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12.ラスボスに挑んでみよう

アルリールは、無表情でベルティータをベタベタに甘やかす姉のように見せかけて

ベルティータにベタベタに甘えている妹っぽい、と思うのですがどうでしょう?

寧ろナインの方が、年の離れた妹にダダ甘なお兄ちゃんっぽいかも知れないなと。

 12.ラスボスに挑んでみよう


 不意に背後から伸びた手の持つグラスを頬に押し当てられ、手元に集中しすぎていたミリアは情けない悲鳴を上げ、皆の注目を集めてしまう。

 頬を赤く染め、恥ずかしそうに顔を伏せ、相手を誰何する事も忘れ。

 ゆっくりと背後を伺うようにすると、グラスの持ち主が含みのない笑みを浮かべていた。


「根詰め過ぎ、ダメやでギルドの決まり守らな。

 遊びは真剣に、ただし必死になったらあかん!楽しないんは続け過ぎると、すぐ燃え尽きてまうで」


 ほれっと差し出すゼフィリーから、礼を言いつつ汗をかいたグラスを受け取ると、びっしょりと手が濡れる。

 喉を鳴らしてアイスコーヒーを飲むと、ゼフィリーのイメージとはややかけ離れた、甘みが口いっぱいに広がり。

 不思議と肩の力が抜け、周りの音が耳に入ってき来て、ゼフィリーに言われた通り、集中しすぎたと言うよりは、必死になりすぎていた自分に気付かされる。




「今回は随分と深層まで潜ったので、すっかりベルティータ姫分を使い果たしてしまいました」




 酷く落ち着いた理性的な声で、酷く非科学的な内容を告げながら、アルリールが、お迎えにドア脇まで行ったベルティータを抱き上げ、胸に閉じ込めるように抱きしめる。

 俺も俺も、と手を伸ばすナインに、変質者でも見るような――炎の精霊も一瞬で凍り付くほど冷たい視線を向け。

 

「セクハラを公然としようとする変態が居ると、GM呼び出されたいのですか?」


 言い訳も反論も許さぬ言葉で、一刀両断にナインを切り捨て。

 舌の根も乾かぬ内に、ベルティータの銀髪に顔をうずめて深く息を吸う・・・

 最早誰も止めようとしないアルリールの奇行は、狩りの終わりの儀式として、皆に諦め――黙認されていた。


 というのも、真偽の程は本人以外に誰にも分からないが、『ベルティータ姫分』を補充せずに、欠乏した状態だと・・・アルリールの魔法の成功率が明らかに低下するのだ。

 なんとなくでも感覚的にでも無く、それがデータとして示されており。実際に暴発によって、パーティが全滅しかかった事実が、実績としてある。

 その為、本人と周りの安全のために黙認する、ということが暗黙の了解とかしてしまった。


 しあし、当然そこにはベルティータの意志は介在せず・・・言い方を悪くすれば。


 パーティの安全の為に、生贄としてベルティータは捧げられた、と言えなくもない。

 もっとも、本気でベルティータが嫌がるようであれば、流石に皆もそれを無理強いすることは許さず。

 第一にして、アルリールが本気で嫌がるベルティータに、どうこうするはずがないという信頼の元の悪ふざけの延長である。


 褐色の肌であってもありありと分かるほどに、銀髪から覗くベルティータの長い耳が赤く染まり、ピコピコと上下に忙しなく動く。

 本人は見守る周りほど、アルリールの直接的な親愛表現?に慣れること無く。

 暴れる様子も無いことからわかる通り、嫌なのではなく恥ずかしいのだろう。


 そして、非常に困ったことに・・・何より本人にとっては不運なことに。


 恥ずかしがっているベルティータの姿というものは、その外見の幼さとあいまって、アルリール成らずとも、抱きしめたくなるほどに、非常に愛らしいのだ。

 アルリールの、本気とも冗談とも取れない脅しに屈したナインは、右手のガントレットを外しベルティータのサラサラの銀髪やんわりと撫で付ける。


 あ・・・なんかアルがいってる『ベルティータ姫分』が、ちょっとわかる気がする。


 タッチセラピーと言ってしまうと、ベルティータに失礼かも知れないが、その触り心地は柔らかく、何より暖かく。

 なんというか、触れていて何処か安心するような――子猫を撫でた時のように、心がほっこりするような――癒され満たされていく感覚を、ナインは感じていた。

 今日あんなに苦労して、深々度にまでダンジョンを潜ったのも、ギルドの勝利のため、という眼に見えないものではなく、全てがこの少女の為・・・そう実感として受け取ったのかもしれない。

