11.悪巧みをしよう
どうしてもキャラ設定上、エア主人公になり易いですが
パラベラムのメンバーが、変な事も要因として小さく無い筈
そろそろ改訂話ではなく、新しく書いた話を加えたいので
更新ペースが乱れると思います。
11.悪巧みをしよう
まあ、あの人だからな・・・という諦めと苦笑いの諦観が、八百長疑惑とそろそろ逆転するのではないかと、ジゼが心配していることも知らぬかのように。
それから一週間、グライフはベルティータの守護者の地位につき続けた。
グライフが呼び掛ける『ベルティータ姫』と言う呼称に、最初は恥ずかしがって、頻りとベルティータが照れながら、小さな体を大きく動かして何かを必死に訴えていたのだが。
一週間もの間、延々そう呼ばれ続けて感覚が麻痺したのか、それとも根負けして諦めたのか、ようやく呼ばれるベルティータの方も、余り恥ずかしさを感じなくなってきていた。
ギルドの中では、ナインの自称する『聖騎士』よりあっさりと受け入れられ、今ではグライフの『大賢者』という他称と同じ程には、すっかり市民権を得た呼び名となっている。
・・・と言うことは、こういうことである。
「私は、確かあなたに、ベルティータ姫を特別扱いすることについて
ギルドのメンバーから小さな不満が出てきている、と相談したわよね?」
非ぬ方を向きながら、ジゼが個人会話でグライフに掛ける声は普段よりも低く、初めて声を聞いた者でも聞き間違わぬほどに不機嫌であった。
「いかにも」
答える声は短く、岩のように穏やかな声。
此方も個人会話で、ジゼにしか聞こえぬようにしながら、ジゼには目を向けない。
というのも、ベルティータは相変わらず脚をぶらぶらさせながら椅子に行儀よく座り、大きな本を――といっても本人が小さすぎるということもあって、実に身長の半分ほどにもなろうかという巨大な本を、テーブルの上に置いた書台に立てかけて読んでいる。
当然のことながら、そうなってくるとページを捲る役はグライフに回ってくるのだが、逆に三メートルを優に超える巨人のグライフにしてみると、文庫本サイズより尚小さく。
極太い指でページをめくるにも、かなり神経を使う作業である。
本人が細心の注意をはらって真剣な分だけ、周りから見えるさまが笑いを誘うのは仕方がない。
「あなたが、ベルティータ姫独り占めしてるから、今まで不満の出なかった方からも、不平不満がいっぱい出てきたじゃない。
それどころかね、あなたには何の相談もないのでしょうけど、近衛騎士団設立の申請が来たのよ私の所に。
ちょっと聞いてる?団長があなたになってるんだけどコレ」
どうするのよこの事態、頬杖を突いて憮然とした表情のジゼが愚痴る。
混乱を収めるいい手はないかと相談を持ちかけた相手に、さらなる混乱を呼び込まれたのだから、憤懣やるかたないという今のジゼの態度は、責められるものでもない。
遊ぶため、楽しむために入ったゲームの先で・・・
山積みになった苦情を処理するだけで、ログインからログアウトまでの時間を丸ごと取られる、などという事があれば、流石にグライフ相手に愚痴の一つ、嫌味の一つも出るというもの。
「初耳だ、といえば満足して読書を続けさせてもらえる・・・と言う訳には行かんか。
どうやら頃合いのようだ、収穫日を間違えては、実は熟しすぎ地に落ちる。
ジゼはエイトに、姫に関する件を皆に話すよう告げ、そのまま皆を集めるが良かろう」
なんで態々私がエイトに言いに行く必要があるの?
