16.やる気を出してみよう
曲者しか居ないギルドではなく、ベルティータが曲者と接触している場面を取り上げていて、常識ある普通のプレイヤーさん達も、パラベラムには勿論所属しております。
幼女の装備を剥ぎとって、『呪われ』装備をコーティネートした女性陣は、『常識ある普通の』というカテゴリーに入れていいのか、難しいところではありますが。
読んで頂けた方が、面白いと思ってもらえたなら、嬉しい限りです。
16.やる気を出してみよう
暗殺者という言葉を聞いて、どんな姿を思い浮かべるだろうか?
日本人としてはやはり、忍び装束に身を包み、手裏剣や吹き矢で標的を音もなく殺害していく姿か
今少しフィクション色の強い、針や鋼線を駆使して、人々の恨みを晴らす者達か
或いは、ずっとファンタジー色を濃くした、黒のローブを頭から被って全身を覆い、不気味な色合いの毒液が塗られた、アラブ風の短剣を持つ黒い影か
ともかく暗殺者というものから共通して浮かんでくるのは、怜悧で感情の一切を排した、目立たぬストイックな人物像で・・・
「いや戦いは美学なんだよ。
お互いが武器を構えて、どっちが勝っても恨みっこなしと目で語り合う。
負けた方は散り際に、相手の技量を褒め称えながら、満足した笑みを浮かべ
勝った方は敗者を貶めたりせずに、結果と相手の命の重さを、粛々と受け止め背負う。
不意打ちとかだまし討ちなんてのは、男のやるこっちゃ無いね」
などと、金糸銀糸でド派手な刺繍をした、真紅のロングコートを靡かせ
両腰に長短二組、計四本ものキンキラした剣を吊り
ギラギラジャラジャラと、見ているだけで煩い程に装飾品をそこかしこにつけた
長髪の優男が言っているのを見て・・・
彼の職業が暗殺者だなどと思うものが、果たして居るだろうか?
いや、暗殺者なのだと説明されて、素直に受け入れられるだろうか?
「なぁんて言ってもわかんねぇか。
姫さんは戦いを否定はしてないみたいだが、戦うこと自体にあんまり興味はねぇみたいだし。
でもよ、その差が大事なんだと思うんだよ。
姫さんは姫様であって、聖女様じゃねぇってのがさ」
中庭の噴水の縁に腰掛けているベルティータの、真正面の地面座り込み胡座をかいている優男が、グッと顔を寄せるのを、横から絶妙のタイミングで差し出された銀のトレイが、それ以上の接近を物理的に遮る。
「ライトさん、それ以上はご遠慮願えますか」
ミリアが微笑みながら伝えると、ライトと呼ばれた優男は、ニヤリと笑ってミリアを鋭く見つめる。
「やるねぇメイドの嬢ちゃん、アンタが噂の百合メイドだろ?
愛しの姫さんに男が近づくんじゃねぇ、近づくんなら実力で排除するってかい?」
「百合メイド・・・」
一言呟き、ミリアが一瞬打ちひしがれ絶句するも、頭を振って雑念や負の感情を振り払う。
自分に対する周りの評価が気にならない、といえば嘘になるが。
優先すべきはベルティータのことだ、と雑念を振り払ったのだ。
いろいろな意味で手の早そうな男ではあるが、そんなことよりもミリアが懸念したのは、ライトの戦闘に対するベルティータへの評価だ。
姫様であって聖女ではない。
字面だけ見れば当然のことの様にも思えるが・・・
そもそもベルティータが姫と言うのが他称で、何ら根拠がなく、システム的に保証された物でもなんでもない。
事実だけを言うのであれば、ベルティータは今もって正体不明の『ダークエルフの幼女に見える、職業も不明なレベル1のキャラ』でしかない。
だが、ライトは明確な差を持って、ベルティータを聖女ではなく姫だと断言した。
それが悪い意味ではないと、少なくともライトが思って言っているのは、表情からもわかる。
ただし、それが万人に悪い意味ではないと受け取られるかは別である。
それ故に、主人であるベルティータとライトとの会話(?)に、本来は挟むべきではない口をミリアが挟み、会話を止めたのだ。
勿論そこには、悪い虫を近寄らせないという思惑も、無いとは言わないが。
それを、即ち恋愛感情だ、などと決めつけられるのは、ミリアとしては完全に言い掛かりであった。
少なくともミリアは、自分がノーマルだと信じており、事実としてもそうである。
しかし、ライトにはミリアの行為が、根も葉もある噂による影響で、嫉妬からベルティータに近づく男を遠ざけようとしていると受け取られ、出てきた不名誉な呼称が『百合メイド』。
あるいは、全てわかっていて態と、そう誤解して受け取ったふりをしているのか
どうも続く言葉を聞くに、後者の可能性が高い様にミリアには思えてならない。
つまりは、誂われたのだ、ライトに。
「このゲームも詰まるところ、敵を倒し経験値を稼いで、レベルを上げてく代物だろ?