 そういう意味で言うのであれば、ナインは正しく騎士向きな性格と言えた。


 エルフとダークエルフの少女に寄り添う人族の青年の姿に、周りの目が空気ごと和らぎ優しくなっていく。

 それを微笑ましいものとして見つめるゼフィリーの横で、ミリアは、温度のない視線で目前の光景を眺め、感じていた。


 まるで写真を見ているかのように、どことも知れぬ光景であるかのように。

 だから、気の抜けた表情でふと、口から無意識に零れ落ちた自分の本音も

 まるで、意味を成さない音の連なりのように、意識せずに聞き流した。


「私、本当に役に立ってるのかな・・・」


 同情や慰めを欲してのものではなく、完全に無意識の・・・少し枯れた様な呟きは、自分が此処にいるのは場違いで、本当はただのお荷物なのではないかと、ミリアが常に抱えている不安を・・・これ以上ないほどに表していた。


 人族の少女が漏らした、灰色の悲しい声をハイエルフの耳は捉え


「あー、あんなミリア、ウチらは誰も一人でなんでも出来る訳やない・・・」


 ゼフィリーが、あからさまに不得手という感じで、言葉を選びミリアに話しかけるのを押し退けて

 目の前に立ったアルリールが、深い溜息をつき、本当に残念そうな顔をしながら

 ベルティータの両脇に手を差し入れ、ミリアの方に正面が向く様に差し出す。


 宙に浮いたままのベルティータの脚が所在なげに揺れ

 見上げる金色の瞳と、ピコっと小さく動く長い耳が、自分を心配していることを言葉も無く告げていた。


「貴女は頑張りすぎて『ベルティータ姫分』が枯渇しています。

 誰かの役に立ちたいという思いは大切ですが、それで自分に出来る事以上を無理をしてやっても、誰も褒めてくれずに、結果として内外の評価の差に余計苦しむことになります。

 いきなり言われただけで視点を変えることは難しいでしょうし、実際に不可能でしょう。

 ですので、アドバイスしますと角度を変えて見ることが、楽しむためのコツです」


 アルリールの言葉は、ミリアには届いていなかった。

 ミリアにとってアルリールは、出来る事がある相手であるから。

 故に、続く言葉が耳に入った瞬間うけた衝撃は、完全に不意打ちだった。


「誰もが『物語の主人公的大活躍』を目指して、一つしかない席の取り合いに躍起になっている今。

 案外気づかないだけで、見回せばオープンスペースはそこら中にあるものです。

 ベルティータ姫の様に、脳天気に今を楽しんで笑っているのも、非常に重要な役に立っているのですよ」


 ベルティータ姫、頑張り屋のミリアを祝福してあげてください。


 アルリールにそう促され、文字通り持ち上げられたままのベルティータが、小さな手を伸ばしミリアの茶色の髪を優しく撫で付けていく。

 何度も何度も、凝り固まった心を解きほぐしていくように。


「・・・あれ?」


 不思議そうな呟きを漏らしながら

 その日、ミリアは初めて、仮想現実の中でも涙が流せることを知った。


 優しくあやすように、白レースの手袋に包まれた小さな手で、ぽんぽんと一定の調子で頭を押さえられながら、ベルティータの薄く盛り上がってすら無い胸に、顔を埋めて大泣きしていたミリアだったが

 少し冷静さを取り戻した瞬間、客観的に今の自分がどう見えるのかに思い至り・・・

 ベルティータを持ち上げ続けているアルリールの腕が、限界間近で細かく痙攣し始めていることにも気づき

 声にならない悲鳴とともに、弾かれるように身を離し、顔を真赤にして逃げ出したのが十分ほど前の話。


 人前で大泣きするのは、やっぱりちょっと恥ずかしいよね・・・と暗黙の了解で誰もそこに触れないのは――『パラベラム』が社会人専用ギルドであるためか、見ていた者の大半が女性キャラであった故の優しさか。

