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28.本音を聞いてみよう

 一応、このお話までが、私の中では第一章です。

 物語が展開する前のベースと成る部分なので、読んでる人には楽しくはないかなとは思いつつも、好き勝手に書かせてもらいました。

 内容のわかりにくいタイトル、変な内容と、様々な困難を乗り越えて、目に留め読んで頂けた方々に感謝を。

 今後も好き勝手マイペースに書き続けていこうと思っております。


 読んで頂けた方に、面白いと思ってもらえたなら、嬉しい限りです。

 28.本音を聞いてみよう


 アルリールはユーレリアに向き直り、真直ぐにその目を見返して、僅かに目を眇めた。


「何も変わっていません。

 私は元々、ベルティータの為になら世界の半分程度、敵に回すつもりです。

 何でしたら、貴女もその『半分』の側に、入れてさし上げても構いませんが?」


「なら、今すぐ『たそがれの指輪』をつけて見せなさい。

 そうすれば、私が何を言っているのか、その意味がわかる。

 出来ないなら、姫様には指一本触れさせない・・・それとも、力尽くで私を排除する?言ったでしょ、状況は変わったの。

 姫の絶対的な味方は、貴女ではなく私なのよ」


 交わす視線は火花を散らさず、撒き散らすのは周囲を白く凍りつかせる絶対零度の寒波。

 ユーレリアのあからさまな挑発に、アルリールがその手を軽く振り払って、掴まれた辺りを摩すり。

 やや態とらしく溜息を付いて見せながら、左手で一点を指さす。


「イル姫がマリーに抱き上げられているのは良いのですか?」


 アルリールの咄嗟に突いたにしては、鋭すぎる言葉。

 ユーレリアは、内心の驚きを表情に出さずに居ることを、なんとか成功させた。


 やっぱり、厄介だわ・・・このエルフの子。


 こっちの立場を、ほぼ正確に掴んでいる


「目を切ったりはしないわよ、そんな誘導で。

 イルフィシア姫も、助けられるならもちろん助ける。でも、私の姫様はベルティータ姫なの、これは絶対で最優先なのよ。

 どう?少しは役に立つ情報だったかしら?」


 アルリールが投げかけた言葉が、ユーレリアの現状を測る為のものだと、解っているぞ。


 ユーレリアの最後に付け足した言葉は、そう告げており。

 それを判っていいて、隠さずに教えてくる・・・つまりは、敢えてそう告げる事で、有利に成ると考える何かが、彼女にはある。


 アルリールは、ユーレリアとの会話に延々感じていた違和感の正体を、それでようやく掴んだ。

 ユーレリア全く彼女らしくないことに・・・会話を急いでいる。

 焦っている、と言っていいほどに、言葉を投げかけ或いは挑発し、意識してある部分をぼかしながら・・・


 会話の焦点を変えずに、繰り返している?