それを姫さんが戦いを否定して、はらはら涙でも流しながら、『争いを止めましょう』なぁんておキレイな事言い出すような聖女様だったら・・・
いくらお人好しの多いこのギルドでも、ついてく奴は少ないぜって事よ」
頭の後ろで手を組みながら仰け反ると、ライトの全身からシャランシャランと、澄んだ金属音が鳴り響く。
まだ完全には納得していない表情のミリアに、ライトが苦い笑みを返し
しばらく眉をひそめたり片眉を跳ねあげたりと一人百面相をして、考えがようやくまとまったのか
一人納得したような表情を浮かべ数度頷く。
「自分で戦うことに興味があるとか無いとかは、そいつぁ個人の趣味だ。勝手にすりゃいいし、他人がどうこう口出すもんじゃねぇ。
姫さんは戦いに行くヤツらを止めたり責めたりしねぇし、逆に頼まれれば祝福だってするだろ?」
こっくりと大きく頷くベルティータが首を傾げると、丸っこい小さな肩から細い銀髪が溢れ、紗々と背中を流れゆく。
最初はアルリールが言い出し、ナインが便乗した、冒険に出る前の祝福。
元をたどれば、思いつめていたミリアを励ますため、アルリールに頼まれたベルティータが、ミリアの頭をなでた事を原点とする。
何事かを声なき言葉で祈り、相手の頭を緩く抱きしめるという行為は、何故かログイン後の『声なき歌』の後に続く一連の儀式のようになってしまい、今では参加者が列をなす『パラベラム』の日常的光景の一部。
ベルティータ本人も首を傾げるように、アルリールが冗談で始めたとしか思えない行為を、ギルドメンバーが当然のごとく受け入れ。
あまつさえ、並んでまで受けようとする程の、意味を見出せないのだ。
それにもライトは頷いてみせる。
「実際、システム的にはステータスに何も影響はねぇし、験担ぎくらいの気持ちでやってんだよ。
馬鹿馬鹿しいオママゴトだって、鼻で笑ってるヤツだって少なくねぇのは知っての通りだ。
でもよ、姫さんが大真面目に『無事に帰って来れますように』『少しでも幸運に恵まれますように』って願いを込めて送り出してんのは、鼻で笑ってる奴らにもちゃんとわかってる。
だから誰も表立ってオママゴトだとは言わねぇし、姫さんを自分達の姫様だってちゃんと認めてる」
憮然とした表情を浮かべた頬を掻きながら、そっぽを向くライトにミリアが危うく吹き出しかけた。
ライトは『オママゴトだと鼻で笑っているヤツ』の一人である。
それがこうして、面と向かってベルティータに、『自分達の姫様だと思っている』と告げることを・・・照れくさがっているのだ。
こんなド派手なナリをした、口の悪い目の前の男が。
そう思うと余計に笑いの発作が沸き起こり、ミリアは赤くなった顔をそむけ、必死に笑いを噛み殺す。
ミリアの様子に気づかずに――或いは気づいていて敢えて見ないふりをしたのか――ライトは胡座の膝に肘をついた、前かがみのだらしない体勢から上体を起こし。
ベルティータの大きな金色の瞳を真っ直ぐに見つめると、両膝に手を置くなり唐突に頭を深く下げた。
それこそ、地に額をこすりつけるほどに深く。
「だから頭下げて頼む、姫さん・・・いや、ベルティータ姫!
