第65話 弁当の謎
翌朝、門の前に、ミラがいた。
「今日は、ルナの名前と、トビの名前と、あと五人分、書けた」
彼女は、籠から、包みを出しながら、報告した。二十人。あと三人で、全員だ。二か月の予定を、一か月で、終えそうな勢いだった。『学習効率向上Lv1(仮)』は、彼女の中で、確かに、働いていた。
「……ミラ。一つ、聞いていいか」
「なに?」
「この弁当。何か、特別な、材料が入ってるか」
彼女は、きょとんとした。
「特別? ……麦と、豆と、塩と、切れ端。いつものだよ。女将さんが、切れ端を多めにくれるようになったから、少し、肉が増えたけど」
「それだけ?」
「それだけ。……なんで?」
私は、板を、見せた。『ミラの弁当:MP全快。理由不明』。彼女は、字が、少し、読めるようになっていた。「ミラ」の字と、「弁当」の字だけ、拾って、読んだ。
「私の弁当が、どうかしたの?」
「これを食べると、魔力が、全部、戻る。午前中に、使った分が、昼に、全部」
「……それって、すごいこと?」
「すごいことだ。学院の賄いでは、戻らない。教本では、魔力は、一晩、休まないと、戻らない」
ミラは、包みと、私の顔を、交互に見た。それから、笑った。
「おいしいからでしょ」
当たり前のことを聞かれた、という顔だった。あの、路地の、鍋を抱えた顔と、同じだった。
「おいしいものを食べたら、元気になるよ。魔力も、元気の一つでしょ?」
私は、反論を、探した。探して、見つからなかった。魔力が、元気の一つかどうか、教本には、書いていない。書いていないなら、誰も、試していない。
「……おいしいから、か」
「そう。女将さんに、言っといて」
彼女は、坂を、降りていった。
その日の昼、私は、包みを開ける前に、ステータスを、見た。MP、四。午前の演習で、七、使った。それから、麦粥を、一口、食べた。もう一度、見た。MP、六。二口。八。三口。十一。
三口で、全快。
私は、椀を、置いた。椀の中の、麦粥を、見た。麦と、豆と、塩と、魔物肉の切れ端。ミラが、作ったもの。
(材料じゃない。……作った人間、なのか?)
それは、理屈ではなかった。理屈ではないから、私は、それを、板に書くことを、少し、ためらった。ためらって、書いた。前世からの、癖だ。分からないことは、書く。
『材料は、通常。回復は、三口で全快。……作り手に、何かがあるのか?』
書いて、私は、もう一つ、思い出した。ミラの、隠しステータス。挑戦力、九十五。共感力、百。
共感力、百。
私の共感力は、十五だ。百という数字を、私は、まだ、一度も、他の誰にも、見たことがなかった。
板の、その行の横に、私は、小さく、『共感力100?』と、書き足した。書き足して、それ以上、考えるのを、やめた。今夜は、実技場だ。証明しなければならないことが、別に、ある。
だが、その行は、消さなかった。




