第70話 レオポルドの挑戦状
挑戦状は、講堂の、私の机の上に、あった。
水ではなかった。今度は、封蝋つきの、羊皮紙だった。アシュベリー家の、紋章。開くと、貴族の、几帳面な字で、こう書いてあった。
『レオン・シラハネ殿。貴殿の演習成績に関し、不正の疑いあり。名誉をもって、これを、魔法決闘にて、明らかにされたし。三日後、日の出。学院中庭、演習広場にて。立会人、ヴィルヘルム教授。――レオポルド・フォン・アシュベリー』
魔法決闘。
図鑑を、開いた。『王立魔法学院 学則』。第四十七条。「学院生の間で、名誉に関わる争いが生じた場合、立会人のもと、魔法決闘によって、これを解決することを認める。決闘を申し込まれた者は、正当な理由なく、これを拒んではならない」。
正当な理由なく。
その下に、注記。「拒んだ者は、名誉を失ったものとみなす。特待生にあっては、特待生資格の、見直しの対象となる」。
(受けなければ、特待生を、失う)
受ければ、決闘だ。レオポルドの魔力は、二十六以上。私は、十一。彼の炎は、拳大の火球を、飛ばす。私の炎は、伸びるだけで、飛ばない。
私は、羊皮紙を、机に、置いた。前の席で、レオポルドが、こちらを、見ていた。彼は、笑っていなかった。笑うより、深い、何かが、彼の顔にあった。
放課後、廊下で、エルフィーナが、言った。
「受けろ」
「……勝てません」
「勝つ必要は、ない」
彼女は、壁にもたれていた。
「決闘の勝敗は、三つだ。相手の的を、先に、壊す。相手を、戦闘不能にする。……あるいは、三分間、どちらも、達成しない。三つ目は、引き分けだ。引き分けは、名誉を、失わない」
「三分、彼の火球を、避け続ける?」
「避ける、とは、言っていない」
彼女は、私の、板を、指した。私は、いつも、板を、脇に抱えている。
「お前は、風を、炎に送る術式を、作った。……逆は、できないのか」
「逆?」
「炎から、空気を、奪う」
私は、板を、見た。三角形。可燃物、酸素、熱。一つ欠ければ、消える。
「彼の火球は、彼の魔力で、燃えます。空気は、俺の周りの空気です。俺の周りの空気を、動かせば――」
「そういうことだ」
エルフィーナは、壁から、離れた。
「アシュベリーは、四位だ。四位で、三位を、毎週、睨んでいる。……お前が、二位になった。あいつの、三位が、遠のいた。あいつは、お前を、不正だと思っている。本気で、な」
「本気で?」
「本気だ。あいつには、魔力三で、深度二が、理解できない。理解できないものは、不正だ。……三千年、教本しか読んでこなかった者の、理屈だ。ヴィルヘルムも、同じだった。ただ、ヴィルヘルムは、六十年、知っていて、教えなかった。あいつは、十七年、知らなかった。……どちらが、罪が重いか、私には分からん」
彼女は、歩き去りかけて、止まった。
「決闘の朝、風を、読め。……お前は、気象観測士だろう」




