第27話 合格率十八パーセントの壁
夕刻、広間に、百四人が再び集まった。
ヘルガが評価表を手に、四角の中に立つ。ガルムがその後ろに、腕を組んで立った。窓の高い位置から差す光が、朝とは逆の角度になっている。
「剣士D級、実技。合格者を読み上げる」
広間が、息を詰めた。
「七番。十九番。二十二番」
名を呼ばれた者が、立ち上がる。傷だらけの傭兵崩れ。日焼けした農家の若者。呼ばれない者は、座ったまま、拳を握っている。
「三十一番。……四十七番、ハルムのレオン」
立ち上がった、その瞬間だった。
ファンファーレが、石造りの広間に響き渡った。
ハルムの広場の比ではない。天井の高い石の広間で、音は壁に反射し、増幅し、百四人の頭上に降り注いだ。金の光の粒が、私を中心に螺旋を描いて舞い上がり、高い窓から差す夕日と混ざって、広間全体を、一瞬、黄金色に染めた。
♪♪♪♪♪
【資格取得】『剣士(D級)』
→ 能力上昇:HP+25 筋力+8 敏捷+4 知力+3
→ スキル獲得:『剣術 Lv1 → Lv2』『受け流し Lv1』
→ 職業解放:『剣士見習い』
→ 資格シナジー検出:『剣士』×『物理予測 Lv2』
= 派生スキル『後の先 Lv1』を獲得
保有資格:3 / 12,000
百四人が、私を見ていた。
ガルムの腕組みが、解けていた。ヘルガの羽根ペンが、評価表の上で止まっていた。壁際の受験者たちは、口を開けたまま、金の光が消えていくのを、目で追っていた。
「……な、何だ、今の」
誰かが言った。誰も答えられなかった。私自身、光の中で膝が笑い、また尻餅をつきそうになって、隣の傭兵崩れに腕を掴まれて支えられた。
「あんた、何者だ」傭兵崩れが、囁いた。「今の、祝福の魔法か。教会でも見たことねえぞ」
「……資格を取ると、鳴るんです」
それ以外、言いようがなかった。傭兵崩れは、私の顔をまじまじと見て、それから、ぶっと吹き出した。「そりゃあいい。俺のも鳴らしてくれ」
合格者は、十九人だった。百四人中の十九人。十八パーセントの壁は、今年もその数字のとおりに、八十五人を落とした。
残った者が木札の合格証を受け取り、去っていく中で、ヘルガが私を呼び止めた。彼女は登録簿を開き、羽根ペンで一か所を指した。
「合格証の登録に、職業欄を転記する。……レオン。お前の職業欄は、これで合っているか」
『剣士見習い/村人/プロジェクトマネージャー(分類不能)』
「合っています。たぶん」
「たぶん、とは何だ。この三つ目は何だ」
「計画を立てる係、のようなものだと」
ヘルガは、私の顔を見た。それから、登録簿の三つ目の職名の横に、ヴィム審査官と同じ、『分類不能』の印を押した。印を押しながら、彼女は言った。
「二十年、試験官をやって、二千枚の答案と、千人の合格者を見た。……音が鳴った合格者は、お前が初めてだ。分類不能の職業も、お前が初めてだ。今日一日で、初めてが三つ。私はもう、驚くのをやめた」
声は淡々としていたが、口元は、ほんの少し、緩んでいた。
広間を出ると、夕暮れのブレナの石畳が、朱色に染まっていた。木札の合格証を握る。剣士D級。合格率十八パーセント。
嬉しかった。前世の百七回と、同じくらい。だが、同じ種類ではなかった。この木札には、村中の手垢がついている。
その帰り道、宿の前で、私は絹の上着の少年ライナーが、従者に囲まれて笑っているのを見た。彼も木札を持っていた。合格証を。実技の広間で、彼の受験番号の時に四角に立ったのは、彼より十は年上の、無口な男だった。誰も何も言わなかった。ヘルガも、ガルムも。
私も、何も言えなかった。ただ、木札を握る手に、力が入った。
明日、私にはもう一つ、試験がある。