反発ではなく純粋な疑問を頭に思い浮かべるジゼ、それは長くこのゲームに携わっていればこそのもの。
どれだけ距離があろうとも、相手がログインしているのなら、相手を特定しての個人会話がシステム上可能である。
ならば、今この場から、簡単な操作でエイトを指定して、一歩も動くこと無く。
ジゼに説明した時間で、グライフ本人がエイトに話す事が出来たはずなのだ。
「これは、ベルティータ姫の近衛騎士団が、今にも発足しようとしているギルドのサブマスがいなことを言う。
恭しく使者を立て、口上を述べられた相手が、皆を集めてまとまらない会議をするなど。
誰もが創作の中で見たことのある光景であろうに。
エイトならば喜んで姿を表すだろう、あれは無駄を遊びとして楽しむことを知る者だ」
ページをめくりながら、僅かに笑うような声で応えるグライフ。
近衛騎士団などという、酔狂の極みのような物を求める連中に。
使者を立てての口上という、酔狂で返しただけのただの遊び心。
「それで、本当のところは?」
「それがしを巻き込み、渦中に据えたジゼにも『物語』の矢面に立ってもらう。
一人素知らぬ顔で、安全地帯に居られてなるものか、と」
しれっとした声で返す巨人の涼しげな表情に、遠くはなれていたジゼが吹き出して笑う。
実情を知りえぬ者にとって見れば、一人憮然として頬杖をついていたジゼが、突然吹き出した。
わざとらしく咳をして口元を抑えながら、誤魔化しにも成らない誤魔化しをしつつ
無理矢理に、鹿爪らしい表情を作りながら、意識を集中してグライフに個人会話を送る。
「姫に嘘をつかなくて済んだわ、やっぱりあなたはとびっきり楽しい人だった。
では、姫と大賢者の使者として、ギルドのマスターに恭しく口上を述べてくるわね」
椅子から立ち上がり、エイトの居るであろう奥まった部屋へと足を向けるジゼの背に、グライフは一瞬だけ視線を向ける。
何処か悪戯を仕掛けるような、軽い足取りのジゼの姿を認め、小さく頷く。
だが、事態はジゼの予想とはまた違った展開を見せることに成る。
彼女がもう少し注意深く、疑り深い性格であったなら、それを予測出来たかもしれない。
或いは、サブマスとして、ギルドメンバーの苦情処理や、メンバー同士の調停に奔走していなければ、気づき得ただろうか?
多分、気づいただろう。彼女は聡明で、周りに気を使える人物であったから。
故に、現状は偶然の産物で
必然の結果。
巨大なラウンジには、野良(見知らぬ同士が一期一会的に協力することに対する通称)でレベル上げパーティを組んでいる者以外の、全ギルドメンバーが集められた。
いったい何が起こるのだと、ざわめく皆の前に姿を表したのは、完全武装で身を固めたエイト。
普段平服でいることが多い彼が、腰には剣を佩き、レアや超高級装備を身に纏った輝ける出立ちで、皆の見守る中を進みいで。
通常会話とギルド会話に向け、静かに落ち着いた声で、はっきりと告げた。
「我々のギルド『パラベラム』は今日、宣戦布告を正式にされた」
素っ頓狂な驚愕の声と、ざわめきのうねりがラウンジを呑み込みゆく間、ジゼは努めて平静を装っていたが
それは多大な努力によって、なんとか表情を取り繕っていただけ。
内心では今にも吹き出してしまいそうなほどであるのを、必死に難しい顔を演じていた。
まあ、誰もギルド内から、有りもしない近衛騎士団が仕掛けるなんて思わないでしょうね
それにしても、グライフの言う通りノリが良すぎるわねウチのギルマス。
・・・あれ、エイトの本気装備じゃない。
しばらくし、周りを伺い合っていたメンバーが自分と同じように何も知らないとわかるや、皆が皆口を噤んでエイトの次の言葉に耳を傾ける。
先を促す強い目、不安そうな表情、未だに理解出来ず傾げられる小首、そのどれにも向かいエイトは大きく頷いて見せ、安心させるように笑みを浮かべた。
「最近始めたばかりの人や、まだレベルを育てきっていない人が不安になるのはわかる。だが、まず私の話をどうか聞いて欲しい。
全てを聞いた上で、どうしてもついて行けないと判断した人が、ギルドから離れるという選択も当然有りだと私は思っているし、その事でどうこうと誰にも言って欲しくない」
人懐っこいエイトの笑みに、とりあえず話を聞くことを皆が納得し、黙りこむのを見て。
ジゼの鼓動が来るべきネタばらしの瞬間の、皆の反応を期待して刻一刻と高まっていく。
「宣戦を布告してきたのは・・・親交もある古参ギルドの『アルファスペース』だ」
「・・・はぁ!?」
皆が固唾を飲んで見守っている中、一人大きな声をあげるジゼ。
ラウンジ中から鋭い視線を向けられ、口に手を当てて肩をすくめ顔を俯ける。
なによ、どういうこと?
本当に『アルファ』から戦争しかけるって言われたの?
頭の中を目まぐるしく思考がめぐるが、出口にはたどり着かない。
当然だろう、完全に不意を突かれたジゼは、本人は冷静のつもりであろうが。
動揺し、パニックに陥っていた。
「うちと同じくらいの規模のギルドで、スタンスも同じような所だ。
基本的にうちは社会人以外は入れないが、あちらは学生もOKと言うことで、あちらの方が人数は多い。
両者間で今まで小さなトラブルはあったものの、ギルマスのフォースとも古い付き合いで、大人な話のわかる人なんだが……」
一旦言葉を切って、渋い顔をして見せながらエイトが目をつぶる。
「つい先日、クエの途中でばったり彼に会ってね。
ちょっと話をしたんだが・・・最近、ギルドメンバーの高レベル者から、呪われアイテムのドロップ率が高すぎる件で、苦情が多くて参っている、という愚痴が出た」
宣戦布告は一体何処に行った?
