第54話 特待生試験の朝
王立魔法学院は、上町の、丘の上にあった。
資格院の白い塔が、王都の「権威」だとすれば、学院は、王都の「格」だった。石造りの学舎が、丘の斜面に、幾つも、重なって建つ。尖った屋根、高い窓、蔦の絡む壁。門は、鉄で、紋章は、炎と本。千二百年前に、大魔導士が建てたのだと、後で知った。私は、まだ、それを知らなかった。
試験の朝、門の前の坂道は、馬車で、埋まっていた。
貴族の馬車である。紋章のついた、黒塗りの。馬車から降りる少年少女は、絹の上着に、胸に魔導バッジ。従者が、鞄を持って、後ろに続く。ブレナで見た、絹の少年たちの、上位版だった。彼らは、門を、当然の顔で、潜っていった。
平民は、別の門だった。
正門の脇に、小さな、木の扉があった。「平民枠受験者、こちら」。扉の前に、列。二十人ほど。私は、その最後尾に、並んだ。
列の人々は、みな、私と同じ格好をしていた。粗末な上着。手に、木札か、鉄の冒険者証。目だけが、真剣だった。一人、私より二つ三つ、年下に見える少女がいた。痩せて、髪を短く切っている。下町の顔だった。彼女は、列の中で、教本らしき紙束を、口の中で、暗誦していた。
列が、進む。木の扉を潜ると、そこは、学院の裏庭だった。正門から入った貴族たちは、表の、広い階段を上っていく。私たちは、裏庭から、勝手口のような扉を通って、学舎に入った。同じ試験、同じ学舎。入口だけが、違う。
試験場は、天井の高い、講堂だった。
長机が、並ぶ。貴族席は、前。平民席は、後ろ。席の割り当てが、最初から、決まっていた。私は、後ろから二列目の、端に座った。
隣の席が、空いていた。
試験開始の、直前。講堂の扉が、開いた。遅れて入ってきた受験者に、講堂中の視線が、向いた。
耳が、尖っていた。
銀に近い金の髪、白い肌、細い肩。年は、私と同じくらいに――見えた。見えたが、たぶん、違う。図鑑の種族項目が、頭の中で、開く。エルフ。寿命、五百から八百年。
彼女は、講堂の視線を、まったく気にせず、席を、探した。貴族席に、空きはなかった。平民席の、後ろから二列目、端の隣に、一つ、空いていた。
彼女は、そこに、座った。
私の、隣に。
彼女は、私を、一度も見なかった。机の上に、羽根ペンを置き、まっすぐ、前を向いた。横顔が、彫刻のように、動かなかった。
(エルフが、人間の、資格試験を?)
図鑑が、彼女の頭上に、表示を、浮かべた。
名前:エルフィーナ・ティルナ 年齢:120歳 種族:エルフ
Lv :32 職業:上級魔法士
魔力:95
九十五。
私は、自分のステータスを、思い浮かべた。魔力、十一。
試験官が、壇上に立った。「筆記、開始」。




