第64話 才能がないものは
屋根裏の、天窓から、月が見えた。
私は、藁の上に、座っていた。板を、膝に置いて。板には、『炎』と『空気』と、その間に、線が、引いてあった。線は、まだ、何も、繋いでいなかった。
順位表の最下段が、目の裏に、あった。
前世で、私は、順位表に、慣れていた。模試の、順位表。上から数えたほうが早い場所に、私の名前は、いつもあった。あの順位表は、努力の順位だった。努力すれば、上がった。上がるから、努力した。
この順位表は、違う。
魔力量は、生まれつき。五歳で、決まる。この順位表は、五歳のときに、決まっていた順位を、毎週、貼り直しているだけだ。
(――才能がないものは、努力しても、無駄だ)
ハルムの、集会所の、声が、蘇った。「棒切れより細い腕で」。あのときは、笑えた。当てなくていい剣が、あった。分析で、抜け道が、あった。
だが、魔力には、抜け道が、あるのか。
試験集中Lv5でも、学習効率向上Lv4でも、魔力は、一つも、増えなかった。増えたのは、資格神の祝福による、三だけだ。それは、私だけの、抜け道だ。アンナには、ない。四は、一生、四だ。
(俺が、証明しなきゃいけないのは、俺の魔力で、石を焼くことじゃない)
板の、線を、見た。
(魔力四の人間でも、石を焼ける方法が、あるかどうか、だ)
そうでなければ、順位表は、五歳の順位のままだ。それでは、学院は、生まれつきを、貼り出す場所でしかない。去年の平民枠の二人が、一年でやめた理由が、私には、少しだけ、分かる気がした。雨漏りではない。順位表だ。あれを、毎週、見るのだ。自分の、五歳のときの、順位を。
隣の部屋から、暗誦の声が、した。
アンナは、毎晩、教本を、口の中で、繰り返している。魔力四の、彼女が。治癒士になるために。母の、咳のために。
私は、壁を、叩いた。声が、止まった。
「……アンナ。一つ、聞いていい」
「はい」
「演習で、石に炎を当てるとき、炎を、どこに向けてる」
「え? ……的の、真ん中、ですけど」
「炎の、根元を見たことは、あるか。……炎が、どっちに、揺れてるか」
「……揺れて、ますか?」
彼女は、見ていなかった。私も、昨日まで、見ていなかった。
「明日の夜、実技場に、来られるか。……エルフィーナが、鍵を持ってる。俺が、借りてる」
「エルフィーナ、さんが? どうして、レオンに」
「分からん。証明しろ、と言われた」
「何を?」
「……空気が、炎を、大きくすること」
壁の向こうで、しばらく、沈黙があった。それから、小さな声。
「分かりません。でも、行きます。魔力四でも、できることが、あるなら」
月が、天窓から、動いた。私は、板の上の、二つの言葉の間の線を、木炭で、少し、太くした。まだ、何も、繋いでいない。だが、線を引く相手が、一人、増えた。




