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25.立場をおもいしろう

 ALEXANDRITEは、シリアスっぽいシーンが出てもシリアスにはならない、と思っている方が居たとしたら、正解です。

 あくまでほのぼの、ですのでゲームのシステムや、魔法、戦闘シーンなどの細かな説明や描写は、必要な時に少しだけ、と言うスタンスで。


読んで頂けた方に、面白いと思ってもらえたなら、嬉しい限りです。

 25.立場をおもいしろう


 握った拳を顔の横に立てると、中腰で後に続く幾つもの影が動くのを止めた。


 標的を肉眼で捉えた。

 見間違い様もない程に特徴的な相手だ。

 予定通り此方の存在にはまだ気付いていない。


 指を二本立て左右に別れるように指示を出すと、足音を消した気配が中腰で進んでいく。

 金属がこすれる微かな音や、芝を踏むほんの小さなざわめきがやけに大きく聞こえた。

 標的を目前にして緊張はいっそう強まり、心臓の鼓動は耳に煩いほどだ。


 大丈夫だ、何度も練習を繰り返してきたじゃないか。


 目前の状況は、想定していた最も楽なものだ・・・


 心のなかで自分に言い聞かせ、なんとか心を落ち着ける。

 全員が予定通りの配置についたことが、ほんの短いパーティ会話で伝わり

 改めて様子をうかがっても、標的は自分が狙われるなどと、夢にも思っていないのだろう

 緊張感の欠片もない様子でじっと座っている。


 眼の前に見える光景が余りにも、のんびりとした日常の様子だったからか

 それとも、くすぶる良心のあげた悲鳴か・・・

 指示を出していたリーダーらしき男の口から、小さな呟きが漏れ出る。


「恨むんなら、運営を恨めよ」


 口にしたのは、自分への言い訳。

 罪悪感ゆえの謝罪の言葉ではなく

 自分が悪いのではないと言う、自己正当化の為の責任転嫁。


 口元に浮かんだ凶暴な笑みは、『やりたくてやっているのではない』と言う言い訳から

 真実味を根こそぎ刈り取るほどに、嗜虐心に満ちていた・・・

 元々がそういう性格なのか、それともこの相手にだけ、或いはこの状況によってなのか


 向けられた残虐な目に、全く気付いていない標的が


 暢気に本を呼んでいる姿に向け、力強く地を蹴りつけながら


 指揮していた男は、短く、意図を間違い様のない命を全員に伝えた。


「殺れ!」




 ☆ ☆ ☆




 ミリアは必死に走っていた。

 その目には零れ落ちそうなほど・・・

 いや、先程から幾粒もの光の雫が、後方に振り散らされている


 ・・・私がレベル上げなんかに行ったから


 お側を離れたりしたからっ


「姫様が襲われたって本当ですか!?」


 霞む視界で必死にたどり着いた、ギルドハウスの大扉に

 そのまま転がりそうな勢いで、体当たりをするように中に飛び込み

 ミリアは・・・目の前の光景に、固まる。


 ぐったりと力なく横たわる・・・


 そんな相手を、珍しく怒りの感情・・・否、殺意を顔に浮かべながら

 延々と腹を蹴り続けるアルリールと、それを羽交い絞めにして止めるナイン。


 周りには、猿轡をかまされ、手足を縛って転がって白目をむいている十人程の男達・・・


 その傍らには、とんでもなく邪悪な笑顔を浮かべているマリーと

 必死に引っ張って止め様として、引き摺られているイルフィシアとエリカ。


 最後に、目に飛び込んできたのが、真正面のテーブルで・・・

 ベルティータに、何時もの無邪気な笑顔を浮かべながらお茶を差し出され

 下着姿で後ろ手に縛られ、悔しそうに赤面しうつむいているユーレリアの姿。




 ・・・なんだこれ


 ・・・あれ、私なんで泣いてたんだっけ?




