに対するダークエルフの優位性・・・」

「全裸の方に違和感覚えなさいよっ、この破廉恥娘!

 姫様は小さいから無邪気に笑っているだけだけど・・・周りの人達が気まずそうに、目を逸らしたりしているでしょ!」


 ユーレリアのストレートな指摘にも、アルリールは何ら慌てることも無く。

 ことさら恥ずかしそうにするでなく、隠そうとするわけでもなく――妙に冷めた目で、全裸のまま――ユーレリアの目をまっすぐに見据える。




「・・・で、それが私からベルティータを取り上げる、どんな理由になるのですか?」




 全く理由に成っていないと、本気でアルリールがそう信じている事を・・・その声は示していた。

 周りの目など、元々全く気にもしていないアルリールにとっては、裸を見られようが、顔を見られようが、そこに差などない。

 だが、ユーレリアにとってはそうではなく、たとえゲームの中のキャラクターであろうが、裸を見られることには抵抗があり、ましてやそれが不特定多数の相手となれば一大事である。


 もっとも、ラミアとかした今では、少なくとも下半身が剥き出しの蛇身であることまで、どうこう言うほど潔癖というか、病的でも子供でもない。

 それでも僅かな抵抗があるのか、腰にはストールのような緩めの布をゆったりと巻いているあたり、羞恥心はアルリールの対極といえるほどに強いのだ。

 どちらかと言えばBABELにおいては、ユーレリアの方が一般的な反応である。

 少なくとも日本サーバー内で言えることは、全裸の女性キャラが、平然と闊歩していることが、一般的とはされていない。


「姫様が、誰かに裸で抱きしめられているのを見たら、貴女はどう感じますか?

 皆にその感情を植えつけて、それが姫様のために成らないと言っているんです」


「周りの雑音などどうでもいいです。

 つまり貴女はベルティータ姫の味方で、同時に私の敵という認識で良いのですね?

 いいでしょう、理解しました、殺してでも奪い取ります」


 絶対零度の視線を向けるアルリールに、片手で顔を覆いため息を返しながら

 ユーレリアは、尻尾で抱き上げていたベルティータを、そっと地面に下ろす。


「良いですよ、その認識で構いません。

 私も前から気に入らなかったのです、ベルティータ姫を『私のもの』呼ばわりする貴女が」


 アルリールとユーレリア、同じく敵性種族になった女性キャラ二人が、小さな女の子を取り合うという、この上なく不毛な言い争いを傍目に見ながら。

 困ったもんだ、とベルティータを抱き上げたナインが、肩をすくめその場を離れる。

 言うまでもなく、ナインも元の姿ではないのだが・・・極端なことを言ってしまえば、顔もその雰囲気も変わることなく、肌が褐色になり耳が長く伸びただけ、と言えなくもない。

 もちろん、此方も言うまでもないことながら、服はもとより装備一式はちゃんと身に纏っている。


「この肌に白い鎧じゃ合わないかな?どう思う姫?

 グリムリープに言って、白の部分だけでも何とか変えてもらうか・・・いや、姫とお揃いな感じでむしろ強そうかな?

