24.違いを分析しよう
ジゼの苦労性で自分から更にはまっていく所は、私は結構好きです。
もちろん、エイトの余裕があって優しくて、ちょっといたずらっぽいところも好きです。
キャラクターの何人かには、モデルになっている方が居て、この二人もそうなので、書く時に反応で余り悩まなかったりします。
読んで頂けた方に、面白いと思ってもらえたなら、嬉しい限りです。
24.違いを分析しよう
コツンと小さな手がテーブルを叩くと、コロンと手に握られたプレートから、大きな円卓の上に小さな塊が転がり落ちる。
プレートに嵌めこまれていた、何かのパーツが外れて落っこちたのかと、まじまじと確認する大きな金色の瞳は、三つの目玉と目が合い・・・
他に何も外れそうな部分がない事を再確認して首をひねり、目玉をそっぽを向くのを不思議そうに見つめていた。
沙のように淡く軽い銀の髪が、幼い少女の首の動きに遅れること無く流れ。
それが陽光にきらきらと煌く光の波と化すのを、近くで見ていたのも同じ顔。
天使のように愛らしい顔を、目をまん丸にして、壊してしまったのではないかと不安に慌てる。
その不安も心配も全く意に介さずに、転がり出た小さな塊を短い指でつまみ上げたのは、白い服の幼女。
くるくると手首を捻って、いろいろな角度で眺めやり
それが小さな目玉のついた――手にしたプレートと、よく似たデザインの指輪らしいと結論付けると
とりあえず試しにと・・・口を開けた所で、慌ててもう一人に止められる。
「だ、だめー!たべちゃだめーっ!」
止められた方は、手を伸ばして口をふさがれた格好のまま
相手に手の甲を見せるようにして、首をかしげる。
ちんまりした十本の指には、全て異なる形の――しかし、どれもおどろおどろしいデザイン、という点だけ共通した指輪が、はまっている。
もう付ける指がないのだから、しょうがないでしょ?
自分そっくりな少女の仕草が、無言の抗議ということは理解できたが
それが何故、イコール食べるに繋がるのかがさっぱり理解できず・・・頭を抱えて悩みだすイルフィシア。
第一にして、見るからに禍々しいそれを、触るだけでも嫌なイルフィシアにしてみれば
自分と同じ顔をした相手が、それを食べる姿など・・・悪夢以外の何物でもない。
しかたがないなぁと、納得しないような顔を向けてくるベルティータが、もう一度同じようにプレートを持ってコツンと円卓を手で叩くと、コロンとまた別の指輪が転がり落ちる。
イルフィシアに気づかれる前に、そーっと手を伸ばしつまみ上げる寸前
じーっと見つめている、一対の大きな金色の瞳に気づき、悪戯がバレた子供のように
ベルティータの手がゆっくりと引き戻される。
虫でもつまむような顔をして、イルフィシアは顔を背けるようにしながら、新しい指輪をつまみ上げ
ちらっと指輪の方を伺い、今にも泣きそうな表情に変わる。
最初の指輪は、目玉ということもあり、まだ魔除けだと自分の中に言い訳も出来たが
今度のものは、明らかに不気味なだけの代物。
頭骸骨が三つ並んだ、実にそのままのデザイン。
わざわざ調べてみるまでもなく、『呪われ』系のアイテムであることを隠そうともしない、禍々しいドス黒い気を纏っている。
一方、ベルティータはと言えば、三度目の正直とばかりにコツンとやると、やはりコロンと指輪がどこからとも無く転がり出てくるが、二度目と同じ頭蓋骨リング。
コツン・・・コロン・・・コツン・・・コロンと、だんだん楽しくなって来てしまったかのように、頭蓋骨リングがベルティータの手により、テンポ良く量産されて
その度に、部屋の空気が、重くおどろおどろしくなり、イルフィシアの表情が暗く泣きそうになっていく。
「強制ノックバックを出来るアイテムじゃなくて・・・
この世界に、無限に呪われアイテム生み出すものなの、これーっ」
半泣きのイルフィシアの悲鳴と、ドアの隙間から滲みでてきたドス黒い瘴気に、気づいたエリカが飛び込んできてやめさせるまでの間
