第98話 魔導気象士
魔法士C級の登録の日、資格院の受付で、私はまた止められた。
「――レオン殿。職業欄です」
若い書記だった。彼はもう、私を見ると書類を二枚用意するようになっていた。一枚は通常の登録、一枚は備考用。
「魔法士C級の登録で、職業欄に『魔法士』を追加します。……ですが、システムがもう一つ、表示しています」
私はステータスを開いた。
【資格シナジー検出】
『気象観測士(C級)』×『魔法士(C級)』×『気流制御 Lv1』
= 複合職業『魔導気象士』を解放
「……魔導気象士」
私はそれを読み上げた。書記も読んだ。彼は王国職業台帳を開いた。分厚い台帳で、革の背が割れている。「ま」の行を指で辿った。
「……ありません」
「……はい」
「『魔法士』もあります。『気象観測士』もあります。ですが、『魔導気象士』はありません。……そもそも複合職業というものが、台帳にありません。台帳は、資格一つに職業一つです」
彼は台帳を閉じた。革の擦れる音がした。
「……備考欄に書きます」
備考欄。『分類不能:プロジェクトマネージャー』の下に、『分類不能:魔導気象士』。二つになった。
「レオン殿。……上に聞いたのですが」
書記は少し声を落とした。
「備考欄の分類不能が二つ以上になった者は、資格院の記録にいないそうです。一人もいません。……上の返答は、『規定がないので、放置せよ』でした」
放置。
私は少し笑った。規定がないので放置。それはこの世界で一番誠実な対応の一つだった。嘘をつかれるより、ずっといい。
学院に戻ると、ヴィルヘルムが廊下で待っていた。
彼は教本を抱えていなかった。両手が空いている。それを見るのは、これで二度目だった。
「……魔導気象士、と聞いた」
「はい。複合職だそうです」
「気象観測士と魔法士を掛け合わせた職業。……六十年学院にいて、聞いたことのない職業だ」
彼は廊下の窓の外を見た。遠くに、観測所の丸い塔が見えた。学院の丘からは、屋根の群れの向こうに、頭だけが出ている。
「ドリスに会ったか。観測所の」
「はい。試験官でした」
「あれは、私の同期だ」
私は驚いた。ヴィルヘルムは笑わなかった。
「六十年前、二人で学院に入った。私は教本を選んだ。ドリスは風を選んだ。……ドリスの報告書を、私は六十年読まなかった。魔法士に天気は要らんと思っていた」
彼は私の木札を見た。魔法士C級。
「……要ったな」
それだけ言って、彼は教本のない手で私の肩を一度叩いた。ガルムよりずっと軽い手だった。だが、六十年分の重さがあった。
「魔導気象士。……教本に載せる方法を考える。載せられんかもしれん。だが、考える」
彼は歩き去った。教本を取りに戻ったのかもしれない。
その夜、私は板に書いた。『魔導気象士。備考欄、二つ目。規定なし、放置』。
書いて、その横に、『ヴィルヘルムと、ドリス。六十年』と足した。
繋がらないことも書く。前世からの癖だ。