 ユーレリアは決して短慮でも短気でもないと、アルリールは評している。

 そのユーレリアが、こうも簡単に焦っていることを見ぬかれ

 それでも進めようとしている意図は・・・


「エイト、私にも指輪をください」


「残念だがアル、君が行動を起こす前に、ギルドとしての方針を打ち出すべきだ。

 今後、我々のギルドは一体どうすべきなのかを」


 エイトの言葉にも、ユーレリアは表情を変えなかった。


 それは賞賛されて然るべき、精神力と自己制御である。

 極自然な笑みを浮かべながら、両の手を大きく開き肩を竦めて

 どうぞご自由に、と言わんばかりに微かに首を傾げてみせた。


 しかし、表情とは違い・・・エイトの言葉の意味を正確に掴んでいる胸の内では

 ハリネズミのように、警戒心の棘を四方八方へと逆立て

 芝居がかった大振りな仕草の影にかくし、ベルティータを自らのしっぽで抱き上げ、背後に庇う。


 わざわざ言葉にするまでもなく、理解したのだ。

 エイトの口にした『どうすべき』の選択肢の一つが

 自分とベルティータの追放、抹殺、或いは・・・幽閉と言う可能性を


 アルリールやナインなら、そんな事はしないと信じられる。


 だが、集団としての意志は、アルリールやナインのようならない・・・という事はユーレリアには判っていた。

 だからこそ、最もベルティータに親しいアルリールを引きこもうとしていたのだ。

 少なくとも、追放と言う選択肢をされないように。


 しかし、その思惑は今、エイトに釘を差されて潰された。


 アルリールは、どんな結果が出てもベルティータにつくだろう。

 ユーレリア、エイト共に、その部分は同じ認識である。

 その際のアルリールの立ち位置によって『パラベラム』の今後が変わると、ユーレリアは見抜き。

 周りが冷静になり、それに気づく前に手を打ったのだが、エイトはそれに気付いていて、ユーレリアの自由になどさせはしなかった。


 ベルティータより『パラベラム』を取った・・・ギルマスなら当然の選択、よね。


 アルリールが敵性種族に転生してしまえば、『パラベラム』はその性質上、アルリールごとベルティータを切り捨てられない・・・というユーレリアの予測は、多分正しい。

 だが、エイトはそれを止め、流されることを拒否し、ギルドメンバー全員に選択することを求めた。

 その場合、ギルドの選択が仮に追放で有ったとしても、アルリールは敵性種族に転生するかもしれない。いや、間違い無くそうするだろうが・・・


 ギルドがアルリールを切り捨てたのではなく

 アルリールがギルドに見切りをつけた、と言う形になり

 ギルドの選択と、アルリールの選択は、関係のないものとなる。


 実際は違う、ギルドの選択によりアルリールの選択が決まっているのだから。


 しかし、その二つに・・・ギルドメンバーの意識の中で、線を引く事になるのも事実。


 別の言い方をするのであれば、エイトはギルドの方針と言いながら、メンバー全員に、選択の責任と結果を背負えと言ったのだ。

 アルリールの選択や、流れを言い訳にさせない。

 厳しい決断を・・・あるいは覚悟を、各人に迫った、と言い換えてもいい。


「私は、皆が選んだ選択を尊重する」


 ギルドの指針を示すべきギルドマスターが、先だってそう言ってしまえば。

 誰に責任が帰するかは明白、どんな選択をしようと、どんな意見を言おうと、それは全て己の責任。

 仮にそれが元で、此の場でメンバー同士が殺し合いになったとしても、非難するつもりも、止めるつもりもない。


 エイトの宣言の意味を聞き間違うものは居らず・・・ただ、その決意に至った思考に届かなかった。


 何故ユーレリアが、これほど焦ってアルリールを引き込もうとしていたのか。

 何故エイトは、こんな事を突然言い出したのか。

 その核に届き得た者と、届き得ぬ者とは、表情で簡単に見分けられた。


 届き得ぬ者は『たそがれの指輪』の効果が、キャラクターの外見が変わるものだと単純に理解し。

 特に気にすることなく暢気な表情で、或いは、気楽に自分が変身するとしたら・・・などと妄想し、どこか楽しげですら有った。


 だが、届き得た者達は、皆一様に黙りこみ。

 ベルティータを見つめ、その胸に下がる『真実を暴く鍵』を睨み、その命名者の悪趣味さを憎悪しながらも・・・その巧みな命名に感心してすらいた。


 それは世界を覆す鍵


 敵性種族を無尽蔵に生み出す禍壺


 『真実を暴く鍵』に、今暴かれようとしているのが・・・プレイヤーの心


 未知へ踏み出すのか、既知で安心を得るのか

 冒険を求めるのか、安定を守るのか

 姫を護衛する騎士を目指すのか、闇の軍勢を滅ぼす英雄を目指すのか


 お前たちは一体何者で・・・




 何になりたいのだ?




