27.生まれ変わってみよう
どうもシリアスな雰囲気が流れだすと、ベルティータはエア主人公化して画面から消える気がします。
幼女が短い手脚でわちゃわちゃしていれば、シリアスなんてどこかへ吹き飛んでしまうので、当然といえば当然なんですが。
読んで頂けた方に、面白いと思ってもらえたなら、嬉しい限りです。
27.生まれ変わってみよう
ユーレリアは独り暗闇に立ち、人生の分岐点に立たされていた。
つい先程までは『パラベラム』のギルドハウスの中、そのラウンジに居たのだが。
今眼の前にあるのは、闇だけ。
いつ迄も続くような錯覚に陥る、闇に囲まれた時間。
そんな中で、実に単純で明確な選択。
今日何度目かの、二択を迫られていた。
誰か他のものが、周りに存在するのかしないのかすらわからない。
闇に包まれる前までは、確かに自分を取り囲んでいた人の気配を、今は感じることもできない。
相談することも出来ず、自分が選んだ結果は、自分一人で受け止めなければならない。
誰のせいにすることも・・・何を言い訳にすることも出来ない状況を、冷たく突き付けられる。
このまま何も選ばず、現状から一歩も踏み出さなければーーログアウトして、再びアクセスしたとしてもーー状況は何も改善されないだろう。
それは予想ではあるものの、予感ではなく、確信として確かにユーレリアの心の中にあった。
BABELは――このゲームは、プレイヤに優しくなどない。
運命の選択は唐突で、余りに予想外だったが、彼女は闇の中に蹲り、選択することを拒みはしなかった。
その選択を迫ったのが、システムではなく、プレイヤーからのものであったから・・・というのも一因であろうが、それだけではなく。
心の声に、素直に従った・・・ただそれだけのこと。
『役に立ちたいのか?それとも、一緒にいたいのか?』
「そんなもの・・・一緒にいて役に立ちたいに決まってるでしょ」
闇に唯一残っていた自分自身が呑み込まれ、溶け落ちていく間。
ユーレリアが口に出した言葉は、響くこと無く口の中にくぐもり。
どちらも、闇に飲み込まれた。
☆ ☆ ☆
周りを囲むようにして見守っていた者達には、その光景は言葉を失わせるに十分な異変で有った。
ユーレリアは、他の襲撃者と同様には扱われなかった、少なくとも彼女はベルティータへの恨みを原動力として、このクエストに参加したわけではなく、回復役として元『パラベラム』のパーティに誘われたのは、パーティ構成を見ればわかる。
ある意味で言うのであれば、ユーレリアもまた犠牲者ではあるからだ。
それでも、ベルティータの命を狙った、という事実は変わらず。
クエストを受注した時点で、こういった結果の可能性は、ある程度予測していたであろうし、誰かに強要されたわけでなく、このクエストに自分から参加したのだから、何がしかの落とし所がなければ、襲撃された側は納得出来ない。
なにより、二度とこのクエストにかかわらないと、思わせなければ成らないし、可能であれば『このクエストには関わるべきではない』と戻って周りに喧伝してもらえればうまい。
――というのが『パラベラム』『アルファスペース』の両メンバーの大半が共通した思いであった。
「あっ・・・」
何かを思いつき、小さく呟きをもらしたジゼが、首を振って自らの考えを否定するさまに、エイトが目ざとき気づき、唇の端を楽しげに歪めると
「それでいこう」
内容も聞かずに、短い言葉であっさりと同意してみせた。
何も言っていないにも関わらず、決定されてしまったものの、こういう場面でのエイトの決断は速く、そして非常に覆りにくい。
その上、此方が何を思いついたのかを、決して勘違いしていないということを、今までの経験から思い知らされているジゼは、諦めて腰のパウチから小さめの革袋を取り出すと、袋ごとエイトの差し出した掌に、やや強めに置いた。
エイトは革袋の中から指でつまみ上げたものを、ユーレリアの前に突きつける。
「今から君には、この指輪を装備してもらうことにする。
最初に言っておくとこれは『呪縛』装備で一度つければ、二度と外すことは出来ない。
そして、残念なことに効果欄には『逆転』としか書かれておらず・・・実際に装備したものに、どんな効果が現れるのか、我々も知らない」
それって・・・私を実験台にするつもり!?
