18.見比べてみよう
ちょっと短めですが、切りがいいところで。
主人公の特性上、どうしてもエア主人公になりやすいのですが、そんな主人公に振り回されている周りの人は、割りといろいろ考えて行動していますよ、とついついフォローを入れたくなってしまいます。
読んで頂けた方が、面白いと思ってもらえたなら、嬉しい限りです。
18.見比べてみよう
月の光を集めた様に、一片の曇りもなく輝き流れる銀の髪は、小さな脚が一歩踏み出す度に揺れ光り
重さなどそこには存在しないかのように、軽やかに細く小さな背中で舞う。
濡れたような褐色の肌は、小さく開いた――薄く盛り上がりのない胸元と
顔以外では二の腕まで覆い隠す長手袋から、肩口までのほんの僅かな隙間以外
禍々しい黒のドレスによって、全て衆目からは遮られ、隠されていた。
見るからに子供
細い腕も脚も、子供特有のバランスの悪さ
頬の描く丸みを帯びた曲線も、幼さ特有の柔らかさ
全てが子供・・・いや幼児だと示している幼い少女。
だが、それを包み込む禍々しさ、見る者の息を呑ませる美しさ
なにより、禍々しさを抑えつける程の気品が周りを圧倒し
彼女を世界から切り離していた
『パラベラム』のギルドハウスが、水を打ったように一瞬で静寂に呑み込まれるのを
彼女の後ろに立つフォースは、気を緩めれば緩んでしまいそうになる、自らの口元を必死に引き締め。
精々鹿爪らしい表情を取り繕いながら・・・静かに、当然とばかりに眺めていた。
言うまでもなく『アルファスペース』のギルマスであるフォースの下には、ベルティータの見た目が彼の元に居る
――今、目の前で静寂の中心となっているダークエルフの幼い少女と、そっくりな外見をしているという情報は伝わってきている。
だが・・・いや、だからこそ、フォースは『アルファスペース』の勝利を確信していた。
「本日は、お招きいただきありがとう御座います、イルフィシアと言います」
スカートの端を上品につまみ、しゃなりと頭を下げると
大して深くお辞儀をしたわけでもないにも関わらず、銀糸の髪は肩を滑り落ちて溢れ
外見に似合わぬ色香が漂う・・・
彼女は姫として完璧だ・・・であるのなら、外見が同じであることは
『パラベラム』の姫にとって、足枷にしかならない。
フォースの内心の呟きを裏付けるかのように
張り詰められた静寂をざわめきが砕き
動揺の囁きが疑惑と困惑を呼び寄せる。
そこに、フォースはなにか引っかかりを覚える。
動揺は理解できた。
フォースが、集まった情報から心に描いたベルティータ像は、無邪気な子供っぽい幼女である。
そのベルティータと、外見がそっくりな少女から、落ち着いた声で丁寧な挨拶が流れでれば・・・
普段聞き慣れた声と口調を、当然頭の中に描き構えていた『パラベラム』のメンバーにしてみれば、その予想外の事態に、驚き動揺するのは自然だ。
わかり易く簡単な例を挙げるなら、ある日尋ねてきた友人が腕に猫を抱いていて。
撫で付けると喉を鳴らし、嬉しそうに自分に向い、ワンワンと鳴いた時の驚きと動揺。
・・・と言えば想像できるだろうか
フォースにとってその動揺は、むしろ予定通りの反応。
だが、続く疑惑と困惑に満ちた囁きを耳が拾い上げ・・・『アルファスペース』のメンバーにも動揺の波は波及する。
いや、寧ろ『アルファスペース』のメンバーのほうが、より大きな困惑の波に飲み込まれた。
彼らは、『パラベラム』のメンバーが口々に、驚愕の表情を浮かべながら、こういうのを聞いてしまったのだ。
『しゃべった』と。
対立という密閉空間、ざわめきと混乱が人の心を浮き足立たせ、火種を放り込めばあっという間に、パニックと言う名の爆発を引き起こす状態にまで、心的圧力が高まったラウンジ。
時間経過とともに不安感は募り、人の心が安定を失っていく事に危機感を持ったフォースが、『パラベラム』のギルマスであるエイトに、視線を向けたその瞬間。
吹き飛ぶような派手な音とともに、双方にとって横にある両開きの扉が開け放たれ、流れこんでくる黒煙とともに、よろめく一団がラウンジの中に転がり込んで来た。
皆派手にむせ込み、顔は煤で汚れ、目には涙を浮かべて
ある者は両手を床について、なおしきりに咳き込み
別の者はそのまま床に仰向けにひっくり返って、荒い息を吐き
また違う者は力尽きたかのように、その場にうつ伏せに倒れこむ。
衝撃的な音と光景に、ラウンジにいた全員の視線が釘付けに成っていることも気づかず。
中でもひときわ小柄な少女が、先程からしきりに口の中の異物を吐き出すように唾を吐き出しながら
煤で真っ黒になった顔をローブ姿の二人の方へと向け、非難がましい目を向ける。
「二人共、最高位の黒と白なんでしょ!?なんでそれで失敗するかなぁ」
「私はちゃんと成功したわよ?