 あるいは、ミリアを諭したアルリールの言葉が、聞いていた者それぞれの胸に、収まりが良かったためなのかはともかく

 まるで特別なことなど何もなかったかのように、皆が元の作業に戻っていった。


 ・・・のだが、その戻った平穏を再びぶち破壊したのも、ミリアだった。


「私決めました、この格好はその決意の表明です。

 もちろんレベル上げも放棄したりしません

 でも・・・今日この時から、私の職業は姫様の侍女です。

 お料理も、お裁縫も、今はまだまだだけど、きっとすぐに上手くなってみせます。

 だから・・・」


 一旦言葉を切って、真直ぐにアルリールの腕の中にいるベルティータを見つめながら。




「貴女を、私がここに居る意味にさせてください!」




 顔を真赤にしたメイド服姿のミリアが、ホワイトブリムを乗せた頭を元気よく下げた。


 瞬間、黄色い悲鳴と、凍り付くような視線。

 そして、ちょっと引いたような、なんとも言えない空気がミリアの上に雪崩込んでくる。

 周りの皆が何故こんな反応をするのか、ミリア本人だけが理解出来ず、おどおどと周りを見回し、その姿に居た堪れなくなったゼフィリーとナインが


 かたや片手で顔を覆いながら


 かたや引き攣った笑いを、無理に浮かべながら


 説明というよりは、ツッコミを入れる。


「ミリア、それ侍女の仕事やのうて、メイドの仕事やしメイド服や。

 あんま日本では知られとらんが、侍女てな結構社会的身分も高いしメイドとは別もんやで?」


 ゼフィリーの指摘に顔を赤くするも、ミリアは頭を下げたままの姿勢を変えず。

 黙って、ベルティータの反応を待っていたが・・・

 ベルティータが言葉を発さない事をおもいだして、そっと下から伺う。


「ミリア・・・本気なのは十分伝わってきたが、それを証明するためとはいえ、アルに真正面から喧嘩を売るなんて、物騒なことをするのは止めてくれ。

 俺もアルと随分長い付き合いだが、隣にいるだけで心臓が止まりそうなほど怒っているのなんて、見るのは初めてだ。

 別にどんな恋愛観をミリアが持ってても、俺は差別する気はないがせめてアルが目の前にいない時を選ぶか・・・

 最低でも俺がその場にいない時に、『ベルティータ姫へのプロポーズ』はやってくれると助かる」


 言われて自分の発言を思い出し


 確かにナインの言うとおりに、プロポーズにしか聞こえないと悟るや


 ミリアの顔は、一瞬で耳まで真っ赤に染まったが・・・


 容赦なく叩きつけられた、吹雪のような猛烈な凍気に、ストンと血の気を失う。

 ゆっくりとしか動けなかったのは、本能的に見てはいけないと悟ったからか

 それでも、ミリアはベルティータの方へと、ゆっくりと視線を向ける。




 そこには・・・魔女がいた・・・




 眦の吊り上がった目を細め、その中央で此方を鋭く睨む、燃えるような紫の瞳の存在を認め、視線が外せなくなる。

 その顔は笑みを浮かべているのに、その笑顔は美しいのに

 見るものの心に、安心や安らぎを一欠片も浮かばせず

 恐怖と、焦燥に駆り立てる。

 

 その動きは少しも鋭い所はなく、優雅で


 ほっそりした真っ白い手が、ミリアの肩に触れるように置かれる。

 その手の主に、ミリアは縋るような目を向けるが


 エルフの少女は、ゆっくりと、その首を振り、優しげに微笑んだ。


「『物語の主役』のような台詞を、勇気を振り絞って言った貴女が

 本当に『物語の主人公』に成れるよう、一つ私がお手伝いしましょう」


 その声はアルリールにあるまじき、柔らかい調子で

 普段のそっけない物言いからは考えられないほどに、優しく語られた。

 故に、その場の誰もが・・・


 続く言葉が、どれほど恐ろしい内容であるのか、想像もつかなかった。




「やはり此処は、悪い魔法使いの手から、お姫様を救い出すという、王道展開でどうでしょう。

 救い出すのがお姫様の侍女というのは新しい要素ですから、文句は出ないでしょう。

 頑張らないと『挑んだものは誰一人として生きて帰ってきたものは居らず』などという、簡素な一文のなかの十把一絡げで済まされてしまいますよ、ミリア」




 2012.09.25

 2016.09.16改

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