↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界資格マスター ~最弱村人から始める資格無双。試験分析EXで世界をアップデートします~  作者: 東雲 諒杏
第二部 魔法士資格編 ―数式で燃やす炎―                                                   第一章「学院の門」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
55/149

第55話 隣席のエルフ


 筆記は、二時間だった。


 魔法理論。属性の分類。魔力回路の構造。魔法史。私は、図鑑の公開教本を、この二か月、麦粥の湯気の中で、読み込んでいた。問題は、教本の、範囲内だった。範囲内で、しかし、深かった。


 隣の羽根ペンは、私より、速かった。


 私が三問解く間に、彼女は、四問、解いていた。しかも、書く量が、少ない。一問に、二行。私は、五行、書く。書きながら、彼女の二行が、たぶん、私の五行と、同じことを言っているのだろうと、思った。理論を、身体で知っている者の、書き方だった。


 二時間が、終わった。


 昼を挟んで、実技。講堂の隣の、石造りの、実技場。壁に、的が、並んでいた。的は、拳ほどの、黒い塊。「魔導蝋」だと、試験官が言った。魔力を含んだ蝋で、火魔法の熱で、溶けたり、割れたりする。「制限時間内に、的を、破壊せよ。破壊の程度と、消費魔力の測定値で、採点する」。


 貴族席の受験者から、順に、的の前に立った。


 彼らの炎は、大きかった。詠唱が、五語、六語。手のひらから、拳大の火球が、飛ぶ。的は、溶け、あるいは、砕けた。試験官が、測定器を、見て、記録する。「消費魔力、二十四」「三十一」。数字が、読み上げられるたび、貴族席が、ざわめいた。


 平民席の、番になった。


 平民の受験者の炎は、小さかった。あるいは、出なかった。魔力量は、生まれつき――教本の、最初の頁に、そう書いてある。貧しい家の子は、魔力の回路が、育たない。栄養か、環境か、血か。教本は、理由を書かない。ただ、「生まれつき」とだけ、書く。


 短い髪の、下町の少女の番だった。彼女の炎は、蝋燭ほどだった。的は、表面が、少し、溶けた。「消費魔力、四」。試験官は、記録した。少女は、唇を噛んで、席に戻った。


「――エルフィーナ・ティルナ」


 隣席のエルフが、立った。


 彼女は、的の前に立ち、片手を、上げた。詠唱は、三語だった。三語目が終わる前に、的が、消えた。


 消えた、としか、言いようがなかった。炎は、見えなかった。一瞬、白い光が、走り、次の瞬間、的があった場所に、何もなかった。石の壁に、黒い、円い、焦げ跡だけが、残った。


 実技場が、静まり返った。


「……消費魔力、九」


 試験官の声が、上ずっていた。九。貴族たちの、三分の一以下で、的を、消滅させた。


 彼女は、席に戻った。誰も、見なかった。


「――レオン・シラハネ」


 私は、立った。


 的の前に立つ。魔力、十一。蝋燭の、少女より、少し、多い程度だ。詠唱を、唱える。教本の、火魔法の、初級詠唱。手のひらに、炎が、灯った。


 蝋燭だった。


 小さな、揺れる、黄色い炎。貴族席から、笑い声が、小さく、上がった。


(……焦るな。時間は、ある)


 私は、炎を、的に、近づけた。近づけて、蝋の、一点に、当てた。動かさなかった。『試験集中Lv5』が、手の震えを、押さえた。『熱力学制御Lv1』――今朝、手に入ったばかりのスキルが、炎の熱を、散らさず、一点に、留めた。


 蝋が、溶け始めた。


 一点だけ。穴が、開く。ゆっくりと、深く。私は、炎を、動かさない。時間が、過ぎる。貴族席の笑い声が、途中で、止まった。止まって、ざわめきに、変わった。


 制限時間の、鐘が鳴る直前、穴が、的の裏側に、抜けた。


「……的、貫通。破壊、成立」


 試験官が、測定器を、見た。見て、二度、見た。


「消費魔力、三」


 三。エルフの、九の、三分の一。


 貴族席が、別の意味で、ざわめいた。「貫通で、破壊扱い?」「魔力三で?」「あれは、破壊じゃない、穴だ」。試験官は、ざわめきを、手で制した。「要項には『破壊せよ』とある。的の構造を、貫通で、失わせた。破壊である」。


 私は、席に戻った。手のひらが、熱かった。


 隣席のエルフが、初めて、私を、見た。


 一瞬だった。彼女の目は、緑で、そして、何かを、測っていた。測って、視線を、前に戻した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。