だいたいね、書き込もうとしていたのは治癒魔法なんだから、術に成功している以上こんな爆発なんてしないでしょ?」
「私が魔法を失敗する筈がありません。
ジゼだって、仮にも魔法職のレベルキャプですし、失敗する事はないでしょう。
むしろ、魔法を書き込もうとしていた、宝石のキャパシティが不足していたのではないですか?」
「なんやとっ!あんなアル、ありゃ原石で叩き売りにしても100Mは下らんちゅう極上物や。
姫の為や言うから、『アーヴンヘイムの大迷宮』の奥底から命懸けで掘ってきた、とっときの逸品タダで渡しとんのやぞ?
キャパに問題なんて絶っ対にあれへんっ、宝石が悪い言うなら、宝飾したライトやろが!」
「ちょっ、バッカちげぇよHQ2だったのお前らも見ただろ?
オレは確かに天才だけど、あれ以上完璧とかねぇから、宝石に問題なんかあるはずねぇ
むしろ、宝石に魔力送り込む杖の構造じゃねぇのかグリム」
一団が一巡り、隣の人間に失敗の原因を擦り付けあった所で
最後に遅れて、倒れこむように入ってきたナインが、死にかけのような声を上げる。
どう見ても他の者の倍以上のダメージをくらっていて、服も身体もボロボロであるが、背負ったベルに怪我は全くない。
「姫が音と光で目ぇ回した・・・ミリアッ、はやく水!」
ナインの職業は騎士である。
パーティでの役割は所謂、壁役で・・・敵の攻撃を引き付け、受け止めるのが仕事である。
壁役として、騎士らしく振舞うに適したスキルも用意されており、その中にはパーティメンバーが受けるダメージを、代わりに自身が受けるというものがあった。
当然な事がら、『聖騎士』を自称するナインが、そんな如何にもなスキルを選択し無いはずがなく。
身につけている、というレベルでは無く、愛用している。
会話の内容を聞く限りでは、不測の事態で有った。
戦闘態勢を整え、経験値稼ぎ、或いはドロップ狙いで狩りに行くぞ、と挑んでいた訳ではなく。
ギルドハウス内での、杖の制作工程中起こった、不慮の事故。
それも爆発という、本来であれば準備していても、成功率が高いとは言えない、衝撃波との速度争いに勝ち、爆発発生からダメージが届く僅かの時間に、咄嗟にそれを発動してのける位には、身に付いている。
幸いな事に、その場で何もやる事の無いナインは、同じ立場のゼフィリーと共に、ベルティータのすぐ隣り立っていて。
集中の邪魔をして、失敗でもしたら大変だからと、作業に関わらない見ているだけの三人で、パーティ会話で話をするのに、パーティを組んでいた。
色々な偶然や流れが絡んだ結果、本来ベルティータに行く分のダメージを、ナインが全て肩代わりして受け止め・・・二人分のダメージを、普段着で受けたがための瀕死状態という訳である。
レベル1のベルティータは、例え死んでもなんのペナルティもない。
対してナインはレベルキャップまで育っており、死ねば莫大な経験値のペナルティが発生する。
にも関わらず、ナインは躊躇わずにベルティータを庇い、自身が瀕死になりながらも護り遂げた。
しかし、かすり傷一つ・・・1ダメージすらベルティータにはいっていないのだが
音と光はダメージではない為に、代わりに受け止めることができず・・・
大きな金色の瞳と、褐色の長い耳――見た目通りに高性能な視聴覚を、大爆発の轟音と閃光が直撃したのだ。
先ほどまで言い争い、というよりも罪のなすり合いをしていた五人が跳ね起き、ナインの周りを囲む。
ライトが駆け寄って、ナインの背からベルティータを引き剥がし、ジゼが軽く頬を叩いて意識を確認するも、ナインの言った通り完全に目を回した気絶状態。
心配そうに覗きこむグリムリープが、ベルティータの細い肩を掴んでゆすろうとするのを、ゼフィリーがその肩を掴んで止めた、気絶状態で無防備な今、高レベル者が下手に動かすと、HPの低いベルティータが、何かの拍子に死んでしまいかねない。