 人間、予想外の事態に直面すると、身体が硬直する。

 予想外の度合いが過ぎると・・・思考を放棄する。

 直面した現状に、自身の理解が追いつくまでの時間的余裕を欲する無意識の行動か

 或いは、理解したくないという最後の無駄な足掻きか・・・

 ミリアは、現実に置いていかれ、呆然と立ち尽くした。


 その姿に理解有る優しい眼差しで頷きかけながら、ミリアには声を掛けず

 視線を対面に座る相手――ユーレリアへとエイトは視線を戻した。


「残念ながら、君には黙秘する権利も、弁護士を呼ぶ権利も、GMを呼ぶ権利も与えない。

 ・・・と言うよりも、GMを呼んでも意味を成さない。

 君たちがギルドハウスの中庭に侵入し、姫達を襲ってきたのに対し

 我々はただ、反撃しただけだからね」


 エイトはユーレリアに、少し困ったような顔をしてみせ

 ついで、床に転がされている、良く見知った男達を・・・少し悲しそうに見やった。

 彼らは先日まで『パラベラム』あるいは『アルファスペース』に所属していた、元メンバー達である。


 姫騒動を元に、袂を分かった嘗ての仲間。

 苦楽を共にしてきた仲だけに、こうして対立して別れれば・・・

 感情的な部分は、赤の他人に対するよりも、自然に強くなる。


 アルリールや、マリーがいつも以上に感情をあらわにしているのは

 彼らが姫の命を狙ってきた、という部分も当然強いが

 複雑な思いの吐出し口として、姫を狙った相手へぶつけているという部分も、少なからずある。


 対立して別れたとはいえ、嘗ての仲間が直接的に姫を狙ってきたことに

 何処か裏切られた気持ちを抱いているのだ。

 逆説的に言えば、それだけ嘗ての仲間を信頼していた。


「アンタが糸引いて、ベルティータ姫狙ったんやろ?

 コイツらが姫をどうするかで、ウチらと対立したのどっかで聞きつけて」


 ゼフィリーの言葉は、予想や確認と言うよりもむしろ、そうで有ってくれという願望に近かった。

 事此処にいたってまだ、相手は本当は悪くない、唆されただけだと

 心の逃げ道を求めて縋った、蜘蛛の糸のようなもの。


 しかし、後ろ手に縛られたユーレリアの横で、椅子の上に立つベルティータは空気を読もうとせず。

 お茶の入った白磁のカップを、ユーレリアの唇に当ててゆっくりと傾ける。


 完全に武装解除され、スタイルの良い肢体を慎まし過ぎる下着では隠しきれず

 衆目に晒しているユーレリアは、抵抗する気力もないのか

 されるがままに、ベルティータの手に持つカップから、小さく喉を鳴らしておとなしくお茶を飲んだ。


 唇でカップの縁を挟んだまま、小さくおとがいを上げると、ベルティータがそっとカップを離す。

 どうも、と無愛想に礼を言うユーレリアに、嬉しそうに会釈をしながら、ベルティータがカップをテーブルの上に戻す。


「そうですよ、と言えば満足ですか?

 事実より、自分の中の真実を大切にしたいのなら、そう思っていれば良いです。

 貴女に、それ以上話す言葉はありません」


 半裸で抵抗できぬ状態にありながら、それでもユーレリアはユーレリアであった。

 口に出す言葉は毒を含み、捉えられて尚、自分が間違っているとは少しも考えず

 あまつさえ、挑発までしてみせる。


 その口元に、今度は手掴みしたロールケーキを、ベルティータが楽しそうに差し出す。

 まだゼフィリーに言い足りなさそうな顔をしつつ、ユーレリアは黙って小さくロールケーキをかじり

 ベルティータを睨むようにしながら、呆れたため息をつく。


「そうやって世話を焼いて・・・飴と鞭を使っているつもりなら無駄ですよ。

 ――と言いたいのですが、貴女がそんな事考えているわけがないですね

 ・・・全く、小憎らしい。

 信じるか信じないかは知りませんが、私は誘われただけです」


 ツンッとすました顔でいう、目の前で他の十一人が白目を剥かされたというのに。


 最もゲームの中では現実とは異なる、ひどい痛みを実際にプレイヤーが感じることはない。

 例え片腕を斬り落とされても、苦痛でのた打ち回るような事はない。

 ちょっと熱いものを押し付けられた程度で、一瞬だけ驚きはするが叫ぶほどではなく、火傷をした時ほど熱いと感じるわけでもない。


 あくまで擬似的に作られた、攻撃を受けたと教える為の信号にすぎず、苦痛を与える為の物ではない。


 ダメージは全てその程度の刺激に低減され、それでも予想外な程に苦痛が重なるような状態であれば

 安全機能として、有る一定以上の苦痛が加わった時点で気絶状態として、プレイヤーへのフィードバックが遮断される。

 つまりは、他の十一人は現在、『予想外な程に苦痛が重なった状態』に追いやられ、遮断されたのだ。


「完全に逆恨みによる犯行に、巻き込まれて加担したわけか・・・そいつぁ姉ちゃんも運が悪りぃ。

 反動で過激な行動に出るやつが、居るかも知んねぇ事ぐらい予測済みで警戒している所に、わざわざ乗り込んできたバカ共に、付き合っちまったんだからな」


「逆恨み?一体何の話をしているんですか?