姫が戦うことに興味がねぇのは、百も二百も承知のうえで
個人の趣味に口出すんじゃねぇとも言った口だが・・・
一緒に戦っちゃくれねぇか?」
「待ってください、姫様のレベルは1なんですよ!?
それに、この館から出れない理由だってわかってるはずです!そんなの・・・」
認められるはず無いじゃないですか、と続くミリアの言葉をベルティータがその手を引いて止め、小さく短い指を唇の前に立てて、首を振る。
小さな手を伸ばし、ライトの肩を軽く叩いて自分に目を向けさせると、小さく首を傾げてみせた。
ベルティータの返したのは、是でも否でも無く
疑問
少なくとも現状では答えを出すには至らない。
一体何をするのか、何と戦うのか、何をさせたいのか。
それが解らなければ、応えることはもとより、答えることも出来ない。
説明をしろ、つまりは言葉を続けろと言われている事を、ライトも悟り頷く。
「『アルファスペース』以外のギルドに、ダークエルフの姫が保護されてねぇかってのを、実は調べたんだわ。
まぁうちの上の方の連中は気づいてんのか、信頼されてんのか誰も何も言ってこねぇんだが・・・誰に頼まれたわけでもなく、オレが勝手にやったわけだ。
実際、複数の街で同じ様な話を小耳に挟んだのもあって、興味があった」
ベルティータが僅かに身を乗り出して小さく頷く、自分自身の出自に関する秘密、その緒が何か見つかるかもしれない。
そこまででなくとも、同じ境遇の者が居るかもしれないという話だ、興味が湧か無いほうがおかしい。
「結果から言えばノーだった。
言っちゃ悪いが、普通の遊び方ができない時点で、普通はキャラを放り出す。
そこに僻み妬みで嫌がらせが加われば、めでたくキャラ消してリメイク一直線って訳だ。
寧ろ、今も続けてる姫様達の方が・・・言葉は悪ぃが、異常だってのが良くわかったよ」
噛み付きたく成る衝動を、ミリアがなんとか押さえ込んだのは、先程ベルティータに止められたことに対する忠誠心故。
同じ事を、主と認めた相手に繰り返させ、煩わせる訳にはいかないとの思いが、ミリアを押し留めた。
それでも、自ら願って仕えることを――プロポーズ紛いの言葉で――許してもらった主を、異常者呼ばわりされた怒りは並ならず。
銀のトレイに、紅茶ポットをのせて音もなく立ち上がり
新しいお茶を入れてきます、と言い訳をしてその場から離れ行く、悔し涙に震える背をライトは唖然として、ベルティータ相変わらず楽しそうに笑ったまま、黙って見送る。
「なんだか滅茶苦茶愛されてんな姫様・・・っと話を戻すが、結局いまBABELには、姫様のお仲間はもう一人しかいないってのが解った。
で、こっそり覗いてきたわけよ、『アルファスペース』の姫を。間違いなくあっちも見に来てるだろうし、多分今も何処かから見られてる。『相手の邪魔はしない』ってルールには触れないが・・・まぁ真正面から行っても見せちゃくんねぇと思ってな」
バレているとわかっていても、お互い少しでも相手に情報を握らせまい、としているのだから当然。
・・・と言うよりは、相手を驚かせようとしあっているのだから、探るの方も実はそれほど本気で暴いてやろうとしていないのが実情。
ようは、真剣と必死とをちゃんと区別し、遊びの前提をお互いのメンバーが理解していると言う事である。
噴水の縁に座って脚をぶらぶらさせながら、ベルティータが相槌の代わりに長い耳をピコピコ動かす。
「外見は姫様と瓜二つだった、といっても遠目に見ての判断だから、話半分で聞いてな?