ぶっ倒れたナイン自身も、妙に悔しそうな顔をしながら、拳を握りしめて俯き・・・その後頭部をアルリールにひっぱたかれる。
「ただ気絶しているだけです。
かすり傷一つついてないので、辛気くさい顔をするのは止めてください。
思わず最大魔法で、ベルティータの仇を討ってしまいたくなります」
はい、ただいまっ!と、五人より一瞬遅れて、ミリアが小走りにベルティータに駆け寄り
水差しからグラスに水を注ぎ、ぐったりとしているベルティータの上半身を抱き起こしながら、グラスの縁をベルティータの唇に当てるのを・・・
「目を回している者が、自分で飲めるはずがないでしょう」
アルリールが奪い取り、自分の口に含むと躊躇いなく唇を重ね、口移しに水を流し込む。
その行為に周りがどよめき・・・その段になって、大騒ぎしていた五人と死に掛けの一人。
そしてたった今、目を覚ました一人が周りを見回し。
唖然とした表情で、目をまん丸にして此方を見ながら立ち尽くすイルフィシアと、その側で苦笑いしているエイトに気づく。
「あ……れ?、明日……じゃなくて……今日だっけ?」
最初に立ち直り、すかさず状況を理解したジゼが、エイトに問いかけると深く肯き返された。
次いで『パラベラム』のメンバーを一巡り見回すと、皆一様に黙って頷き返す。
こほんと小さく咳払いをし、ゆっくり何事もなかったかのように立ち上がると、二三度ローブの裾を軽く叩き。
「ちょっとしたトラブルが有りまして。
大変申し訳無いのですけど、少々お時間をいただけると助かるんですが・・・」
煤に汚れた顔で澄まして言いながら、なんとか目配せでフォースに『誤魔化して』と合図を送る。
友好ギルドのギルマスと、サブマスの間柄だ、それなりの交流は当然ある。
何より二人は、元々が古くから友人として付き合いがあり。こういう土壇場で、両ギルドの友好関係を崩す理由もなければ、嫌とも言われない間柄でもある。
「仕方がないですね」
軽く肩をすくめ、伊達眼鏡を指で押し上げ、困ったものだというジェスチャーをしてみせながら。
フォースの、妙に気障ったらしい誂うような声に、胸を撫で下ろすベルティータ一行が、そそくさと一旦退出しようとする背中を引き止めたのは、何処か笑うのを我慢したような震える声。
「ダメです、だって勝負は決してしまったのですから」
ついには耐えられなくなり、口元を手で隠しながら、可愛らしい声をあげて笑い出したのは、もう一人の幼女その人。
目の端に小さく涙まで浮かべ、本当におかしそうに笑うイルフィシアの姿に、『パラベラム』のメンバーの怒気が湧き立ち。
イルフィシアに向け、敵意と嫌悪の視線が集まり、空気が一気に険悪なものになっていく。
・・・が、続く一言で、感情が反転する。
「私の負けです。だって・・・あんなに愛らしいのですから」
姫本人の敗北宣言で、あっさりとした拍子抜けする結末に、異を唱えたのは一人。
片手を上げ、宣誓をするかのように掌をイルフィシアに向けながら、穏やかに、困ったような声と顔を向ける。
「イルフィシア姫、大変残念ですが見解の相違があるようです。
私のギルドメンバーは、きっとイルフィシア姫の敗北を認めないでしょう。
ですので、此処は文字通りノーコンテストでどうでしょう?」
異を唱えた者はエイト。
たった今、イルフィシアの敗北宣言により、勝利を譲られた側のギルマスが、『パラベラム』は、貴女の敗北を認めないと突っぱねたのだ。
その発言に『パラベラム』側からの文句は一切無く、無言で彼らのギルマスの意見を支持する。
「それこそ僕には認められないですね。両ギルドのメンバーが、今までしてきた努力を無かったことには出来ない。
だから、こういう時にノーコンテストという結論は、無い。
無効試合ではなく、同立一位という言葉を使っていただかねばね」
フォースは、何か異論は?と言わんばかりに手を広げて見せるのに対し、エイトも軽く肩をすくめて見せ、それ以上反論することはなかった。
2012.10.01
2016.09.25改




