第68話 魔力十一で、半分の火力
順位表の日が、来た。
実技場に、二十二名。測定器の前に、石の的。若い教官が、名簿を、読み上げる。貴族席から、順に。炎が、飛ぶ。数字が、読まれる。
「――レオン・シラハネ」
私は、的の前に、立った。教官が、腕を組んだ。貴族席が、笑う準備をした。レオポルドが、四位の欄を睨むのを、一瞬、やめて、こちらを見た。
足元に、陣を、書く時間は、ない。演習の陣は、手のひらで、描く。私は、この五日、夜の実技場で、床の陣を、手のひらの大きさに、縮めた。縮めて、身体に、覚えさせた。五百年は、ない。だが、五日は、あった。
詠唱。火の言葉。エルフィーナの、風の一語。
手のひらに、蝋燭が、灯った。灯って、次の瞬間、伸びた。
拳。腕。私の顔の高さ。炎は、揺れながら、石の的に、向かった。石が、温まった。温まって、赤くなった。赤くなって、表面が、ぬめった。溶け始めた。
十秒。
「――止め」
教官の声が、上ずっていた。測定器を、見る。二度、見る。
「消費魔力、三。損傷……表面溶融、深度二」
貴族席の、笑う準備が、宙に浮いた。
深度二。それは、レオポルドの、今日の数値と、同じだった。彼の消費魔力は、二十六。私は、三。損傷を、消費魔力で割る、順位表の計算では――
「……計算上、二位」
教官が、言った。言って、名簿を、閉じかけて、開いた。
「二位。エルフィーナ・ティルナの、半分の数値。……三位以下を、大きく引き離す」
実技場が、ざわめいた。「三で?」「あの蝋燭が?」「何を、した」。レオポルドが、立ち上がった。彼の顔は、赤かった。
「――何をした。不正だ。測定器が、壊れて」
「壊れていない」
教官は、彼を、見なかった。私を、見ていた。
「レオン。もう一度、やれ。私の目の前で。手のひらを、見せろ」
私は、手のひらを、上に向けた。教官が、覗き込んだ。私は、詠唱した。炎が、伸びた。教官の、髭が、少し、焦げた。
「風の、陣だ。火の陣の外に、風の陣が。……下から、上へ」
彼は、後ずさった。
「そんな術式は、教本に、ない」
「はい。ありません」
「誰に、習った」
「自分で、考えました。エルフィーナに、一語、直してもらいました」
実技場の、扉が、開いた。ヴィルヘルムが、立っていた。白い髭。教本を、抱えて。彼は、騒ぎを聞いて、来たらしい。教官が、事情を、話した。ヴィルヘルムは、聞き終えて、私の手のひらを、見た。
「……やれ」
私は、やった。炎が、伸びた。
ヴィルヘルムは、炎を、見た。炎の、根元を。根元の、下から上へ抜ける、見えない風を。彼は、長いこと、見ていた。教本を、抱えたまま。
「――異端だ」
彼は、言った。
「火の陣に、風の陣を組む。そのような術式は、三千年の教本に、一つもない。学院の教えに、反する。……異端だ」
貴族席が、勢いづいた。レオポルドが、「では、無効に」と言いかけた。
「――だが、正しい」
ヴィルヘルムは、続けた。
「炎は、空気で、燃える。私は、それを、六十年、知っていた。知っていて、教本に、書いていないから、教えなかった。……教本に書いていないことを、教えてはならん。それが、学院の、規定だ」
彼は、私の手のひらの炎を、もう一度、見た。
「規定は、教えることを、禁じている。……学ぶことは、禁じていない」
彼は、教本を、抱え直し、実技場を、出ていった。出ていく背中に、教官が、「教授、順位表は」と、声をかけた。
「二位だ。計算通りに、貼れ」
扉が、閉まった。




