26.言い訳してみよう
今回は『ユーレリアを小生意気かつ可愛らしく書く』が目標の話なので、個人的に満足しております。
相変わらず変なお話で、読んでくれている人がいるのか、我に返ると不安にもなりますが。
少なくとも、自分の中で第一章と決めている所までは、突っ走ってしまおうと思っております。
読んで頂けた方に、面白いと思ってもらえたなら、嬉しい限りです。
26.言い訳してみよう
「私としては、そんな事はどちらでも良いです。
誘われてクエストに参加しただけの賢者であろうが
元ギルドメンバーの知り合いであろうが
エルフの王女であろうが・・・
ベルティータの命を狙ってくる相手は全て敵です、必ず亡き者にします。
それよりも、貴女が何故このクエストに参加したのかという点と
『私のベルティータ姫』が、何故そんなにも貴女に懐いているのか・・・の方が気になります」
エルフの身でありながら、自分の国の王女であるシルローエルの殺害を、しれっと宣言すると共に
ベルティータを姫と呼びつつ、自分の物宣言をしたアルリールがユーレリアに迫る。
凍り付くような冷気を身に纏い、氷の仮面のような冷たい無表情の中で、斬りつけるような鋭い眼差しが
今の言葉が、ほんの一欠片も冗談の成分を含んでいないことを示していた。
ベルティータがアルリールの方へと向き直り、身振り手振りで何かを説明するのだが
ジェスチャーを読み取るという能力が、アルリールにはとことん欠落しているのか・・・
相変わらず――最も長い付き合いであるにもかかわらず、何を言っているのかさっぱりわからない。
端から見ていれば、アルリールの向ける殺気に、ベルティータが慌てて取り乱しているようにも見える
そこに、今回は予想外なところから助け舟が入った。
「多分、ですけど・・・
その女の人にかまってもらえて、嬉しかったって言ってるみたいです」
小さな手を叩き、回答者であるイルフィシアに向かい笑顔で頷く。
「はぁ?アンタウチらに向かって、さんざベルティータ姫は排除されるて
淘汰されるのが当然やて言っとったよな?」
小馬鹿にしたような薄ら笑いを浮かべて、顔を覗きこんでくるぜフィリー
その後で、小さく何度も頷いて賛同しているミリアの態度に
ユーレリアは、あからさまな相手を嘲笑う表情を顔に浮かべ、真正面から見返す。
「ええ、そうですけど?
もしかして、私が口ではそう言いながら、裏でこの子の世話を焼いていた・・・
なんて、いかにも頭の緩そうな勘違いでもしてそうね。
はっきり言ってあげますが、世の中貴女が思っているほど善意でなんて動いてませんよ?」
ゼフィリーの言葉を鼻で笑い、目を細める。
笑い・・・とその表情をいっていいのだろうか
確かに笑みを形作ってはいるが
その瞳の奥には嫌悪と侮蔑しか無い、この表情を・・・
「そっちのエルフの子が口にしたのは敵意だし、今貴女が私に向けているのも、善意ではなく悪意だわ。
ならば何故、私が敵意や悪意をこの子に向けた時だけ、貴女は過剰に反応するの?
エルフの子は、自分の立場や想いを表明した、この子に向けているのは区別――贔屓だって。
私は誰にだって等しく悪意を向けて罵るし、時には蹴飛ばしもするわよ?
それじゃあ・・・貴女は?」
「そこまでです。余り追い込むと暴れますよ、その大女は。
論理的思考ではなく、感情で生きているゼフィリーが、小難しいことを考えて動いている筈がないでしょう。
それを解っていて、自分の土俵で八つ当たりする理由は・・・図星を突かれたからですか?」
何を言っているのかわからない、とユーレリアが肩を竦め、呆れた溜息をアルリールに向けて返して見せると。
まあ、そういう反応になりますよね、と冷めた目でユーレリアを睨めつけながら
アルリールが口の中で何事かを低く素早く呟くと
ベルティータの立っていた椅子が、ベルティータごと宙に浮き上がり始め
それを見たユーレリアの表情から、薄ら笑いが抜け落ちていく。
「・・・何をする気なの?」
全く予想だにしなかったアルリールの行動に、動揺を隠しきれず。
不気味なものを見るような、恐怖を虚勢で隠すような問いかける声に
アルリールが、小さく鼻を鳴らし、一笑に付す
「別にしらを切るのはいいです、判っていたことですから。
ベルティータ姫、ちょっとしたゲームをしましょう・・・と言っても、特に何もする必要はありません。
ユーレリアが嘘をついたら、ベルティータ姫に雷撃が加わるというだけです」
薄く凄絶な笑みを浮かべるアルリールの言葉は、提案ではなく・・・決定事項の伝達。
ベルティータが何を言っても、『ゲーム』は中止されることはなく
文字通り、ベルティータはそこから降りることは出来ない