「多数決で決める類の事でもあるまい。全員が納得する答えなど、この問には有りはせん」


 グライフの岩のように重く静かな声がその場を制し、誰も答えなど口に出来ずに、沈黙が全員を空間に縛り付けていく。

 事此処にいたり、脳天気に『たそがれの指輪』をただの変身アイテムだと・・・

 明日が今日の延長だと、信じきって疑いもしなかった者達は、グライフの様子から、流石に何かがおかしいと察し、にわかに周囲を探りだす。


 だが、そうやって左右を見回す彼らは幸せだった。


 届き得た者達の心中は嵐のように荒れすさみ、思考の暴風にさらされながら、静かに冷静差を保たねばならず。

 その上で、一体どちらにつくべきなのか、自分はそれを選んで後悔しないのかを、圧倒的に情報の足りない中、出せぬ答えに押し潰されていた。

 故に、その状況そのタイミングで、投げ込まれた短い言葉は、信じられない程大きな、動揺と弱気の波紋を音速で突き抜ける波紋とかす。




「私はラミアなんかになるのは真っ平よ」




 その声の主に視線を向けぬものはその場にはなく。

 全員が続く言葉での説明を求める様に、無言の問いを投げかけていたが。

 皆の視線の中心にあって、何ら周りの視線を気にした風もない発言者。


 澄んだ音と共に手の中にある、輝く金属片を弾き上げ

 宙で掴んだのが・・・マリーであったことが、動揺の最大の原因でもあった。

 ただ、それが引き金となって数人が、マリーの言葉に勇気を得たのか、我も我もと、今のキャラクターに対する愛着を表明し、変身するのなど嫌だと表明していく。


 このまま今まで通りで良いじゃないか、これ迄上手くやってきたのだから・・・と。


「これまで楽しかったわ、でも今日からはお別れね。姫様・・・」


 屈みこんでイルフィシアを真直ぐに見つめ。

 色気過剰な笑みを向けると、伸ばした指先が『真実を暴く鍵』を弾き

 それが見た目より強い衝撃を与え、コロンと『たそがれの指輪』を生み出し、それが床を打つ前に掴みとると、軽いスナップを効かせて、フォースに指輪を投げて渡す。

 難無くそれを受け止め、指を広げたフォースが手のひらに乗る指輪を見て、困ったように笑う。


「こんな簡単に、敵性種族を生み出せちゃう指輪を生産出来るんだもの・・・それは、危険視して当然よね。見なかった事にして今まで通り、なんてとても無理だわ。

 だってBABELが崩壊してしまえば、この世界で遊べなくなるんだから」


 誰も何も言えなかった。

 イルフィシア親派の最有力者が下した決断は・・・まさかのイルフィシアの排除。

 だが普段から、余人が言いづらいと思うことも、平然とストレートに表明するマリーだからこそ、その発言は皆の心に深く突き刺さる。


「フォース、貴方が私と同じ側に来るなら・・・後でお酒、付き合いなさいよ」


 言いながらイルフィシアを抱き上げ、空いた指にマリーが『たそがれの指輪』を嵌めた。

 一瞬で闇は球形に展開し、イルフィシアごとマリーを呑み込む。

 闇に飲み込まれる寸前、フォースの目に写ったのは・・・この上なく美しいマリーの横顔に浮かんだ、悪戯っぽい小悪魔の笑み。




 姫様が危険視されて、排除しようと動くなら・・・アタシが姫様を護らなきゃね。




 フォースの耳には、声にならないマリーの言葉がはっきりと届いていた。

 背筋を凍りつかせるほどの、楽しげな鼻歌とともに。

 マリーはもう知っているのだ・・・一体誰がイルフィシアを危険視し、敵に――次の『襲撃者』に――なるのかを。


 まったく、貴女にも困ったものだ・・・せめて、個人会話で事前に伝えてくれればいいものを。


 投げ渡されたマリーのギルドリングを、何処か楽しげに手のひらで弄りながら、フォースは迷わずひとつの決断を下す。


「ガドベック、ひとつお願いがあります。

 先程マリーの言葉に賛同した者達に、早急にここから退避するよう仕向けてください。

 一分一秒を争う事態ですので、手段は貴方にお任せします」


「・・・いいだろう」


 鉄錆の臭がするような、低く抑えられた声に似合わぬ優男が、何の感慨も持たずに立ち上がり。

 全身から聞こえる金属音が、まるで死刑宣告時へ秒針が刻む音のように、不吉な響きを上げ。

 ゆっくりと背の大剣を引き抜きながら、対象者の方へ歩み寄っていく。


「三秒やる、視界から消えろ、二度と視界にはいるな」


 反対表明をした者の内

 古参メンバーは一瞬で背を向けて駆け出したが

 新参メンバーは反発し、それぞれ反論を口にした。


 そこではっきりと明暗がわかれた・・・


 逃げ出すのが一瞬でも遅れたものは、ドアの前で床石の冷たさを知り。

 新参メンバーは、反論を口にし終える前に両断された。