ユーレリアの表情が一瞬で険しくなり、ジゼは申し訳なさそうな顔をしながら、視線をそらすが。
エイトは笑顔のまま、ゆっくりと頷いた。
「話が速くて助かる、つまりはそういう事だよ。
私も聖人君子ではないので、危ない橋は君に渡ってもらってから渡る。
君も言っていた通り、世の中善意だけでは回っていない。これは交渉ではない・・・だが強要というわけでもない」
全く悪びれもせずに嘯くエイトに、鋭い目を向けて睨みつけるも、ユーレリアは何か文句を言うでもなく、自分の背中で縛られている両手の方へ顎をしゃくってみせる。
「縄を外してちょうだい、それから服を返して。
装備も返して欲しいところだけど、そこまで信用はしてもらえないでしょ?」
もちろん良いともと、腰から短剣を引きぬいて、縛り付けていた縄をあっさりと切り、取り上げていた服をユーレリアに渡すよう、ミリアに声を掛ける。
それを待っていたかのように、ミリアはユーレリアに近づくと、丁寧にたたんだ服を掲げるように差し出した。
どうもありがとう、声には多少の皮肉っぽい響きはこもりながらも・・・それでも、自分の服を丁寧にたたんで持っていてくれたミリアに、軽く頭を下げながら受け取ると、堂々とした態度ではあるものの、手早く服を身につける。
ユーレリアとて乙女である、こんな衆目の真っ只中で、例え自分に非があり、見られているのがキャラクターだとしても、下着姿で居続けるのは流石に恥ずかしいのだ。
「卑怯者とでも罵りたそうな顔だけど、それはご自由に。
私は姫を預かるギルドの長だ、そのくらいの罵倒は甘んじて受けるつもりだし、その程度の覚悟がなければ、最初から姫をギルドに受け入れたりしない。
それで、どうする?」
当然だが、どうすると聞いた以上、ユーレリアには拒否権がある。
ただし、そちらを選ぶということは、ユーレリアは『パラベラム』と、完全に敵対するということを意味する。
その為、エイトはユーレリアがそちらを選ばないだろうと思っており、その声にも念の為に確認しているだけという思いが色濃く出ていた。
「ではこうしよう、君がその指輪をつけ、なおかつ姫達に今後危害を加えないと約束するならば、それがどんな効果を君に及ぼしても、『パラベラム』は君を迎え入れる。
だが、その二つの条件を拒むのであれば、此方としてもそれ以上の譲歩は出来ない」
最初から、此処を妥協点として見ていた、か・・・
このリーダー、何時からそう考えていたのかしらないけど、喰えないわ。
これ以上の譲歩は引き出せないと、相手が線を引いたのは確かにギリギリの条件だし、此処らへんが落としどころね。
「・・・わかった、それでいいわ」
言いながらゆっくりと、指から自分がリーダーをしているギルドリングを抜き去る。
これだけは他人では外せない、何故ならギルドのリーダーがギルドリングを外した瞬間、勘違いや手違いであろうとも、そのギルドは一瞬にして消滅するのだ。
外したギルドリングが、ユーレリアの手の中で砕け散り、彼女の帰る場所は無くなった。
その様子を目をまん丸にして、驚いた表情で見つめていたベルティータに振り向き。
呆れたように小さく鼻を鳴らして、角ばった伊達眼鏡を押し上げる。
「そんな目で見ないで頂戴。
我が身とギルド、どちらが可愛いかなんて、比べるまでもないでしょう?
