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異世界資格マスター ~最弱村人から始める資格無双。試験分析EXで世界をアップデートします~  作者: 東雲 諒杏
第四章「古代エルフ語と、決裂の予感」

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第87話 三百年かけて学ぶ言語


「三百年かけて学ぶ言語だぞ」


 エルフィーナは図書館の階段の下で言った。私が合格証を持って降りてきた、その場で。待っていたらしい。


「私は百二十年、古代語を学んだ。半分読める。……祖父は八百年学んだ。ほぼ読める。ほぼ、だ。八百年で、ほぼ」


 彼女は私の合格証を見た。木札ではない。革を薄く削いだ、栞のような証書だった。図書館の印が隅に押してある。


「お前は一週間で骨を拾って、三百年前の単語を二つ当てた」

「……当てただけです。単語は、まだ半分も知りません」

「知らずに読める」


 彼女は階段の手すりに手を置いた。置いて、しばらく黙っていた。塔の天窓から落ちてくる光が、手すりの上の彼女の指を白く照らしていた。


「……私たちは三百年、単語を覚えてきた。単語を全部覚えれば読めると思っていた。……お前は単語を覚えなかった。文の形を覚えた。形が分かれば、知らない単語の意味が、場所で分かる」


 彼女は手すりを握った。


「……気に入らん」


 三度目の、その言葉だった。

 だが今回の「気に入らん」は、前の二回とは違って聞こえた。前の二回は悔しさだった。今回のは、もっと別のものだった。


「気に入らんが。……お前の三角形と同じだ。エルフは炎の魔力を増やしてきた。空気を見なかった。エルフは単語を増やしてきた。骨を見なかった。……三千年、同じ間違いを二度していた」


 彼女は階段を上り始めた。足音が吹き抜けに響いた。


「行くぞ。禁書棚だ。……お前は通訳士だ。柵の内側に入れる」


 禁書棚の鉄の柵の前に、老女がいた。


 小さかった。私の胸ほどの背丈しかない。だが肩幅が広く、腕が太い。灰色の髪を太い三つ編みにして背中に垂らしていて、顔は皺だらけで、そして顎に――髭があった。短く刈り込んだ、灰色の髭だ。


 ドワーフだった。図鑑の種族項目で読んだことがある。山岳都市グラムハイム。鍛冶と機械と整備の民。女性のドワーフにも髭が生えることがある、と図鑑は書いていた。実際に見ると、図鑑の一行は何も伝えていなかったのだと分かった。


「……通訳士だね」


 老女は私の革の証書を見た。見て、柵の鍵を外した。鍵は彼女の腰の輪に、十本以上ぶら下がっていた。


「グリムヒルド。この棚の番人だ。二百年、番をしてる。……二百年で柵を開けたのは、お前で四人目だ」


 彼女は柵を開けて、私とエルフィーナを通した。

 エルフィーナは通訳士ではない。だが、グリムヒルドは何も言わなかった。ただ、通り過ぎる彼女の耳を一度だけ見た。


「……エルフの嬢ちゃんは読めるんだろう。半分。半分読める者を柵の外に立たせておく規定は、ない」


 三つの書架。百冊の黒い本。

 中に入ると、本の匂いが外より濃かった。革と、黴と、それから何か甘い、薬のような匂いが混じっていた。


「どれから読む」


 グリムヒルドが聞いた。私は答えられなかった。百冊。全部読みたい。読みたいが、手は二本で、目は二つだ。


「……精霊について書いてあるものを」


 エルフィーナが言った。


「精霊が、なぜ動くのか。……書いてあるものを」


 グリムヒルドは書架の一番上の隅を指した。彼女の背丈では到底届かない高さだった。彼女は足で踏み台を蹴って寄せると、靴底を鳴らしてその上に立った。


「あれだ。……誰も読まん。読めん。二百年、誰も」


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