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22.色っぽいお姉さんとお茶会をしよう

聡者は智深からず、故に早々に理解され

賢者は智深淵にして、故に理解にまで届かず。

・・・なんていう程かっこいい話ではないんですが。

評価する周りが理解できないと、評価は当然低くなりますよね、という当り前のお話?


読んで頂けた方に、面白いと思ってもらえたなら、嬉しい限りです。

 22.色っぽいお姉さんとお茶会をしよう


「あ、そんな手があったの。

 こういう時、魔法職選ぶくらいそっち方面に頭が回らない、自分が嫌になるわ。

 たしかに、同種のものなら外に出ないものね」


 ジゼに治癒魔法を掛けてもらっている間に、ベルティータの方をどうやって押さえ込んだのかという話になり、『怨念』装備の中にしまったという方法に、マリーは妙に感心した顔で頷いたが。

 むしろジゼにとって見れば、無理矢理強制ノックバックの中を肉薄し、イルフィシアの手から、例のプレートを無理矢理もぎ離したマリーの解決策の方が、驚愕と関心に値した。


 何しろ半分以上は思いつきだったジゼとしては、そんなに感心されると、恥ずかしいやら照れ臭いやらで

 それでダメなら防御魔法を掛けて、とりあえずベルティータの手から取り上げるか

 浄化魔法をためしてみるかと考えていたのだが・・・


 落ち着いた今になってみれば、どちらも無理だったと解る。


 ベルティータの首から下がっている――今回の騒動の原因になってたペンダントは、『呪縛』装備でまず間違いなく。既に装備してしまっているそれを、もぎ取ることも、浄化や解呪を行うことも不可能。

 結果として、ジゼは意識してか無意識にかはともかく、最良の選択をしたことになる。


 そう考えると、すっかり『呪われ』系アイテムに慣れ親しんでしまった昨今

 瞬間的に有り得ないほどの禍々しさをそこから感じ取って、無意識に『呪縛』装備だと判断し。

 それらの魔法による解決を、知らず選択肢から外したのかもしれない。


 ・・・と、そこまで考えて『アルファスペース』との被害の差、その原因が見えてくる。


 事件当時『アルファスペース』のギルドハウスには、白魔術師が一人もいなかったということだ。


 治癒役である白魔術師は、パーティにおいては必須。

 低レベルであっても、高レベルであっても、その需要は変わらない。

 メンバーの年齢層が『パラベラム』より低いと思われる『アルファスペース』は、それだけレベル上げやクエストに積極的であり

 逆を返せば、動かないことに対する耐性は低いということだ。


 これはあくまで程度問題ではあるが、『パラベラム』の方が、どちらかと言えばそういった方面での積極性は『アルファスペース』に比べ低く

 その為に、グリムリープの様にサブスキルに没頭したり

 ミリアの様にメイド――本人曰くは侍女――がメインジョブなどと言い出しても、受け入れられたりする許容範囲が広い。




 と言うことは・・・姫の立場も、かなり違う?




「おや、流石にサブマスなんて面倒事を背負い込むだけあって、結構鋭いわね」


 お茶を用意してきたミリアにお礼を言いながら、左手でしがみついてまだぐずっているイルフィシアをあやしていたマリーが、ジゼの表情を読み取って妙に色っぽい笑みを浮かべる。


「何も言ってませんよ」


「だめだめ、そんな顔して何でもないなんて言っちゃ、そこは褒められとくのがいい女よ?

 ジゼが今思っていた通り、同盟で少しは良くなったけど、姫様への関心は『パラベラム』の方がずっと高いわ。

 言っておくけど、ウチが普通で、そっちが異常なのよ?