 あの二人は放っといて、皆がどんなふうに変わったか一緒に見て回ろうか」


 そう声をかけると、金色の大きな瞳が一層輝きを増し、こっくりと大きく頷いた。

 ベルティータは、いつものように小さく身体を揺らしながら、声のない歌を、ナインに抱き上げられた腕の中で楽しそうに歌い出す。

 そんなどう見ても御機嫌という様子につられ、ナインの足取りも心なしか軽い。


 本来であれば、全員の転生が終わるまで、武器を構え円周防御の中心で、警戒を続けるべきなのは確かだが。

 ベルティータはさっきから、物珍しそうに周りを、キョロキョロしっぱなしだし

 極端に変な種族を選ばない限り、操作感は今までと変わらない事が、転生してみてわかった為に、それほど神経質に成ることもないかと、緊張感も長続きしなかった。


「多分、皆ダークエルフを選ぶと思う。特に制限はないし例のクエストで、ダークエルフが強いっていう印象が頭の中にあるから。

 何より姫と同じ種族だしね」


 ピコピコと耳を上下させて同意するベルティータに、ナインも頷き返し。


 妙に真剣な顔をしたかと思うと、ベルティータに顔を寄せ


 ・・・それどうやるの?と尋ねた。


 ベルティータが身振り手振りに、顔の表情まで使って『このあたりに力を入れる感じで』と説明する。

 ナインも同じような表情を浮かべて、耳を動かそうとするのだが・・・

 眼に見えない手を動かすような、どうにもとらえどころのない感覚に、なかなかうまく出来ず。


 とりあえず、今後の課題ということにして話を続ける。


「といっても、それは一般的な話で、『パラベラム』には変わり者が多いからなあ。

 でもジゼとか兄貴とか、抑え役はダークエルフを選ぶと思う。

 誤解してるかもしれないけど、アルは抑え役なんだよ?頭はいいし、理性的だし。

 まぁ・・・姫様と出会って、別人のように面白おかしいことになってるけど」


 ピコピコと耳を上下させるベルティータに、顔をひきつらせる様な表情を浮かばせながら、ナインも微かに耳を上下させる。


「今・・・ちょっと出来た?」


 コクコク頷く笑顔のベルティータに、小さくガッツポーズをしながら、子供のような笑顔を浮かべるナイン。


「少なくとも、素直に選ばない相手が何人か俺には思い浮かぶ。

 適当に歩いて回ってもいいけど、とりあえずその何人かを探してみるのが手っ取り早いし、何を選んだのか気にもなるから、それでいいかな?」


 ピコっと一度耳を上下させるベルティータ

 ナインもぎこちないながらも、振り絞るように耳を上下させて返す。

 二人して耳を上下に動かしながら、和気藹々と離れていく後ろ姿に気づき・・・アルリールとユーレリアは、一度強く睨み合い視線を絡めると、同時に視線を切って二人の後を追いかけて走りだした。


「寂しくなったわね、随分」


 ひょいっという感じで、エイトの開く操作ウインドウを横から覗きこみ、ジゼが苦笑いを浮かべる。

 金色のポニーテールが揺れ、目元のややきつい美人であるのに・・・たまにするこういう仕草が、されたほうがびっくりするほど、無邪気で愛らしいと感じることがある。

 長い付き合いでそれにも慣れたのか、それとも異性を感じるべき感性は、友情に席を譲っているのか、エイトには別段変化は見られず、無言のまま同意の印に頷いてみせる。


 見ている間にも次々とギルドのメンバーリストから、ギルドリングを外した者の名前が消えて行くのを、ギルドマスターは一体どんな顔をして見ていればいいのか。


 自問するジゼは答えを出せず、振り返ってその答えを確認しようとはしなかった。

 そして遂には加速は止まり、リスト上の名前はエイトとジゼ、そしてグライフの三人だけになり

 ジゼは手に握る、ベルティータから手渡された『たそがれの指輪』が、重みを増したように感じた。


 * * *


 あの後、ユーレリアから説明された新たな内容に、既にユーレリアが別のギルドに属しているという事実があった。

 エイトが『パラベラム』のギルドリングを渡そうとした際に、その追加内容は告げられたのだが、別段鋭くなくとも、ちょっと考えれば誰にでもその意味は解る。

 ユーレリアもわざわざ隠そうとは想っておらず、また隠し通す事が出来るはずもなく、集まる視線に向かって、はっきりと頷いて視線の主達の考えを肯定した。


「ギルドリーダーは、言うまでもなくベルティータ姫様です」


 『たそがれの指輪』は、敵性種族に転生させる『呪縛』装備というだけでなく、言葉通りに、闇の王女に従うものとして『呪縛』される。

 一度入れば二度と抜けることの出来ないギルドへの・・・参加を誓うリング。 

 ギルド名は『ダーク・クラウン』・・・その名前を聞いた瞬間、ほぼ全員がベルティータに、正確に言うのなら、その頭部を小さく飾っている『呪縛』装備を凝視した。


 ベルティータとイルフィシア、二人のダークエルフの少女が身につけた頭部の『呪縛』装備。


 『闇の女王』クエストで『パラベラム』と『アルファスペース』が手に入れたそれが

 何故、わざわざ別アイテムであったのかという理由が・・・

 二人を見分けられるようにする為・・・だけではなかったのだと、思い知らされる。


 念のためにマリーにも確認すると、予想通りマリーも既にギルドに入っており、ギルド名もそのまま、イルフィシアの頭装備である『シャドー・ティアラ』。


 『ダークエルフの姫が、それらのアイテムを身につけた状態』というのが、『たそがれの指輪』を生み出すトリガーになっているのだろう事は、この時点でかなり確度を持つ予想。