 唯一、必死に逃げ出し、ドアをくぐり抜けた者だけが、生きてその場を立ち去り

 死者は、それぞれのホームポイントで復活すべく、その場から消えていった。


 かつての・・・いや、未だ仲間である者達を、頬の筋一つ動かすこと無く斬り伏せ。

 その決断をし、命を下したフォースに何を言うでもなく。

 ガドベックと呼ばれた黒髪の男は背に大剣を収め、何事もなかったかのように元の位置へと戻り、マリーを呑み込んだ闇の方へ再び目を向ける。


 完了の報告をガドベックはせず、フォースも確認もねぎらいの言葉もかけようとはしなかった。


 それが、相手の男にとって、何の価値も持たないことを知っているから。


 自分が手を下したことで、マリーに延々と死ぬことも許されない責め苦を与えられることから、相手を救ったのだなどと欠片も考えていない。

 どころか、既に誰を斬ったのかすら覚えていないようにも、その鈍色の瞳は見えた。


 かつて『パラベラム』の『氷の魔女』が、規律の箍を締める恐怖の存在で有ったように。

 『アルファスペース』は、人数も多く年齢層も若い為、より直接的な重石が必要であった・・・それがガドベック。

 普段初心者からでも、誘われれば何も言わずに、クエストだろうが、レベル上げだろうが手伝うが・・・外れ過ぎたものをギルドより排除する、『処刑者』と影で呼ばれる男。


「彼らはマリーに正面から、殺し合いの申し出をしてしまった。

 なので彼らが居ては、他のメンバーが話し合いを持つことも、平和裏にここから離れることも難しくなります。

 何方の側に身を置こうと、それは自由ですが・・・よく考えて、発言する事を忠告しておきますよ」


 一瞬にして数人が切り捨てられた事に萎縮したメンバーに向かい、犠牲者が斬られたのはイルフィシアに敵対する立場を選んだからではない。

 この場で二派にわかれての殺し合いを、自分は推奨しているわけではなく。

 ましてや、イルフィシアの側につかなければ殺される、という脅しなどではないのだとの説明に、残った『アルファスペース』のメンバーは、とりあえずの安堵を得るも・・・


 改めて、自分の中で決断し答えを出さなければならないという焦りに、心が焦れていく。


 明確に時間の締め切りが設定されているわけではなく

 猶予は後五分あるかも知れないが、次の瞬間にはなくなっているかもしれないという

 不安感ばかりが募っていく中、思考が空回りし追い詰められていく。


 なるほど・・・こんな所でも『真実を暴く鍵』、な訳ですか。


 ひっそりと、伊達眼鏡の奥の目を細め笑うフォースの視界の中で、マリーを呑み込んだ闇が天頂より消えて行き・・・中央のあたりに、金色の髪が次第にあらわになっていくのを、皆が唾を飲んで見守った。

 果たして、そこにマリーがどんな姿となって現れるのか、という好奇心によって。


 消えた時の姿勢のまま、腕に小さなイルフィシアを抱え

 幾分胸のボリュームは減っているものの・・・片目を隠す様な、癖のない金色の髪

 その影から鋭く、何処か笑うようにねめつける瞳

 醸し出すという言葉では到底足りぬ、色気を撒き散らしながらも

 下品とは全く感じさせないその居ずまいは、紛うこと無くマリーその人。


 だが、決定的に違う。


 金の髪から覗く、長く尖った耳と・・・

 恥じらうこと無く、どころか見せ付けるかのように衆目に晒されている、褐色の裸身


 イルフィシアがわたわたと、短い手足を必死に伸ばし、どうにか隠そうとしているのを

 可笑しそうな、愛おしそうな目で眺めながら、胸の前で背中から抱きしめ

 押し付けられたイルフィシアの後頭部で、エルフにしては随分と豊かな胸が潰れ形を変える。


 それにより更に慌てふためくイルフィシアに、喉の奥で笑いながらも

 僅かに目を眇め、視線で周囲をひと舐めし・・・何かに気づいて視線を止めた。


「あら?アレただのはったりじゃなかったのね。

 なるほど・・・ちょっと便利じゃない、これ」


 ユーレリアに横目で笑いかけながら・・・

 マリーは言葉を途切れさせ、イルフィシアを抱きしめる腕に力がこもる。


「そう・・・姫様達は、ずっとコレが見えていたのね。

 確かに身を守るのには便利だけど・・・ずっとコレを見せられて

 その上で笑っていられたの、貴女達は」


 意味の取れないマリーの独白を耳にしたフォースは、マリーに投げ渡されたギルドリングを、掌の上で転がしながら、やれやれと漏らしつつ顔をしかめてみせる。


 こんな誰が仕組んだのかわからない事態だけでなく、貴女自身もそうやって此方を試し、選別してくるとはね・・・


 それとも、こんな簡単なテストが解らない者は、イルフィシア姫には必要ないと?


