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異世界資格マスター ~最弱村人から始める資格無双。試験分析EXで世界をアップデートします~  作者: 東雲 諒杏
第四章「古代エルフ語と、決裂の予感」

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第86話 文法構造推定法


 試験は、王立図書館の奥の小さな部屋で行われた。


 窓のない部屋で、灯りは蝋燭が二本だけだった。机が一つ、椅子が三つ。壁際に空の書架があって、埃の筋だけが棚板に残っていた。


 試験官は老司書と、もう一人。エルフだった。昨日の使者ではない。図書館に三十年勤めているという、エルフの司書。名はロウェン。彼は私の願書と翻訳奉仕の写しを、交互に見比べていた。


「人間が古代語を。……五十年ぶり、だそうだな」

「はい」

「五十年前の人間は落ちた。二十年、エルフの森で学んで、落ちた」


 彼は羊皮紙を一枚、机の上に置いた。


「古代語の文書だ。共通語に訳せ。時間は一刻。……辞書はない」


 辞書はない。


 私は羊皮紙を引き寄せた。曲線の文字が十行ほど並んでいる。

 まず、単語を見なかった。文の骨を見た。


 一行目。動詞の位置に一語。主語の位置に二語。目的語の位置に三語。


 動詞は「守る」に近い形だった。昨日の贈答文書に出てきている。主語の二語は――「根の民」。エルフの古い自称だと、エルフィーナが言っていた。目的語の三語のうち一語は「世界樹」。残りの二語が分からない。


 分からない二語に印をつけて、後回しにした。二行目。三行目。骨を拾う。動詞、主語、目的語。分かる単語を嵌める。分からない単語に印をつける。蝋燭の芯が一度跳ねた。


 十行を終えて、分からない単語は十四あった。


 私は十四の単語を紙の端に並べた。並べて、比べた。

 同じ単語が繰り返し出てくる。三回出てくる単語が二つあった。その二つは、いつも「世界樹」の隣にある。世界樹の、何か。


 一行目の目的語。「世界樹の、○○、○○」。五行目。「○○が、弱まる」。八行目。「○○を、送る、人の、○○で」。


 弱まる。送る。人の、何かで。


(……脈だ)


 エルフィーナの言葉が、そのまま耳に戻ってきた。根の脈が弱い。去年より弱い。


 一つ目の単語を「脈」と置いて、十行を読み直した。骨が繋がった。「根の民は、世界樹の脈を守る」「脈が弱まる」「脈を送る、人の、○○で」。


 二つ目の単語。人の、何か。それで脈を送る。


 残りは四半刻ほどだった。私はその単語の形を見た。曲線が上に跳ねている。エルフィーナが教えてくれた現代語の中に、似た形が一つだけあった。「熱」。炎の、熱。


 人の熱で、脈を送る。


 私はそう訳して、羊皮紙を裏返した。


 ロウェンがそれを読んだ。読んで、老司書に渡した。老司書が読んだ。二人は顔を見合わせた。言葉を交わさずに、しばらく見合わせていた。


「……『脈』。それから、『熱』」


 ロウェンが言った。


「この二語は、現代のエルフ語にない。三百年前に消えた単語だ。……お前は、どうやって」

「文の骨から拾いました。……同じ場所に三回出てくるので、世界樹の性質を指す語だと。弱まって、送られるものなら脈だと。人の何かで送られるなら、それは――」


 私は口を閉じた。喋りすぎている。


 ロウェンは私を長いあいだ見ていた。エルフの緑の目。エルフィーナと同じ色で、しかしもっと古い目だった。


「……合格だ。文法構造の推定。三十年この部屋にいるが、それをやった人間はいない。エルフもいない。エルフは単語を知っているから、骨を見ない」


 ファンファーレが、窓のない小さな部屋に響いた。


♪♪♪♪

【資格取得】『古代エルフ語通訳士(C級)』

 → 能力上昇:知力+6 魅力+2

 → スキル獲得:『古代語解読 Lv2』『文法構造推定 Lv2』

 → 資格シナジー検出:『気象観測士』×『古代エルフ語通訳士』

  = 派生技能『古文書気象解析』を獲得

 保有資格:8 / 12,000


 金の光が、蝋燭の光を一瞬だけ呑み込んだ。

 ロウェンはそれを見ても驚かなかった。驚かないかわりに、目を細めた。


「……人間が光るのは、初めて見た。……いや、五百年前に、一度」


 彼はそれ以上言わなかった。


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