第77話 合格 ―魔力プラス十―
初級魔法士D級の刻印は、その日の夕方、学院の小さな礼拝堂で行われた。
礼拝堂には、資格神殿から分けられた聖水があった。銀の水盆。二十二名が、順に手を浸す。手の甲に、紋様が浮かび、消える。ハルムの十五の儀と、同じ光景だった。同じ光景が、こんな上町の丘の上でも、繰り返されている。
私の番が来た。
水に手を浸した。ファンファーレが、礼拝堂に、響いた。
♪♪♪♪
【資格取得】『初級魔法士(D級)』
→ 能力上昇:MP+15 魔力+10 知力+3
→ スキル獲得:『火魔法 Lv2』『風魔法 Lv1』
→ 職業解放:『魔法士見習い』
→ 資格シナジー検出:『気象観測士』×『初級魔法士』
= 派生スキル『気流制御 Lv1』を獲得
保有資格:7 / 12,000
魔力、プラス十。
十一が、二十一に。二倍近く。転生以来、最大の、上昇だった。難度が高い資格ほど、成長率が上がる――神の祝福は、そう言っていた。初級魔法士D級は、難度が高いわけではない。だが、私にとっては、九十秒が四百八十秒になった試験だった。祝福は、たぶんそこを、見ていた。
礼拝堂の二十一名が、私を見ていた。ファンファーレを、初めて聞く者たち。ヴィルヘルムまでが、教本を抱えたまま、口を、少し、開けていた。
「……レオン。今の音は、何だ」
教授が聞いた。私は、ハルムから、ずっと、同じ答えをしている。
「資格を取ると、鳴るんです」
「私は、六十年、刻印を見てきた。鳴った者は、いない」
「……はい。俺にだけ、鳴るようです」
ヴィルヘルムは、しばらく、私を見て、それから、教本を、開いた。開いて、何かを、探して、閉じた。
「教本に、ない」
それだけ言って、彼は、次の学生を、呼んだ。
アンナの番だった。彼女は、手を、浸した。紋様が、浮かんだ。音は、鳴らなかった。彼女は、自分の手の甲を、見た。ハルムの、リーゼと、同じように。
「……音、鳴らなかった」
礼拝堂を出て、彼女は、小さく、言った。
「レオンのは、鳴るのに」
「……ああ」
「でも、私、百四十秒だった」
彼女は、手の甲を、握った。
「音は、鳴らなくても。百四十秒は、私のだ」
夕暮れの、丘の上。下町が、遠くに、赤く、染まっていた。私は、ステータスを、開いた。魔力、二十一。それを、しばらく、見た。
二十一。エルフィーナの、九十五の、四分の一にも、届かない。レオポルドの、二十六にも。
だが、四百八十秒は、二十一でなく、十一で、出した数字だった。
(魔力は、増える。俺だけは。でも、増えなくても、やれることが、あると、今日、分かった)
その夜、ミラの弁当の包みを、開けた。麦粥。豆。切れ端。三口で、MPが、全快した。二十一まで。
板に、書いた。『魔力21でも、三口で全快。……上限が上がっても、三口。回復量が、上限に、連動している?』
書いて、ペンを、止めた。上限に連動する回復。それは、料理の、効果ではない。料理を食べた人間の、「今、必要な分」を、返している効果だ。
共感力、百。
私は、その四文字を、指で、なぞった。なぞって、板を、閉じた。今夜は、まだ、繋がらない。だが、線は、少し、太くなった。




