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15.お披露目をしよう

グリムリープは笑い上戸で、笑い話を披露する途中で、まず自分で笑っちゃうタイプですね。

ミリアは思い込んだら突き進んで、絶対曲げない頑固で疑問を抱かないタイプかなと。

少しづつでも出演キャラクターの魅力的な部分を、出せていけたらと思っております。


その上で、読んで頂けた方が面白いと思ってもらえたなら、嬉しい限りです。

 15.お披露目をしよう


 此処のところジゼが少し変わった、とギルド内で噂になっていた。


 以前はそれ程興味を示さなかった、ベルティータの歌占いに、真剣な面持ちで参加しだしたり。

 パーティ参加に積極的になり、狩りから帰ってくれば、着替えに必要な戦利品の解呪にかこつけて、ベルティータを構い倒してみたり。

 何故かベルティータとミリアの三人で、一言も言葉を発さずに、身振り手振りを繰り返すという、ゲームだか怪しげな儀式だかをしていたり。


 以前のどこか委員長的優等生な姿からは想像できない、思わず笑いを誘う最近の姿に

 大半の評価は、親しみやすく成ったと好評で、ギルドメンバーが男女問わず、彼女に話しかけることが多くなった。

 サブマスという立場上、規律を司る立ち位置にいただけで、もともと取っ付きにくい女性ではなく。

 明るく優しい人柄で、皆に好かれているという下地が有るだけに、最近の彼女の周りから人が途切れる気配がない。


 唯一の問題となりうるであろうギルドの規律も、『パラベラム』最強のラスボスである『氷の魔女』様が睨みを効かせているので、そうそう箍が外れることはない。


 で、その『氷の魔女』はといえば、膝に載せたダークエルフの幼女が読書をしている本を、後ろから一緒に眺めていた。

 勿論、その右の席にはミリアが控えており、同じく本の中身に半分、周囲の警戒に半分と意識を配っている。


 アルリールと一緒にいる以上、ほぼ間違いなくアルリールの方が先に異変を感知する。

 レベル差と種族差の双方でそうなるだろう事は、ミリアもアルリールもともに理解していた。

 ではそんな無駄なことを、何故アルリールが止めないのかといえば、それは偏にミリアを認めたからだ。


 はっきり言ってしまえば、ミリアは上位職へも転職できないほどの初級者である。


 レベル上げにさして興味がなかったのか、或いはそれだけの時間をゲームに割けなかったのか・・・最近のログイン時間を考えると、どうにも前者であるように思えるが、それはさておき。

 レベルキャップまで上位職を上げ、エンドコンテンツに参加するアルリールとは、天と地ほどのレベル差が存在する。


 つまりはゲームシステム的な能力が、アルリールに認められたのではない。

 確かにミリアは白魔法使いという回復系JOBで、効率的なパーティプレイでは必須とされる存在だが、ベルティータを護るという点に関して言えば、はっきり言えば不向きである。

 なぜなら、ベルティータの防御力は――『怨念さん』を含めて――『レベル1にしては』特筆するほどに高いが、問題はベースと成るべきHPの絶対量である。

 レベル1、つまりは初期状態であるHPは少なすぎて、防御を抜いて、或いは防御無視でダメージを食らう状況であるなら、即死するであろうから回復魔法の有無はざっくり言ってしまうと関係ない。


 では何をもってミリアは、アルリールに認められたかといえば。


 実に単純にして明快、努力の姿勢である。


 彼女は、あのメイド宣言以来、ログインしている間中、全ての時間をベルティータの為に注ぎ込んだ。


 ベルティータがログインしている時は常に傍に控え。

 ベルティータがログインしていない時間は、レベル上げ或いはサブスキル上げを精力的に行ったが。

 ベルティータがログインしてくれば、謝罪し代わりの回復役を見つけ出してから、パーティを抜けてすぐにギルドハウスに戻り・・・




 宣言通り厳然と、優先順位を守り通したのである。




 ここまで徹底して、言葉通りに『ベルティータが、私がここにいる意味』を実行されては、パーティを組んでいたギルドのメンバーも非難せず、アルリールも認めざるをえない。

 故に、如何に自分の方が能力的に優れているとはいえ、ミリアがベルティータの為にとする行為を、アルリールが『無駄だから止めろ』等と言う訳がないのである。


 何より彼女は努力の結果、ベルティータの身振り手振り――所謂『ベルティータ語』を、ほぼ完璧にマスターしてのける、という偉業を成し遂げたのだから。

 もはや誰もミリアに、『たかがゲームでやり過ぎ』などと、言える者はいない。


 そんな、『パラベラム』でもトップレベルの変わり者少女三人が、ほほ寄せあって笑顔で眺めているのが、この世界の成り立ちである歴史書というのだから、シュールな笑いを誘う光景ではあった。