印象は大人しい所謂お姫様タイプっていうのか?護ってやらにゃと思わせるそんな感じの。
その子が独りになった時、シクシク泣いてたのを見ちまった・・・そん時思ったんだよ、ああこりゃ勝たなきゃいけねぇなって」
ベルティータがしばらく斜め上を見つめていて・・・突然、耳をピコッと大きく動かし。
身振り手振りで何かを訴えると、ライトが大笑いして手を振る。
「ないない、監禁とかそういうんじゃねぇよ・・・結構すげぇ事言い出すな姫様。
相手は一応うちの友好ギルドだぜ?エイトがそこら辺見落とすわけあるか?ねぇだろ?
どういうことかっていやぁ、つまり俺が思うにだ・・・
『アルファスペース』のやつら、ちやほやお姫様扱いし過ぎて、誰も友達になってねんだよ」
まあ姫様ってのは、身分が上の高貴な相手だから、友達感覚で接する方が本来的には間違ってんだろうけどよ、と笑い飛ばすライトに
ちょっと恥ずかしそうにうつむきながら、ベルティータも頷き苦っぽくわらう。
「楽しくなきゃダメだろゲームなんだから。
だから勝って言ってやりたい訳よ、『お前ら間違ってんぞ、自分の処のお姫様泣かせてんじゃねぇよ』ってさ。
だから力貸してくれねぇか?姫様が乗り気になりゃ、うちのバカ共もやる気が1.5倍くらいに跳ね上がるだろ、アルナイコンビ辺りなら3倍位に成るだろうしよ。
そうすりゃもう、勝利は約束されたも同然。何しろやるときゃやるバカだからなうちの連中は」
言われてベルティータが左右に揺れるように首をひねる。
迷っているとか、悩んでいるという表情ではなく、困っているという顔。
背で細い銀髪が紗々と流れ波打つ。
「あぁ、具体的にどうすりゃいいかって事か」
ライトの言葉にこっくりと頷き返し、何かを思いついたのか不意に腕を頭の上いっぱいに伸ばし
ついで腕を体から離し、肩を心持ち怒らせるようにして、自分を大きく見せるような仕草をする。
「おぉ、姫様冴えてるぜ、そいつは名案だ、今すぐ連絡とってみるわ。
アイツは戦闘中でも個別会話とパーティ会話を同時にこなすくらい、朝飯前でやってのけるすげぇ器用なやつだし、なにより脳筋職だしな。
何かいい案が出てまとまったらまた会いに来る。つってもすぐにも出さねぇと日にちがねぇんだが
『大賢者』グライフに期待して、それまで気楽にやっててくれ」
言うが早いか、瞬間移動の魔法でも発動したかのように、一瞬で目の前から姿を消したライトと入れ替わりにミリアが戻ってくる。
「あれ?折角新しいお茶の用意が出来たのに、ライトさんもう行っちゃったんですか?」
頭と同時に耳で頷くベルティータに、ミリアが微笑み返し
風も冷たくなって来ましたし館の中に入りましょう、と片手を引いて歩き出す。
単にミリアがベルティータを相手にすると、無意識に子供扱いしてしまうと言う事もあるが
ベルティータは相変わらずちょっと目を離すと、何も無い所で転び楽しそうに笑っているので
ついついミリアも過保護になり気味なのだが、ベルティータ本人もそれを煩わしがっておらず
ミリアはミリアで、世話を焼けることにやりがいと幸せを感じているあたり
ある意味で、これ以上ないほどに相思相愛?な主従でもある
二人共、レベル上げにほとんど頓着せず、ミリアは相変わらず上位職にもなれない低レベルのままで
当然ながらベルティータはレベルが上がるはずもなく・・・
そんな二人が、廃プレイヤーとものんびりと楽しく過ごせる環境が『パラベラム』であり
二人を含む多くの変わり者達が、作り出す空気こそが『パラベラム』でもあった。
2012.09.29
2016.09.21改




