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異世界資格マスター ~最弱村人から始める資格無双。試験分析EXで世界をアップデートします~  作者: 東雲 諒杏
第五章「銀のスライム亭」

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第48話 冒険者ギルドと、ガルムの名前


 王都の冒険者ギルド本部は、下町と上町の境の、二重目の城壁に、食い込むようにして建っていた。


 三階建ての、石造り。入口に、剣と盾の紋章。中は、ブレナの試験場より広い広間で、掲示板が壁一面にあり、依頼の紙が、鱗のように、貼り重なっていた。受付は、五つ。列は、五本。どの列も、長かった。


 ガルムの言ったとおり、「王都では、何でも列」だった。


 私は、列に並ばず、受付の脇の、柱の前に立った。柱に、小さな札が掛かっている。『紹介状のある方は、こちら』。狼の封蝋の羊皮紙を、私は、そこの、年配の受付女性に差し出した。


「ガルムからの紹介状ね。……あら、あの子、王都に来るのね」


 マーゴ、と胸の札にあった。彼女は、封蝋を見ただけで、開ける前に、そう言った。


「あの子、二十年前、私の受付で、登録したのよ。獣人の子が冒険者になるって、珍しかった。……騎士の要項を読んで、泣いてたわ。あんな大きな身体で」


 彼女は、紹介状を、開いた。読んだ。読み終えて、私の顔を見た。


「ふうん。『当たらないのに負けない剣』。あの子が、人を褒めるのは、珍しいわ」


 登録は、四半刻で終わった。木の札ではなく、鉄の小さな板に、名前と、階級が刻まれた。冒険者ギルド、F級。最下級である。


「それから、紹介状に、『牛と馬を、扱える』と、あるわね」


 マーゴが、羊皮紙を、指でなぞった。


「ギルドには、認定がある。『動物語通訳(見習い)』。荷馬と、犬と、猫の、要求を、読める者に、与えるの。……資格院の資格じゃない。ギルドの、台帳だけの認定。図鑑には、載らないわ。……でも、荷を運ぶ依頼は、馬が、言うことを聞く者に、回る」


 私は、それを、聞いた。聞いて、ハルムの牛を、思った。頭が下がる一瞬に、綱を引く。牛は、力では動かない。動くきっかけで、動く。


「……試験は」

「連れてきた動物で。……その動物が、今、何を欲しがっているかを、当てる。……三つ」


 翌朝、私は、タビを、連れて行こうとした。猫は、麦の袋から、降りなかった。降りない代わりに、私を見て、欠伸をした。私は、諦めた。諦めて、路地の犬を、連れて行った。茶色い、片耳の垂れた犬。女の子が、「チャ」と呼んでいた。チャは、ついてきた。理由は、分からなかった。


 ギルドの裏で、マーゴが、犬を、見た。


「……一つ目。今、何が欲しい」


 私は、犬を、見た。尻尾。耳。鼻。牛と、同じ理屈で。犬の鼻が、マーゴの懐を、向いていた。彼女の懐に、干し肉の匂いが、あった。


「干し肉です。……懐の」

「……二つ目」


 犬が、私の足元に、身体を、寄せた。寄せて、後ろの、路地の方を、見た。


「路地に、戻りたい。……女の子のところに」

「……三つ目」


 犬が、前脚で、私の膝を、掻いた。掻いて、見上げた。


「撫でてほしい」


 マーゴは、笑った。笑って、鉄の板に、もう一行、刻んだ。『動物語通訳(見習い)』。ギルドの台帳に。図鑑には、載らなかった。載らなかったが、頭の中で、あの音がした。


【習得スキル『動物語 Lv1』を獲得しました】

 ――家畜・愛玩動物の、要求を判別する。


 資格ではなかった。ギルドの認定だった。だが、スキルは、来た。資格でなくても、スキルは、来る。ハルムの牛追いで、それは、分かっていた。


 帰り道、チャは、路地に戻った。女の子のところに。私は、それを、見送った。見送って、食堂に戻った。


「冒険者証は、通行証を兼ねるわ。ギルドの依頼で上町へ入るときは、これで門を通れる。……あなた、資格院の登録で、何か揉めてるって、ガルムの手紙に」


 私は、職業台帳の顛末を、話した。マーゴは、笑った。


「あるのよね、それ。前に、獣人の子が、種族欄で揉めたときも、同じだったわ。台帳にないものは、通さない。……でもね、冒険者証は、資格院の台帳を、見ないの。ギルドは、ギルドの台帳しか見ない。上町の門番は、冒険者証を見せられたら、ギルドの台帳に従うわ」


 制度と制度の、隙間。前世で、私は、それを「所管の違い」と呼んでいた。この世界にも、それは、あった。


「ただし、冒険者証で入れるのは、ギルドの依頼のある場所だけ。試験場に入るには、やっぱり、資格院の受験票が要るわ。受験票は、受付で――」


「受付は、保留、でした」


「あら。……じゃあ、ヘルガに言ってごらんなさい。あの人、先週から、資格院の下級試験官よ。ブレナから来た。真面目な人だけど、真面目だから、規定の抜け道も、規定の中に、ちゃんと見つけるわ」


 ヘルガの、名前が、ここでも、出た。この町は、三十万人いて、私の知っている人間は、五人しかいない。その五人が、みな、どこかで、繋がっている。


 帰り際、私は、掲示板を、見た。


 依頼の紙の、鱗の隙間に、一枚、大きな紙が、貼ってあった。


『王立魔法学院 特待生選抜試験 告知

 受験料 免除 / 平民枠 二名

 筆記・実技 初夏、学院にて

 合格者は、学費および魔法士C級受験料を、学院が負担する』


 これだ。


 その紙の隅に、小さく、注記があった。


『※実技は、火魔法による的の破壊。魔力量が測定される』


 魔力量。私のステータスの、魔力は、八。転生した日から、一つも、増えていない。剣士も、下水も、スライムも、魔力を、上げなかった。


(……八で、的を、壊せるのか)


 図鑑を開いた。『魔法士(C級)』の頁。関連資格の欄に、目が、留まった。


『関連資格:初級魔法士(D級)/魔導理論学士(C級)/気象観測士(C級)』


 気象、観測士。


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