第63話 最下位の実技演習
実技演習の順位表は、実技場の壁に、毎週、貼り出される。
二十二名。名前と、その週の「消費魔力あたりの火力」の数値。上から、エルフィーナ・ティルナ。次に、貴族席の数名。レオポルド・フォン・アシュベリーは、四位だった。彼は、それを、気にしている様子だった。三位の名を、毎週、睨んでいた。
私の名前は、一番下にあった。
二十二位。その上、二十一位に、アンナ・ヴェルト。
演習の内容は、単純だった。的に向かって、火魔法を放つ。測定器が、消費魔力と、的の損傷を、数値にする。損傷を、消費魔力で割る。それが、順位になる。特待生試験と、同じ計算だ。
試験では、私は、貫通で、消費魔力三だった。順位表の計算なら、上位に入るはずだった。だが、演習の的は、蝋ではなく、石だった。貫通には、時間が、足りなかった。制限は、十秒。十秒で、蝋燭の炎が、石に、できることは、何もなかった。
「レオン。お前の炎は、今週も、石を温めただけだ」
演習の担当教官は、ヴィルヘルムではなく、若い、貴族出の男だった。彼は、順位表の最下段を、指で叩いた。
「学院は、火力を教える場所だ。分析で受かったそうだが、分析では、石は燃えん。……来週も最下位なら、特待生資格の、見直しを、進言する」
貴族席から、笑い声。レオポルドが、四位の欄を睨んだまま、口の端で笑った。
私は、頭を下げた。下げて、順位表を、もう一度、見た。
二十一位、アンナ。彼女の数値は、私の、ほんの少し上だった。蝋燭同士。だが彼女は、私より、少しだけ、石を熱くしていた。
その日の夜、私は、エルフィーナの鍵で、実技場に入った。
石の的の前に、立つ。手のひらに、蝋燭を灯す。的に、近づける。石は、温まった。温まって、それだけだった。十秒。二十秒。一分。魔力が、減る。石は、赤くもならない。
「――蝋燭で石を焼こうとする人間を、私は、初めて見た」
実技場の隅に、エルフィーナが、座っていた。彼女は、私の演習を、黙って見ていた。三日、続けて。
「石が燃えないのは、当たり前だ。石は、燃えない。溶けるだけだ。溶かすには、熱が要る。熱は、魔力から来る。魔力が十一なら、熱も、十一だ」
「……それは、教本の、言い方です」
「教本は、正しい」
「教本には、空気が、載っていません」
彼女は、少し、首を傾げた。
「空気、空気と、お前は言う。空気が、炎を、大きくするのか。……私の炎は、空気など、使っていない」
「使っています。気づいていないだけで」
言ってから、しまった、と思った。百二十年、魔法を使ってきた者に、十六歳の蝋燭が、言うことではない。
だが、エルフィーナは、怒らなかった。
「面白いことを言う。証明しろ。来週の順位表で」
彼女は、立ち上がり、実技場の鍵を、私に、投げた。