 そして、言うまでもなくそんな三人組に、挨拶の声をかけるのもまた、三人に負けず劣らぬ変わり者であったのは、必然と言ってもいいだろうか。


「お?アルが居るなんて珍しい、なんか仲良しだね三人は」


 ゴーグルを首にぶら下げ、上半身は麻っぽいノースリーブというラフな格好に似合いの、ちょっと上げた手をニギニギとする挨拶で話しかけてきたのは、赤毛のドワーフ少女。

 グリムリープの言う通り、アルリールは此処のところ連日レア狩りに赴いており、ログインとログアウト前後の短い時間しか、ギルドハウスにはいなかった。


 当然今日もそうしようとナインに、歌占いの後声を掛けられたのだが、絶対嫌です、の一言で突っぱねるなりベルティータを抱き上げて、椅子に座り込んでしまったのだ。

 ナインはナインで、実力行使に出たアルリールを見て、あぁ~と、妙に納得した顔で頷くと、何も言わずにベルティータの頭をひと撫で。

 今日は離れないと思うから、悪いけどアルの事よろしく、とだけ言い残しメンバー集めが始まっているギルドハウスの風除室の方へと、一人歩いて行ってしまった。


「グリムさん、こんにちは」


 挨拶を返すミリアにも、グリムリープは笑顔で手をニギニギとして返す。


 生息圏がギルドハウスの工房であるグリムリープ

 ギルドハウスの敷地内から、出る事を禁じられているベルティータ

 ベルティータが居る時は常に側を離れないミリア


 基本生活圏がモロに重なっている三人は、必然的に顔を合わせる機会が非常に多く、ギルド内でもかなり急速に仲良くなっている。

 三人が三人共、他のプレイヤー達のように、狩りやレベル上げを主眼に置かない、かなり特殊なプレイスタイルである点も、彼女たちの友情に一役買ったのは間違いない。

 ミリアはぱっと席を立ち、元気よく会釈するとそのままキッチンの方へと、軽い足取りで歩いて行く。


 ベルティータもグリムリープも慣れたもので、一体何をしに?などと聞かない。

 グリムリープの分のお茶を淹れるついでに、全員分の新しいお茶とお茶請けを用意しに行ったことなど、態々確認するまでもないのは、今までのミリアとの付き合いで充分理解できている。

 

「聞きましたよグリム、なにやらベルティータ姫に『最強の武器』の制作を依頼されたとか」


「ああ『ゼロ』ね。されたけど・・・見る?凄いよ」


 『引き出し』で手の上に取り出した設計図をアルリールに渡してから、ミリアの座っていた席とは逆側の空席に、よっこいせと飛び乗るようにして座る。

 ペラペラと頁をめくる音が鳴る中、ミリアが帰って来てテーブルに置いていく紅茶のカップを、視線を向けずに取り上げ・・・一口含んだアルリールが噎せた。


「凄い破壊力です。まさかここまでとは、予想の遥かに及ばないレベルでした」


あははは、と笑い飛ばすグリムリープは、もう笑顔が引き攣りすらしない。


「因みに、この【絶音に輝く荊の園】と言うコレは?」


「国一つを強制静寂状態にして、敵対心を持った対象全てを荊で拘束して正座させる・・・対国家魔法?」


 グリムリープがベルティータに、確認するよう覗き込みながら答えると、ベルティータが頭と耳を上下させて見せる。

 

「 ・・・は?

 この杖のスキルは心象発動で、タイムラグ無しで発動するとありますよね。

 つまりベルティータ姫が、なんとなく考えた瞬間、相手国民を・・・一瞬で全員拘束する?」


 もちろん、と何故か誇らし気に、グリムリープとベルティータが揃って頷く。

 ミリアは『ゼロ』の詳細は全く知らないのだが、ニコニコと実に楽しそうに場を見守っている。

 もっとも、そのネーミングセンスは如何なものだろう・・・、などと心のなかでは思っているのだが、態度には全くそれが現れていないあたり、割りと侍女は天職なのかもしれない。