思わず突っ込みそうになるほど仲良さ気な内容だが、黙って話の続きを待つ程にはエイトはメンバーからの信頼と人望があった。
なにより、これは実はそれほど深刻な事態じゃないのではないか?と空気が幾分和らぐ。
メンバーの大半がエイトの人柄に惹かれて、集まって出来たギルドだ。後から入ってきた者達も、大概はエイトの勧誘によるものが多い。
真剣に遊ぶが、必死にはならない、という微妙な線引きのプレイスタイルがモットーであり、その部分に共感した同志という、連帯感も『パラベラム』にはあった。
「それで思い切って尋ねたんだ、『闇の女王』クエをもしかしてクリアしなかったかとね。答えは案の定イエスだった。
そしたら今度はこう聞かれた『もしや君のところの『聖騎士』が姫を保護したのかい?』と・・・どうにも全てを解っているような感じでね。
『天使のように愛らしく、悪魔のように美しい姫が、我々のギルドハウスにはいる』と答えてやったら、彼なんと言ったと思う?」
ベルティータの護衛役を争っていたもの
占いと称して毎日声なき歌を聞いているもの
彼女を特別扱いすることに反発心を持つもの
全てを一巡り目を合わせるようにして、少々芝居がかった仕草で指を鳴らしながら
「『それは、我が館にいる姫を見ていないから言える言葉ですね』と、鼻で笑われた。
そこまで言われたら流石の私も退けない、そっくりそのままその言葉を返してやると、紳士的に笑顔で別れたのがニ週間前だ。
……で、昨日我がギルド宛に、こんなものが届いた」
いつの間にか手に持っていた、いかにもな感じの羊皮紙を頭上に掲げ、背後の大理石に貼り付けるように片手で押さえつけて、深く深く息を吐く。
「文面は後で自分の目で確認してくれ、内容を簡単に説明するとこうだ・・・
『今から二週間後に、『パラベラム』と『アルファスペース』にいる姫様の、一体どちらが愛らしいのか雌雄を決しよう。別に逃げても構わない、何しろ此方が勝つに決まっている。
ただし、相手の邪魔をする様な卑怯な真似をして、うちの姫様の品位を下げるような真似はやめてくれ』」
羊皮紙を押さえるエイトの左腕がわなわなと震え、目には蒼い炎が灯るのを、その場の皆が確かに見た。
「私は此処に開戦を宣言する。
我ら『パラベラム』の総力を以って、うちの姫がBABELで一番愛らしいに決まっていると証明し、奴らの鼻先に指を突きつけて、大声で言ってやるのだ」
おーっ!という応えた大歓声は、野太い物から甲高い物まであらゆる種類が入り交じっていた。
声の主は、付き合いの長い高廃レベルのキャラ達。
彼らは一人残らず立ち上がり、一斉に拳を突き上げる。
彼らはいわゆる普通の経験値稼ぎに、或いは金策やNMを他のギルドと取り合う事に飽いていた。
その上、敵が落とす呪われ装備にも辟易しており、モチベーションが下がりきっており。
ある者はベルティータの護衛役を争い、ある者はその言い様のないぶつけ様のない不満を、無意識に反発心に変えてベルティータに向けていた。
それがたった今、ひっくり返されたのだ。
役にも立たない呪われアイテムは、値千金のレアドロップアイテムにも匹敵する価値を、一瞬にして付与された。
何しろ『彼らの姫』は、通常の装備品を装備することが出来ない。
装備できるのは、どこかオドロオドロしく、マイナス要素が致命的に大きな『呪われ』装備だけなのだから。
元々ベルティータに好意的であったアルリールやナインが、やる気どころか殺気すらみなぎらせるのは解る。
だが、そうでなかった者達までもがやる気になって、むしろ人一倍ベルティータの勝利に闘志を燃やしていることに、ジゼは驚いていた。
エイトの突発的な思いつきイベントに慣れている、というのもあるだろうが・・・それにしたってつい先程までは、不満の対象であったベルティータに対する彼らの目は今は仲間に、いや『自分達の姫』に対するものに摩り替わっている。
「ベルティータ姫を貶められても、彼らは何も感じなかったであろうが
『パラベラムの姫』をバカにされたのなら、我が身を嘲笑われると同じく感じる。
真に、人の心は複雑で繊細」
ジゼの耳にだけ届く、岩のような穏やかな声。
声の主は金属板が触れ合う重い響きを打ち鳴らせながら、小さなベルティータの前へ歩み出ると
その目の前に巨大な武器を置き、小山のような巨体を屈めて頭を垂れる。
「それがしは戦うこと以外出来ぬ身ゆえ、繊細な細工も、装飾の選別も、服飾の術も、化粧の技も皆無の無骨者。
されど、出来うる事全てを以ってベルティータ姫に・・・我らが勝利のために」
グライフのその姿に、取り残された中低レベルに属する、残りのギルドメンバーが我先にと立ち上がり、口々に、自分が得意な分野で頑張るという宣言をしながら、同じく膝をついて頭を垂れる。
その光景を、少し離れてみていたアルリールが、隣に立っていたナインの脇腹を肘で突つく。
「一番良い見せ場をとられてよかったのですか?姫を保護した『聖騎士』様が」
アルリールの言葉は皮肉ではなく。
貴方がグライフの代わりを務めていても、誰も文句を言わなかったはずですよ?