ベルティータはご機嫌な笑顔のまま、延々と『呪われ』アイテム製造機と化していた。
☆ ☆ ☆
「・・・で、これが姫様が創ってた指輪なんだけど、どうしたら良いと思う?」
丁度片手で持ち上げられるくらいの大きさの革袋を、顔の前で振って見せながら。
立ち昇る瘴気に顔をしかめて、困った顔でジゼがため息を漏らした相手はエイト。
「相変わらず、退屈させてくれないねうちの姫様は。
・・・道具屋に売ってみたら?」
「買取拒否された、『そんな呪われたアイテム持ち込むな』って」
まぁそうだろうね、と肩をすくめ此方もため息をつく。
しかし、ジゼとは違い何処かその表情は楽しそうだ。
「NPCの店にじゃなくて、バンブルのやっているギルドの方は?」
当然エイトが次に言ってくる事を解っていたのか・・・
ジゼは本当に珍しいことながら、鼻の付け根にシワを寄せ、エイトから視線を逸らす。
「私が『シャイロック』も、ぼったくりのバンブルも、嫌いなの知ってるでしょ?」
言われるまでもなく、ジゼが『シャイロック』と言う名の、バンブルがギルドマスターをしているギルドを、毛嫌いしていることくらいエイトも知っている。
いや、忘れようもないほど強烈に、記憶に残っていた。
* * *
最初は、アイテム売買上のほんの些細な行き違い。
当人同士での話合いで、あっさり解決できる程度のことだった。
だがそうはならず、話合いは、言い合い、口論を経て、罵り合いに・・・
遂には互いに武器に手がかかった段になって、偶々通りかかったジゼが片方を止めた。見知らぬ者同士のケンカとは言え、殺し合いになりそうな空気を、素通り出来なかったのだ。
両方を落ち着けて、話を詳しく聞いてみると、お互いの言葉の捉え方の違いで・・・
問題になっているのは、言っては何だが子供の小遣い程度の金額。
「少し冷静になりなさいよ。
お互い引っ込みがつかないのはわかるけど、そんな小銭で殺しあってどうするの?」
まったくもって、反論の余地がないほどの正論。
争いの焦点であるはずの小銭から、争いの当事者二人の意識が離れすぎ。
ただの意地の張り合いになっていることを、冷静に指摘する。
そこで殺しあうということは・・・『自分の命は、その小銭程度の価値で投げ捨てられるもの』である、と言う事になるぞと。
二人のプライドまでわずかにくすぐり、そんな事はないんでしょ?と、争いを纏めようと最善手を打った。
ジゼの説得に当事者二人が冷静さを取り戻し、争いは集結するかに見えた正にその時。
「貴女が言う『そんな小銭』は命より重い。
何しろ、死んでも生き返りはするが・・・失った小銭は戻って来ませんからな」
全く空気を読まず、そう言い切った白ひげ片眼鏡の老人がバンブルだった。
「死んだペナルティで失うEXPを稼ぐ時間で、その小銭以上の金額は稼げるでしょ」
ジゼの反論に動じた風もなく、白く長いひげを扱きながら
いかにも、と素直に頷いてみせるバンブルの態度が一層ジゼを苛立たせる。
それは素直に負けを認め、賛同したわけではなく・・・
こちらをばかにした反応なのだと、片眼鏡の奥の瞳が語っていたが為に。
「確かに、稼げるかもしれない。だがそれは可能性であって、それなら『稼げない』かも知れないし、『更に失う』かも知れない。
第一にしてワシはとても信じることが出来ない。
『そんな小銭』なんかで、誰かに止められなければ命懸けの喧嘩をするような輩が、その時間を有効に使う・・・なんてことがね」
バンブルの言葉に、何をっ!と激昂し、勢い混んで殴りかかろうとする当事者の片方を、杖の先がぴたりと喉を突く寸前で止められる。
ほれ見たことかと言わんばかりの、意地の悪い笑みを浮かべながら、バンブルは一つ鼻を鳴らし。
「だから言ったのさ『そんな小銭』は命より重いと、何しろ小銭は目の前にある。
だというのに、そいつらは『そんな小銭』も、命も、両方失いかけたじゃないか。
小銭を稼げるだっけの時間があっても、それを馬鹿なことをして泥中に捨てる・・・