「それより【優雅で楽しい食事会】の方が、ヤバイよ」


 言いながら、笑い出すのを必死に堪え、既にちょっと涙目になりながら、グリムリープがもっと先の頁にあるスキルを読むよう、アルリールを促す。

 促されるままに素早く頁をめくる音だけが静かに響くラウンジは、無表情のまま紙面に目を走らせるアルリールの姿に、空気が微かな緊張に揺れる。

 流石に二度目の今度は、心構えが出来ていた為、アルリールも咽るような事はなく。


 ただ、目眩を覚え、椅子から落ちただけで済んだ。




「・・・自国以外の全ての国から、それぞれ10%の食料を徴収し、任意の場所に集める?」




 茫然と呟くアルリールの表情に、遂に耐え切れなくなったグリムリープが、吹き出すなり腹を抱えて笑いだし、椅子から転がり落ちるも止まらず笑い続ける。

 対してベルティータは、むふーっと何故か誇らしげに胸を張るため、グリムリープに笑いから立ち直る隙を与えない。

 ひーひー苦しそうに呼吸し、なかば痙攣しながら、グリムリープが地面をバンバン叩き、同じ地獄に引きずり込もうと、呼吸もままならないままに説明を口にした。


「ヤバイでしょ……姫さまの考えた……対世界魔法。

 戦争しないの……もう、戦争とか……そう言う次元じゃ無いの、あははは」


 苦労して笑いをこらえながら、途切れ途切れで説明するグリムリープ。




「『最強の武器』ではなく……『さいきょうのぶき』ですよねコレ」




 頭痛に眉間を抑えながら呻くアルリールの姿と、素晴らしいです姫様!と言うミリアの賞賛がきっちり止めを刺し、呼吸困難で気絶に追い込んだ。


 BABELのみならずVRゲームでは、一定以上の苦痛をプレイヤーは受けない。

 安全保護リミッターがハード、ソフトの両面から掛けられており、そうでなければ国の認可が下りない様になっている。少なくとも、ここ日本ではそうだ。

 リミッターはブラックボックス化されており、事実上解除は不可能となっているが。

 リミッターの掛かっていない機器の販売及び譲渡や単純所持、違法改造によるリミッター解除は、例え本人が使用する目的であろうとも、殺人未遂の適用までなされ、改造方法を伝える事でも重犯罪になり得ると、アメリカがいちはやく法整備し、日本もそれに追随する形で手を打ったのだ。

 

 BABELにおける気絶とは、プレイヤーとキャラクターとの感覚共有を遮断し、プレイヤーを保護するという、リミッターの一つである。

 

「貴女は、世界を征服でもするんですか?」


 耳の先を細い指先で弄りながら、眉尻を下げたアルリールが、呆れたような顔で椅子から落ちても尚、腕の中に抱え、離さずにいたベルティータに問い掛ける。

 身体をずらし真っ直ぐにアルリールを見詰めてから、右へ左へとゆっくり首は振られ、銀の髪は綺麗に広がった。

 取り敢えず世界征服の意志は無いと判り、ほっと安堵の息をついたのもつかの間。

 アルリールの心は、新たな疑問に責め立てられる。


 何故ベルティータが、そんなスキルを求めたのか


 アルリールにとってベルティータは、無邪気で愛らしい癒しの天使である。

 何かが出来るとか、役に立つスキルを保有しているとか、そう言った損得を超越した次元に居る、と言い換えてもいい。

 そんなベルティータが、敵兵力の完全なる無力化、或いは食料を徴収といった、戦争行為その物である異常な広域魔法を求める事に、尋常ならざる違和感を覚えた。


 いや、勝手に自分が理想を押し付け神聖視していただけで、本当のベルティータはそういったものを好むのだ、と言われればそれまでなのだが。

 ギルドハウスに来て以来、本を読んでいたり、薔薇園でお茶を飲んでいたり、テラスで日向ボッコしていたりと、平和でのんびりとした生活に不満があったとも、演技だったとも思えない。