 確かに貴女なら独りでも大丈夫なのでしょうが、皆が貴女と同じではない・・・同じにはなれないと、貴方自身も思っているのでしょう?


 手がかりは幾つもある、だがこの異常な事態を前にしてそれに気づいて心を沈め。

 冷静さを取り戻してマリーの言葉を分析し、決断を下す事は、フォースが言う程簡単な事ではない。

 マリーはそれをわかっていながら、篩にかけ選別をしたとフォースは言っている。


 いや・・・そういう事、ですか。


 マリーの真意に気づいたフォースが、苦い笑いを顔に染み渡らせ。

 更に困ったような顔を向けながら、深い溜息をわざと聴かせるように吐き出す。


「『アルファスペース』のギルマスとしては・・・ギルドを抜けた後の、貴女の行動にまで口を出す気はありません。

 貴女も『アルファスペース』の今後について口をだす気はない、という事で宜しいですねマリー?」


「勿論そのつもりよ、貴方がどっち側に『アルファスペース』を向かわせるのか、此処でイルフィシア姫と二人で眺めてるわ」


 イルフィシアの前に片膝をつき、『たそがれの指輪』を受け取ろうとしているエルフ少女――エリカの姿を横目で見ながら、『パラベラム』のメンバーがエイトに物問いたげな目を向ける。

 無言のままにそれは投げかけられ、無言故に止まらない。


 『アルファスペース』は個々人の判断で動いたが、我々はどうするのだ?


 エイトはそれに大きく頷いて見せながら、指を一本立て皆の注意を引く。


「今、指を見たものは此処で話しあうべきだ。

 私は『パラベラム』のギルマスとして、君たちの決定を受け入れる。

 今も私の目を見ている者達は・・・自分の中で答えが出ているのだから、君達の従うべき相手は私ではない。

 だが『パラベラム』の仲間である、答えを出せずにいる他の仲間の相談に乗って欲しい」


 話合いが始まるともなく始まりはしたものの・・・

 元々が決断を下せる判断材料の不足から、踏ん切りが付かないというだけの為、結論が出ないことなど、最初から誰にも判っていた。

 十分も経つと次第に口を噤む物の姿が多くなり、遂に耐えられなくなった独りが、エイトに向かって口を開いた。


「なぁギルマス、アンタはどっちを選ぶんだ?」


 そう問われた事自体に、エイトが少し悲しげに笑い

 小さく首を振りながら、こめかみを押さえる。


 何故いまさらそんな事を聞かれるのかわからないな。


 微かな呟きが届いた者には、声はそう聞こえ

 届かなかったものにも、その態度や表情からはっきりと見て取れた。


「実質のところはまとめ役にすぎないが、私は『パラベラム』のギルドマスターだ。

 その私に、何故『パラベラムの姫』を見捨てるなんて選択肢が有る、と思われているのかが、私にはさっぱりわからないな」


 実にあっさりと、最も明確な答えでもってエイトが答えると、息を呑む気配が連鎖する。

 自分を取り囲む人か世界か、どちらを選ぶのか?の問い掛けに・・・


 人を取る以外の答えなんか有るのかい?と、逆に問い返されたのだ。


 そう、ユーレリアは読み違えていた、『パラベラム』を、そしてエイトを。

 彼は最初から、『パラベラム』とベルティータを天秤になど掛けておらず・・・

 彼の前には、そもそも選択などというものは、最初から存在していなかったのだから。


 エイトはベルティータがギルドハウスで生活することを受け入れ。

 『パラベラム』は、仲間を決して見捨てないという不文律が、強く根付いたギルド。

 先だっては『アルファスペース』と、『ウチの姫様の方が可愛い』と闘った。


 彼がここまで与えていたのは、メンバー達に対する選択の時間であると同時に。

 自分に対しては、沈黙を守りひたすら信じてメンバーの選択を受け入れる覚悟の時間。

 それが、メンバーの問いかけにより、同時に打ち切られた。




「今一度思い出してもらいたい、私のギルドの名前を。

 私は、どんな困難だって乗り越えられるメンバーを、揃えたつもりだよ」




 2012.10.16

 2016.09.29改

御指摘により、タグに幼女を追加いたしました。

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