というどちらかと言えば、遠慮をしたナインへの褒め言葉とも取れる一言。
「ああ言うのは、誰が見てもでっかい奴が、小さい姫を前にやるから絵になるもんでしょ。
残念ながら俺じゃ見た目のインパクトが弱いし・・・もっとクサイ台詞しか言えない。
兄貴がやるかと思ったんだけど、煽った本人よりもグライフがやったほうが、周りもすんなり難得するし、出来る事で参加すればいいって流れは、流石『大賢者』だよ」
素直にそう返されてしまえば、それ以上アルリールもなにかいうことは出来ず。
内容的にも、一連の出来事の理解度が深いこともわかり、バカ9と事ある毎にナインを呼んでいるアルリールも、満足そうに薄く笑って肩をすくめてみせる。
本当のバカ相手に、態々バカだなどとアルリールが言うはずもないのだ。
「だったら、もう少し全体を見なさい。
一面だけの真実など、誰にだって見て感じれば解るものですバカ9。
これで一体誰が得をするのか、誰がこの状況の絵図面を引いたのか。誰が指揮して、誰を味方に引き入れて、落とし所をどの辺りに想定しているのか」
眉をしかめて首をひねるナインに、呆れた溜息をついて、その鼻先に指を突きつける。
「まだわからないのですか?
私が、一週間も、姫を無断で独占されて、暴れないわけがないでしょう?」
☆ ☆ ☆
アルナイコンビが、相変わらずなやり取りをしているところとは少し離れた場所で、別の男女が落ち合っていた。
「やってくれたわね・・・と文句を言っても?」
腰に手を当て、睨むような鋭い視線を向けてくる美女に、男の方は人差し指を立てゆっくりとその指先を、とある巨人の方へと傾けていく。
「最初にフォースから相談を受けていたのは、彼だ。『最近ギルドの中で不平不満が溜まって分裂しそうだ、なにか良い知恵を貸してくれないか』とね。
話をフォースから聞いて、すぐに気づいたそうだよ、うちのギルドと状況が似すぎていると」
全く悪びれた様子もなく、エイトはあっさりと白状していく。
「即座にフォースと私を呼び、その場で今日みなに見せた手紙を書いて交換させられ、『時が満ちるまで、沈黙を守るように』と言い含められた。
姫のことに関して、私は言われた通り我関せずを通した結果、不満は全て君のところへ流れた、と」
今頃あちらでは、私はどんな挑発的で無礼な物言いをしたことになっているのやら・・・と、まるで他人事のようにぼやきながら。ようやくエイトの肩から力が抜け、ほっと安堵の息をつき。
視線をグライフと、その頭の上に乗っている――すっかりその位置が、此処一週間で定位置になった――ベルティータに向け、優しい笑みを浮かべた。
「彼が仲間であったことは幸運だった。
『パラベラム』にとっても『アルファスペース』にとっても・・・二人の姫君にとってもね。これで姫君たちはギルド員の証であるリングを付けられなくとも、ギルドの仲間として正式に認められることに成る。
あとは・・・ジゼの頑張りに期待する。一応、当初の目的は果たしたが、勝負である以上負ける気はないからね」
軽く肩を叩き、手を振りながら歩み去っていくエイトの最後の言葉に覚えた違和感は、この直後から二週間続く地獄の幕開けを告げる鐘の音。
彼女は、ゲーム製作者を呪うことに成る。
魔法使用に呪文詠唱が本当に必要だと設定したことを。
解呪という魔法が、高位の白魔術師でなければ使えないという設定を。
2012.09.25
2016.09.16改