ただ理不尽な暴力の前に、呆然と立っている事を強いられた
「心配しなくても大丈夫ですよ・・・
その女に触られた所を全部、雷撃で焼き焦がして消毒してから
ジゼに蘇生魔法で、綺麗にしてもらうだけです。
それに、姫がそんなにお世話をするほど好きなユーレリアが、嘘なんてつくはずが無いですから」
背筋が薄ら寒くなるような笑みを浮かべるアルリール
誰も、アルリールが何を言っているのか理解できない間に
低く速い呟きは、韻を踏み呪文を紡ぎ上げ・・・静かに呪文発動の宣言を終える。
「【フォトン・ブラスト】」
静かな、囁くような宣言とともに、アルリールの周りに次々と光球が浮き上がる
一つ一つではそうでもないが、それぞれが発する可聴域を超える高音に、ラウンジの窓が共鳴し
今にも割れそうなほどに、細かく不気味に振動し続ける。
そも、フォトン・ブラストは雷系の高位魔法で、言うまでもなく、一つが掠めるだけでレベル1のベルティータなど・・・瞬時に蒸発する。
それを、複数発同時発動させている時点で、制御が尋常ではない難易度になっていると言うのに
光球に見えるのは、本来直進放射型で、標的に向かい最短距離を疾るそれを、円軌道を廻るように押し込め、まるで設置型魔法の様に攻撃タイミングを任意に選択するべく、発動させ続けた光の粒子の残像。
その場にいた高レベルや廃レベルプレイヤーは、宣言した術名に続き、姿を現した光球を目にした瞬間、即座にベルティータから距離をとった。
彼らには、それがどれ程の威力を持ったものなのか理解できたのだ・・・距離を取らねば、巻き添えで死ぬということまで。
そう、彼らはその術名に聞き覚えがあり、目前の光景に見覚えがあったのだ。
光球に押し込められていた時間に比例して、消費魔力と威力が跳ね上がって行くと言う、異常な特性も。
かつて一度だけアルリールが『それ』を使った時の事を、忘れることなど出来なかった。
最初に向けた相手も、ベルティータと同じ髪の色、同じ瞳の色、同じ肌の色をして居たのは、偶然にしてはできすぎている。
本来、こういった魔力を馬鹿喰いする直接攻撃魔法を、アルリールは使うことを好まない。
出来ないのではなく、酷く嫌っている為だ・・・それをこうして躊躇いなく行使している時点で、正常な判断を放棄している。
でありながら、誰も止められない。
アルリールが、そこまで考えていたのかどうかは解らないが、
術式が完成していながら、正気とは思えない制御力で抑え込み、設置型の遅延発動と化しているために、術者を気絶させても暴発し、被害が拡大するだけ。
最早、止めるすべがない為に、精々自分が巻き込まれないようにすることしか出来ない。
「さて、それではゲームを始めましょう。
貴女はベルティータがいなくなることを望み、ゼフィリーをこうして罵りながら
何故、ベルティータを一度も差別的な言葉で罵らないのですか?」
宙に浮かぶ椅子の背凭れにつかまりながら、相変わらず何が楽しいのか笑顔を浮かべたままのダークエルフの少女を、ユーレリアは見上げていた。
その視線に気づいたベルティータが、くすぐったそうに首をすくめて笑みに烟る。
まっすぐに向けられた金色の瞳には、欠片も疑う様子はなく
そこには本来あるべき恐怖心の欠片も見当たらない。
・・・やはり、そういう事ね。
「わざわざ私が受けたクエストを達成してくれるなんて、随分と親切なのね」
ユーレリアはアルリールに向けて、鼻を鳴らして蔑んでみせる。
これはブラフ・・・あのエルフの子は、あの子を大切にしている。自分でわざわざ傷つけるはずなんかない。
つまりこれは、あの子を裏切る事で、罪悪感という心理的負荷を掛けた――心理トラップだ。
残念だけど、だしに使うにはあの子は素直すぎた。
欠片も危機感がない緩い表情で笑っている、あれは自分が安全だと知っている顔だ。
いくら嫉妬に狂ったような演技をしてみても、嘘のつけないあの子が一緒では、ね
やれるもんなら、大切なあの子に攻撃して見せなさいよ。
「・・・え?」
完全に予想外の事態に直面した時、人は一瞬思考が止まり
身体は頭からの命令を遮断され、遅れて硬直する。
類推して思い描いていた事態とは異なる、眼の前の現実に。
そこに至る何処で分岐点があったのか
何故こんな現実にたどり着いたのかに思考を巡らせるために
心が立ち止まる事を強制するのではなく
自分の中では不連続と受け取った光景に、思考の糸が断ち切られるのだ。
故に、その時のとっさの行動は、思考ではなく別のものに突き動かされる。
焦りに、意味不明の何の役にも立たない行動をとったり