その上、貴女に手を上げなければ、もっと大きなギルドに所属できる。
損得勘定が出来る人間なら、誰だってこっちを選ぶわ」
☆ ☆ ☆
「ナインさんが言われた通り、随分と捻じれた表現をする方ですね」
ぼしょぼしょと、マリーとエリカに顔を寄せて囁くイルフィシアに、二人揃って苦笑い気味に頷いて返す。
「もうちょっと上手い言い訳をすれば良いのに。
あれで騙されるのは、ベルティータ様くらいなもんです」
エリカが声を潜めてそう返すと、呆れたようにため息を付いて見せる。
そんな事言ってると、アルが怒るわよと、マリーに釘を刺されると片手を唇に当て
失言失言、と反省している風の、全くない表情で小さく漏らした。
「それだけベルティータちゃんのことを、良く知っているというのと・・・
多分、心の何処かで気づいて欲しがってるのよ『私はこんなに貴女の事を想っています』ってね。
でも、素直にそういえないから、ああ言う言い方になるんでしょ」
「良く解りますねそんな事」
感心したようなイルフィシアに、そりゃー解るわよと、妙に自信満々に微笑み返しながら。
マリーはひょいっと右手を上げ、ユーレリアを指さす。
「だって、アレ私の妹だもの」
「・・・えええええっ!」
イルフィシアとエリカの二人が、大声を上げ注目を集めてしまい
赤面して顔を慌てて伏せつつ、ユーレリアに背中を向ける。
「あ、本人には確認してないわよ?
折角別人になって遊べるゲームで、本名で呼びかけるのもなんか嫌だしね。
でもね、生まれてからずっと姉妹やってんのよ、わからないわけ無いでしょ」
☆ ☆ ☆
突然大声を上げた、ベルティータそっくりの少女を含む三人組に、あからさまに不機嫌そうな目を向けながら、ユーレリアはエイトから『たそがれの指輪』を受け取る。
受け取ったのは頭蓋骨を3つ並べたような、趣味の悪い指輪で、ユーレリアは調べるどころかよく見ようともせずに、躊躇う様子もないまま、ギルドリングを抜いた開いた場所へと指輪を収める。
調べた結果も見た目もどうであろうが、渡された指輪を嵌める以外無いのだから意味が無いと、妙に男らしい割り切りを見せ、寧ろ周りで見ていたほうが、もう一度よく考えろ、と引き止めたそうであった。
瞬間、球形の闇がその体を包み込み・・・ユーレリアは一瞬にして、外界と切り離された。
何の変化もないままに時だけが過ぎ・・・といっても
途中でベルティータが、球体の闇にそーっと手を伸ばしてみたり。
それを慌ててアルリールが引っ掴んで抱き寄せたりと、相変わらずな出来事が多々ありはしたものの、『パラベラム』のメンバーにしてみれば、概ね平常運行。
球体からは何の音がするわけでもなく、目に見えて変化が起こるわけでもなく。
そのまま一分が過ぎ、五分が過ぎたあたりで
肩に入りすぎていた力が杞憂で、肩透かしをされたのだと、その場の皆が悟る。
・・・つけた人が封印されるアイテムか何かじゃないの?
などと、皆が一様に思い始めたこと、球体の表面を覆っていた闇が流れ落ち・・・
中からユーレリアの代わりに現れたのは、ぬめるような青い裸身の背を晒した
一体のラミアが、そこに蹲っていた。
くぐもるような理解不能の言語を口走り、やけにゆっくりと身を起こすラミアに
周りを取り囲んでいた者達は殺気立ち、剣を抜き、あるいは杖を構え、瞬時に戦闘を開始・・・できなかった。
ラミアを囲む全員が、一瞬にして壁際まで押しやられる。
ラミアの目の前に、両腕を広げて庇うように立っている、ベルティータによって。
皆がベルティータの行動に驚き、その身の危険に焦り呼びかける中。
唯一ノックバックの影響を受けないイルフィシアが、頭を振って目をしぱたかせるラミアの左手の指に
――ユーレリアが嵌めたのと同じ指に――『たそがれの指輪』がハマっていることに気づいた。
「もしかして、ユーレリアさんとそのラミアが、入れ替わったんじゃなくて・・・
貴女が、ユーレリアさん本人、ですか?」
ラミアに向かい、自信無さげに問いかけるイルフィシアに
足元に転がっていたローブを、尻尾の先で器用に拾い上げ、胸を庇うようにしながら周りを睨みつけるラミアが、どこか不機嫌そうに小さく鼻を鳴らす。
「ふんっ、いきなり斬りかかられそうになるとはね・・・ベルティータ姫に感謝なさいよ、『パラベラム』のギルマス。
『どんな効果が私に及んでも、迎え入れる』という約束、貴方の方から一方的に破れば、私も容赦なくここに居る半分は殺したわよ」
縦長の瞳で周囲を睨めつけるそこには、凄みがある。
全員がレベルキャップまでいっているわけではないが、それでも高レベル者が多数いる中で、半数を倒すと豪語したのだ・・・ユーレリアも元々が高レベルの賢者だが、それが出来るかと言われれば、普通に考えて不可能である。
つまり、敵対種族故に能力データの全くわからない、という不安を捉えたはったりか。
或いは・・・本当にそれが出来るだけの、スペックか切り札を手に入れたのか。
そっけなく言ってから・・・視線をあらぬ方に向け、急に頬を赤らめる。
「で、そろそろ男性陣には後ろを向いてもらいたんだけど?