貴女もそんな連中を止めている暇があったら、有効な小銭の稼ぎ方を考えてはどうかな?」
* * *
「ごうつくばりというのとは、バンブルは違うと思うね。
彼は確かに金稼ぎのことばかり口にするが、別に守銭奴と言う訳ではない。
まぁ、買い占めや転売、生産系ギルドとの価格設定の談合なんかで悪く言う人も多いが。
それによって、生産ギルドが保護されている面もあるから、一概に悪く言うつもりは私はないよ」
エイトの示してみせた事実に、ジゼも反論はしない。
反論はしないのだが、感情的には第一印象が悪すぎたのと
争いを止めたのを、無駄なことと言われた反感を、吐き出せずに終わった不完全燃焼が
気持ちの悪さを引き摺り、今もって割り切れずにいる。
「多分、全ギルドの中で彼のギルド『シャイロック』が総資産も、総資金も最も高い。
だが、その事自体に彼はなにも価値を見出してはいないだろう。
だからこそ、逆に総資産が最も高いのだろうけどね」
「どういうこと?」
「彼は金を稼ぐことに興味はあるが、稼いだ金の量を見て悦に浸る趣味は無い。
だからこそ、金の持つ力がどれほどに強力で・・・同時に全く無力であるのかを知っている」
ジゼには、エイトの言葉は謎かけか、煙に巻くためのものとしか思えなかったが
それを素直に口にしても、何ら生産性のないことは解っていた。
「・・・とりあえず、一つだけは試しに買ってくれたわ。
もっとも、それ以上はいらないと断られたし、金額は言うのも嫌なくらい安かった」
とにかくこれ以上、あの腹の立つ男の話題を、続けるのは嫌だ、と言うのがありありと現れた、ジゼのぶっきらぼうな物言いに
エイトも片手を上げて、話しを戻すことに無言で賛同する。
わざわざ、最初にそれだけ答えれば済んだのに、などといって、この話題を引きずる、意味も価値もない。
それよりも、目の前の問題と向き合う方をエイトは優先した。
「それで、どうするのがいいと思う?
いっそ宝箱にでも入れて、何処かのダンジョンの中にでも置いてくる?」
アイテム処理法として、極めて斬新で、この上なくはた迷惑な方法を提案するジゼに
それは最後の手段にしよう・・・と、消極的に賛同しながら。
革袋をジゼから受け取り、中から取り出した指輪をいろいろな角度から眺める。
「専門家としての評価は?」
専門家じゃないわよ、と一応口では反論して見せてから
「試しにつけてみる、なんてしない事ね、正真正銘の『呪縛』装備で間違い無いわ。
一度身につけたら最後、肉体どころか魂にまで食い込むから、つけた指を切り落としても縁を切れない。
『たそがれの指輪』なんて名前がついてるけど・・・」
ジゼが説明をしている横で、エイトが左手から指輪を一つ外し、おもむろに『たそがれの指輪』をそこにはめようとする。
「ちょっと・・・人の話を聞いてたの?
一体どんな効果があるのかわからないのよ、それ」
「だからこそ、誰かに無責任につけてもらうのではなく、自分自身で試してみようと考えたんだが?」
事も無げに、なにを当たり前のことを、と言わんばかりの顔を向け、エイトは平然と応える。
ジゼのほうも、予想はしていたのかため息をつきつつ、エイトの手から革袋と指輪をひったくる。
「だめよ、認めない、それこそ無責任だわ。
いい?貴方は『パラベラム』のギルマスなの、まかり間違ってコレが、キャラクターをロストするような効果だったら、どうするつもり?」
まさか、と言う表情を浮かべるエイトに、ジゼはきっぱりと首を横に振る。
遅れて金のポニーテールが、左右に風をきるように強く揺れた。
「無い、と思っているなら、それこそまさかよ。
姫様があんなだから忘れてるのかもしれないけど、とても運営会社がやるとは思えない事を、BABEL運営はやった。
なにもわからない初心者に、皆から敵と認識させる外見を押し付けた上で・・・なんのフォローも無しに、抵抗できない幼い子供の姿で放り出したのよ?