 誰だって楽な方を選ぶでしょ?誰かが遊び方を用意してくれたら、大多数はそれに乗っかる。

 だってその方が楽なんだもの、簡単だし」


 あっけらかんとした表情で口にしたマリーの意見に、ジゼとしても反対する気はない。

 遊び相手も、遊び仲間も選ぶが・・・遊び方は大多数に乗っかったほうが楽なのだ、ということを経験的に知っているから。

 大多数の流れに乗っていれば、平均値的に遊びを楽しむことが出来る。

 外れたことをすれば、その平均値を保証してくれるものは何も無い。


「でも、この二人はそうじゃない方を選んだ。

 だったら苦労するのは当然で、誰にも理解されず、見向きもされないのなんて当たり前。

 人間なんて利がなきゃ、余裕のおこぼれでしか他人に優しくなんてしないものよ」




「それって、皆で遊びたければ、姫様自身が遊び方を用意しろってことですよね?」




 それまで黙っていたミリアの突然の発言。

 ジゼのみ成らずマリーまでもが、完全に不意を突かれた。

 二人は、きょとんとした目でミリアを見つめる。


「ミリアちゃんだっけ?貴女、頭柔らかいのね・・・

 気分を悪くしたらごめんなさい、私はてっきり、貴女が怒り出すかと思ってたのだけど」


 ミリアが首を横に振って否定する。


「私、頭柔らかくないです。

 ただ、自分の事だから解っただけ・・・私の楽しみ方は姫様がいたから。

 姫様がくれたものだから」


 三人が話をしている間、ベルティータはジゼの膝の上で脚をぶらぶらさせながら、全くいつもどおりマイペースに、読みかけの本を開いていた。

 苦労してページをめくりながら、珍しく真剣な顔をして本を読んでいたベルティータだが

 何かを見つけてぱっと表情を輝かせると、ジゼの袖をぐいぐい引っ張りだす。


 すっかり話し込んでしまい、無視されていたことに対する抗議。


 そう受け取ったジゼが苦笑いを浮かべつつ、謝ろうとしたその目の前に、細腕で抱えた分厚い本が突き付けられ。

 よく見なくとも、ぷるぷる震えている腕から本を受け取り、ざっとその文字に目をはしらせる。

 どうも内容はこの世界の歴史を綴った本らしく、文体はそれほど堅くはないものの、歴史書と言うよりは、神話というような内容で、淡々と書き綴られた物語。


 残念ながら、ジゼにはそこに面白みというものを感じられなかった。

 そのことに謝って、今後どうやって二人の姫が『遊びを提供する側』となればよいのかに、意識を向けようとした時、ベルティータがしつこくジゼの袖を引き、小さな指が本の一点を指でさし示した。


 それは挿絵の部分。


 そこには、簡素化されても見間違いようがない物が描かれていた。

 目玉の三つ並んだネックレスを首から下げた、髪の長い美しい女性の姿は、特徴的に尖った長い耳と、浅黒い肌をした細身でありながら、気品と威圧を備えていた。


 直ぐ様探した挿絵の題名は、当然ジゼの予想通りの名も上がっている。




 『闇の女王、その絶大なる力で、世界の半分を統べる』




 この場にグリムリープがいれば、驚きの余り悲鳴を上げたかもしれない。

 いや、現実感覚が確り働けば、ベルティータが以前にこの本を読んでいたと判断するだろう。


 残念なことに、この場にグリムリープはおらず


 ベルティータが事前にこの本を読んでいた事は無い、という事実は表にはでない


 故に、挿絵の中の『闇の女王』の姿が、手に持つ杖こそ違えど。

 以前、寝落ちするまで二人語り合った、世界崩壊級の魔杖『セロ』の妄想を語った際

 ベルティータが取ったポーズと、全く同じである異常さは、誰にも気づかれること無く

 ・・・時の流れに、沈むのみ。


 ベルティータのドレスの胸元から手を突っ込み。

 首にかけられた三つ目のペンダントを引っ張りだそうと、半ば恐慌状態に陥ったジゼがした瞬間。

 当然ながら、今までドレスに抑えられていたペンダントの、溢れ出る強大な瘴気の直撃を超至近距離でジゼは受け


 反対側の壁まで弾き飛ばされる。


 ジゼが何を見てそんな事をしたのか、理解できないミリアにしてみれば

 目を血走らせて、鼻息も荒く幼い少女の胸元から、手を突っ込みまさぐるジゼの姿に、反発や制止よりも生理的に腰が引けていた為

 突然の強制ノックバックに尻餅をつき、そのまま綺麗に後転をする形となり

 いろいろな意味ですぐに立ち直ると、壁にたたきつけられて苦鳴を上げているジゼの元へ、慌てて駆け寄った。

 と言うのも、ミリアは反射的にベルティータに駆け寄ろうとしていたのだが、先程までジゼが座っていた椅子に、ベルティータの小さな身体は、だるま落としのようにストンと綺麗に落ちて、何事もなかったかのように座ったのだ