突進してくる車の前で、そこにいれば生命の危機だと頭では理解しても、呆然と立ち尽くして、ただ眺めていたり。
アルリールの手口を完全に見切ったと、ユーレリアが口角を吊り上げた瞬間。
手を振っていたベルティータの膝がカクンと折れ
尻餅をつくように、椅子から転がり落ちたと解ったのは・・・後から思い返してみて、であった。
視覚から入った情報を、ユーレリアは確かに受け取っていたのだが、断ち切られた思考の糸は、それを理解させてはくれなかった。
その時に解ったのは、ただベルティータが後ろ向きに
地上二メートルほどの高さから、頭から落ちたという事実
気づいた時には、ユーレリアは後ろ手に縛られたまま
ベルティータが落ちてくる下へと、我が身を投げ出していた。
背中に受けるであろう衝撃に、ぎゅっと目をつぶり
少しでも衝撃を和らげようと無意識にしたのか、背にこもるべき力は抜け
掛けていた度の入っていない眼鏡が、硬い床の上を転がっていく。
・・・が、何時まで経っても背中に加わるべき、衝撃も重みもなく。
ゆっくりと開けられた目には・・・
いつの間にかそこにいたナインの、片腕でというよりは大きな手で
腰と尻の間あたりをワンハンドキャッチされて、笑っているベルティータの姿と・・・
自分を見て、僅かに口角を上げているアルリールの姿。
よくよく見れば、アルリールの両肩や身を包むローブの裾が、かすかに揺れている。
そして残念なことに、ユーレリアはそれに気付けないほどに鈍くはなかった。
「・・・何よ」
なんとか睨みながら、アルリールに憎まれ口を叩くも
床に身を投げだした体勢のままでは、少しも威厳も何もなく
それが照れ隠しでしか無いことは、隠しようがない。
「なにも言ってませんよ」
至って平然と、普段の口調で応えるアルリール。
言葉をどれだけ並べ立てようと、決定的な証拠により勝敗が決してしまった今、アルリールもそれ以上何かを言って、追い詰めようとは思わずいたのだが、その沈黙が、余計にユーレリアの心を焦らしていく。
ユーレリア本人にも解っているのだ、今さら何を言った所で意味はなく。
言えば言うだけみっともない事態になる・・・ということなど。
わかってはいても、いや・・・むしろ解るほどの者であっても
黙って受け入れることは、中々に難しいものなのだ、こうまで一方的な敗北というものは。
「小さい子が高いところから落ちたら、思わず助けちゃうでしょ。
それとも、笑って眺めてる冷血女じゃなきゃダメなわけ、私は!?」
「だから、私は何も言ってませんよ」
☆ ☆ ☆
「あの二人は、一体何をやっているのですか?」
アルリールとユーレリアの、不毛この上ないが・・・端から見ていると可笑しいやり取り。
遠くでそれを聞きながら、イルフィシアがエリカにそっと尋ねる。
そこへ、ベルティータを肩車したナインが合流し、マリーと拳を重ね、一度づつ掌を叩き合う。
「やる時はやるじゃない、ちょっと見なおしたわ」
「それは褒められてると素直に思っていいのか?
自分じゃ結構出来る男だと思ってるんだが」
苦笑いを返しながら、同意を求めるようにベルティータを見上げると
無邪気な笑顔で一度頷いてくれるのを見て、ナインが何度も噛み締めるように頷く。
「俺の姫様がそう認めてくれるなら、周りの評価はまあいいか。
あの二人のことが、気になるのかなイル姫さんは。まあ片方かなり屈折してるからなぁ」
「アルはベル姫さまの事になると、とてもアルとは思えないストレートさですけどね。
まさか思ってはいても、口に出してシルローエル姫殺害を、宣言するとは思いませんでした。
それでも、実際今回やったことは、アルらしいやり口です」
エリカがナインの言葉を受けて言葉を継ぐと、ナインとマリーは笑い出し
ただ一人イルフィシアだけが、どういうことなの?と一人首を傾げる。
「悪い悪い、アレはねイル姫さん。
二人でウチの姫様が一番可愛いって、言い合ってるだけ」
ナインに言われて、左右に――まるでベルティータの様に首を傾げ
背中で銀の髪を数度揺らし・・・しばらくして妙に納得した顔をして
ぽんっと小さな掌に、同じく小さな拳の尻を打ち合わせる。
「あれがツンデレですかー」
☆ ☆ ☆
イルフィシアの声が聞こえたわけでもないのだろうが
ユーレリアが鼻を鳴らし、ぶすっくれた顔をしてそっぽを向け
頬を僅かに朱にそめながら、ちらりと一瞬だけアルリールに視線を向け。
「お・・・お化けに、背中押されたってことにしときなさいよ」
口を突いて出てきたのは、ユーレリアらしからぬ、余りに無理がありすぎる非現実的な苦しい言い訳に
アルリールが流石に耐え切れずに・・・吹き出した。
2012.10.13
2019.06.28改




