第57話 平民枠、年二名
学院の寮は、丘の斜面に、三棟、あった。
東棟は、貴族の寮だった。石造りで、窓にガラスが嵌まり、各部屋に、暖炉がある。西棟は、教員の寮。そして、北棟の、屋根裏が、平民枠の寮だった。
屋根裏である。
梁が、頭のすぐ上にある。窓は、天窓が一つ。床は、板で、隙間から、下の階の声が聞こえる。部屋は、二つ。一つが、私。もう一つが、アンナ。他には、誰もいない。平民枠は、年に二名、卒業まで三年、つまり最大六名のはずだが――
「去年の二人は、一年で、やめた」
寮の管理人の、老人が、言った。彼は、下働きだった。学院で三十年、薪を運び、床を磨いている。
「一昨年の二人も、やめた。その前も。……三年、続いた平民は、私の三十年で、四人だ」
「……なぜ、やめるんです」
老人は、天窓を、見上げた。
「雨が、降れば、分かる」
その夜、雨が、降った。
天窓の縁から、水が、垂れた。垂れて、床に、溜まった。私は、藁の敷布を、部屋の隅に、寄せた。寄せた隅にも、梁の隙間から、雫が落ちた。桶を、借りに、階下へ降りた。階下は、貴族の使用人の部屋で、彼らは、私を見て、何も言わなかった。桶は、貸してくれた。
桶を置いて、藁の上に座り、私は、雨音を、聞いていた。
ブレナの領主庁の、雨漏りを、思い出した。ヘルガの、封蝋の匂い。「学ぶ機会そのものが、金で、消える」。この屋根裏は、消えてはいない。ここに、機会は、ある。ただ、雨漏りがして、下から、貴族の使用人の笑い声が聞こえて、そして、去年の二人は、一年で、やめた。
(やめる理由は、雨漏りじゃない)
雨漏りなら、桶で、しのげる。私は、ハルムの納屋で、慣れている。やめる理由は、たぶん、もっと、静かなものだ。
隣の部屋から、小さな音がした。アンナが、桶を、置く音。それから、暗誦の声。小さく、教本を、口の中で、繰り返す声。
私は、壁を、軽く、叩いた。声が、止まった。
「……アンナ。桶、足りてるか」
「一つ、あります。あの、レオンさ――レオン。……この雨、朝まで、続きますか」
「続く。夜半に、風が北に変わって、少し弱まる。朝には、上がる」
「天気、分かるんですか」
「気象観測士の、資格を、持ってる」
壁の向こうで、少しの沈黙。それから、小さな、笑い声。
「……変な、資格」
「よく言われる」
雨は、夜半に、風が北に変わって、少し弱まった。朝には、上がった。
朝、天窓から、光が差した。私は、桶の水を、捨てに降り、ついでに、学院の裏庭の、溝を、見た。学院にも、溝はあった。上町の下水路に、繋がっているらしい。だが、裏庭の、平民寮の下の溝だけ、詰まっていた。
私は、その溝の脇に、しゃがんだ。
スライムを、五匹、持ってくれば。草の束を、両端に。
図鑑の隅で、数字が、一つ、動いた気がした。