 寧ろ、ログインして日課の歌を歌った後、それ以外の事をしていた試しがないのだから、誰しもがそう思うことだろう。


 好奇心旺盛で、割と向こう見ずなところがあるベルティータが


 ギルドメンバーが油断するのを、虎視眈々と狙って・・・


 想像しようとしてみて、全く想像できず、それでも無理矢理想像しようとして頭痛がしてくる。

 大体にして、そこまで積み上げる周到さと、こんな簡単に露見してしまうというおバカさ、機密保持の温度差が一致しない。


「それでは何で、そんな力が欲しいのですか?」


 両脇に手を差し入れて、真正面から金色の瞳の奥、猫のような縦長の瞳孔の底深くを覗き込みながら、アルリールは飾る言葉を全て捨てて問いかける。

 そうすれば、彼女の天使は、決して誤魔化したりせずに、答えてくれると信じていたから。


 途端に、短い手足がわちゃわちゃと身振りをしだし、真っ赤に染まった長い耳が忙しなく上下しだす。


 アルリールは無自覚で、ゼフィリーにはああ言っていたが、恐ろしい美人である。

 そんな、普段は強気な美女が物憂げな表情を浮かべて、真正面から濡れた瞳で見つめ、ほんの少し顎を上げてしまえば、唇に触れそうな距離にいるのだから、たとえ同性であろうとも、胸の鼓動はうるさくなり顔は火照るのは仕方がない。

 なにより、本人がそれを全く気にしておらず、相手に性を見ていないというのだから、余計に質が悪いというか、罪作りというか・・・


「あのアルさん?そろそろ姫様を、許してあげて頂けないでしょうか」


 控えめに言葉を掛けるミリアも、どこか申し訳無さそうな顔をしつつも、何故か頬を上気させている。


「許すも何も、最初から私は、ベルティータを責めてなどいません」


「いえ、そうではなくてですね……姫様?姫様ぁっ!お気を確かにっ」


 わちゃわちゃと動いていた手足が、ぱたりと力なく垂れ下がるのを見て、ミリアがアルリールの腕から強引にベルティータをひっぺがし、ソファーに寝かせると真っ赤な顔に扇で風を送りだす。

 逆上せて目を回したベルティータの、襟元を緩めようとするのを邪魔する『怨霊さん』を、片手であしらいながら、ミリアが少し怨めしそうな顔をしてアルリールを小さく睨んだ。


「アルさん、姫様は確かに無邪気で大変愛らしい方です。

 なので、愛でるなとは申しませんが、猫の子では無いのですよ?」


 猫の子では無いなどと、ミリアは何を当り前の事を言っているのだろう?


 ベルティータは天使なのだから、猫の訳がないではないか。


 確かに子猫は天使の様に可愛いし、もうほとんど天使と言っていい気もするが、だからと言って私がベルティータと子猫の見分けがつかない、とでも思っているのだろうか?


 怪訝な表情でミリアを見遣るアルリールは、内心で馬鹿にされたと感じつつも、ミリアは少し休んだ方が良いのでは無いかと、他の誰かが聞けば真直ぐ自分に返ってきそうな失礼な心配をし。

 ベルティータに近寄ろうとすると何故か牽制してくるミリアに、ため息を付きながらテーブルに置きっぱなしになっていた、『セロ』の設計図を取り上げ、ぬるくなってしまった紅茶を片手に再び目を通し始める。


 強制静寂状態下で正座させて拘束・・・こんな魔術を使うのに一体どれだけの魔力が居るのか、桁すら想像できません。


 相手の食料備蓄を自分の食料備蓄にする・・・『食料』という曖昧な定義での探知と空間転移の同時発動、座標の特定に、どれだけ複雑な魔術構築と魔力制御があれば出来るのか。


 不意にアルリールの動きが止まり、次いで紙面を疾走る目の動きと頁をめくる指の動きが、連動して高速化する。

 『濁流で押し流され装備全てロストする魔法』『食べたいときにいつでも林檎が振ってくる魔法』など幾つもの魔法を経て、アルリールが最後に辿り着いた頁で指が止まる。


「……あ……ああっ……――っ」


 両手で顔を隠すも、豪奢な金髪から覗く真っ赤になった首筋も、長い耳も覆い隠すことは出来ず。

 小さな子供のように左右に首を振っても、気がついてしまった真実も、目の前の現実も無かった事にはなってくれない。

 声にならない悲鳴を上げて、『氷の魔女』が真っ赤な顔で気絶させられたのは、一番最後の頁の【魔法】。


 彼女の冷静で容赦無い知性は、隠された答えを完膚なきまでに暴いてしまった。

 そこに書かれた魔法、それが何に起因し、どれ程絶対無敵なのかを。

 流れこんでくる想いの濁流が、一瞬にして彼女を溺れさせてしまうほど。


 日本サーバー最強の黒魔術師の一人と畏れ称される『氷の魔女』

 魔導書ではなく、杖の設計図上にあるほんの走り書きである。

 アンダーラインの引かれた魔法名、その真の意味を知る者は二人しかいない。

 そこには、こう書かれていた。




 【綻びぬ夢幻の約束】




 2016.09.22追話

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