まさか、装備一式どころか下着の類まで、全部落ちるとは思わなかったわ」
言いながらそっと手を差し伸ばし、ベルティータの柔らかな銀の長い髪を、鋭く伸びた爪の先で掬い上げ・・・
その動きに周りが再び殺気立つのを、喉の奥で忍び笑いながら
ゆっくりと指をほどいて、銀色の輝きが流れ落ちるさまを見つめる。
ベルティータに向けられたその視線は・・・今までのユーレリアからは、考えられないほどに優しく柔らかい。
「でも、少しいい気分よ・・・これで私は本当の意味で、貴女の側に立てたのだから」
そのまま鋭い爪は、ベルティータの頬を掠めるように宙に優雅に舞い
前髪で隠れていない右目が左右に動くのを、アルリールが――何か危害を加えようとした瞬間、消し飛ばすぞと――油断なく睨む中、何かに納得したように小さく鼻を鳴らず。
「受注していたクエストは破棄されている。まあ当然ね、自分の側の王女暗殺なんて、ありえないクエストだろうし。
呪文は見たことがない物が幾つか有るわね、レベルは引き継ぎみたい。脚と足装備が使えなくなって、代わりに特殊能力が幾つか・・・と、こんな所みたいだけど?」
皆が疑問に思っているだろう辺りを、かいつまんで答えながら、手早く装備一式を身に着けていく。
「私のベルティータと違って、貴女は普通の装備が着けられるのが意外です。
他には何か違っている点はありませんか?」
平然と歩み寄り、ベルティータを抱き上げようとするアルリールの手を、ユーレリアが掴み止める。
ひやりとした感触にも動じた風もなく、アルリールが横目でユーレリアを無言で見据え、その視線をユーレリアは真正面から受け止めた。
互いが高位の魔術師である、もっとも・・・ユーレリアの方は、元が付くのかもしれないが。
クロスレンジでのやり取りは、魔術師にとっては鬼門。
術の詠唱は、どれほど速くとも・・・それこそ破棄しようとも、この距離なら、精神の集中を崩す手段はいくらでもある。
その結果が生むのは、術師ならばだれでも解る・・・暴発だ。
それを知りつつ平然とアルリールは歩み寄り、ユーレリアも踏み込ませた。
それは、互いの信頼の表明であり、攻撃をしないという意思表示でもある。
・・・にも関わらず、ユーレリアはアルリールの腕を止めた。
ユーレリアの行為が意味するところは、近接戦闘での自分の優位か
或いは別の何かなのか・・・見守る者達の間に、緊張が走る。
「もう一つ、すごい変化はあるけど・・・それは教えない。
自分で体験するまでの、お楽しみというやつね。
それより、私のベルティータ姫に気軽に触らないで頂戴、次は貴女でも警告はしない。
貴女に害意がないのはわかっているわ、でも貴女のギルド全員が害意がないかは解らない。
さっき迄とは状況、変わっているのよ」
ユーレリアは笑いながら、軽い口調でそう言ったが
アルリールの腕を掴む手には力が込められ・・・その目は笑っていなかった。
2012.10.15
2016.09.28改




