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異世界資格マスター ~最弱村人から始める資格無双。試験分析EXで世界をアップデートします~  作者: 東雲 諒杏
第三章「領主庁の剣士試験」

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第28話 同じ日に下水清掃士


 翌朝、私は再び、領主庁の裏の広間にいた。


 広間は、昨日とは別の建物のように、がらんとしていた。長机が二つ。受験者は、私と、もう一人。五十がらみの、腰の曲がった男だった。ブレナの町の下水溝の清掃を、四十年やっているという。「息子が『親父も資格くらい取れ』ってうるさくてよ」と、彼は照れくさそうに笑った。無資格で四十年、町の下水を守ってきた男である。


 試験官は、ヘルガだった。彼女は昨日と同じ帳簿を開き、二人分の答案用紙を配った。


「下水清掃士E級、筆記。……レオン。お前、昨日剣士に受かったばかりだな」

「はい」

「同じ試験期に、二つ目か」


 昨日の、同じ言葉だった。ただ、今日の彼女の声には、昨日にはなかった響きが混じっていた。


「もう一つ、受けます」


 私がそう言うと、広間の隅で、記録係をしていた領主庁の若い書記が、羽根ペンを止めた。ヘルガも、ほんの一瞬、黙った。試験官二人の沈黙は、短かったが、確かにあった。


「……始め」


 筆記は、二十問。汚水溜の構造、清掃の頻度、石灰の適正量、溝の底の「悪い空気」(私の前世の言葉で言えば硫化水素とメタンである)への対処、そして王国下水法規の罰則。棚卸しの板で最後まで白かった罰則規定を、私は出発前夜に三度読んでいた。


 隣の男の羽根ペンは、遅かった。字を書くのが得意ではないらしい。だが、答えの内容は――私は横目で見るまでもなく、確信していた。四十年、溝の底で生きてきた男の答えが、教本より間違っているはずがない。


 私が先に書き終え、待つ間、隣の男の答案の最後の一行が見えた。


『溝の底におりる前に、火をつけたぼろ布を先におろす。火が消えたら、おりない』


 教本には、載っていない。載っていないが、正しい。悪い空気は、火を消す。前世の消防設備士の教本に、同じことが書いてあった。


 昼前、採点が終わり、ヘルガが二人を呼んだ。


「二名とも、合格。……ダグ。四十年分の答えだった。教本にないところで、二問、私が採点基準を書き足した」


 腰の曲がった男が、目を瞬いた。ヘルガは、それから私に向き直り、そして――


 ファンファーレが、鳴った。


 昨日より、控えめに聞こえたのは、たぶん受験者が二人しかいなかったからだ。だが金の光は、昨日と同じ螺旋を描いた。


♪♪♪

【資格取得】『下水清掃士(E級)』

 → 能力上昇:HP+5 知力+2

 → スキル獲得:『消毒 Lv1』『危険気体察知 Lv1』

 → 職業解放:『清掃員』

 → 資格シナジー検出:『雑草判定士』×『下水清掃士』

  = 複合技能『環境管理(初級)』を獲得

 保有資格:4 / 12,000


「――なんだ、そりゃあ!」


 ダグが、腰の曲がったまま、飛び上がった。


「兄ちゃん、あんた、下水の資格で光ったのか!? 俺の四十年で、下水で光ったやつは初めて見た!」


 私は光の中で頭を掻いた。剣士のときと同じ音、同じ光。システムは、等級や年収で、祝福の派手さを変えない。剣士D級と下水清掃士E級は、天からの光の量において、まったく対等だった。


(……そう、なのか)


 その事実に、私は妙に感動していた。番付は、下水清掃士を「無価値」の段に置く。だがこの世界の、資格制度の根本にあるシステムは、そんな段を作っていない。ただ「学んで、認められた」ことだけを、祝う。


 ヘルガは、二枚の木札を用意しながら、言った。


「レオン。剣士D級と下水清掃士E級を、同じ試験期に取った者は、この領主庁の記録にはいない。……理由は分かるか」

「受ける人が、いないから、でしょうか」

「そうだ。剣士を受ける者は、下水を受けない。下水を受ける者は、剣士を受けない。世間では、その二つは、別の身分の資格だ」


 彼女は、木札を私に押しやった。


「お前は、それを、二日で並べた。私にはまだ、それがどういう意味なのか、分からん。……だが、記録には残しておく」


 ダグが、私の肩を叩いた。溝の匂いのする、大きな手だった。


「兄ちゃん、あんたが村で井戸の土手を盛ったって話、聞いたぜ。ブレナの溝も、見てけよ。俺が案内する。……四十年目の資格持ちが、な」


 その午後、私はブレナの下水溝を、ダグと一緒に歩いた。石造りの町の、石造りの溝。ハルムの溝より百倍立派で――そして、上町の一角以外は、ハルムと同じように、詰まり、溢れ、井戸の横を流れていた。


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