 サブマスター・・・つまりは実質のギルドマスターは、エイトとジゼの二人に引き続きお任せします、という意志表示をベルティータの身振り手振りからユーレリアが読み取り。

 そこに僅かな嫉妬はあるものの、間違いのないベルティータの選択に恭しくお辞儀をすると、その旨をわざわざ衆目の中であえて宣言してみせる。


 次の瞬間には、何が起こるか皆目見当も付かない事態。

 最悪なのは、指揮系統の混乱によりこれだけの人数が烏合の衆と化し、『対応できたはずのもの』に各個で好き勝手にあたって全滅する、と言う事態。求心力、実績共に他の選択肢はない。

 この場合の悪手は・・・『パラベラム』を今まで纏めて来た二人を差し置いて、最初に従ったユーレリアへ自分に次ぐ発言権を与えること。


 その愚をベルティータはおかさなかった。


 これからギルドメンバーになるであろう相手の不安を、軽くしたという点を考えても

 名目上では誰がリーダーであるのかを示す、という点で考えても

 ユーレリア本人の口によって、エイトとジゼの二人にそう言わせるのは悪くない。


 ベルティータちゃんって、無邪気でとらえどころがないから、子供みたいに誤解されるけど・・・こういうところ、絶っ対外さないのよね。


 それを見て、マリーが感心した表情を浮かべながら、イルフィシアの耳元で何事かささやき、はっきり頷いて返すイルフィシアに、小さく頷きながら。


「私はサブマスなんて面倒な事やる気はないんだけど?」


 そうフォースに向かって、唇の端を蠱惑的に吊り上げてみせた。


 * * *


 大半の者が、ナインの予想通り転生後の種族に、姫と同じダークエルフを選択した。

 ずらりと並ぶ褐色の美男美女達は、完全装備に身を包んだ姿であるものの、大分リラックスした空気が流れ出し始めている。

 とは言えそこは歴戦の冒険者、周囲を警戒する事を忘れるほど、浮足立って油断し切ったりはしない。


 何処か興奮気味に知り合いと話すもの、自分のステータス変化のチェックに余念が無いものと反応は様々だが、それでも共通して言えることは、浮かべた表情は何処か緊張していた。

 変更の出来ない一度きりの選択、本当にこれでよかったのか、揺れずに居られる者はそう多くはない。


 元の側にいたほうが良かったのではないか

 この種族ではないほうが良かったのではないか

 転生して変えた職業は、本当に合っているのか


 確信のない不安、正解ではないかもしれない選択に平静で居られる

 そこにたどり着くまでの、積み上げたものが転生によって剥ぎ取られ

 酷寒の地に裸で取り残されたような、不安と恐怖に蹲る精神


 本当に座り込まないで要られたのは、仲間が周りにいた、ただそれだけの理由。


 ダークエルフを選んだ者達とは違い、ナインが言うところの『素直に選ばない変わり者』達・・・彼らにその不安は無縁であった。

 何故ならば、これはダークエルフを選んだ、アルリールとナインをも含むが

 彼らには、つく側、選んだ種族、変更した職業には、明確な理由が存在するから。


 言い方を変えるのであれば・・・


 彼らには目的が定まっており

 それに最も必要である物を組み合わせるだけにすぎず

 そこには、迷いや不安が入り込む隙がない。


「やっとみつけましたよ姫様。

 思った通りアルリールさんとユーレリアさんが居る所に居ましたね。

 二人が取り合うと決着がつかないので、ナインさんが姫様をという流れですね?」


 何処か可笑しそうなミリアの声に振り向いたナイン達の前で




 小さく揺れながら、青白い火の玉が浮いていた。




 2012.10.19

 2016.10.01改

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