第96話 お前は一体、何者だ
神殿を出ると、夕暮れだった。
資格院の白い塔が朱に染まっていた。私はその下の石段に座った。木札を握って。
魔法士C級。合格率、十五パーセント。受験料、一万五千G。
村を出たとき、私の全財産は三千二百Gだった。届かない、と板の前で思った。届いた。
届いたのは私の金ではなかった。学院の金だ。学院の金は、三十年前に平民の教室を屋根裏にした総長が作った、二名の枠の金だった。
(……飾りの金で、取った)
それでも、木札は木札だった。削った角が指に触れる。
「――ここにいたか」
石段の上にエルフィーナが立っていた。彼女も木札を持っていた。魔法士C級。エルフの上級魔法士B級を持つ彼女には、意味のない格下の資格だ。だが彼女はそれを握っていた。
彼女は私の隣に座った。緑の衣の裾が石段の砂を払った。
「……お前は、一体、何者だ」
試験場で初めて私を見たときの、あの言葉だった。廊下で聞かれたときの。彼女は二度それを聞いた。二度目に、私は「資格マニアです」と答えた。彼女は笑った。
三度目だった。
だが、今回の聞き方は違った。測っていなかった。測る段階は過ぎている。今回の問いは、もっと別の場所から来ていた。
「……何に、なるつもりだ、と聞いている」
彼女は朱に染まる塔を見ていた。
「魔法士C級を取った。私と同点で。……次は何だ。上級魔法士か。大魔導士か。お前の三角形なら、魔力三十七で大魔導士の実技も通るかもしれん」
「……大魔導士はS級です。受験料が三百万G」
「学院が出す。首席には推薦枠がある」
推薦枠。私はそれを知らなかった。
「……お前は何になる。魔法士として、どこまで行く」
私は木札を見た。それから図鑑を開いた。保有資格、十。残り、一万一千九百九十。
「……分かりません」
正直に言った。
「魔法士として、どこまで行くかは分かりません。……ただ、まだ何者でもないんです。剣士見習いで、村人で、清掃員で、気象士で、通訳士で、研究者で、魔法士で。……どれも、まだ途中で。全部取るまで、自分が何者なのか、分からない」
「全部?」
「一万二千」
彼女は私を見た。長いあいだ見てから、夕日のほうへ顔を戻した。
「……資格マニア、か」
彼女は自分でその言葉を言った。私が二度答えた言葉を。
「私は大魔導士になるつもりだった。八百年の家の娘として、それしか道がなかった。……お前と会って三か月で、その道が揺れている。気に入らん」
五度目だった。五度目は静かだった。
「……共同研究者になれ」
「え?」
「正式に、だ。学院に届けを出す。エルフィーナ・ティルナと、レオン・シラハネ。研究題目、『燃焼の第三要素と、精霊の駆動原理について』。……お前の三角形と、あの本の一行を繋げる。それを私の道にする。大魔導士は、その後だ」
彼女は立ち上がった。
「返事は聞かん。明日、届けを出す。お前の名前を書く」
石段を降りていきながら、肩越しに言った。
「……何者でもないなら、私の研究者だ。まずは、それでいい」




