↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界資格マスター ~最弱村人から始める資格無双。試験分析EXで世界をアップデートします~  作者: 東雲 諒杏
第四章「王都への街道」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
31/149

第31話 街道と、世界樹の話


 狼煙は、丘の稜線の向こうで、まだ立っていた。


 ブレナからハルムへの街道は、川沿いに二日。その途中、丘を一つ越える。狼煙は、ちょうどその丘の裏側から上がっている。ヨナスは荷馬車を止めず、しかし速度を落とし、御者台で煙を睨んだまま、独り言のように言った。


「あれはな、山賊の狼煙じゃねえ。山賊が出たのを見た誰かが、次の村に知らせる狼煙だ。……つまり、もう誰か襲われた後だ」


「引き返しますか」

「引き返してブレナで何日待つ。塩は腐らねえが、儂の懐は腐る。それに、この荷には、ハルムの春の種籾が載ってる。これが届かなきゃ、お前の村は、今年の豆を蒔けねえ」


 種籾。荷台の奥の、麻袋三つ。ハルムの寄り合いで、村長が「今年は領主町の種屋から良い種を」と決めた、村の共同の買い物だった。


 私は荷台で、木剣の柄を握った。手は、今朝もまだ震えている。剣士D級の木札は懐にあるが、木札は剣を振ってはくれない。


「まあ、丘を越えるまでは半日ある。……気を紛らわせに、一つ、話してやろう」


 ヨナスは鞭を軽く鳴らし、荷馬車を進めた。街道の左手、遠くの空に、あの巨大な影がある。雲を突く、樹の影。ハルムの納屋から見たときより、少しだけ大きい。


「世界樹の話だ。ユグドラの大樹。大陸の真ん中に生えてて、神様が資格を作った日から、あそこにあるって言われてる。……儂は行商で二十年、この街道を往復してるが、あの樹の色をな、毎年、見てる」


「色、ですか」

「二十年前は、春になりゃ、あそこが緑の壁みたいに見えた。ここからでもだ。今は――見てみろ」


 私は目を凝らした。遠すぎて、葉の一枚一枚は見えない。だが、樹の影の輪郭が、なんとなく、薄い。緑というより、灰緑。ところどころ、空が透けている気がした。


「今年は、葉が少ない。去年より、な。去年は一昨年より少なかった。王都の神殿は『神の試練』だと言ってるそうだ。何の試練だか、誰も説明しねえ」


 ヨナスは、煙草の代わりに、乾した木の根を噛んだ。


「儂は学がねえ。だが二十年、同じ道を往復してると、分かることがある。あの樹が薄くなり始めたのと、ブレナの領主庁の屋根が崩れ始めたのと、街道に山賊が増え始めたのは、だいたい同じ頃だ。……関係あるのかねえ」


 関係。前世の私なら、「相関と因果は違う」と言っただろう。だが、この世界の因果は、まだ何も分かっていない。図鑑にも、世界樹の項目は、たった三行しかなかった。


『世界樹ユグドラ。大陸中央に位置する神代の巨樹。資格神アーカイブスの座とされる。備考:近年、落葉の増加が観測されている』


 観測されている。それだけだった。


「兄ちゃんは、王都に行くんだろ。ガルムの旦那が紹介状まで書いた」

「……村に帰ってから、考えます」

「そうかい。まあ、王都に行くなら、一度は世界樹の根元を見てこい。あそこの根元にゃ、神殿がある。儂は行ったことがねえが、行った奴は、みんな同じことを言う。『樹が、人を見てる気がした』ってな」


 樹が、人を見ている。


 白い空間の、光の塊の、呆れ顔を思い出した。あの神様は、今、あの樹の上から、私を見ているのだろうか。行き倒れて、笑われて、四つ資格を取って、山賊の狼煙に向かって進んでいる、社交性四の元会社員を。


(見ているなら、少しは手伝ってくれ)


 念じてみたが、返事はなかった。代わりに、荷馬車が丘の登りにかかり、車輪が軋んだ。


 狼煙は、もう、目の前だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。