他の人なら次の日には、キャラ作り直して入ってるわ。
はっきり言って、ベルティータ姫だから残っただけ」
ジゼが、あえてベルティータ姫といい、もう一人を外したことをエイトは指摘しない。
そう、エイトにはジゼの言葉が――そこに含まれている恐怖も含め――ちゃんと伝わっていた。
イルフィシアは、ベルティータとは違う。
走って逃げることだって出来ただろうし、嫌なことを嫌だと言葉で相手に伝えることだって出来た。
実際にイルフィシアは、辻治癒をして回ることで自分を守った・・・守れた。
それが悪いとは言わないし、自分が同じ立場であれば、そうやって身を守っただろうとも思う。
そう、自分が同じ立場であれば、同じ事をしただろうという事こそが・・・異臭
レベルキャップまで進めた自分と、同じ発想をした。
レベル上げパーティもろくに組めず、操作もおぼつかない筈の初心者が、だ。
彼女は、余りにこのゲームに慣れすぎている。
このゲームの中では当たり前のことを、当たり前と判断して行った。
その事のおかしさが、意識の外にあるがゆえに、イルフィシア本人は気付けずにいる。
だが、ベルティータの普段のアレな行動を見てきた、少し鼻の効く者達にとって
消し忘れた異臭は、気付かせるに十分で・・・気付いてしまえば、辿り着くのに時間はさして必要無い、その異臭の原因に。
即ち、イルフィシアは初心者ではなく、キャラを作りなおした転向者だと。
逆説的に、ベルティータは本当の初心者か・・・もっと注意深い転向者だと。
「あの子は・・・特別なのよ」
ジゼの表情は、言葉より彼女の胸の内をストレートに物語っている。
『特別』といえば聞こえはいい・・・
だがジゼは、ベルティータの在り方をそのまま受け入れるには、フラット過ぎた。
彼女の心は、ベルティータが今も此処にいることが、理解できず、信じられない。
特殊、異端、異常・・・それらをまとめて、特別と言いくくったのは
彼女のフラットさと、理解できずともベルティータへ感じている保護欲。
行動原理も、価値基準もなにも解らなくとも、結局はジゼは生粋の白魔術師であり
初心者であろうがなかろうが、危なっかしいベルティータが、心配でたまらない。
単純明快、色々と口では言いながら、結局はベルティータのことが好きなのだ、というだけの話。
「やれやれ、サブマスを姫様に取られてしまったかな。
しかし、こう言っては失礼かもしれないが、君はギルドの母親役だ。
一番手のかかる子が、一番愛おしいと思うのはある意味当然なのかもしれない。
自覚していないようなので、言っておくと・・・君は私等よりこのギルドにとって重要な人物だよジゼ。
内を守るものがいなくなれば、このギルドは終わりだ」
言われたジゼは何処か怒った様な顔をして、エイトを睨みつけ・・・
ふんっと鼻を鳴らして背を向ける。
「どーせ私は、割烹着でも着て、子供を背負ってるのが似合うような地味女ですよーだ」
高位の白魔術師は貴重でしょうしねっ、と文句を口にしながら、わざと大きな音を立ててドアを閉め、エイトの執務室から出ていく。
ジゼの口にした母親像――その背負っている子供を、ベルティータで頭に思い浮かべてしまったエイトが、笑いの発作に耐えられず。
普段温和で物静かなリーダの、この上なく楽しげな笑い声が、閉じられる寸前のドアの隙間から、ジゼの赤くなった耳に、はっきり届いた。
2012.10.10
2016.09.26改