 そんなものにわざわざ付き合う筈が無いでしょうに、馬鹿馬鹿しい。

 私は、ただクエストの募集にのった、それだけです」


 言外に、だからそこに転がっている彼らを、どんなに痛めつけようが、これ以上の動機の説明は私の口からは何も出ない、と告げたユーレリアの発言で、一瞬にして室内に漂っていた雑音が、重力に惹かれ床に落ちる。

 向けられていた嫌悪、同情、嘲笑といった感情を道連れにして。


 いや、ただ一人・・・ユーレリアの内からだけは、それを引き剥がすことに失敗して。


 ほんの一言で、まるで魔法のように一瞬にして立場が入れ替わった・・・かのように感じた。

 実際の事実関係は、何も変わっていないにも関わらず

 向けられる目は、余裕の色から鋭い攻撃色へと塗り替わる。


 周りの様子の変化に、ユーレリアは額に手を当てようとして、縛られていたことを思い出し

 顔をしかめ眉間にシワを寄せながら、溜息とともに数度首を振る。


「貴方達の中で、私がどんなバカ女だと思われているのか、なんとなく解りました。

 彼らの動機に逆恨みが全くない・・・かどうかは知りませんし、知りたいとも思いません。

 ただ私が彼らに誘われたのは、正式なクエストです。

 受注リストにもちゃんと乗っていますよ、ほら」


 後ろ手に縛られたまま、ぎこちないながらも器用にメインパネルを開き

 親指と人差指で拡大して見せながら、クエスト受注欄の方へ、視線で示してみせる。

 ぜフィリーやライトが詰め寄って見つめるそこには、確かにクエスト名が明示され

 説明欄に目を通した二人は絶句して、呻き声一つ上げられず次の人間に場を明け渡し、アルリールの方へと振り返り、何かを訴えるような視線を向けた先で・・・




 油断なく、杖を構えてユーレリアを睨みつけるアルリールの姿を見つける。




 アルリールの示した態度が、何を言っているのか瞬時に理解した二人は、一瞬それを笑い飛ばそうとして・・・即座に飛び退って、武器の柄に手を掛けた。

 その横には、いつでも飛び出せるよう、腰をわずかに落としたナイン。


 普段見ることのできない程に真剣な顔で、油断なくユーレリアの口元を睨んでいる姿まで見てしまえば


 嫌でも理解する・・・いや、させられる。


 ユーレリアは、猿轡を外されている今、いつでも魔法を使えたのだと

 ただし、それを使わせないだけの警戒を、アルリールとナインがしていた為に

 ・・・実行には移さなかったというだけで。


 ナインに頷いて、そのままの状態で待機し続けるよう目で促したエイトが、立ち上がってユーレリアが開いたメインパネルを、次いでクエスト受注のサブパネルを覗きこむ。


 そこにはユーレリアの言う事が事実で、今回の襲撃――ベルティータとイルフィシアを狙った行動が、確かにクエストの指示だと、納得するに足るクエスト名とクエスト概要の説明文があった。




『闇の女王を継ぐ者』




『闇の女王が倒れ、世界の均衡は傾くかに見えた。

 しかし彼女には娘がおり、闇の軍勢は女王の娘である王女を取り戻し

 彼らの上に据えての巻き返しを狙い、動き始める。

 そのことを星の動きにより察知したエルフの姫により

 闇の皇女を探し出し、その呪われた血脈を絶つよう要請が来た。


 ――依頼者:エリュアリート王国第一王女・シルローエル』


 三国クエスト。

 それも三国NPCの中で、最も穏健派と言われ。

 その容姿もあいまって、プレイヤーの間で最も人気がある、シルローエル姫の願い。

 普段から過激な事を言う、感情的で武力制圧に抵抗のないような者の言葉ではなく


 穏やかで、厳しいことを言う父王を諌める、普段は虫も殺さないような優しい姫の言葉・・・願いだけに

 反発的に相手に敵意を向けて、相手の物言いを否定することも出来ず

 それを見たものの胸に深く重く、言い様のない影を落としていく。


 二人の姫は、禍根にして


 いまや、プレイヤー達の敵だと、NPCに




 即ち、世界に認定されたのだ。


 2012.10.11

 2016.09.08改


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