 イルフィシアにしがみつかれていたマリーは、全く何の影響も受けること無く

 自分の方へ吹き飛ばされてくる、銀のトレイに乗ったティーセットを左手で難なく掴みとり。

 同時に右手で腰から下げていた鞭を操って、ベルティータが見ていた本を絡めとると

 ティーセットをイルフィシアに渡して、開いた左手で本を掴みとる。


 細い指先でページを捲り、挿絵の描かれたページで指を止め


 なるほどね、と納得したように頷いてみせた。


「なんでも、初代闇の女王が手に入れた中でも、一二を争うとんでもない装備らしいわよ。

 『真実を暴く鍵』なんて仰々しい名前を、闇の女王自らつけたんですって」


 小さな手を笑顔で叩いて、耳をピコピコさせているベルティータに


 どういうことかを悟ったイルフィシアが、驚いてマリーを見上げる。


 どう見ても当たりを付けて、目的のページまで適当に捲っていただけの速度であったのに

 挿絵のあったページまでの本の内容を、マリーが一瞬で読み取った。

 ベルティータの拍手は、その内容が正解であることを示し・・・


 向けられた二対の金瞳の先で、マリーはちょっと得意げに、色気のあるウインクをしてみせた。


「となると、問題は一体誰がそんなものを二人にプレゼントしたかね。

 熱烈なファンというなら、二人に送るのは浮気性すぎるし

 第一、どうやって二つも持っているのか・・・」


 ベルティータがマリーに、目を閉じて首をひねってみせる。

 少し驚いたようにマリーが、ベルティータを見つめなおし

 見るものが、色気にむせるような微笑を浮かべてみせた。


「あら、随分とお利口ねベルティータ姫。

 そう、貴女はちゃんと気付けるのね・・・

 『どうして』じゃなく『どうやって』と言う言葉をわざわざ使った違和感と差異に」


 手元の本を挿絵のページから一枚めくって、先にすすめる。


「作った時のことが書かれているのよこの本に。

 だから二つ有ってもおかしくはない、ただ問題はその素材でね。

 三つの内の真ん中は、ブラックドラゴンの眼だそうよ」


 答えながらマリーが気付く。


 どんなファンタジーにおいても、ドラゴンは別格だ。

 それはBABELにおいても、何ら変わることはなく、超越種として位置づけられている。

 なら、そんな超越種の目玉を、どうすれば手に入れることが出来る?

 闇の女王が入手した方法については、この本にも書いてはいなかった

 現在、此処には二つそれがある。


 それは・・・余りにもおかしい。


 闇の女王がドラゴンを倒したのならいい

 世界の半分を支配したというのなら、多分可能だったのだろうと疑わしくはあるが、納得できなくもない。


 だが、それならばどうしてその時に二つ作らなかったのか?

 実は二つ作ったが、一つは誰にもそれを知らせなかった?


 それもおかしい、二つもドラゴンの目を手に入れたなら

 もうひとつは、別のものアイテムを作りだして、さらなる自身の強化を試みるか

 腹心の部下に持たせて前線へ送り、世界の残りを手に入れればいい。


 しかし、歴史はそうはならず、世界は闇の女王に支配されなかった。


 即ち、『真実を暴く鍵』はその時一つしか作られず、今現在二つ存在する。


 悩み込むマリーの目の前で、ベルティータがこめかみのあたりで両手の人差し指をたてみせ

 無理をしているのがまるわかりの、怖い顔をしてみせる。

 そこに、ようやくミリアのおかげで回復したジゼが、まだ痛みに顔をしかめつつ帰ってきて

 ベルティータのそれを見て、苦笑いを浮かべると、銀髪がくしゃくしゃになるほど撫でくり回す。


「今はそんな顔をしてないでしょう姫様、さっきと違って」


 それに吹き出しそうになったミリアは、慌てて口を抑えながら。

 代わりのお茶の用意をしてきます、とイルフィシアから銀のトレイを受け取って、そそくさと部屋から退出した。

 ドアを抜けるその背が、わずかに震えいているのをジゼも見たが、見なかったことにして、マリーの正面の椅子に腰を下ろす。


 撫でくり回され、無邪気な笑顔を浮かべながらも、ベルティータはいつ迄も角を立てた真似を止めず。

 口を大きく開けて、声なき笑いを上げ続ける。


「もういい加減に止めて姫様、私が何時もそんな怖い顔をしているみたいじゃない」


 困り果てて泣きつくジゼだが、ベルティータはそれも楽しいのか、何時まで経ってもごっこ遊びをやめようとしない。

 そんなベルティータの子供らしい無邪気な姿に、マリーとイルフィシアも笑こぼれ・・・

 瞬間、マリーの表情が固まる。




 ・・・子供・・・らしい?




 自分が酷い思い違いをしていたことに気づいて、ベルティータを抱き上げる。


「そう、そういう事なのベルティータ姫!

 貴女はずっと私の質問に答えていてくれていた・・・

 『真実を暴く鍵』は、ブラックドラゴンからの

 次の闇の女王候補・・・闇の王女への贈り物なのね!?」


 長い付き合いであるジゼが、見たこともないほどに取り乱したマリーに


 声なき咆哮、見えざるブレスを吐いていたベルティータ


 ようやく口を閉ざし、ニッコリと微笑んでみせた。


 2012.10.08

 2016.09.22改

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